008
振り回される巨大な剣によってできた幾つもの剣線を、少年は最小の動作で容易く交わす。
「ちくしょー!! なんで、当たんねーんだよ!!!!」
そして、最小の動作で敵の急所を貫き、相手を地に伏させていた。
その技量は剣聖の名に相応しいだろう。
「勝者、セイ。全て貴様の勝利だ。よくやった」
「そうですか」
剣技の優劣を競うはずの打ち合いも無表情な彼にとっては単純作業の一環に過ぎないようで、少年はその場から早々に立ち去ろうとする。
だが、彼は肩を掴まれてたために、その行動は阻害されてしまう。
「おい貴様、剣技が優れているからといって射撃の鍛錬を怠るというのか」
「魔力量がない僕が射撃の腕前を上げた所で、どれだけのメリットを得られるんですか?」
「そうか。妹を見殺しにした貴様らしいな、勝手にしろ」
「では、そうさせて貰います」
僕は武練場を後にして、射撃形態での運用訓練をサボって筋力増強を目的に作られたであろうトレーニングルームで自身の体を苛め抜くことにした。
例え、それが気休めにしかならないとしても。
僕らを待っていたのは絶望だけだった。
脅威に立ち向かうことを放棄した弱者と一部の生き残り以外は、原形を留めていない無残な死体の塊で埋め尽くされていた。
ーーなんで、僕は生きているのだろう。
望みはいつだって腐敗した社会に呑み込まれ、死ぬべき人間がのうのうと平和を享受し、何の罪もなく夢を叶えるべき存在が平気で死んでいく。
いつだって気まぐれな七日間で作られた欠陥だらけの世界は、どこに行っても同じなのかもしれない。
そう納得した僕ではあったが監視者が同行の元だけど、一時的に自宅に帰る権利を有することができた。
監視の目を盗んで、何人かは自殺したらしい。
無理もない。僕だって、そう思って帰ったのだから。
だけど、ついさっきまで幸せを享受していたテーブルに一つの手紙が置かれていることに気づいた。
僕に充てられた物だと思い、封を切る。
その手紙を読んだからこそ運命に抗おうと思ったのたが、今はその話をさせて貰えないようだ。
「ねぇ、ボクに剣術を教えてよ!」
「なぁ……。ここがどこだか分かってて言ってるのか?」
「だって君、いっつも逃げちゃうじゃんか。ここなら逃げられっこないと思って。それとも、見られて恥ずかしいモノでもあるの?」
笑顔で尋ねる金髪蒼眼ボクっ子娘の名前はセシアと言うらしい。
らしいに語弊はなく、僕と彼女には絶対的に優劣が存在し、この場にも決定的な差異がある。
たくさんの情報が入り乱れているので、一つずつ整理をさせて欲しい。
「あるに決まってんだろ?! シャワー浴びてる最中に入り込んで来る奴がどこにいるんだよ、この痴女が!」
「痴女って何? まさか……特別な技だったりするの? ねぇってば」
「ったく、馴れ馴れしいんだよ。女子でエリートな君が、僕なんかに教わることなんて無いと思うんですが」
化器の併用において、近接形態と射撃形態を目的に作られており、これらを状況によって変化させ、様々な状況化に適応できるように作られているらしい。
だが、神徒には魔力量が限られているために近接形態での行動が大半であり、射撃形態を使われることもなく、結界を用いたガードにも限界があると講義で受けた。
そのため、魔力量で圧倒的に優位である魔導士は射撃形態による小隊での掃討が、現状最も優れた戦術であり、また現実的で安全な戦法とも言えると教師は語っていた。
必修科目を学んだ僕は、初めて化器を触る機会を得た。
鉛の塊ような重量があるはずなのに、自然と軽く手に馴染む感覚があった。
FPSや狩ゲーでは銃火器を好んで運用していた自分にとって、銃撃戦ができるなんてワクワクしていた部分もあったのだがーー。
セイーー魔力量10% 最下位。
魔力量で魔導士としての価値が決まるという中で、僕は過去最低記録をあっさりと塗り替えてしまった。
担当検査師によると、一般人の方がまだ優れた魔力量を有しているらしい。
コアに魔力を蓄積できる量で魔力を補わなくてならず、結界によるガードは三回が限界とも告げられた。
クラス別けにおいて魔力量が最低ランクのクラスに入ることになり、縛りナイファーとして戦うことを余儀なくされた。
「ボクの魔力量はたしかに高いけど無限って訳じゃ無いのは君も分かるよね? 魔力が切れたら撤退するのが義務付けられてはいるけど、それじゃあダメなんだ!! ボクは誰かを見捨てるなんてことしたくないから……」
「そんな顔するなよ。僕だって誰かに教えて貰った訳じゃないけど、アドバイスさせてもらうよ」
僕は彼女を握ろうとするが悲鳴で塁上された会心の一撃によって、いとも容易く拒絶された。