二十二 こういうの苦手なんだよ!
糖分多めでお送りしております。
俺が何を悩もうが、時間ってやつは無情に過ぎる。
色々と考えてはみたものの、俺のお頭の出来は悪く、堂々巡りを繰り返すだけだった。
んで、もっとシンプルに考える事にした。
先日空からは女としての自覚を持て!さもなくば襲う!と助言を貰ったばかりだ。
次同衾したら自制が出来ないかも、と言う話だったから、布団に潜り込めば良いんじゃないか?
今まではそりゃ不味いだろって事で止めてたけどな。
……でもなぁ……。
上手くいったら、ナニをアレするわけですよね。
俺と、空が。
多少女に慣れたけど、ソレは自信ねーよ。
よし、シミュレーションだ。何事も想定が大事だ。
空に布団の中で組み敷かれて顔が近付……うおわぁ。
無理無理!既に顔が熱いしお腹がきゅうとなった!
実際そんな事になったら心臓が破裂して死ぬかもしれん。
「海」
「うゃあ!?」
妄想炸裂中に、空に肩を叩かれた。
身体が数センチ跳ね上がったのは、致し方あるまい。
「ど、どうした……?」
「な、なんでも!それより何っ!?」
「いや、風呂から上がったって声を掛けたんだが、反応がなかったからな」
「あ、あぁぁ、そ。ありがと」
うおおぉぉ、心臓に悪過ぎる。
まさかあんな妄想をしている最中に、当人に声を掛けられるとは思ってもみなかった。
ってか、空がまじまじとこっちを見ている。そりゃあ挙動不審が過ぎるよな。
「もし、調子が悪いなら正直に言ってくれ。
勉強はしたつもりだが、俺も吸血鬼に関して詳しくはないからな」
「あ。ほんとに調子が悪いとかはないんだ。大丈夫」
いくら退魔師とは言え、随分詳しいと思ったんだよな。
やっぱり調べてくれていたのか。
「それから……俺と一緒に居るのが苦痛になったなら、遠慮なく言って欲しい」
──え?
「刷り込みを認識した事で、精神が正常に戻ったんじゃないか?
それなら、以前より遥かに近しい今の距離は気持ち悪いだろ」
「それは違う!!!」
あ。つい大きな声が出てしまった。空も驚いて口をぽかんと開けている。
……でも、この誤解は、放置しちゃダメだ。
「違うよ空。そうじゃなくて、その、あの、あー……」
空は驚きながらも、言い淀む俺の言葉をじっと待ってくれている。
なんて言や良いんだ……ええい、儘よ。
「俺、お前好き、OK?」
「あ?ああ」
おおおい、緊張してるからって片言過ぎる!しかもド直球!
もうちょっと他の言い回しがあっただろ。
空もなんとも言えない微妙な表情をしてるし、全然、伝わってなさそうだ。
「つまり、嫌じゃない、OK?」
「そうか、分かった。じゃあ今まで通りでいいんだな?」
「──ううん」
俺は首を横に振った。
「ん……?どうすればいい?」
今まで通りじゃない方が、いいんだよ。だって俺は、お前にもっと近付きたいんだから。
俺の想いを伝えて……気持ち悪いって思われないだろうか。
明確に拒絶されたら、と思っただけで、身体が震えて涙が溢れそうになる。
曖昧なまま、今の微温湯の様な関係でいたい──けど。
「好きだよ、空。誰よりも」
空の目を見つめて、呟くように声を絞り出す。
顔だけじゃなくて頭の中まで燃える様に熱い。
恥ずかしいし不安だし、心の中がぐっちゃぐちゃで訳が分からない。
ってか呆けんな!なんか言えよ朴念仁!
「あ、ああ。俺も、だが……これは、夢、か?」
偶然だな!恥ずかし過ぎて俺も夢であって欲しいわ!
でも夢じゃねーんだよ。空の頰をぎゅっと抓ってやる。
「これでも夢か?」
「おお。痛いな……嘘だろ……?」
疑り深いな!こんなタチの悪い嘘つかんっての。
と思っていたら、震える空の腕が伸びてきた。こいつも緊張する事なんてあるんだな……。
腫れ物を触るみたいに、そっと身体が包まれる。
こいつ、この前はあんだけぎゅうぎゅう抱き締めてた癖に今更ヘタレんのか。
いや、いいんだけどさ。
「良いのか?」
「おう」
「刷り込みは?」
「正直あったのかも分からん」
「そうなのか」
「ってか、なんでそんな不安がるんだよ」
俺の事は女として見れないんじゃないかって、ずっと思ってたんだが。
「良く考えてくれ。お前は女になったけど俺は男のままなんだぞ。
あまりにも抵抗が無さそうだから強い刷り込みがあったと思っていたんだよ」
あー。確かに。
俺には男色の気は無かった筈。でもなんだろうな。空だったらいいかって思ってさ。
ずっと親身になって助けてくれて、優しくされてたらいつの間にかに、なぁ。
……あれ?俺ってもしかしてチョロい?
「まだ信じられないか?」
「いや……」
と言いつつも、この表情は半信半疑、ってとこかな。
しょーがねーなぁ。もう。
身長差があるから、背伸びをせにゃならん。
顔を寄せて、軽く唇を触れさせる。
「……えと、じゃ、俺は風呂に入ってくるから」
目を丸くしたままの空を放って、そそくさとリビングから抜け出すと、着替えを持って浴室へ入る。
鏡を見れば興奮は冷めやらぬようでまだ顔が赤かった。
さっきまでどんだけ赤かったんだろうか。めちゃくちゃ熱かったもんな……。




