十五 一騒動落ち着いて
前話の前書きに性描写がある事を追記しました
既に読んでしまった苦手な方、遅くなってごめんなさい
空にまた迷惑を掛けるなぁ、なんて罪悪感はあるものの、一通りの話が終わって、漸く精神的に落ち着く事が出来た。
衝動的に血を吸ったものの一瞬で意識が飛んで足りていないらしく、もう少し分けて貰うのだが、時間的に遅いので空が家に泊まって行く事になった。
今までだって遊びに来てそのまま泊まり、なんて良くあった事で、まぁ、俺が泊まってけって言ったし不満はない。
ただ、女になってて、しかも吸血鬼な俺と一晩一緒って良いのか?と疑問に思う辺り、女に少しずつ馴染んでいるのかもしれない。
陽子さんも二つ返事で了承を出すとか、大らか過ぎねーか。うん、俺は助かるんだけどさ。
さて、もう一度血を貰おうか、と向き合った──ちょっと、冷静になると恥ずかしかった──ところで、空の腹がぐぅと鳴った。盛大な音だった。
常人より魔力量が遥かに多い代わりに、燃費も最悪なんだそうだ。良く飯を食うなぁと思ってはいたが、そういう理由だったのか、と納得してしまった。
一口分ではあるものの、濃厚な魔力を頂いているし、取り急いで血を分けて貰う必要もないだろう。
俺達は先に飯にする事にした。
生憎と材料が、空の腹を満たすほど残っていなかったので二人で買い物に出る。
そこそこ大きな住宅街。歩いて十分も掛からない場所にスーパーがあって、便利である。
すげーお腹を空かせてるみたいだし、短時間で出来るもんがいいよな、なんて考えながら店内を物色する。
もうかなり暖かいし、季節柄あまり作らないけど、鍋なら手早く、量もたくさん出来るかな。聞いてみるか。
「なぁ、鍋でいい?」
「勿論だ」
お前、白米好きだもんなー。
んじゃご飯によく合ってさっぱりとした鍋にするかー。
定番の具材をぽこぽこと入れていく。肉は鳥でいいな。
「他になんか欲しいもんある?」
「白滝」
さっき籠に入れただろ!見てたじゃねーか。
増量しろって事か。
迷惑を掛けている分、代金は俺が出すつもりだったのだが、空も譲らなかったので折半にした。
「そういう服も持ってたんだな」
「あぁ、これは自分で買った」
空の言う服とは、なんてことはない、ただのショートパンツにTシャツだ。あともう夜だし、取り敢えずカーディガンを羽織っている。
陽子さんが選んだ服は、余所行きが多かった。そんなんを着込んで買い出しに行くのは面倒で、普段使いの出来る服の多くは自分で用意した。
まぁ、学校指定のジャージや男ん時に使ってたスウェットでもいいんだけど、ちょっと見っともないからな。
ん、わざわざ制服から着替えた理由?……察してくれ。
ちなみに俺だけ着替えるのもなんなので、理由を付けて空も着替えさせた。
さーて。さくっと鍋を作りますかー。
とは言うものの、飯を炊くのと下拵えにはやはり少し時間が掛かり──何しろ用意する量が多い──その間、空には作り置きしてあった浅漬けを食べて貰っている。
……自分で出しておいて何だけど、尚更ご飯が欲しくなるだろうなぁ。
「そーいやさ」
「ん?」
俺の呼びかけに、本を読みながらぽりぽりと音を立てながら浅漬けを貪っていた空がこちらに顔を向けた。
リビングが見えるタイプのキッチンって、こう言う時便利だよな。
「最近、妖怪退治してなかったんだろ。平気なのか?」
「ああ、穴埋めはして貰ってるから大丈夫だ」
……うーん、いまいち俺には分からんのだが、周りに害を与える妖怪ってどのくらいの頻度で出るんだろう。
疑問に思ったので聞いてみた。
「妖怪。協会では怪異と呼ぶんだが、実体を持っていたり固有名詞の付いている妖怪はそうそう出ないぞ」
「そうなんか?でも結構な頻度で妖怪退治をしてただろ?」
「なんて説明したもんか。……まぁ生霊とか、幽霊みたいなやつが多いんだ」
え、マジかよ。そう言うの苦手だから止めてくれよ。
なんかダメなんだよ。ホラー映画も好きじゃないし。いやごめん、嘘ついた。大嫌いだし。
……ん、でもある意味俺も仲間になるのか?
あれ?吸血鬼って生霊だとか、幽霊だとかより強そうじゃね?
「俺が吸血鬼だっていうなら、俺も妖怪退治って出来るのか?」
「結論から言えば出来る」
おお、幽霊恐るるに足りず!正体不明でどうしようもないから怖いのだ!
自分で対処可能ならもう何も怖くないじゃないか。
「よし、空。ホラー映画観ようぜ!」
「……いいけど、どうしてそうなった」
ふはは、見返してやるぜ!映画だけにな!
あ、ごめん。今のもなしな。




