醒めてみれば空耳❖5
俺は下に降りて、綻陽を探した。
てっきり宴会場にいるかと思っていたが、見つからない。どこかの部屋でまだ眠っているのか、それとも外に出ているのか。兎に角、綻陽が居ないのなら、答え合わせは出来ない。半年前の出来事だとすると、今更急ぐ必要もないので、俺は男湯の暖簾を潜ってそこで歯を磨いた。
……そう言えば、落下した場所は浴場の天井か。
俺は歯ブラシを咥えながらうろうろと辺りを見回す。
建物の配置と壁の位置関係を記憶と照らし合わせると、女湯の天井が落下地点だと推測出来た。なんとかしてそれを確認できないかと思い、男湯の露天風呂の扉を開けてそこから女湯の方へ向かう。
岩壁で仕切られているのでそれを回りこみ、竹の柵にぶつかる。暇つぶしにどこまで行けるかと思ったが、この辺りで引き上げよう。
俺は歯を磨き終わると、口内を濯いだ。
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「あぁ、あの屍体は海に捨てたよ」
元々食べる気もないし、中年男性の腐乱屍体なんて興味もないから。と、綻陽は言う。
部屋が使えなくなるとしても、そのままでは気分が悪いから処理をした。廊下を経由して運ぶには疲れるので窓から捨てて、更に海に運んだ。とのこと。
「事件の手助けなんてして良かったのか?」
「いいよ。向こう数世紀は確実に人が立ち入らないんだから、時効だよ」
「……そんなもんか」俺は宴会場の畳の上に寝転ぶ。「……でもなんで、殺したんだろうな。一緒にホテルに泊まったったことは、それなりに仲が良かったんだろうに」
「さぁ、仲が良いかはわからないよ。むしろ、殺意を持っていたかもね」
「なんでそんなことを言えるんだ?」
「震災は偶然だろうけど、あの部屋には果物ナイフ以外の荷物は残っていないから、犯人は地震が起きる前からこのホテルを出たんだと思う。
後はよくわかんない。刑事でもないし、推理が特別得意な人間でもないから」
案外、神様はその犯人を殺すために震災を起こしたのかもね。と、綻陽は締めくくった。




