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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
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創世

 宝石を前にすると、女というものは変わる。俺の母もそうだし、妹もそうであった。また、この前に見たドラマの女も、態度が豹変していたのは記憶に新しい。


 しかし、アメリアである。彼女はまるでその辺の石ころでも扱うかのように、宝石を一掴みした。

 それから、言葉を発する。


「魔石解放」


 言葉と同時、宝石がけ飛ぶ。俺が声なき悲鳴を上げたときには、宝石の力が発動されていた。


 巨大な雷が、ルベルト先輩目掛けて駆けていた。鼓膜が破けるような轟音が鳴り響く。

 俺は唖然とした。あんなものが人に命中したら、丸焦げでは済まない。


「中々の出来であろう」

「そうですわね」


 だというのに、七最天は動じない。雷が命中した筈のルベルト先輩でさえ、調子を崩していない。


「驚いているようだな、アイトよ。言うたであろう? 朕は創世。属性は帝、魔力特性は制御である」

「フラシュタインさんは魔法を物に込めることが可能なのです。通常、そんなことをすれば物は壊れる筈なのですけれど」

「最天を侮るな、アメリア。朕の繊細な魔力制御によってのみ可能なのだ」

「そうですわね。わたくしも込めることはできますが、魔法の威力はなくなりますもの」


 魔法を使い、物に魔法を込める。魔法を扱える物を創り出す。故に、創世。


「これはまた魔道具とは違うのでな。誰でも扱うことができる。持っていて、損はない。いざという時、売れば金になるからな」


 絶対、そういう使い方ではない気がする。

 だが、この魔石。非常によい自衛手段となるだろう。あの威力の魔法をノータイムで繰り出せるのだ。

 魔道具も同じ様に魔法をストックできるが、あれは若干威力が落ちるらしい。


 宝石が砕け散るのが玉に瑕である。有り得ないくらいの欠点であった。


 しかし、流石と言うしかないだろう。アメリア曰く、七最天一の裏方。その名に恥じない力である。

 言葉にした方がいいのだろうか。


「これを本当に下さるんですか?」

「よい。全て持っていけ」

「いや、庶民には無理です。念の為に少しだけで十分です」


 思わず敬語になっていた。


「確かにな。朕は王族であるからな。お主とは価値観が合わぬこともあるのだろう」

「王族?」

「ん? 知らぬか。朕はこの国の王子である」


 王子? 玉子じゃなくてか。そっちの方がまだ納得できる。


「この国って言ったが、日本に王はいないぞ」

「日本? ふ、そんな小さな国のことなど知らんな」


 自分も日本の学校に通っていて、小さな国とは言ってくれる。けれども、この先輩ならそれ位は言うだろう。

 もしかすると、本当に何処かの国の王なのかもしれない。王でなければ、この数の宝石をぽんとは出せないだろう。


「いや、流石は七最天一の裏方と言われているだけはあるな」

「おい、お主。今。なんと言った?」

「流石は七最天一の裏方、と」

「前半は認めるのに吝かではない。が、後半の言葉。とても容認できぬな!」


 怒声と共に、ルベルト先輩が数多の宝石を取り出した。矛先は、全てこちらを向いている。


「お主も七最天ならば、これ位は防げるだろう? 憂さを払わせて貰うぞ!」

「無理だよ! てか、アメリア。どういうことだよ? お前がルベルト先輩を七最天一の裏方ってーー」

「ほう。お主だったか。アメリア・エクシス! 余計なことを」


 怒髪天を突く勢いで、ルベルト先輩は矛先をアメリアに向き変えた。

 圧倒的力を前にしても、アメリアは無表情である。動揺は見られない。


「オリザキさん。フラシュタインさんに、裏方だとかそういう言葉は禁句ですわよ」

「お前が言ったんじゃないか!」

「わたくし、思ったことしか口にしませんの」

「またか! 口撃を常にしないと、お前は死ぬのか!?」

「そういうきらいはありますわね」


 俺とアメリアが言い争っていると、前方でルベルト先輩が笑い始めた。自称王にしてはえらく自嘲気味な笑いだ。


「七最天の決まりは覚えているな?」

「ええ。喧嘩したら力で解決、でしたわね」

「誰だ、そんな馬鹿なルール作った奴は」

「アレイスト先生ですわ」

「うっわ、言いそうだな、おい!」


 俺が呆れる間も無く、ルベルト先輩がアメリアへと宣戦布告した。


「表に出よ、アメリア」


 その言葉はとても王族とは思えなかった。

 七最天同士の喧嘩が始まる。

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