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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
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会長の魔道具

 空鎖メルバ。会長はそう言った。言うのならば、空鎖鎌くうくさりがまとなるのではないのか? 語呂が悪いが。


 鎖が分銅に引っ張られて、勢いよく飛んでいく。分銅が勢いを失い、鎖が伸びきった時に、会長は再度告げる。


「空鎖メルバ、ストック消費!」


 呼応するようにして、分銅から炎の球が落とされる。

 続けて、踏み込みながら鎌を振るう。


空鎌くうれんメルバ、ストック消費」


 鎌の部分に水で生成された刃が纏う。それで鎌を一太刀。明らかに強化されている。


「いける」


 会長は何かを確信したのだろう。そんなことを呟いた。


 今、こいつは同時に魔道具を使ったのか。そんなことが可能なのだろうか。

 連続使用ではなく、二個同時。


「驚きのようですわね、オリザキさん。ですが、あれは当然ですわ」

「当然? 誰だって、同時にストックを消費できるのか?」

「いいえ、あれは鎖鎌だけの特性ですわね。鎌と鎖で別れた魔道具として使えるのですわ」


 魔道具は原則、一人につき一つ。鎖鎌はその常識を擬似的に破れるということか。

 鎖鎌を見直した。


 まあ、俺ではああも上手くはいかないだろう。分銅を射出するのだって、俺には難しい。


「いける。これならいける」

「おう、会長。よい魔道具に当ったな」

「当った? 違うわーー違いますわよ。これは運命。私とお姉様の運命、ですわ」

「そうか。良かったな」

「良かったな? 良くない! アイト・オリザキ。私はお前に決闘を申し込む!」


 彼女はポケットから手袋を取り出すと、俺に向けて投げつけてきた。決闘の合図らしい。馬鹿らしい。


「嫌だよ。急にどうした?」

「私はずっとお姉様を慕っていた。それなのに、お前は急に現れて、お姉様を奪った」

「言い掛かりだな」

「ええ。私はメイガスに従って、お姉様を傷付けてきた。花壇を壊すときも手伝った」

「だったらーー」

「でも、諦められない! お前がいなければ、私はもっと……」


 彼女は言葉を詰まらせる。そりゃあ、そうだ。

 彼女は何一つ正しいことなど言っていないのだから。アメリアが大事なら、彼女に対して酷いことをするべきではなかった。


「決闘よ! 私が勝ったら、お姉様の隣は私の場所。お前が勝ったら、好きにすればいい」

「受けねぇよ」

「卑怯者! それでも七最天?」

「お前が望んでいるモンは譲ってやることなんかできねぇよ」

「卑怯者! 卑怯者!」


 会長は自分で理解している。本当の卑怯者は誰なのか。最愛の人を見捨てた自分をわかっている。

 それでも、諦められないのだ。嫉妬ーーそれは誰でも持つ感情。


「それでも、お前の話には乗れない」

「あー、丁度いいんじゃねぇか?」


 口を挟んできたのは、担任の教師であった。


「魔道具の実戦的使い方も教えたかった。本当はお前とアメリアにやって貰うつもりだったが」

「嫌です」


 俺は断固拒否する。こんなくだらないこと、付き合いたくない。


「やってはどうかしら? オリザキさんは仮にも七最天。負けはないでしょう。わたくしを賭けた勝負に、あっさりと勝てますわよね」

「お前な」


 アメリアも口を挟んでくる。意味がわからない。


「てか、アメリア。お前、ちょっとウキウキしてねぇか? そんなに闘いを見るのが好きなのか?」

「していませんわ」


 あれか? 自分を賭けた闘いとかに憧れてるのか? 可能性はある。


 本当は嫌だ。だが、これだけの人数に言われては、やるしかないのかもしれない。一応は授業の内容ではあるのだし。


「わかった。アメリア、お前が込めた魔法、人が死ぬレベルじゃねぇよな?」

「ええ。辛うじて魔法をそらせる程度ですわ」

「はぁ。仕方がねぇ。やろう」


 前に出てから、魔杖を構える。髑髏を会長へと向けつつ、俺は溜息を吐いた。


「実戦の練習にはなるからな」

「殺してやる」


 それが掛け声であった。会長の分銅が俺目掛けて飛んでくる。


 俺は魔杖で受けた。そして、俺は鎖鎌の恐ろしさを知る。

 頭部へと金属が炸裂した。昏倒しそうになるのを意地で堪えて、敵を見やる。


 笑っていた。


「鎖鎌を知らないようね。幾ら七最天とはいえ、これなら!」


 再度、鎖が延ばされる。

 俺は知った。鎖を杖で受けたとしても、鎖には意味がない。杖に絡まり、そのまま狙い違わず攻撃を当ててくる。


 ならば、かわす。鎖を避ける為に、右側へと駆ける。鎖はかわしたが、


「ストック消費」


 すかさず、追撃の魔法が撃ち込まれた。早い。走っても間に合わない。

 前までの俺なら、攻撃を受けるしかなかった。だが、今は違う。


「魔杖クロウリー、ストック消費!」


 魔弾をアメリアの炎が焼き尽くす。想像以上の威力に汗を掻きつつ、俺は前に踏み込む。


 近づかねば、俺は戦えない。だったらどうするか。前へーー征く。

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