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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
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復興祭 最終日

 今日は復興祭最終日である。

 予定通りならば、今日、学長が挨拶するという。それが終わり次第、学長が生徒たちから姿を消し次第、俺たちは学長に襲いかかる手筈になっている。


 学長を捕まえ、直接ひつぎの居場所を聞き出すのである。

 その為には何が必要だろうか。


 それは人員である。

 本当は巻き込みたくはない。だけれども、そうしなければひつぎの命に関わってくるのだ。


 そう。

 俺がやるべきことは人を仲間に引き込むことである。昨日の時点でリリネットを仲間に引き入れることには成功していた。


 おそらく、学長を襲えば、一時的にだがルベルト先輩やクロネ先輩、その他数多の教師を敵に回すことだろう。

 そうなれば、手が足りなくなる。


 学長の実力は定かでないが、能力主義の魔法使いを育てる学舎のトップなのだ。

 油断はできない。


 現在の協力者はアメリアと一年、会長とリリネットである。

 ルベルト先輩とクロネ先輩を抑える為に、アメリアとリリネットが出るとして、そうなると残りは一年と会長だけとなる。

 戦力としては申し分ないのだが。


 できればもう少し欲しい。

 という訳で、俺はグリムとメイガスに会いに行っていた。


「協力して欲しいことがある」

「うん、いいよ」


 まだ内容も告げていないというのに、グリムは笑顔で首肯を返してくれた。それに俺は戸惑う。


「よいのか? 内容も聞かずに」

「うん。アイトくんの顔、本気だもん。そんな顔見せられたら、死地へでも行っちゃうよ」

「ありがとう」


 だが、先に説明をせねばなるまい。話を聴いて貰い、やはりダメならそれでもよいのだ。


「今日、俺はーー」

「待ちたまえよ! 無論、この紅蓮メイガス・メイザスも協力するさ」

「話を聞け」

「ちょっ、ぼくへの当たり強過ぎないかい!?」


 被害妄想の強い奴である。

 そういうことばかり考えているから、噛ませ犬っぽいのだ。イケメンの癖に。


「というか、本当に話を聞いてくれ。そんなに簡単に決められても困るんだ」

「簡単じゃないさ。ぼくはこれでもきみを認めている。きみは人が悲しむような頼みごとはしない」

「そ、そうでもないけどな」

「きみが必要だと言うのなら、ぼくは必要なんだろう。だったら、友として、ぼくはきみを手伝うさ」


 こいつ、俺のこと好き過ぎないか。嬉しい反面、恐怖を感じる。

 最初の頃のメイガスは何処に行ってしまったのだろうか。あの傲慢な貴族様はもういなくなってしまったのだろうか。


 こいつも学園生活で変わってきたということなのだろうか。それがよいことなのか、悪いことなのか。判断はできないが。少なくとも俺はメイガスの変化を好ましく思う。


「ありがとう。で、今回の問題なんだがな……」


 と、俺は二人に説明をした。彼らはうんうんと頷きながら、俺の話を聞いてくれる。


「学校に喧嘩を売るってこと?」

「まあ、そうなるな」

「ぼく、あんまり喧嘩得意じゃないんだけど。まあ、いいよ」


 今回の内容を聞いても、グリムは快く承諾してくれた。それはメイガスも同様であった。


「じゃあ、今の所メンバーは七人かい?」


 メイガスの質問に首肯する。

 学園全てを相手取るには、まだまだ足りていない。


 他に、戦力になりそうな人間にも心当たりはない。友人は少しだけいるが、戦えるかと問われれば疑問である。

 自称舎弟などはその筆頭である。弱くはないが、あくまで一般生徒レベル。それも、一年生レベルである。


 まあ、グリムとメイガスがおかしいだけなのだが。


「お前らはいざというときだけ助けてくれ。別に戦わなくても良い」

「うん、わかっているよ。ぼくらじゃあ、そこまでのことはできないからね」


 これで俺のやるべきことはあらかた終わった。本当はゾロア先輩にも手伝って欲しいが、断られるのが目に見えている。

 また、今、ゾロア先輩が学園に敵対すれば、復興祭の意味もなくなる。


 俺としてはひつぎを優先したいが、そうもいかないだろう。


 グリムたちにもう一度礼を言ってから、俺は持ち場に戻った。

 今回も豪華な服を身に纏い、七最天がゾロア先輩以外勢揃いする。横一列に並び、それぞれが武器を持つ。


 副学長が何やら長々と語っているのを、生徒たちが聴いている。

 別に、このつまらない演説を聴くことは義務ではないが、多くの生徒がここに集まっている。


 ここに来ている一般生徒は、大半がアメリアやリリネットなどのファンである。ルベルト先輩のファンもいる。

 そして、もう一つ理由があるとしたら、学長の姿を見に来る為であろう。


 長い副学長の演説が終わる。


「そうして次は学長のお話です。私も見るのは初めてです」


 そう言って、副学長が一歩下がる。

 学長は舞台の袖から靴音を響かせてやってきた。コツコツ、という甲高い音。


 やってきた人物を見て、その場にいた全員が度肝を抜かれた。


「どうして、あんたが……」

「やあ、久し振りだね。生徒たち」


 現れた男は白い服を着ていた。それはーー白衣。


 そう、現れたのは白衣の男。

 行方不明の筈の保健医……アイザック・メリウヌであった。


「僕こそが初代学長であり、現学長のアイザック・メリウヌだよ。知らない人はいないと思うけどね。よろしくお願いするよ」

「何の冗談だ? 初代学長だと?」

「おいおい、アイトくん。口が悪いよ。敬語を忘れている。アイザック先生、だろう?」


 アイザック先生は飄々とした様子を崩さない。ただ朗らかな、安らかな笑みを浮かべているだけである。


「そういえば、アイトくん。ありがとうね。僕の可愛いミアを助けてくれて」

「ミア?」

「ああ、きみはひつぎって呼んでいたね。ミアだがな」


 状況が理解できない。

 今、一体何が起きているというのだろうか。


「さあ、そろそろネタばらしをしようか。モルモット(生徒)たち。この学園が作られた訳を話そう」


 そして、とアイザック先生は言葉を続ける。


「全てを終わりにしよう」

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