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撫子ちゃん初めての街

中々話がまとまらず、更新が遅くなってしまいました…難しい。

「へっ?」


突然素っ頓狂な声を上げた撫子を全員が見つめる。

バドとメリッサも口論を止めてどうしたのかと覗き込んでいる。


「ナデシコさん、どうしたんだ?」

「今、誰かママって言わなかった?」

「ママ……?」


ラルフがそれぞれの顔を見渡すが、言っていないと首を振るばかりだ。

確かに今の声は、この場にいる誰の声とも違う、幼い子どものような声だった。

……となると、撫子の視線は自然と1人……1匹に向いてしまう。

膝の上でふくふくと丸くなっている、白龍鳥セントガルダへ。


「ねーえラルフさん、白龍鳥セントガルダって人の言葉も話せるの?」

「いや……そんな文献は見たことが無いな。あくまで俺が見た文献では、だが」

「リーダー、見たことないどころか、魔物が話すなんて誰も聞いたことないぜ。そんな変なヤツの言うこと、気にしなくていいって」


申し訳ないと言う風に返事をしたラルフを庇うように、バドがさり気なく撫子を貶しながら声をかける。

すると、それまで炬燵の猫のようにのんびりとしていた白龍鳥セントガルダが、とたとたとバドの方へ近づいた。


『ままのこと悪くいわないでー!』

「痛ッて!何だよ急に!」


何をするのかと思いきや、そのまま座っていたバドの膝や腕をづん!づん!と勢い良くつつき始める。

いくら幼鳥とは言え、猛禽類に似た嘴は鋭く尖っているし、ましてや勢い良く首を前後に動かしているのだからかなりの痛みだろう。


「バド、あんたがナデシコさんの悪口ばっかり言ってたから、その子怒ったんじゃないの?」

「はあ?変なヤツを変って言って何が悪い……いってー!!」


ざまあみろと言わんばかりにニヤニヤしたメリッサに言われ、バドが食ってかかろうとすると、つつくスピードが上がった。

さすがに放置していると、バドに穴が空いてしまいそうな力強さだ。

見かねた撫子が「もう大丈夫よ、鳥ちゃん」と声をかけると、素直に戻ってきて膝の上におさまった。

それを見たパトリックが感動したように手を叩く。


「どうやら本当に言葉を理解しているようですなあ」

「そうですね……もしかしたら、この白龍鳥セントガルダは特別に賢い個体なのかもしれません」

「賢い個体?この子は他の子と違うの?」


シルヴィアに聞くと、魔物にはそういった「特殊な個体」というのが低確率で発生するらしい。

そもそも白龍鳥セントガルダ自体が非常に強く希少な存在である為、その特殊な個体ともなると、人と言葉を交わせても不思議ではないと言う事だ。

なるほどと頷いていると、気を引くように服の袖を引っ張りながら白龍鳥セントガルダがまた声を発した。


『ままー、名前つけてー』

「名前?あら、アンタ親にもらった名前はないの?」

『名前ないのー。まま、つけてー』

「まあ、いつまでも鳥ちゃんじゃあ可愛くないしねえ。ていうか、何でアタシがママなの?アンタのホントのママは?」

