希死念慮の閾値❖2
サービスエリアを超えてバイクを走らせる。
一応、監視カメラに映らないようにサービスエリアの花壇から草木を掻き分けて、ガードレールの隙間から進入した。誰かに見つからないといいが、たとえ見つかったとしても追いかけてくるだろうか、俺のために放射線の漏れ出した死の街まで救いに来るとは思えない。
奇形化した植物が道路の割れ目や民家の庭から顔を覗かせる。見えない死は確実にここにある。それでもバイクを徐行して街を徘徊する。時折群生する奇形化した植物が人影に見えて恐ろしい。犬の死骸を発見した時は少しだけいたたまれない気持ちになった。
人間だけが逃げ出した。この街を壊した犯人が一番先に逃げ出したこと、悪人こそが生き残る。強かに生き残る。
そうだ。文明の速度に置いてかれてしまったこの街こそ、俺にお似合いだ。もうきっとその後に続く人生なんて搾りかすでしかなくて、自分の限界も完全に把握している。もう人間でいられない。
自分を明らめて、
自分を諦めた。
放射線によって体に異変が起きるのはどのくらいの時間を必要とするのだろうか。子供の頃に小学校の図書室で読んだ、はだしのゲンの話のように、光の中で一瞬のうちに変わり果てて、為す術もなく決定的な死に至ることを妄想していたが、未だこの体には異変はない。
もしかしたら、じわじわと苦しむことになるのかもな。なんて諦観してはみたものの、ぞっとしない。心持ち強くハンドルを握り、バイクを走らせる。