三 検査
寝て起きたら検査が終わっていた。何を言っているか分からねー……わけないわな。うん、分かりやすいわ。
空の父さんが懇意にしているという病院で、検査着を着て検査室に入ると、寝てても良いよー、なんて言われてさ。
いやいや、そんな簡単に寝られるわけねーだろ、って思っていたら、ぐっすりでびっくりだ。
で、検査の結果としては身体に異常なし。
そりゃもう健康体で、元気な子供も産めるらしい……って喧しいわ!つまり【女の子として】異常なし、との事。とほほ。
まぁ月曜日からは無事に学校に通えそうだ。先日の買い物で、制服の準備もばっちりである。
周囲をぐるりと見回しても、特殊な患者が集まる病棟らしく、人影は隣に座る空くらいだ。
ここまで車で送ってくれた空の父さんは、先生とまだ難しい話をしている。なんか、診断書の病名やら何やらの話し合いがあるみたいだ。
「普段から迷惑掛けてんのに、なんか、ほんと悪い」
「……あぁ、まぁ気にするな」
「そんなわけにはいかねーだろ……。空の家族には頭が下がらねーよ」
……?
──あ!?頭が下がらねーって何だよ!下げろよ俺!
空はくすりと笑った。くそっ、また顔が熱い。
それもこれも性別が変わったせいだ!……なんて、はぁ、そんなわけないよなぁ。
「いや、ちょっと間違えただけだ。頭が上がらねーよ、だ」
「分かってるよ。だからまあ、気にするな」
んー、こいつ、俺が女になっても泰然自若って言うのか、何て言うのか。変わらねーなぁ。
ふいっと空の顔を見上げる。元々、俺の方が身長は低かったけど、十センチくらい小さくなったので更に差が開いた。
「なぁ、空って身長どんくらいだっけ?」
「確か百八十くらいだったかな」
「マジかよ……俺、さっき計ったら百六十切ってたんだが」
「そりゃ、御愁傷様」
ぽん、と頭の上に空の手が乗っかった。
なんなんだ?そんなに丁度良い位置に頭があるのか?
ペッと払い除けるついでに手を合わせてみる。
んー?んんん、手も小さくなったなぁ。空の手の第一関節くらいまでしかない。はぁ。
戻んのかなぁ、これ……。
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病院からの帰り道。
空の父さんが運転する車に乗って、高速道路に乗った。
「あ、暁さん、スピード、結構出てません?」
藤岡 暁。それが空の父さんだ。顎に髭を生やしている、ちょっとワイルドなおっさんである。
「そうか?そんなに速度は出していないんだが」
「って言って、さっき百二十キロくらい出てたじゃないですか……」
速度超過、ダメ絶対。
「安心してくれ。人を乗っけてる時は百五十までしか出さん」
「安心出来ないんですがッ!?」
速度超過、ダメ絶対。大事な事なので二度言いました。
良い子の皆は公序良俗に反する事をしちゃダメだぞ!
俺だって、速度をぴったり守ると逆に妨げになるのは知っているけどさ、ほどほどが一番じゃないのか……?
「親父は、言った事は守るから」
「サイデスカー」
あはは……はぁ。なんか、空の一家って変わってるよ、ほんとに。いや、俺の母さんに、姉貴も変わってるか。まともなのは俺と俺の父さんくらいだな。
そう言えば、暁さんは運転が荒っぽい──と少なくとも俺は感じる──ものの、国内のレーサーライセンスも持っているらしいのだ。
実際に一度も事故った事がないようだし、ゴールド免許なんですか?なんて聞いた事がある。
そうしたら、ゴールド免許を持ってるやつは運転が下手な奴か、普段あまり運転をしない奴だ、というよく分からない持論を展開された。
俺も免許を取ったら分かるようになるのだろうか。謎である。
「これで、一通りの用事は終わったと思うが、何か忘れている事はあるかな?」
「大丈夫だと思います。色々ご迷惑をお掛けしました」
「いや……。もしも何か、入り用な物や困った事があれば、空に言ってくれ」
空を見ると、目が合った。空は一つ頷いた。
「何かあればサポートする」
「なんか、ほんと、すみませ「海君」ん?」
謝ろうとしたら暁さんに遮られてしまった。
「海君は何も悪い事をしていない。そうだな、こう言う時はね、ありがとう、と言って貰えると嬉しいんだよ」
「あ……はい。ありがとうございます。空も、ありがとう」
そりゃ、後ろ向きな謝罪より、笑顔でお礼を言われた方が嬉しいよな。だから、俺は精一杯の笑顔で二人にお礼を言った。
うーん、いきなり真冬並みの寒さになりました。
早く暖かくならないかな、なんて話をしたら、まだ冬にもなってねーよ、との突っ込みを頂きまして。
現実は直視したくないものです……。




