二十 真剣なお話
血の提供は、毎日小まめにした方が俺の具合にも、空の体調的にも良いらしい。
そりゃ食い溜めなんて身体に悪いわな。先日は仕方なくしたけど。
魔力を貰うのにも少し慣れて、気合いを入れていれば、陶然とする事はなくなった。
部屋に二人でいる時は問題がなくとも、外で貰うことがないとも限らないからな。
……うん、だから逆に、二人きりの時は、まぁ、別にいいよな?
「さて、今日は海に一つ、話がある」
血を吸ってポーッとしていたら、空が真剣な表情で話し掛けてきた。
つい、雰囲気に気圧されてベッドの上で居住まいを正してしまった。
「……何故の正座」
「いや、なんかそう言う空気かなって」
話ってなんだろう。
「そんな畏まらなくてもいいんだが。
吸血鬼の習性について、一つな」
まだなんかあるんすか……正直お腹いっぱいだぞ。
というのが表情に出ていたのか、空が苦笑する。
「刷り込みって分かるか?」
「えーと、雛鳥が初めて見た相手を親だと思い込む、的なやつ?」
俺はひよことかに刷り込みされたい。
歩いている後ろをひょこひょこ付いて来られたら萌え死ぬ自信がある。
……あ、ちなみにこれはギャグではないぞ!
「その刷り込みで合ってる。
吸血鬼は初めての吸血の時に刷り込みが行われるんだ」
「あれ、それって血に溺れる、とかって話か?」
「ああ。それも刷り込みが関係してるんだが、今回の場合も刷り込みが起こっている、と認識してくれ」
んー。つまり、空が親鳥で俺がひよこか。
なるほど、把握した!
「で、その話はどこに繋がるんだ?」
「例えば他者から血液を提供される場合、海が忌避感から拒否する可能性がある。
刷り込みを認識していれば忌避感も緩和されるだろ」
「──空は、もうくれないの?」
それはやだ……って、ん、これも刷り込みの影響か?
なんて考えていたら、頭の上に手を置かれた。
「そうじゃないからそんな顔をするな。
でもこれから先だって長い。何日か離れる事だってあるだろうから、頭の片隅に置いておいてくれ」
「ん、分かった」
つーかお前、結構気軽に頭ぽんしてるけどな、相手によってはセクハラだからな。
俺以外にするなよ。捕まるからな。
もしもセクハラで捕まったら、いつかやると思ってました!って言うぞ。
「あ、ところでさ」
「ん?」
「世の善良な吸血鬼の皆さんは、どうやって魔力を貰ってるんだ?」
「ああ……大体の場合は恋人みたいだぞ」
恋人かぁ。まぁ、分かる気がする。
だって、吸血の時は、その、ほら、ね?
「後は協会が紹介してくれたりもする」
「おー、協会無双」
「多種多様な種族がいる分、互助組織の面も強いからな。
それと、吸血されたい人間というのも一定数いるみたいだ」
「え、なんじゃそりゃ。Mって事?」
見知らぬ人が血を吸われながら恍惚としていたら……。
う、うーん。かなり嫌だな。
これは刷り込み関係ねーよな?多分。
「どうだろうな……痛苦はないが、認識としてはそれに近いのかもしれない。
吸血される時はある程度の快楽を伴うからな」
そ、そうなのか。
こっちは快楽じゃないけど、蚊も痛みを与えないように吸うもんな。
すげー痛かったら誰も血なんてくれないし、気持ち良かったら進んで提供してくれる人も出て来ると。
ある意味必然なのかもな……って、あれ?それなら、空も、なのか?
「空も、気持ち良かったりするのか?」
「──あ」
今更、自分の失言に気付いたようだ。
話す言葉をしっかりと選んで喋る空にしては珍しい。
あっ!前に痛いかって聞いた時に言い淀んでたのって、逆に気持ちが良いからか!
う、ううう。空が協力的なのも気持ちが良いからなのかな……?
いつも気付かない振りはしてるけど、アレがナニなのも、それかー。
「確かに、快楽はある、が」
「や、別にいいんだよ?魔力貰っちゃってるわけだし」
ちょっと気持ち良いくらいの役得がないとね?
「でもさぁ、出来れば、俺っ」
──あ?
俺、に、なんだ。なんて続けようとした?
……欲情するならオマケでぽんと付いた吸血鬼の能力じゃなくて。俺自身にして欲しかった……か。
あー。あー……もー。やだ。
ずっとずっと、無理矢理目を背けて見ないようにして。
男同士だからおかしいって内心で言い訳を重ねて。
否定してきたのに、こんなんじゃ、無理じゃんか。
「海、どうした?」
唐突に黙った俺に、空が心配そうな顔で話し掛けてくる。
うぐ……改めて意識をすると、至近で顔を直視出来ねぇ。
「な、なんでもない」
と言って、顔を背けるのが精一杯だった。




