表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
18/197

変化

 イケメン野郎をぶっ飛ばしてから、数日が経った。俺の学校生活には、特に変わりがない。何時ものように欠伸を堪えながら教室に向かうと、グリムと出会う。


「おはよう、アイトくん」

「ああ、おはよ」


 二人並んで歩いていると、遠くの方でアメリアを見つけた。

 彼女は普段通り、無表情で歩いている。しかし、その周囲には、数人の女子がいる。

 まるで侍らせているようであった。


「アメリアさんにも友達ができてよかったよね。どうしたの、アイトくん。そんなにじっと見て。もしかして、嫉妬?」

「はあ!?」

「『きーっ! アメリアは俺だけのもんなのにぃ!』って? 男の嫉妬は見苦しいよ」

「ちげえよ!」


 グリムの真似が少し似ていたのがムカつく。俺は絶対そんなこと言わねえがな。


「あいつらさ、妙に近くねえか?」

「確かにね。女子の距離感はわからないね。どうかな、戯れにぼくともやってみる?」


 グリムが上目遣いで見てくる。……殴ろうか? かわいそうだから止めてやる。


 アメリアに群がる女子たちは、全員がキャッキャと楽しそうにアメリアの髪に触れたりしている。中には抱きつこうとして、ビンタを受けている子もいた。


 アメリアは綺麗だ。男女問わず、思わず見てしまうレベルの美少女だ。

 美しく艶やかな金髪が風になびくだけで、不良であり硬派な俺ですら、思わず見惚れてしまうほどである。


 ベタだが、彼女の見た目だけでファンクラブができるほどだ。俺は会員ナンバー八十三だ。この前昇進して、副代表に就任した。

 いや、やましい気持ちはないのだ。入会するとアメリアのブロマイドが貰えるから。

 あ? これ盗撮なんじゃねぇか? よし、代表を後でぶっ飛ばす。


 とにかく、彼女は女子の嫉妬を集めやすい。それなのに、今では不自然なほど大人気だ。


 アメリアが動きを停止したのと同時に、集団も動きを停止させる。王かよ!


「お姉様! どうしましたの?」

「煩わしいですわ。少し口を縫っておいてくださいませ」

「直ちに! おい、糸持ってこいおら! アメリアお姉様が縫合プレイをご所望じゃあ!」


 成る程、理解した。集団と近づいたことで、会話が聞こえてきた。

 確かにな。彼女は女子の嫉妬を集めやすい。けれども、そういう嗜好の人間にとっては堪らないのだろう。


 アメリアが意外と近づきやすいと気が付いて、なおかつイケメン野郎の天下も終了して、彼女たちの箍が外れたのだろう。


 喜ばしい……のだろうか。


 気まずいので、俺とグリムは無言で集団の隣を行く。すると、アメリアから待ったがかかった。


「オリザキさん、今日の特別授業は外で行いますわ。準備しておくように」

「ああ、わかった」


 伝えたいことはもうないだろう。俺は歩き出す。すると、アメリアから待ったがかかった。


「その、御機嫌よう」

「あ? 何だよ、その挨拶。御機嫌よう」

「ふふ、真似しないで欲しいですわ。わたくし、貴方のように豚のような顔をしておりませんので、似ませんわよ」

「俺も豚には似てねえよ! それにな、俺の顔は良い方だ。なぁ、グリム」

「……メイガスくんに似てきたね」


 それは顔がよいという意味だよな?


