とある教師の教育論
本日は怒涛の十二話連続掲載となっております。一時間、二時間間を空けたのち、順次投稿していきますので、よろしくお願い致します。
対峙するのは、七最天同士である。
七最天の一人、神罰アメリア・エクシス。破壊力では誰にも引けを取らない少女である。
対するは、七最天の一人、創世ルベルト・フラシュタイン。魔石による攻撃速度と攻撃力は特筆すべき点である。それ以外は未知数であった。
そんな彼女たちが相対する場所は、何時もの森の中である。ここでならば、何かを壊す心配がない。
アメリアは何時ものように、平然と涼しい顔をしているが、俺は顔面蒼白であった。何故ならば、
「あのルベルト先輩。それ、本気か?」
「それとはなんだ?」
「その装備」
ルベルト先輩は全身に宝石やアクセサリーを身につけていた。彼が僅かに動くだけで、ジャラジャラと金銀財宝が蠢いた。
「アメリアと戦闘するのだ。これくらいは当然であろうよ」
「それ、使わずに戦うなんてことはーー」
「ふん。朕はこれを使わねばただの魔法使いぞ? 瞬殺されてしまう」
「戯言はもう止めにしませんか? わたくしは早く帰りたいのです」
アメリアの言葉によって、場が戦闘状態へと移行した。彼女は無言で、崩鎌ビクトリアを取り出し、構えた。
その構えに隙は一切見当たらない。
対するルベルト先輩は、何も持たない。幾ら魔石が強かろうと、それだけではアメリアには勝てないだろう。
所詮、彼は裏方でしかないのだからーーという評価は即座に覆された。
ルベルト先輩の姿が消える。姿はすぐに現れる。アメリアの背後に。
彼女の後頭部へと掌をかざし、呟く。
「魔石解放」
指輪が砕け散り、それを贄として魔法が放たれた。
アメリアもただ頭を吹き飛ばされはしない。即座に崩鎌を振り上げ、強引に距離を作り出す。それによって、魔法は空を撃つだけとなる。
アメリアは器用に身体を操り、背後のルベルト先輩へと鎌を振るう。その動作に、一切の躊躇も迷いもない。
「王筆ペケル、ストック消費」
ルベルト先輩の魔道具が炸裂した。アメリアはそれを鎌で受け、前へと跳ぶ。
振り返り、
「崩鎌ビクトリア、ストック消費」
魔弾を放った。
「遅いぞ?」
それを王筆と魔石による魔法で叩き落す。
衝撃が周囲の木々を薙ぎ倒す。
実力は互角であった。
「久しぶりに良い運動であるな。朕は満足じゃ」
「そう。では、さっさと降参してもよろしいのではなくて?」
「それはつまらぬ」
「ビクトリア、ストック消費」
返答代わりに、火球が放たれた。それをルベルト先輩は敢えて避けずに、王筆を振るった。
「相変わらず、そのネックレスは卑怯ですわね」
言葉と共に、アメリアは横へと跳躍する。魔法使いが偶に見せる驚異的身体能力を遺憾なく発揮し、一歩で数十メートルを行く。
「ふん、ちょこまかと動きおって。では」
ルベルト先輩が王筆を構え、更にもう片手一杯に宝石を握り締める。
『創世ルベルト・フラシュタインが定めよう。生命の水、凝固せよ。我が元へと集まりたまへ。それはやがてーー』
魔法の詠唱。だが、それの目的は攻撃に非ず。
俊敏に飛び回っていたアメリアが、不意に動きを停止させた。
……魔力干渉!
敵の動きを止めるためだけに、詠唱しているのだ。
『王筆ペケル、ストック消費。更に、魔石解放』
詠唱状態のまま、数多の弾幕が巡らされた。それは一斉に、アメリアへと向けて放たれた。
『虚無状態へ移行』
アメリアが不意に脱力、その刹那の後に走り出す。その速さはお世辞にも、速いとは言えない。
だが、爆撃をかわすには十分過ぎた。
「はあ」
アメリアが深呼吸をする。直後に脚が止まるが、それは一瞬のこと。地面を強烈に踏み込む。すると、地面に亀裂が走った。
『なるほど、一瞬だけ魔素を取り込み、即座に魔力解放したか』
アメリアとルベルト先輩の間合いが合う。鎌が土を割く。ルベルト先輩は一歩でかわし、王筆で突く動きをした。
筆の先には、小さな火の玉が宿っている。アメリアは筆を鎌で弾いて、ストックを消費した。
「なんて桁違いの闘いなんだ」
彼女たちが動くたびに、森が、大地が、空気が、破壊されていく。俺はそれを遠くで眺めているしかなかった。
いつの間にか、二人の距離は開いていた。単純な魔法戦ならば、ルベルト先輩の方が有利だ。
それをアメリアも承知しているのだろう。次の動きを開始した。
正面を向いたままのバックステップ。それは異常な飛距離を誇る。空を舞う。
「逃げられるとは思わぬことだな!」
魔石が大量に崩壊する。魔法が大量に空を漂った。
『行け!』
『神罰アメリア・エクシスが定めよう。その火は産まれ、そして強くあれ』
詠唱状態だと動けない。けれども、後ろへと跳んでいる動きは止まらない。擬似的にだが、アメリアは移動しながら詠唱していた。
『燃やせ。赤の木漏れ日』
迫り来る魔法の群を一つの魔法で相殺した。
「ほう。そろそろ朕も本気を出そうか? お主もそうせよ、アメリア」
「流星を使いますの?」
「うむ」
ルベルト先輩の全身から、宝石類が砕け散る。代わりに、彼は全身に魔法を纏った。
『流星通し』
音が遅れた。
ルベルト先輩が駆ける。その速さは稲妻のよう。彼が駆けた道には、巨大な亀裂と閃光が迸った。
それはまるで流星が通った後のようである。
何もかもが灰燼に帰す中で、たった一人、アメリア・エクシスだけが立っていた。
「今のを避けるか」
「当然ですわ」
俺が二人との差を噛みしめていると、誰かが俺の隣に立つ。
「よおおおお! 久しぶりだなあ! アイト・オリザキィ! それにしても、随分と楽しそうなことしてんなああ!?」
「うるせえ!」
この耳の貞操を脅かされる感覚、アレイスト先生だろう。
「そうだよ! 人は実戦の中で成長する。それが俺のポリシーだよ。楽しそうだなあ。俺も混ぜろ!それが俺の教育論だあ!」
どんな猛獣よりも獰猛に、アレイスト・アチカーは飛び掛かった。




