二十一 もろばれ
授業が終わり、古文の教師が教室から出て行った。
広げていた勉強道具を机に仕舞うと、小さく溜息を吐く。
別に勉強が上手くいかなかったわけではない。問題は空との関係、だ。
空への想いをなまじ認めてしまったものだから、どう接したら良いのかさっぱり分からん。
しかも期間限定とは言え、四六時中一緒に居るわけで、嬉しいんだけど、嬉しいんだけどさぁ!
恋愛経験が全くない俺にはハードルが高過ぎる!
大体元男同士で、恋愛感情を抱いたってどうしたら良いんだよ。
空好みの女にでもなればいいのか?……って女の趣味なんて知らねーよ!
恋バナなんてしたのはこの間が初だっての。
「ねぇ、海ちゃん」
なんて机で悶々と考え事をしていたら、以前乳を鷲掴みにしてくれた鷹見さんが話し掛けてきた。
体育の授業があってから打ち解けて、話す機会も増えたのだ。
「何、鷹見さん」
鷹見さんの態度と俺の態度で温度差があるのは勘弁して貰いたい。
女の子を呼び捨てにするのは、まだ女子経験値不足な俺ではキツイのだ。
「藤岡君と何かあった?」
「う」
慌てて隣の席を見ると、空は居なかった。
トイレかどっかにでも行ってるのだろうか。
「な、なんで……」
「だって、一緒にトイレに行ってないじゃない」
「行かねぇよ!?」
はっ、つい素が出てしまった。
当人は「冗談よー」なんてケラケラと笑っている。敵わんわ。
「態度ですぐに分かるよ。でも喧嘩ってわけじゃなさそうだし、なんだろうって?」
ま、まぁちょっとだけ挙動がおかしい自覚はあるが。
空の方はいつも通りなんだなぁ……くそう。
「ふとした拍子に顔を赤くしたり、チラチラと藤岡君を見てたり、まるで恋する乙女みたいよ?」
「うぐ」
……おい。分かって言ってるだろ。ってか確信してますよね!?
「その反応だと当たりかぁ。まぁそうだよね。
でもてっきり付き合ってるものだと思ってたよ」
「前にそんな事実はないって言ったでしょ?」
「やー、建前だとばっかり。なんで告白しないの?」
「そんな事を言われてもさ、どの面下げて告白したら良いのやら……」
「ここにこーんな可愛いお顔がついてるじゃない」
「ひょっほ」
と頬っぺたを抓られた。いてぇ、って程でもないけども。
そう言われても顔のベースってあんまり変わってないんだよ。
俺だってそう思うんだから、ずっと側に居た空にとっては尚更だろ。
男の時の姿が頭にチラつくんじゃないかって思うと、なぁ。
そりゃ……吸血の時はナニがアレですけど?容姿は関係ないだろうし?
まぁこれは鷹見さんには色んな意味で言えねーな。
「つまり、藤岡君に女の子として見られて居なさそう、ってのが問題なのね?」
「まぁ、そうかな」
「そんな事はないと思うけどねー……」
そもそも恋愛対象に入るのかも謎だ。
しかしいつの間にやら恋愛相談みたいになってら。
「じゃあこうしましょう」
「嫌な予感しかしないけど、何」
「ドキッ!こいつこんな女らしかったっけ作戦!」
えー……と。
つい、鷹見さんを冷たい目で見ても仕方がないよな?
「実践1、女の子の服を着る!」
「お前はこれが男の服に見えんのか」
「制服じゃなくて私服よ」
「男物なんて今は着てねーよ」
暫く出番がなさそうだったから仕舞ったわ。
そしてもう着る機会はないだろうな。
「実践2、手料理をご馳走する!」
「弁当は私が作ってるよ」
明かしてないけど家でもな。
「……そう言えば、そうね」
詰んだ。
後は空と二人で居る時の話し方も変えてみるか?
それはそれでなんかなぁ。
「てーか、告っちゃえ」
無理だろ。JK。……洒落とちゃうで。
「そう言う鷹見さんはどうなの?」
「私彼氏居るし」
「ほら人の事言えな──えぇ!?」
「ちょっと、驚き過ぎでしょ」
マジか……。
いや、でも見た目は綺麗で気さくで明るい、か。
少しセクハラするけど男にゃしないだろうしなぁ。
くそ、リア充め。
なんてやり取りをしていたら、空が戻って来た。
俺と鷹見さんは休み時間中に話をする機会もあるから、怪訝に思われたりもしていないようだ。
「ま、なんか思い付いたらメッセージ送るわ。
そっちも何かあったら教えなさいよー?」
と、ニヤニヤしながら席に戻って行った。
「何かの相談か?」
空が疑問に思ったのか、問い掛けてくるが、俺は「なんでもない」としか返せない。
や、今の話の内容を言えるわけがないにせよ、空に対して冷たくしてる気がする。
「そうか。何か問題があるようなら、いつでも相談してくれ」
「お、おう……」
相談内容はお前の事だよ!
あー。くそ。こんな話、空には出来ねーよ。
書溜めが残り僅かに……なかなか難航しております。




