増軍
余りにも、理不尽な台詞である。
アイザックは今までアレイスト先生やフレドリクス先生を利用してきた。
己の願いを叶える為だけに。
自分の作り出したストーリーの為に、彼らを犠牲にしてきたのだ。挙句、娘だけがいればそれで良いという台詞だ。
何て、理不尽な言葉なのだろうか。
強者を嫌い、全ての強さを殺し尽くすと宣言したアイザック。
俺は単純に、純粋に、ムカついた。
「ふざけてんのか、てめえは!」
「ふざけてなんかいないさ。僕はいつだって真面目だよ」
「どうしても、仲間を殺さなくちゃならなかったのかよ! そんなことしなくても良かったじゃねえか」
「良くないよ。失敗はできなかった。だからこそ、きみを連れてきたのだしね」
うふふ、とアイザックは銃を構える。二丁の拳銃が、俺へと向く。
魔人になる前ならば、恐怖で足が竦んだかもしれない。だが、今は違う。
足を踏み込み、クロウリーを構える。
「僕はこれでも研究者でね。研究の成果は誰かに話しておきたいんだ。だとすれば、参考にしたきみの肉体にこそ話すべきだと思うんだけれど」
「黙っとけ!」
怒りに身を任せ、それでも冷静に心を宥めて。俺は拳とクロウリーを力尽くで振るう。
それは届くときもあれば、届かないこともある。
アイザックは俺の攻撃に対応しながら、余裕の表情で自らの研究成果を語る。
二丁の拳銃を器用に操り切り、俺の攻撃を防ぎ、また攻撃を加えてくる。
硝煙の匂いが、鼻につく。
「人間は主に魔素に対して耐性がある。けれども、その耐性が高過ぎる人間がいてね」
銃弾が頬に命中して、頬の肉を噛み切っていく。それはすぐに治癒する。
「非魔法使い、なんて言われる人だね。でも、もっと凄い耐性を持つ人間もいる。無魔法使いとでも定義しようか」
「無魔法使い?」
それは明らかに、俺ではないか。
非魔法使いは多少の魔力を持つ。だが、俺はそれすらも持たなかった。
「そう、きみのことだよ。そして、同時にミアのことでもある」
「ひつぎが……」
「ミアをその名で呼ぶな!」
魔力解放によって、俺の腹に風穴が生み出される。拳銃を鈍器として、俺の腹へと抉りこんだのだ。
よろめき、後ろに倒れる。
「ふう。怒らせないでよ? で、話を続けるけれどもね。ミアも無魔法使いだったんだ」
「……」
「だから、どうして良いかわからなかった。魔素を与えると、どうなってしまうのかがわからなかったんだ」
だからこそ、彼女の肉体を棺の中に閉じ込めた。腐らないように、魔素を浴びてしまわないように。
「僕はサンプルが欲しかったんだ。無魔法使いのサンプルがね。でもいなかったんだ」
彼は語る。
これまでの人生の大半を無為に過ごしてきた、と。
「対象の魔力を探る固有魔法を持った子がいてね。その子を拘束して、只管に世界中の人の魔力を観察させた。何億、と人の魔力を見てきた」
「それでもいなかった、と?」
「うん。いいや、偶にはいたんだけどね。もう一つの条件ーークロウリーに適合する、がいなかったんだ」
クロウリーに適合する? それに一体何の意味があると言うのだろうか。
「無魔法使いは魔素の干渉を受けない。外部からはね。内部からなら別さ」
思い浮かべるのは、クロウリーを使った魔力解放である。あれを使うとき、俺の周囲には濃い魔素が溢れていた。
「あまり過剰に魔素を与えると、無魔法使いは死んでしまうんだよね。だからこそのクロウリーさ」
アイザックの話を聞きながら、俺はアイザックの倒し方を探していた。いや、一つだけ思い浮かんでいた。
魔素のない場所にアイザックを連れて行き、そこで倒す。
だが、そう簡単にはできないだろう。
相手は最天クラスなのだから。
「ミアのように、時間をかけて魔素に慣らすことはできないからね。僕の再生が万能ならば無理矢理にでも実験できたけど」
アイザックの言葉にヒントを探す。今の万能ではない、という言葉もヒントになるかもしれない。
「ということで、きみの存在が魔人の存在を証明してくれた! だからこそ、今のミアは魔人として生き返ったのさ!」
さて、とアイザックが話を締めくくる。
「本当はまだまだ話したいことがあるんだよ。でもね、どうやらきみは本気で僕を倒すつもりのようだ。それはいけない。だから、僕の方も本気で行くよ。まあ、魔人はそう簡単には殺せなさそうだけど」
「ちっ」
ここに来て、俺はようやくアイザックから殺意を受け取った。
震える程の殺意。
本物の強者。アイザックが最も嫌うものにしか出せない殺意を満ちさせる。
「ごめんね、折崎くん。きみはもう不要だ」
不敵に笑うアイザックの背後に、ひつぎが降り立った。