『んー?』


どうやら本当の母親は見た事がないらしく、危ない所を助けてくれた撫子をそのまま母として認識してしまったらしい。

丁度撫子も母性を感じていた部分もあるので、ママ呼びに関しては放置する事にした。

決してそういうお店を経営していた為に慣れていた訳ではない。


それよりも、名前だ。

毎回長々しく白龍鳥セントガルダと呼ぶのも他人行儀だろうし、乞われた通り名前をつけてしまおう。

撫子は少しの間考え込み、「コゴメ」と名付ける事にした。

白くふわふわとした姿が、雪柳、別名「小米柳」に良く似ている気がしたからだ。

花言葉は「愛嬌」、撫子がこの白龍鳥セントガルダに持つイメージにぴったりだった。


「うん、決めたわ!アンタの名前はコゴメちゃんよ~!やだ、超可愛くな~い!?…あらっ?」


自分のネーミングセンスに満足して頷いた瞬間、撫子の体からどっと力が抜けた。

歩きづめで疲れていた時よりも大きな脱力感に、思わずぐったりとへたりこむ。

隣にいたメリッサが慌てて撫子の代わりにコゴメを抱えつつ、驚いたように尋ねた。


「ナデシコさん、この子に名前つけたの?」

「え、ええ……びっくりしたわあ、急にくらっと来ちゃって」

「そりゃそうだよ、名付けってすっごく魔力使うからね」


撫子のいた世界でも名付けるというのは大切だが、この世界では特に重大な行為らしい。

どんな種族でも、名付ける時には大量の魔力を必要とし、その魔力は子どもの成長に密接に関わる。

魔力の少ない者は教会に寄付して、その謝礼として司祭など魔力の多い者に名付けてもらうのだそうだ。

基本的に体を張って産むのは母親、魔力を酷使して名付けるのは父親、という役割分担になっており、この世界では夫婦の共同作業とも言える行為なのだ。


さすがにこれは子どもでも知っている世界の一般常識らしいので、一通り聞いた後に魔力の使いすぎでうっかり忘れていたという体で通した。

幸いここの女性陣に出産経験のある者はいなかった為、相当魔力を使うからそうなるのだろうと納得してもらえたようだった。


時間も遅くなってきた事もあり、今夜はここでお開きとなった。

撫子はへろへろとテントに潜り込み、コゴメと一緒にごろんと横になる。

疲れているだろうというラルフの労いで、見張りは免除される事になった。

うとうとしながら、そういえば魔力の消費はステータスに記載されるのだろうか、と考えて改めて見てみた。



『 ナデシコ・ハナゾノ

(ゴンゾウ・コンゴウリキ)


 ◆年 齢:■■■

 ◆身 長:191cm

 ◆体 重:■■■

 ◆職 業:勇者/テイマー

 ◆レベル:1

 ◆H P:1000/1000(+???)

  M P: 800/ 100(+???)


 ◆能 力

  攻 撃:500(+???)

  防 御:400(+???)

  魔 力:700(+???)

  素早さ:350(+???)


 ◆魔 法

  火魔法:Lv3

  水魔法:Lv1

  聖属性:Lv2

  光属性:Lv1

  闇属性:Lv1

  


