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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
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午後の特別授業

 三時間目も、俺は無事に意味が分からないままだった。魔素の意味もわからない。というよりも、どうして俺はこんなに魔素の意味を知りたいんだ。エロイ単語じゃあなさそうなのに、不思議である。

 三時間目が終わると、当然のようではあるが四時間目が訪れる。そして、四時間目は数学であった。この学校、魔法だけではないらしい。そのことに、俺はほっとした。

 妹に、今日は何を勉強したのと尋ねられた時、魔法とは答えられないからな。頭がおかしくなったと思われてしまう。いや、リーゼントにしたことがある時点で、頭がどうかしていたのかもしれない。二重の意味でな。

 虚しいな。


「わかんねえ」


 誰にも聞こえないように、小さく言ってみる。俺は一カ月も遅れているのだ。いくら最初の方とはいえ、基礎が理解できていないとわからない。頭がよい方ではないからな。しかも、教科書もないしな。


 そういえば、先程新たな問題が発生したのだ。そう――教科書が違ったのだ。三時間目までは魔法とか言う謎の勉強で、俺が教科書を持っていないのは当然だった。だが、今はどうだろうか。数学だ。

 だが、俺はこの数学の教科書を知らないのだ。

 必死で隣のアメリアの教科書の表紙を盗み見たが、何だよそれ。俺の知っている教科書じゃないぞ。


 俺の困惑を一切介さずに、時計の針は進んでいく。容赦なく、チャイムは四時間目の終了を告げた。


 四時間目の終了。

 それはとある一つの可能性を示唆していた。そう、昼食の時間である。

 けれども哀しいかな、俺は入学式気分で学校に来ていたので、お弁当の用意をしてきていない。

 買うのも面倒だし、昼は諦めようか。


「アイトくん、お昼一緒に食べない?」


 昼を諦めたのと時を同じくして、眼鏡が寄ってきた。手には可愛らしいお弁当箱。

 何でお前は偶に可愛さを出そうとするんだよ。困惑してるぞ、俺?


「悪い、今日は食べないんだ。他の奴と食ってくれ」

「食べないの? 身体に悪いよ。もしかして、持ってきてない? 入学式のつもりだったらしいし」

「ああ、その通りだ」

「なら、ぼくのを分けてあげるよ。彼女が作り過ぎちゃってさ」

「か、彼女!? おい、お前眼鏡、嘘だろ」

「眼鏡は嘘だけどね。でも、彼女は嘘じゃないよ」


 眼鏡には想像を裏切られてばかりである。モテるだろう片鱗は感じていたが、まさかすでに彼女持ちとはな。


「というか、アイトくん。アメリアさんのあだ名呼びは駄目なのに、ぼくのことは眼鏡と呼ぶんだね」


 ジトーっとした目で、眼鏡が睨んでくる。確かにそうかもしれない。が、今更名前で呼ぶのも恥ずかしいというか。


 それに理由はもう一つある。


「それに、顔無し姫は悪口で、眼鏡は事実だろうが」

「判断基準がよくわからないよ。まあ、実はぼくも言うほど気にしてはいないんだけどね」


 眼鏡は優しくはにかんだ。これか。これがモテる奴の力か。この笑顔で、一体何人の心を射止めてきたのか。恐ろしい奴だぜ。


「てかよ、彼女さんからのだったら尚更貰えねぇよ。お前は友達とかと食ってこい」

「でもなぁ、このクラスでぼくと食事してくれる人、いないんだよね」

「え? 何でだよ」

「うーん、ぼくの性格がメイガスくんには気にくわないらしくてね」


 人の好みに文句を言うつもりはないが、あのイケメン野郎とは仲良くなれそうにないな。


「そういえば、聞いてよアイトくん。実はねぇ」


 言葉と共に、眼鏡は弁当を机に置いて食べ始めた。ちなみに、眼鏡の話は彼女との惚気話がメインだった。

 聞いてるだけで腹がいっぱいである。

 眼鏡はクラスに馴染めない俺を心配してくれているのだ。本当よい奴である。


 昼休みが終わると、当然ながら午後の授業が始まるべきである。

 しかし、やはりこの学校は一筋縄ではいかなかった。

 授業を受けるべく、教室に待機していた俺だが、何故か教室に誰もいないのだ。


 新手の虐めであろうか。

 少しだけ悲しんでいると、教室のドアが勢いよく開かれた。

 すると、そこには息を切らした眼鏡が立っていた。俺を見つけると、やっぱりと言った顔になる。


「やっぱりここにいた。来てよかったよ。あのね、アイトくん。この学校は午後からは特別授業だよ」

「特別授業?」

「そう。自分の研究内容にあった先生を探して、師事するんだ。わかったね? じゃあ、ぼくは授業があるから、またね!」


 多分、遅刻なのだろう。眼鏡は慌てた様子で走り去った。すまん、眼鏡。


 後で礼を言わねばなるまい。今日だけで何度あいつの世話になったことか。


「しかし、特別授業かぁ。多分、魔法を勉強するんだろうけどよ。俺、何にもわかってねぇんだよな」


 とりあえず、俺は校内を散策することにした。この学校に来るのは、これが初めてなのだ。

 せめて、主だった施設くらい見ておこう。そう考えたのだ。


 しばらく散策して、俺は大きな後悔の念を抱き始める。もう何分歩いたのだろうか。


 正直に白状すると、俺は迷っていた。この学校、広いなんてもんじゃない。日本の土地って、こんなに残っていたのか。


 学校で、この歳で、迷子。これは恥ずかしい。リーゼントには及ばないけれども、結構な恥ずかしさである。


 きっと疲れているのだ。だから、こんなことになる。今日一日だけで、俺は何度困惑したことか。

 常識をひっくり返されたのだ。こうなっても仕方あるまい。


 少しだけ休もう。

 俺は近くにあったベンチに腰掛ける。ふぅと深く息を吐いた。


「魔法か。嘘みたいだな」


 現実逃避気味に空を眺めると、普段通りに青かった。空はいつも通りなのにな。

 俺の日常は、もう木っ端微塵であった。


「まあそこまで悪くはなかったがな」


 今日一日は、意外と悪くはなかった。結構馴染んでいる自身に、俺は呆れた。

 ついつい苦笑いを浮かべた。


 すると、俺の苦笑いを咎めるかのように、掻き消すかのように、地響きが聞こえた。


 何があった?

 音は背後から聞こえる。背後にあるのはなんだ? そこにあるのは壁だ。

 この学校は、砦のような壁で覆われているのだ。いったい何に備えているのかは不明だが。魔法があるのなら、ドラゴンが攻めてきていても驚かない。


 砦のような壁ごしでは、向こうは見えない。どうせ関係ないし、いいか。


 そう首の向きを戻そうとした時、待ったがかかった。


 壁に巨大な凹みが生まれた。それは瞬時にひびへと姿を変えた。


 轟音。

 砦と見間違うような壁が、ただの一撃で破砕したのだ。


 砕け散る破片の中には、人影が見えた。地上から十メートルは離れている上空を鳥のように滑空している。

 破片が俺の顔に降り注ぐが、気になるような量ではなかった。

 俺は突然現れた物体に、目が離せなくなる。


「ようやく、よおおおやああく! 見つけたぞ、アイト・オリザキッ!」


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