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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
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七最天 アメリア・エクシス

 身体には穴を開けられて、骨も数本折られていたらしい。それでも俺が動けていたのは、きっと気合のお陰である。


 保健医、アイザック先生によると、この状態で動けたのは奇跡だそうだ。

 奇跡だろうと何であろうと関係ない。

 生き残れたのだからそれでよい。


 現在、俺は謎の教室に座らされている。対面に座るのは、俺を殺そうとした張本人、アレイスト・アチカーであった。

 アレイスト・アチカー。どう聴いても、女の名前には聞こえない。


「どうせお前、特別授業まだ決めてないんだろ? 俺にしとけよ。いいことしかないぜ」

「まあ、まったくわからないんで、正直どこでもいいとは思ってますけど」


 俺が返答を送ると、そこにこの教室にいるもう一人が声を挟んでくる。


「まあ、貴方はその見た目で敬語らしき音を発せますのね。驚愕に値しますわ」


 アメリア・エクシスである。

 ここで一つ、彼女について描写するのも悪くない。そうでもして気を紛らわさないと、怒りを抑えられそうにない。


 黄金の髪は、前をパツリと切り揃えている。長い髪は後ろの方を僅かに結び、ポニーテイルにしていた。一級品の絹糸を思わせる髪は、滑らかに風になびいていた。

 薄いエメラルド色の瞳は、壮大な湖のように澄んでいて深く、宝石とは比べものにならぬほどの色合いを見せていた。


 身長は意外に低いが、彼女の纏う荘厳な雰囲気がそれを感じさせない。それに加え、彼女の無表情が、彼女の美しさに神秘性を付与していた。

 胸のサイズは大き過ぎず、小さ過ぎず。だが、しっかりと膨らみを確認できるサイズだ。

 服を押し上げる胸の主張は、いじらしくて愛らしい。


 まとめると、美少女であった。


 そんな美少女であるアメリア・エクシスが、どうしてここにいるのだろうか。

 考えればわかる。彼女もこのクラスに所属しているのだ。


「ようし! じゃあ、決まりだなあ。お前は今日から俺の弟子だ!? 理解したかあ」

「ま、それでいいです」

「話が早くて結構だ。では、アメリア・エクシス。新入りに教えてやれ、ここのルールをなあ! 俺は帰るぜ」


 自身の言葉すら言い終えずに、アレイスト先生は教室を走り去ってしまった。

 残されるのは、俺とアメリアのみである。沈黙が教室を掌握した。


「で、よ。アメリア。ここのルールって、何だよ?」

「あら、いましたの?」

「さっき話しただろうが。ボケてんのか?」

「わたくしにボケとは、貴方言いますわね。お名前は何といいますの?」

「同じクラスで、隣の席に座っている。折崎哀人だ」

「では、オリザキさん。ここのルールですが、ありません。以上ですわ」


 アメリアが本を読み始めた。

 ルールがない授業とは何なのだ。嘘をつかれたのか? 俺に教えたくないから。

 そうでもなさそうなのだが。


「おい、アメリア。他の奴らはどこなんだ? まさか、俺とおまえだけじゃねぇだろ?」

「黙ることもできませんの、このダメ男は」

「あはは、そろそろキレんぞ」

「どうぞ、お好きに。わたくし、愚か者は嫌いなんですの」


 確かに、俺は頭はよくない。しかし、ほぼ初対面の人間に、ここまで言われる筋合いはない。


「さっきから何だよ、お前」

「貴方、あの害虫に無抵抗で頬を打たれていましたわよね。弱虫ですの?」

「害虫? 誰のことだよ」

「居たでしょう。クラスメイトを焼死させようとした阿呆が」

「ああ、あのイケメン野郎のことか」

「イケメン? 貴方、同性愛者なんですの? どうせならグレイムさんにしておいた方が宜しいのではなくて。ええ、そうするべきよ。そうなると、貴方が」


 アメリアの声音が急に明るくなったかと思うと、口を噤んだ。

 何か、やらかした。というような顔だ。

 訝しんで、俺が口を開くと言葉を発する前に、


「お黙りなさい」

「は?」

「お黙りなさい。そして、忘れなさいな」

「いや、何の話だよ」

「そうよ、それでいいのですわ。悔しいですが、臆病者の貴方にもここのルールを教えなくてはならないようね」


 わからん。しかし、アメリアはようやくルールとやらを教えてくれる気になったらしい。

 それはよかった。


「先程述べたように、ここにはルールはありません。寝て過ごそうと遊ぼうと、それは生徒の勝手ですの」

「マジかよ。そんなんありかよ」

「マジですわ。ですが、このクラスのメンバーはそんなことしませんわ。それぞれが自身にあった訓練をしていますの」

「ほう。ところで、お前は何の訓練をしているんだ?」

「何もしていませんわ」


 早速、自分で前言撤回した。そんなことする奴、いないんじゃあなかったのかよ。


「まだ勝手がわかっていない貴方のために、お手伝いをして差し上げましょう」

「何を手伝ってくれんだ?」

「ええ。魔獣退治を少々、嗜む程度に」

「魔獣だと?」

「こちらですわ」


 連れて行かれたのは、学校の外であった。裏門らしき場所から学外に出ると、何とそこは森であった。


「森なんてあったか?」

「花畑ならば、貴方のお頭の中に何時でもありますわよ」

「どういう意味だよ」

「褒め言葉ですわよ? 能天気で羨ましいわ」

「そーですか」

「ええ。この数に囲まれていて、その無警戒さ。実に結構ですわ。流石に、貴方も最天に入る器ということかしら?」


 囲まれている? 何に? 不思議に思って、周囲を見渡してみる。

 そこにいたのは、小さな犬だった。


「わたくし達は学校から依頼を受けて、魔獣を駆除することもありますわ。実戦の予行だとでも思いなさいな」

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