死生有命に逆らう化物❖3
綺麗に整理された室内。
目透かし天井をぼんやりと眺める。頭の下には枕、背中には敷布団。俺は一体何をしていたのか。
身体を起こそうとして、体が怠いことに気付いた。少し、吐き気のような気持ちの悪さが、腹の奥でふつふつと沸いている。
眼球だけで周りを見る。ここがどこなのか、少しずつ把握できた。
そうだ、俺は最期に死に場所としてここを選んだんだ。…なんで最期だったのか、ああ、そうだ。自殺するために放射線を浴びて、誰にも見つからないように……
放射線。そうだ、体が怠いからといって、こうしてはいられない、この場所には放射線があるのだから、今だって死んでしまうかもしれないのだ。
いや、死んでしまうというなら、おかしいぞ。
俺はここで、綻陽鼎に再開して……
そうだ、再開した。そして、彼女に胸を貫かれて死んだのだとばかり思っていたが、夢だったのだろうか。
重く横たわる腕に力を入れて、そのまま胸を撫でる。夢でなければ傷があると思ったが、それよりも驚くのは、自分の皮膚が爛れていることに気付いたからだ。
俺は慌てて掌や腕を見る。全身の筋肉は衰え、まるで長い間寝ていたかのような、明らかに痩せ細っていた。そして腕や胸、おそらく全身に湿疹のような爛れがある。
「あ、起きた?」
また、女の声。先程までの記憶が夢でなければ、綻陽鼎の声だ。俺は喘ぐように声を出す。
「お、俺は、どう、な、なった?」
喉が渇いて、声帯が掠れ、思うように動かない。ここで扁桃腺が腫れているような痛みも感覚した。
まるで死んだはずの体が蘇ったみたいな気分だ。
「人間じゃなくなったんだよ。
折角再会したのに、もう死んじゃうところだったから、一旦生き返って貰ったの。
…身体の方は少しずつ治っていくから」
人間ではなくなる。どういうことかわからない。綻陽鼎の言葉は全て説明が足りていない。なのに本人はそれ以上を語ることもなく、俺の身体を診る。その落ち着き払った態度が、俺と綻陽の認識の齟齬をありありと浮かび上がらせ、返って俺は落ち着かない。
「人間、じゃ、ないなら、なんだ?」
「私みたいに化物になる」
「た、綻陽。お前は、なんだ?」
「化物だよ」
「なんで生きている」
「化物だからだね」
俺は、まともに取り合うつもりのない綻陽の態度に苛立ち、身体を起こす。そして、そのままの勢いで綻陽の浴衣の襟元を掴んだ。
「化物って、なんだ、よ」
「…」
綻陽は一時だけ驚いた顔で俺を見つめていたが、すぐに冷やかな表情になって、俺を押し倒し、
「化物は、化物だよ」
それだけ言って部屋を出て行った。