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海と空のお話  作者: kn
7/33

七 溜まってる、ってやつかにゃあ

着替えを終えて教室に戻る途中の廊下で、男子担当の体育教師と出くわした。角刈りに髭姿のごりごりのマッチョマンだ。

大体の場合は学校指定のジャージ姿で歩いていて、たまーにスーツ姿を見掛けると、あまりの似合わなさに笑い出す生徒も多数いる。

ちなみに俺も笑っていた内の一人だ。性格は気さくでとても親しみやすい先生なのだが。


「おはようございまーす」

「おー。おはよ……ん?あー、ちょっと待て」


そのまま通り過ぎようと思っていたら、止められた。


「お前、細谷か。先日から女として通ってるとは聞いたが……。何か不都合はないか?」

「えー……困惑する事は多々あります」

「ははは。ま、そりゃそうだ。困る事も多いだろう。

悩みがある時は、周りに気楽に相談しろよ」

「はーい」


まぁ俺は空と空の父さん母さんが親身になってくれているから大丈夫だけど、もしも一人だったらと考えると……げろげろ。想像したくもないな。


運動をしたせいか喉が渇いたので、蛇口を上に向けて水を飲んだ。

たまに学校の水は飲めない、と言ってペットボトルを持参する子がいるが、俺はあまり気にしない。

運動をした後にぐびぐびと喉を鳴らしながら飲むのが堪らないと思うんだけどなぁ。

少し濡れた口周りをハンカチで拭った。そう言えば化粧をしてる女の子なんかは化粧が落ちるな。それが嫌な子もいるのかもしれん。


俺は基礎化粧品しか使っていないが、メークアップ化粧品も持ってはいる。

陽子さんと買い物に行った時に、女の子の必需品、と言われて一通り揃えたからだ。顔の色に合わせて買ったので相性はばっちり……らしい。

校則で化粧は禁止──ちょっと前に日焼け止めはOKになったらしいが──なのもあって、まだ使っていない。

何れ使う時が来るのだろうか。うーん、来ねーんじゃないかなぁ。


---


教室に戻ると空は既に自分の席に座っていた。

つかつかと歩み寄り、空の脇腹に貫手を放つ……!が、手首を掴まれて、奇襲は敢え無く失敗してしまった。


「何だ、どうした?」

「ぐぬぬ、一発殴らせろ!」

「お前……いきなり理不尽な事を」


色々あってストレスが溜まって八つ当たりしたかっただけなので、確かに空にとっては理不尽この上ないよな。自覚はしているよ。

だけど涼しい顔をして受け止められると、それはそれは面白くないのだ。ふい、と空から目を背けた。

ああ、俺ってすげー嫌なやつだ。


「まあ、話は飯ん時に聞くから」


と言って、ぽん、と俺の頭に手を置いた。ずるい。

これ以上意地を張っても仕方がないので素直に頷いておく。

ところで空は燃費がすこぶる悪いらしく、早弁の常習犯なんだが、飯は残っているのだろうか。……なかったら、分けてやろ。


昼食の時間になると俺は弁当箱を持って、空は購買でパンを買ってから屋上へ出た。

春を過ぎて夏の一歩手前なこの季節は、外でご飯を食べるには丁度良い気候だ。

それだけあって屋上に出てくる生徒はそこそこにいるのだが、皆しっかり一定の距離を空けて座るので小声で話をする分には不自由する事はない。


「また早弁したのかよ」

「二限の間に」


おい、全然気付かなかったぞ。


「いくら早弁っつったって、相変わらず早いなぁ」


今もパンをもさもさと食べているが、瞬く間になくなっていく。三個あった惣菜パンが二分で完食だと……!?

片や俺はと言えば、弁当の端っこがちょっと減っただけだ。つか、弁当包みを解くまでの間に一個なくなってた勢いだ。


「いるか?」


半分くらい食べた弁当箱を空の方へ差し出す。

男の時から使っていた弁当箱に入る飯の量は、今の俺にはかなり多い。

かと言って、中身を少なくすると昼食の時にはシェイクされているであろう事を考えれば、いっぱいに詰めるしかない。

弁当マスターなら何とかすんのかもしれないが、冷食併用のビギナーには荷が勝つ。


「もう良いのか?」

「おー、腹八分目」

「そうか」


弁当箱と箸を渡すと、やはりハイスピードで消滅していく弁当箱の中身。こいつの胃袋は、はてさて、どうなっているのやら。

水筒に入れて持って来た麦茶を飲みながら、そんな空の様子をボーッと眺めていた。

小さな弁当箱を用意しようと思っていたんだが、少量だけ弁当を作るって無理だ。今でも余るくらいなのに。

いっそ、今の弁当箱と小さい弁当箱の二つを持って来て、空に食わせるか。こんだけの勢いで食ってくれるなら作るのもちょっとは楽しくなるかもな。


「……口周りになんか付いてるか?」

「え、付いてないけど、なんで?」

「いや、こっちを見ながら笑っているから気になったんだが」


あれ、笑ってたか?

首を傾げて頬っぺたに手を当ててみるが、それで自分の表情なんて分かるわけがなかった。


弁当をあっという間に食べ終わった空に、麦茶を差し出すと、キュッと一気に飲み干した。

返ってきたコップを受け取り、自分でももう一杯麦茶を飲むか、と思って水筒を傾けると、コップの半分も出てこなかった。

無くなってしまったようだ。


「あちゃ、足りなかったか」

「悪い。俺が飲んだからか」

「んや、食べる量が減った代わりに水を飲む量が増えたんだよ」


これも女体の神秘ってやつなのだろうか。

女子ってダイエットや美容にってやたら水を飲むもんな。脂肪が多い分、必要水分量も多いのかもしれん。

今度から予備で、鞄の中にミニペットボトルでも忍ばせておくかなぁ。


「……で、どうしたんだ?」

「え?何が?」

「あー、さっきまで、何か苛立ってなかったか?」

「……?」


あ、ああ。そう言えば、慣れない環境のせいか胸の奥に鬱憤というか、澱みたいな物が溜まってた気がしたんだが……忘れてたな。

屋上に来た時は、絶対空に愚痴ってやる!って思ってたのに、不思議である。


「どうやら発散されたらしい」

「何でだよ」

「分かんね」


けどまぁ、結果オーライって事でいいんじゃね。

書き溜めが後十日でなくなります!

十分な余裕を持って投稿を始めた筈なのに。

遅筆っていやですね。

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