「じゃあ、俺らは行くわ。また教室でな」

「今日は良い天気ですわね!」

「声を荒らげるなんて珍しいな。よい天気だな」

「……」

「何もねえのかよ!」


 俺らは歩き出す。すると、また声がかけられた。


「火曜日ですわね」

「そうだな」

「……」

「何か用か?」


 アメリアは無言を貫く。何だよ、こいつ。


「熱でもあんのか? 顔が赤いぞ。保健室行けよ」

「……」

「本当にどうしたんだよ?」


 俺がアメリアを心配していると、針と糸を持ったさっきの女が近寄ってきた。


「あんた、そんなこともわからないの!? アメリアお姉様はね。この前からあんたのことがーー」

「ストック消費」


 女が空を舞った。


「勘違いなさらぬように。わたくしはまだ貴方に惚れていませんわ。好意は抱いていますが」

「そんなに自惚れてねえよ」

「わたくしはまだ貴方に話しかけられて、少し助けて貰っただけですもの。まだ惚れていませんわ」

「必死だな」


 アメリアは思ったことしか口にしない。だから本当にそうなのだろう。俺も惚れられているなんて考えたこともない。

 それに助けてなどいない。俺はイラついたからイケメン野郎を殴っただけなのだ。


 会話が無事終了したようなので、歩き始める。それに対して、アメリアも付いてくる。アメリアの女たちも付いてくる。

 何だこれ。


 同じ教室に向かうのだから、一緒になるのは問題ないが。ちょっと人数が多すぎて、恥ずかしい。


「おい、グリム。俺、トイレに寄って行くわ」

「ぼ、ぼくも行くよ!」

「なら、わたくしは待っていますわね」


 行けよ!

 何、しれっと加わってんだよ。いや、別に構わないんだ。でもな、そのたくさんの友達を野に返してこい! 話はそれからだ。


 俺とグリムは大変肩身の狭い思いをしながら、苦労して教室に辿り着いた。


 授業が始まる。

 グリムの教科書とアメリアに教わった知識によって、どうにかついては行ける。今は数学の時間だ。

 俺は恥ずかしながら、魔法だけではなく数学までアメリアに教わっているのだ。

 ちなみに、グリムには教わっていない。あいつ、俺よりは頭いいけれど、学力でいうと中の上レベルなのだ。

 どうやら彼は彼女と勉強を教えあっているという。羨ましいぜ。


 アメリアから聞いたのだが、七最天はあらゆるテストを免除されるらしい。だから最悪勉強しなくともよい。だが、それでは学校に来た意味がない。


 四つの授業が終わると、昼食の時間となる。俺は一人弁当を食べようとした。

 グリムは彼女と食べてくるようだ。


「よいかしら」

「あ? アメリアか。どうした?」

「一緒にお食事などどうでしょう」


 アメリアの背後には、大量の女子。正直、かなり嫌だ。だが、断るのも申し訳ない。


「ああ、いいだろう」

「では、行きましょうか」

「はい?」


 アメリアに連れてこられたのは、七最天の教室であった。他の女子も、流石にここには付いて来なかった。


 アメリアとの食事は大変息苦しかった。喋らないのだ、アメリアは。

 黙々と食事を取る。俺の隣で。肩がぶつかる距離で。


 アメリアは俺より早く食べ終わると、ジーっと顔を覗いてくる。怖い。


「アメリア、今日は何をするんだ?」

「まずは脱いでもらうわ。服を」


 妹の手作り弁当が美味い。こう、温かみがあって優しい気持ちになれる。


「その後、わたくしのモノに包まれてーー」

「アメリア、静かに。食事中だぞ」

「貴方から話しかけてきましたのよ?」


 食べ終わったので、俺は逃げる準備をする。服を脱ぐのは嫌だ。


 席を立った瞬間、俺の動きは封じられた。服の袖を掴まれたのだ。かつて、俺はグリムに同様のことをされて、女子にして欲しいと言っていた。だが、今なら言える。

 これならグリムの方がよかった。



「なるほどな。こういうことか」

「何を考えていましたの? 穢らわしい」


 俺はアメリアの家に連れて行かれて、そしてーー制服に着替えていた。

 ずっと学ランの俺の為に、アメリアが男用の制服を用意してくれたのだ。貰えないといったら、男用なので貰ってくれないと困ると返された。

 仕方がなく貰う。


「サイズぴったりだな。動きやすい」

「それはよかったわ。わたくしが着るととても大きかったので、少しだけ不安でしたの」

「へぇー」

「では、このまま実戦に入りましょう」


 俺は自身の顔が引き攣るのを自覚した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