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海と空のお話  作者: kn
11/33

十一 披露宴だ!飲み放題だ!

式場から出て、エレベーターで披露宴会場に移動した。

父さんや母さん、周りの人に付いて歩いているからいいけど、一人だったら迷子だな。

でもついつい物珍しくてきょろきょろしてしまうんだよなぁ。お、あんなところにカウンターがある。


「こんにちは」


カウンターに立つ、バーテンダー?の人に声を掛けた。

パリッとしたスーツに蝶ネクタイ。オールバックに纏めた髪は、ザ・バーテンダーって感じだ。

カウンターには色取り取りの瓶が並んでいて、見た目でも楽しめるな!


「こんにちは、何か飲まれますか?」

「え、いいの?」

「お酒以外でしたら」


未成年だってバレてーら……ってああ、俺制服じゃん。


「じゃあ、なんか下さい」


赤いシロップにジンジャーエールを混ぜた飲み物が出て来た。これは甘そうだ。

って、ぶぇ!?辛っ!いや、飲めないわけじゃないけど、辛っ!!んで生姜の香りが強い!


「こ、これ、ジンジャーエールなんですか?」

「ええ。普段手に入るジンジャーエールは甘口が多いですが、折角なので辛口で作らせて頂きました」


なんて茶目っ気たっぷりに微笑んだ。


「ちょっと珍しい味でしょう?……もし刺激が強いなら、飲みやすいようにしますが」

「い、いえ、このままで大丈夫です」


ふ、ふふ。これがオトナの、バーの味ってやつか。

後で空に自慢してやろっと。

……ってまぁ、飲んでるのはジュースなんだけどさ。


そんな風に少しハイテンションになって過ごしていたら、もう披露宴が始まるようだ。

つか、ふらふら出歩いてたのって俺くらいじゃんか。いや、他にも居るんだけどもっと小さな子達だ。

ちょっと恥ずかしくなって、急いで指定されていた席に着いた。


流石、大きなホテルの料理で、すげー美味い。自分の手抜き料理ばっかり食べていたせいか、尚更そう思う。


かい?」


と、最近あまり呼ばれていなかった方の名前で呼ばれて振り返る。

シミ一つない、とても豪奢な白いドレスに身を包んだ姉貴と、同じく白いタキシードを着たお義兄さんだった。


「お、姉貴、久し振り」

「さっきもちょっと思ったけど、やっぱ海かぁ。はぁ〜化けたもんねー」

「別に自分から変わったわけじゃねーよ。つか、姉貴だっていつもと違うじゃん」


ほんと、化けたもん、とは俺の台詞だ。

普段は化粧だってほとんどしてないのに、今日は睫毛はばさばさだし、唇は真っ赤だ。

俺も自分で化粧をしたから分かるようになった。すげー綺麗に化粧がされてる。絶対誰かに化粧して貰っただろ、姉貴。


「結婚式でいつも通りで居るか!ってやり取りをしてると思うけど、あんた中身は変わってないのね。もう、ほら、口周りが汚れてる!」


ぐぬぬ……。

お義兄さんはと言えば、にこにことしながらこちらを見ている。ガサツな姉貴には勿体無い人だな!


「あ、そだ。姉貴、受付の人にプレゼントを渡しといたから、後で受け取ってくれ」

「あらま。気を遣わなくても良かったのに。ありがとね」


俺や父さん、母さんへの挨拶はそこそこに、姉貴とお義兄さんは別のテーブルへと移って行った。


披露宴の歓談の時間になると、ゲストも席を移動して他の人と話しても良いみたいだ。

知り合いのいない俺にはあまり関係がないので、さっきのカウンターでまた珍しい飲み物でも貰おう。


そう思ったら、カウンターには先客がいた。赤いドレスに身を包んだ女性……というか、女の子?かな?

さっきのバーテンダーの人と仲良く話している。ん?んん?なんだろう。お客さん、ってよりも随分親しげだ。ま、いいか。


「こんにちは、さっき振りです」

「ええ、先程振りです」

「ほー、こんな可愛い子とお知り合いになってたんだー?」

「お前も後ろで見てただろうがよ……」


なんて女の子に揶揄われて、小声で悪態をつくバーテンダーさん。さっきまではシャンとしたイメージだったからそんな姿が少し意外だ。

そんで、女の子の方を見て、びっくりした。

髪の毛は色の薄い金髪。顔は小さくて、目はくりくりとしていて凄く大きい。今まで見た女の子の中でも、抜群に美しい少女だった。

でも、なんだろう。


「あ、れ?以前、何処かで会ったことがありましたか?」


そう、初めて見たのに、何処かで会っているような、不思議な感覚があったんだ。

女の子は突然声を掛けられて驚いたのか、目をまん丸くした。


「──いや、初対面だよ。あ、そうか。ふふ、もしかしてナンパかな?」

「ち、違います!」


ちょ、そんな風に取られるとは!?って、でも確かにナンパの常套手段だよな。


「うん、冗談だよ。からかってゴメンね?」

「あ、いえ」


見た目は……俺より年下に見えるくらいなのに、上手だ。勝てる気がしねぇわ。

そんで、な、なんかじーっと見られてるんだけど!


「んー、君には──なにか、悩みがありそうだね?」


そう言われて、弾かれるようにしてその子の方を見た。

優しげな笑顔だった。


「少し占いの真似事をしていてね、そういうのが、ちょっとだけ分かるんだ」

「そう、なんですか」

「うん。今ある君の悩みは、解決するよ」


って、男に戻れるって事か?

……いや、そんなまさか、な。


「何があっても、君が一番信頼している人を、信じていたら、大丈夫」


その言葉に、空の顔が浮かんで、消えた。

ま、空は俺がこんなんになっても優しくて、助けてくれるいい奴だ。

何であれ、あいつは信じてやってもいいか。


「でも、そうだな。少しだけ手助けをして上げるね」


そう言うと、その子は胸の前で手を組んだ。


『君に、神の祝福がありますように』


ふわり、と心の中に暖かいものが流れ込んだ。

女になってから、何をしても底冷えしていた、『何か』が、溶けて消えた──気がする。


って、待て待て。なんだそれ。しゅ、宗教の勧誘をされても騙されないぞ俺は!


「うん、これで良し。じゃ、私は先に行くから」

「あいよ」

「可愛い子だからって、手を出しちゃダメだよ?」

「出さねーよ……お前も分かってんだろうが」


ひらひらと手を振りながら、女の子は席を立った。

む、むむ。宗教勧誘をされるかも、と警戒していた俺の立場はどうなるんだ。


「グラスが空いていますが、何か飲まれますか?」


あ。いつの間にかに出されていた飲み物を、いつの間にかに飲み干していたらしい。

う、うーん。完全にあの子に飲み込まれていたな。何者なんだろう。


「じゃあ、あと一杯だけ」

「かしこまりました」

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