最強の魔道具
『で、俺はどうすりゃいいんだ?』
『まずは私の話を聞いてください』
俺は心の中で、魔杖クロウリーに話しかけていた。普通の会話とは違い、考えたことがすぐさま相手に伝わり、相手の思考が脳に刷り込まれる。
刹那の間に、俺らは会話ができた。
『魔道具とは、魔素により変貌した道具を指します。そして、その魔道具が更に変貌することにより、特殊なスキルを持つことがあります。私はそのスキルを持っている』
『スキルってどんなのがあるんだ?』
『切れ味を増すなどの簡単なものから、持ち主の速度を上げるなんてものまでありますね』
『お前のスキルは、現状を変えられるような力なんだな?』
『当然ですね』
『で、どんな力だ?』
俺の問いに、クロウリーは僅かに言い淀む。いや、正確には何を言っているんだ。というようなニュアンスだろうか。
『もう使っていますよ?』
『は? どんなのだよ』
『私の力は会話』
会話、とはなんだ? 話せる、ということか? 確かにクロウリーは話すが、それだけなのか?
『それだけかよ!?』
『それが何か?』
『何が最強の魔道具だよ! 口だけか』
『まあ、そうですね。私は喋るだけの魔道具です』
それで一体どうなるというのだ。これならば、走って近づいて魔石を使ったほうがマシだ。
『それは悪手ですよ。かなり接近せねば、魔法は撃ち落とされます。そして、近づけば今の主様では、骨に殺されます』
『じゃあ、どうしろって言うんだよ』
『見せましょう。私の意味を』
高速思考が終了する。手には変わらずクロウリーが握られていた。重くて持ち上がらない、喋るだけの武器である。
「さて、『魔杖クロウリーが定めよう。風は全てを薙ぎ払う。不浄も無情に踏み付けて、我らを飛ばす力となれ』」
これはーー詠唱か。
『我を見上げよ。堕落の空』
クロウリーの魔法が発動した。魔杖が唱えた魔法の力は、空に浮かぶ魔法であった。
「アメリア様のように『不快な微風』では飛べませんので」
上空に来たことにより、『重圧の枷』から解放される。強風に煽られながら、俺たちは会話をする。
「魔法を使える魔道具なのか!」
「ストックを貯めるだけの他とは一線を画します」
なるほど。最強と言われるだけはある。単純に計算して、魔法使いが一人増えたようなものなのだ。
「また、私は魔力干渉を受けません。何しろ、私は魔力を持っていませんので」
「じゃあ、どうして魔法が使えるんだ?」
「空気中の魔素と他の魔法使いの魔力を取り込んでいます。これは魔道具の特性ですね」
魔素によって変貌するのが魔道具。ならば、魔力を身体に蓄えられるのも必定。
相手が魔力を使わなければならないというのがネックだが、それを含めてもかなり有用な魔道具だといえる。
そして、俺は空を飛んだことによって、クロウリーの策に気がつく。
「そうか。真上から狙えば、撃ち落とされても関係ねぇのか!」
『重圧の枷』はお義父さんへと骨を打とうしていて、お義父さんの方は何やら決意した様子で呟いた。
『百花繚乱!』
「その切り札、待った! 魔石解放」
指の間に挟んだ四つの魔石が砕け散る。それは雷となり、音となり、爆発となって『重圧の枷』に降り注ぐ。
「上だと!」
そうだ。『重圧の枷』は上空からの攻撃に弱い。防御の方法すらもないだろう。
そして、ルベルト先輩の魔石は、回避できるような甘い代物ではない。
「あああああ!」
『重圧の枷』は全身の骨で壁を作るが、それさえも砕く。百余りあった骨が、全て粉砕される。
使い魔の身体の核は、おそらく魔法なのだ。だからこそ、骨を武器にできたのだろう。『重圧の枷』の肉体が滅び、核が現れた。
それはどす黒い、小さな球であった。
「クロウリー、あれを壊すぞ!」
「了解しました」
どす黒い球となっても、まだ魔法は健在のようだ。むしろ、力が増している。ここまで力が及んでいるのだから。
だが、無駄だ。
『魔杖クロウリーが定めよう。我が魂は強くあれ。重くあれ。その一撃、全てを破砕する重圧となれ。ただ破砕せよ』
「魔杖クロウリー、ストック消費!」
球は命の危機を悟り、更に魔法を強くする。それも無駄だ。むしろ、こちらの思う壺である。
『重ねろ。重圧の枷』
「壊れろ!」
クロウリーの魔法、アメリアによるストック、『重圧の枷』による攻撃、そして俺の全体重と腕力の乗った一撃。
お義父さんは全力を持ってして、後退した。『重圧の枷』を蔦で絡めてからである。
もう逃がさない。壊させない。
魔杖を持った俺の拳が、『重圧の枷』を貫く。
「終わりだ。『重圧の枷』」
ぱりん、と。ガラスが砕けるような音が響いた。それから薄っすらと、言葉が紡がれる。
「ああ、やっと『重圧の枷』から解放された。長かった。俺はなんて馬鹿だったんだ。ああ、ああ。……ありがとう」
『重圧の枷』は最後の最後で、ようやく元の人間を解放したのだろう。人間の懺悔と感謝の篭った声を聞き届ける。
「彼女も助けてあげて欲しい」




