死生有命に逆らう化物❖2
『誰もいない場所で仕事もしないで自由に生きていけるのと、他の人間みたいに社会の歯車になって惨めに死ぬの、どっちがいいですか?』
二年前のこと。
彼女、綻陽鼎が提示した選択肢はそんな下らない二択だった。
大学の放課後。なんてことはない、他愛のない雑談としての話題。僕は当たり前のように答えた。おそらく大多数の人も同じ答えだと思う。
「そりゃあ、仕事もしないで生きていけるなら、その方がいいよね」
そんな風に答えると、綻陽鼎は条件を追加した。
『じゃあ、一人で自由に生きるのと、大勢の人と社会生活を送るのなら、どっち?』
友人や家族がいる社会に身を置くか、それらすべてを捨てて自由に生きるかの二択。現実問題、自由に生きるということの実現性はかなり低い。しかし、あくまで例えばの話で、この二択、どちらに心が惹かれるのかということにおいて、今の僕は答えが決まっていた。当時就活生として苦労していたことも、心理的に影響していたのだろう。
「…悩むところだけれど、それでも自由に生きたいな」
僕の答えを聞いた後、綻陽鼎は少しだけ口角を上げて笑う。眠そうな眼差し、誰に対してもどこか距離を置いて接する彼女は、なぜか俺ともう一人の友人にのみ、少しだけ見下したような、鼻越しに見るような不遜な態度で時折話しかけてきた。
俺も俺で、彼女のその態度を不器用な友好の表れなのだと、甘んじて受け入れている。人を小馬鹿にしたような物言いでも、綻陽はどこか同族をみるような態度。人を扱き下ろしたいという悪意とは違う諦観にも似た価値観と友好の念を感じていた。
もう一人の彼女の友人も同じ思いで接しているのだろう。
『先輩って思った通り社会不適合者ですね』
――クスクスと。笑った。