 ◆スキル

  【おとめのヒミツ】【美白】【コミュニケーション】【???】 』


 ◆称号

  白龍鳥の母 名付け親 



恐らくMPというのが魔力の量なのだろう。

800のうち700とかなり持って行かれているが、コゴメもこれで逞しく成長してくれる事だろう。

他にも新しい魔法に称号と、リューナの所で見た時には無かったものがちらほらとある。

これも確認しておかなければ、と思いつつ、意識がふうわりと途切れてしまう。

気がつけば、撫子は泥のように眠って朝日を待っていた。




***




翌日、予定通り一行はマッフモの街へと辿り着いていた。

大きな街門の横には獣人の兵士達がおり、街へ入る人の身分証などを確認している。

撫子は身分証を持っておらず、街へ入るのには税が必要だったのだが、面白い話の礼だとパトリックが代わりに支払ってくれた。

感激した撫子からの感謝のキスは気持ちだけ受け取られた。


マッフモは、この地方では1番大きく栄えている街だという事だった。

さすがは獣人の大陸と言うだけあって、すれ違う街の住人のほとんどが獣人だ。

獣人には2種類の人種がおり、1種はメリッサのように人の姿に獣の要素を持った「ヒュニマル」。

そしてもう1種は、2足歩行に進化した獣、という表現がぴったりな「アニメルン」。

2種の間には偏見や差別も無く、獣人達にとってはどちらも大して変わらないのだそうだ。


パトリックは商品を卸しに自分の店の支店へ、ラルフとバドはそれを手伝いに着いて行った。

何でもパトリックは、様々な場所に支店を持っている大商人らしい。

パトリックから依頼完了のサインを貰ったメリッサとシルヴィアは、「冒険者ギルド」という所へ完了の報告に行くと言った。

仕事の依頼や募集・応募、報酬の受け渡しなどは全てそこで行われているらしい。


撫子は、メリッサ達と共に冒険者ギルドへと向かう事にした。

様々な人が集まる冒険者ギルドならば、テイマー、そしてコゴメの事も詳しく聞けるかもしれないとの事だ。

田舎から出てきたという設定にして良かった、と撫子は安心して、大きな街をきょろきょろ見て歩くお上りさんそのものになった。

コゴメは相変わらず肩に乗っており、すれ違う人々の目が好奇心や驚愕に染まる。

前者は単純にコゴメの容姿に惹かれ、後者はラルフのように白龍鳥セントガルダだと気づいた人々なのだろう。

なお前者には、撫子の体格や仕草に目を引かれた者も含まれていた。



冒険者ギルドは、街の中央の1番大きく貫禄のある建物だった。

一振りの勇気ブレイブオブワンのメンバーのように鎧やローブを纏った人々が頻繁に出入りしている。

中に入ると、柄の悪い男達の値踏みするような視線が飛び交った。

メリッサ達は慣れているのか怯える事なく、真っ直ぐ受付へ向かって歩いて行く。

撫子は居心地の悪さに「イヤだわ、気をつけなくちゃ」と自分の体を抱きしめつつ、小走りで後を追った。


「おい、誰かあの子たちに声かけ……」

「お前、あいつに挑んで勝てる気するか?」

「…………無理だな」


実は彼らは、下心満載でメリッサやシルヴィアに声を掛けようとした連中だったのだが、後ろにいる撫子の屈強さに怯んでいたのだった。



「すみませーん、依頼完了の報告に来たんですけどー」

「はい、護衛依頼の完了ですね。承りました、少々お待ちください」


メリッサが受付のにこやかな犬耳の女性に用紙を渡すと、サインの上からほのかに光るスタンプのような物が押された。

魔力を流し込んで押す事で、パトリック本人のサインかどうかが分かるアイテムらしい。

滞りなく確認も終わり、メリッサ達が報酬を受け取ったところで、撫子は受付の女性に声をかけた。


「ねーえ、ちょっといいかしら?」

「えっ?あ、はい!な、何でしょう?」


屈強な男や威圧感のある者は見慣れている受付でも、撫子の話し方は予想外だったらしく、面食らいながらも何とか返事をした。

撫子は肩に乗ったコゴメを抱きかかえ、受付に見せる。


「あのね、この子の怪我を治してあげたいのよ。そういうのが出来る人って、どこにいるか分かるかしら」

「ペットの怪我ですか?それでしたら、ギルドの入口横にある治療スペースで大丈夫だと思いますよ」


治療スペースには、治癒魔法の腕を磨きたい冒険者や日銭を稼ぎたい魔法使いなどがおり、治療費を支払えば治してもらえるのだそうだ。

幸い税を支払った時にパトリックが礼だと幾らか銀貨を渡してくれていたので、有難く頂戴していた。


「あらそうなの?あ~ん良かったぁ!あ、それとね、アタシこの子をテイムしちゃったみたいんだけど、田舎から出てきたからそういうのに詳しくないのよぉ。良かったら詳しく教えてもらえないかしら?」

「えっ……えっ?テイム……ですか?テイム契約?」


その言葉に、先程の比ではなく面食らいながら、受付は目を瞬かせて聞き返す。

撫子がそうよと頷くと「し、しばらくお待ち下さい」と慌ただしく引っ込んでしまった。

受付の窓口から見える1番大きな奥の扉に入ると、暫くしてまた慌ただしく戻ってきた。


「お待たせ致しました。お手数をおかけ致しますが、ギルドマスターが面会を希望しております。もしお時間がございましたら、お願いできないでしょうか?」


にこやかな表情はどこへやら、受付は非常に真剣な面持ちでそう言った。

ギルドマスターと言うくらいだ、恐らくこのギルドの責任者なのだろう事は撫子にも想像がついた。

責任者に呼びつけられるような何かをしでかしてしまったのだろうか。


「あなた方は、こちらの方と一緒にこの街へ?」

「へっ?は、はい、そうですけど……」

「でしたら、ご一緒頂けないでしょうか」


後ろから心配そうに覗き込んでいたメリッサ達も同行を求められた。

撫子だけならいざしらず、ギルドに登録している張本人が呼ばれたとあれば無視する訳にもいかないだろう。


「んもう、何なのかしら。いいわ、連れて行ってちょうだい。この子の怪我を治してあげたいから、できるだけ早く済ませてね」


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