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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
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七最天 ゾロア・アークロア

 現れた男は、すでにボロボロであった。いや、正確にはボロボロの衣服を身に纏っていた。


 一切、自身の容姿に頓着していないのだ。

 彼は薄いピンクの混じった頭髪を億劫そうに掻き、宙よりこちらを見下していた。


 ぶつぶつと詠唱を続けている。


 彼は魔道具であろう杖を掲げながら、アイザックやひつぎを見やる。


『氷塊する焦土』


 呟きと現象は同時であった。

 ゾロア先輩の呟き一つで、アイザックの腕が凍て付いた。その隙を逃さず、空間掌握の魔法使いが逃げ出した。


「ゾロア先輩! ありがとうございます」

「……勘違いするな。『世界の言霊()』の研究の邪魔になるから来ただけだ」


 彼は研究の邪魔をされて、露骨に不機嫌そうであった。まったく、自身の不機嫌さを隠していない。

 永遠にも匹敵する寿命を手に入れたというのに、彼は相変わらず生き急いでいた。


「でも、嬉しいです」


 俺は素直に感謝の言葉を返す。

 ゾロア先輩は俺に対して、呆れたような目を送ってくる。


「『世界の言霊()』は契約に従ったまでだ。あ、今のは詠唱にできたな。む」


 はぁ、という溜息と共に、ゾロア先輩が魔道具を掲げた。詠唱を省略して、魔法が放たれる。


『罰する鉄塊の矢群』


 ゾロア先輩の周囲に大量の矢群が生じる。

 その魔法は俺が初めて目にした魔法であり、またアイザックが俺に対して使ってきた魔法であった。


「行け」


 ゾロア先輩が杖の矛先をアイザックへと向ける。その号令に従って、鉄塊がアイザックへと大挙した。

 その全てがアイザックの肉体を捉え、強引に引き千切っていく。


 そして、アイザックは一度瀕死に陥るが、即座に回復していた。


『赤の木洩れ陽』


 次々と魔法が発動した。それらは手早くアイザックの肉体をギタギタにしていく。

 幾ら敵が死なないとはいえ、ヒヤヒヤしする。


「なるほどな。理解した。『天医(アイザック)』、授業をしようか」


 ゾロア先輩は何かがわかったのか、冷静な声音でアイザックへと告げる。


「『世界の言霊()』は最初の方からこの戦闘を見ていた。研究になるからな」

「あはは。百年も研究していない赤子が、何を言っているのだか」

「そして、理解した。『天医(お前)』の再生では、病は治せないな?」


 アイザックの表情が強張る。

 ゾロア先輩の授業は続く。


「腐敗も再生では治せない。再生の能力はなくなったものを戻すだけだ」


 病は発症するまでは体内に存在しない。

 腐敗という現象も、なくなるのではなく、腐るという現象が発生するのだ。


「二千年生きたという。病気は魔法で回復してきたのか?」


 それとも、病気にならないよう、一日ごとに身体を元に、健康な肉体へと戻し続けていたのか。


「つまり、だ。『悪毒の宴』」

「ストック消費!」


 この世の汚れを一点に集めたような、異様な色の霧が現れる。アイザックは慌てた様子で、それをストックにより産んだ『不快な微風』で吹き返してきた。


「小癪な」


 おそらくは毒の霧。ゾロア先輩はそれを真正面から受けているというのに、影響を受けている様子はない。

 流石は魔王の生命力といった所だろう。


「『異形(アイト・オリザキ)』。もうじき、『創生(ルベルト)』も戦線に復帰する。この調子で攻め切るぞ」


 言葉の意味は伝わってきた。

 あれを使うのだろう。


 俺は懐を確認して、あれができるかどうかを確認した。


「そういえば、ゾロアくん。きみの目的は魔法の研究だったね? それも、専門はキーワードの発見だ」

「ああ」


 ゾロア先輩がアイザックの話に容易く乗る。彼の目的からしてみれば、二千年の時を研究に費やしたアイザックの言葉は気になるのだろう。


「魔法の本当を教えてあげるよ」

「耳を貸すな、ゾロア先輩!」


 話を遮る為に、俺はストックを放つ。そのストックはゾロア先輩によって防がれた。


「面白い。続けろ」


 ゾロア先輩はこんなときでも、自分の研究優先であった。


「こちらに味方するというのならば、教えてあげるよ」

「良いだろう」


 そして、容易くまたこちらを裏切った。


「だが、情報が先だ。全てを殺し尽くした後、やはり嘘でしたでは割に合わない」

「まあ、いいか。教えてあげるよ。詠唱の核たるキーワード。あれはね、言葉が魔獣化したものなんだよ」


 アイザックが軽い調子で、驚愕の事実を述べた。へらへらと笑いながら、彼は続ける。


「だから詠唱には日本語しか使われない訳だね。日本語が魔獣化しているのだからさ。カタカナもない訳だよ」


 言われてみれば、詠唱にはカタカナが使われているところを見たことがない。


「魔獣化している。だから、その言葉を使った時の願望がキーワードには反映される」


 言うなれば、


「キーワードは人間が作ったようなものさ。つまり、作ろうと思えば、好きなように、好きなだけキーワードは作れるということさ」

「……」

「そう、探す意味なんてないんだよ。無駄な時間を使ったね? 研究の意味なんてないのに」

「戯言だな」

「何?」

「好きなように作れる? だったら、とうの昔に蘇生魔法は生まれていただろう」


 見事な反論をゾロア先輩が返す。


「確かに、納得はできる。言葉が魔獣化していた。その発想はなかった。だが、そこにはまだまだ未知がある。ならば、それを見つけるのが『魔王()』の仕事だ」

「まあ、いいさ。教えてあげたんだから、こちらを手伝ってくれよ?」

「嫌だ。『天医(お前)』の言葉が一体何の役に立った?」


 今度はアイザックを裏切っていた。


「ふーん。変わったね。昔のきみなら、一度決定したことはやり通しただろうに。折崎くんの影響かな?」

「知らん」


 ゾロア先輩が魔法によって爆風を生み出した。アイザックがそれに飲まれる。


 その壮絶な光景を目にしていると、トンっと肩が叩かれた。


「朕たちも加勢しよう」


 そして、今。

 七最天がここに揃った。

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