004
僕らは街を歩く。
道行く大人達は、皆暗い表情をしてーー同じ服装を着ていた。
僕と妹と同じ服だ。
住居としては、ごちゃごちゃしたバラック小屋が何件も横に繋がっていて、同じ服装に同じ下着がどこの家でも干されている。
日常の光景のようにーー大きな車からは小綺麗で、僕らとは違う服装を身に付けた男が食べ物ような物を住民に配っていた。
露店などが一つもないのも納得できる。
それと券のような物で貰える量に個人差があるが、きっと働いた量によるのだろう。
端的にいうとーーこの世界は慢性的な食料不足なのだろう。
そうして僕は最初の壁を抜けるまでに、この場所を少しずつ認識し初めていた。
ーーこの世界は、ここで完結している。
壁によって生活区域が仕切られ、それによって受けられる待遇や地位が違うのだろう。
区別したいのか差別したいのか。
まるでーー違う生物を扱うかのように壁を一つ抜けただけで生活水準が大幅に変化していた。
時代や歴史を加速させたように、この檻の中心には巨大な塔がそびえ立っている。
それ以外の全てを見下すかのように。
「あのデッカいタワーはさながら魔王の城って所か。
どの世界でも、そういうのは変わらないんだな」
呼吸をするように、僕は呟く。
きっと、あの巨大な塔にいるラズボスを討伐するのが転生された僕の責務なのだろう。
けれど、妹から「魔王って何?」と訊かれてしまうことまでは考慮していなかった。
僕が君のお兄ちゃんに転生した別世界の人物で、魔王っていうのはRPGっていうゲームのジャンルの一つで。
王様から渡される「50G」、「たびびとのふく」、「こんぼう」×2、そして「ひのきのぼう」
それらから、財政難の現状をまざまざと突き付けられるなどーーーー。
いろいろと考えさせられるソフトがあったことを妹に語ることもできずに、慌てて思いついた嘘をつく。
「魔王っていうのは、その人が安全で安心して過ごせるようにっていう、おまじないみたいなものなんだよ」
僕の心は罪悪感という名の紅に染まって、儚く散った。
こんなに可愛い妹に嘘をつくなんて、勇者からしたら魔王と同罪なのだろう。
なのに、妹はーーーー。
「そうなんだね。ならーーーー」
妹は俺の前を走って、あざとく振り返って僕に明るく笑いかける。
「ならお兄ちゃん、ずっとずっと魔王でいてね!」
道端でキュン死にしそうになるのを必死に堪えて、僕は妹と共に血魂式の目的地に着く。
僕らはこの会場に入ってから、壮絶で残酷な現実を突き付けられるも知らずに。