友との決着
グリムによって、左腕が焼き尽くされた。その壮絶な痛みを歯を噛みしめて堪え、俺は即座に反撃をする。
右手を伸ばして、グリムの首を掴もうとしたのだ。だが、それは愚策。
グリムの固有魔法によって、『透過』状態にされている俺の右手は、グリムの首を透過した。
俺の手が虚空を掴む。
「行くよ!」
グリムによる魔力解放が炸裂した。俺の腹を全力で蹴り抜く。
俺は咄嗟に魔力解放で地面に足を縫い付けて、吹き飛ぶことを拒絶した。
両手が使えないのならば、頭を使うまでだ。頭突きのモーションに入る。
魔力解放を使った高速の頭突き。それは見事グリムを捉えた。
小さな悲鳴と共に、グリムが後方へと吹き飛ばされる。彼は必死に地面に足を付け、魔力解放で衝撃を緩和していた。
地面を靴で削り取りながら、数十メートル離れた位置でグリムは停止した。
距離を取ったことにより、俺には二つの選択肢が生まれた。一つは逃げること。
もう一つは、このままグリムを倒すこと。
グリムはフランソワさんの為に戦っている。メイガスなどとは戦いの理由が違うのだ。
ここで逃げることは失礼に値する。であれば、戦うのが友達としての礼儀であろう。
「クロウリー。攻撃魔法だ」
「はい」
クロウリーが詠唱を開始した。グリムも同様に詠唱を始める。
もしも、相手が俺以外ならば、グリムの勝ちはほぼ確定していただろう。
グリムは魔法を無効化できる。であれば、遠距離で魔法の打ち合いになれば勝てるのだ。
だが、俺には魔力干渉は通用しない。
距離を一気に喰い千切る。
眼前に現れるグリムの顔。
俺の左腕は既に生え変わっていた。クロウリーを持ち、思いっきり振り被る。
グリムが詠唱を中止して、背後へと魔力解放で飛び退る。そして、彼は懐から大量の紙を取り出した。
それを白書のストックで吹き飛ばした。グリムの周囲に紙の嵐が吹き起こる。
「魔力干渉が効かないって、やっぱりズルいよね。でも、これなら流石に近づけないよね?」
「……これは」
踏み込むことはできない。
グリムの周辺の紙は全て魔道具である。触れれば、容赦なく透過状態にされてしまうだろう。
魔法も無効化され、こちらの物理攻撃も全て防がれてしまう。かといって、向こうが攻撃できないのかといえば、それは否である。
固有魔法の効果を一瞬消すくらいのことはできるだろう。
風魔法で紙を吹き飛ばすことも、こちら側にはできない。透過されるのがオチだ。
逃げるのが正解である。
クロネ先輩などの拠点を作ってしまうタイプとの相手は逃げることが勝利への布石となる。
けれども、俺はグリムから逃げないと決めた。
ならば、ここから現状を打破することを考えねばならない。
『不退グリム・グレイムが定めよう。金色の光が生み出す刃。淡く、輝く閃光よ』
グリムが無数の紙の中央で詠唱を紡ぎ始める。
「クロウリー、岩を頼む」
俺はグリムに応じて、クロウリーに魔法をオーダーした。俺はストックで何度もグリムを牽制するのだが、全てが紙によって透過されてしまう。
厄介な固有魔法である。
グリムの魔法が完成して、黄金の剣が空中を彩った。
『刻み付けよ。星空の剣団』
グリムが腕を振り下ろす。その動きに共鳴して、剣が空を斬り裂いた。それから一直線に、俺へと向かってくる。
俺は剣を避け、時にはクロウリーで撃ち落とす。だが、そうしているうちに、グリムが風で紙をこちらへと送ってきた。
紙が足へと触れる。
足が透過され、地面に埋まる。
剣を凪ぎ払おうとしたクロウリーに紙が擦り、透過状態にされて俺の手から滑り落ちた。
剣が俺を切り裂き始める。
攻撃にも応用できるようになっている。俺をここまで追い詰められるのは、最早最天レベルだけだというのに。
逃げるという対処方法をしていないのもあるが、グリムの実力は最天でも通用するものになっている。
だがーー
「俺も最天だぞ」
クロウリーがないのならば、拳を放つまでだ。迫る剣を拳で撃ち落としていく。襲来する紙片も、どうにか身の動きでかわしていく。
暫くすると、透過の効果が切れる。効果時間があったようだ。
素早く立ち上がり、クロウリーを握った。
クロウリーの岩魔法もようやく発動した。俺の目の前に、巨大な岩が現れた。
そこへと、俺はクロウリーを叩きつける。
『魔力をぶち込む』
岩が一瞬で粉々に砕け散った。その岩の破片が全て、グリムへと大挙する。
数百もの石の大群と化した岩が、グリムに襲いかかったのである。岩の大半は、グリムの固有魔法によって無効化される。
そう、大半は、である。
残った小さな欠片が、グリムの身体を打ち付けていく。彼の小さな悲鳴を耳にしながら、俺は前へと走り出す。
「クロウリー! もう一度だ。そして、ストック消費」
クロウリーが高速で詠唱を開始した。グリムは石つぶてを浴びながらも、どうにか魔法を詠唱し始めた。
今度はクロウリーの方が一歩早い。
岩が空に浮かんだ。
「っく」
グリムが詠唱を中断して、ストックによって紙片を操る。空からの攻撃に備えているのだ。
「惜しかったな」
俺は背後からグリムの首元を打ち付けた。それによって、グリムは意識を手放した。
俺の本命は岩攻撃を囮にした、幻惑のストックである。アレイスト先生の戦闘方法を参考にさせて貰った。
俺はクロウリーの二度目の岩魔法が完成した時、グリムが岩へと注意を向けたのを見逃さなかった。
その隙にストックで俺の偽物を作り出して、後は魔力解放と全力疾走でグリムの後ろに回ったのだ。
「強かったぜ、お前。今度、ルベルト先輩に報告しとくよ」
俺はグリムをその場に残して歩き出した。ここではリリネットときちんと話ができない。
また、襲撃者が現れるだろう。
どこか良い場所はないかと困っていると、今度はクロネ先輩が現れた。
「いたか。いや、わかっていた。貴様の居場所など、わかっていたさ」
走り回って汗だくになったクロネ先輩が、俺へと剣を向ける。
「貴様を倒せば、ルベルトと結婚できると聞いた。すまないが、斬られてくれ。いいな?」
この人、また勘違いしている。
額につぅーっと汗が流れた。




