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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
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懐かしい

 担任の先生ーーフレドリクス・ジャガーロードは固有魔法と思われる結界の中、睨み付けるという言葉すらも稚拙に思える程の目付きで、アイザックを観察していた。


 無論、その程度でアイザックは怯まない。寧ろ、嬉々とした様子で口を開く。


「やはり、きみは凄いね、フレドリクス」


 アイザックはフレドリクス先生を賞賛し始めた。片手の拳銃は手放さない。


「ミアが攻撃をしているのに、死者がいなかった。おかしいとは思ったけれども、きみの力か。相変わらず、良い判断力と反射神経だ」


 きみのお陰で、かつての最天は何度救われたことか。と、アイザックは皮肉げに笑った。


「きみの所為で計画が中々進まなかったよ。きみ、影の功労者なんじゃない?」

「黙れ、アイザック。殺されたいのか」

「殺せないよ、僕は。何故ならば、不死だから。その点、きみはどうなんだろうね、無敵くん」


 アイザックの言葉に舌打ちを漏らしてから、フレドリクス先生はゆっくりと歩いてきた。


『城塞フレドリクス・ジャガーロードが定めよう。逆巻け風よ。荒々しい暴力の渦と成るが良い』

「だから無駄だって」


 アイザックは容赦なく、かつての仲間に銃を振り翳す。何度も引かれた銃は、無情に銃弾を放った。


 フレドリクス先生の魔法がその全てを打ち払う。


「ほら。ほら!」


 フレドリクス先生の眼前に貼られた障壁が、見る見る砕けていく。それでも、フレドリクス先生はこちらへと着実に、銃弾の嵐を真っ向から受けながら、近付いてくる。


『吹き荒れろ。風牙の門』


 疾風による暴力が行使された。

 風とは到底思えない程の質量を伴った、圧倒的な押し潰し。それがアイザックへと命中した。


 アイザックの足は容易く破壊される。

 破壊と同時に、再生されてしまう。


「だから、無駄だって」


 呆れたのか、興味を失ったのか。アイザックは無言の銃撃を開始する。

 銃弾は尽きない。


 おそらく、再生の能力で、銃弾があった状態に戻しているのだ。


「僕は今、折崎くんと話しているんだけど」

「だったら、俺ともやろうぜ」


魔力をぶち込む(マギ・インパクト)』を背後からぶち込んだ。それによって、アイザックの身体が弾ける。


 それもまた無意味。


「虚しいなあ。きみたちはすぐに強さを振り翳す。僕は強い者が嫌いだ」


 アイザックが新たな拳銃を懐から取り出した。それを構えることなく、まったくの無防備な体勢で、魔力解放を使用してフレドリクス先生に接近した。


「強者は皆殺す」


 フレドリクス先生の壁へと拳銃がぶつけられる。弾を発射するのではなく、拳銃そのものを鈍器として扱っている。

 魔力解放を併用した殴打には、確かな力が存在している。壁が一つ、砕かれる。


「きみはその防御能力こそ素晴らしいが!」


 舞うように。

 二丁の拳銃が踊り出す。その全てが壁を打ち付け、破壊していく。

 時に引き金を引き、銃弾が放たれる。


 あれはガンカタという戦闘方法である。映画などでしか見たことがないが。


「ちっ!」


 苦悶の表情と共に、フレドリクス先生が魔法を発動する。それはアイザックを貫くが、意味はない。


「クロウリー!」


 俺はクロウリーに精神攻撃系の魔法をオーダーして駆け出した。フレドリクス先生を援護するのだ。

 それに、流石のアイザックといえども、精神攻撃にまで耐性があるとは思えない。


 近付き、クロウリーを振るう。その動きは片手の拳銃によって止められた。


「何だと!?」


 あり得ない力であった。魔人の俺が振った杖を受け止めるとは。


「再生があるからね。脳のリミッターなんて容赦なく外せるよ。魔力解放も使えば!」


 杖を防いでいた方の銃が手首の動きだけで向きを変えた。銃口がこちらを向く。


 銃弾が俺の頬を切り裂いた。

 血液が飛ぶ。


「それにさ。きみはオルクス程度を経験豊富だなんて評価したけれども、僕の方が豊富だよ」


 更に、銃身が俺の手首を器用に捉える。そして、片手で投げ飛ばされた。


 視界が宙を捉える。魔人の強化された五感で、どうにか平衡感覚を取り戻し、地面に着地する。


 強い。

 あまりにも強過ぎる。


 使い魔や魔王のように、規格外ではない。だが、強い。圧倒する強さはなくとも、無双する強さを保持している。


 俺が改めて視線をアイザックに送ったとき、既にフレドリクス先生の壁は残り一枚となっていた。


「楽しみだね、フレドリクス! きみの奥の手が」


 銃弾が最後の壁をぶち破る。砕けた破片を見ながら、フレドリクス先生はニヤリと笑った。


「ああ! 見せてやるよ」


 フレドリクス先生の周囲に、今まで砕かれてきた壁の破片が集まり出す。それはまるで雪のようであった。


 シンシンと降り積もる結界片の中、フレドリクス先生の腕が振り上げられる。


「報復絶倒」


 白い結界片が全て爆発した。その威力はともすれば、アメリアにも匹敵するだろう。

 俺の肉体が、爆風に僅かに押し負ける。


 残された破壊の中、そこには何も残っていなかった。


「この技を使うのも久し振りだな。なぁ、覚えているか、アイザック」


 寂しそうに、破壊痕を眺めてフレドリクス先生が告げる。


「アーサーの馬鹿が変な技名付けやがってよ。お前とアレイストは馬鹿みたいに笑って。俺はあまりにダサくて困って……さ」

「うん。覚えているよ。アーサーのネーミングは天才的だったね」

「嘘だと言ってくれ、アイザック。あの楽しかった時は本物だっただろう? なあ、頼むよ。魔王をけしかけたのがお前? 嘘だと、言え!」


 ふふふ、とアイザックがまた笑う。

 今日は何度、その声を聞いただろうか。


「楽しかったよ。でも、本当だ」

「お前えええええ!」


 フレドリクス先生が初めて冷静さを失い、魔力解放も使わずに駆け抜けていく。拳を振り上げ、アイザックへと向かう。


「楽しかったよ。じゃあね、フレドリクス」


 銃弾が放たれた。

 けれども、丁度その時クロウリーの精神攻撃魔法が発動して、微かに逸れる。


 銃弾はフレドリクス先生に見事命中したが、即死ではなかった。


「なあ、アイザック先生。どうしてだよ。どうして仲間まで裏切って、こんなことを」

「言っただろう。僕は強者が嫌いなのだと。怖いのだと。もう、誰も僕とミアを引き剥がさないように、僕が全ての強さを殺していく」


 そうして、彼は告げてくるのだ。あまりにも傲慢な言葉を。


「僕はミアだけいればそれで良い」

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