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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
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謝罪とこれから

 巨大な火球に飲まれそうになった。イケメン野郎はそこまで打たれ強くない。

 ただでさえ、俺に数発殴られて満身創痍だ。このまま魔法が直撃すれば、死ぬかもしれない。

 俺だって、流石にこれを食らえば死ぬかもしれない。それでも、身体は自然に動いた。


 耐えてやる。


 目を閉じて、衝撃と苦痛に備えていると、そこに風が吹いた。


 そう、風だ。

 それは最早、吹くとは表現できないのかもしれない。

 言うなればーー薙ぎ払う。


『不快な微風』


 アメリアの魔法だった。

 グリムが使ったのと同じ魔法だというのに、威力が段違いであった。

 その威力は嵐、台風に匹敵するのではなかろうか。火球ごと、数十のクラスメイトが空を舞う。


 アメリアはきちんと手加減していたのだろう。クラスメイトたちを丁寧に、地面へと落とした。


 クラスメイト全員の目が、アメリアに集まった。


「これはどういうことですの?」

「ア、アメリアさん。アイト・オリザキです! あいつが花壇を荒らして、俺たちはそれを止めようとーー」

「貴方には訊いておりませんの。どういうことかしら、オリザキさん」


 はぁ、と俺は溜息をつく。どうして、今来るのか。後々、イケメン野郎には個人的に謝って貰うつもりだったのだが。


「いや、べつに何でもーー」

「話を聞いてください、アメリアさん! こいつが悪いんです」


 懲りずに、イケメン野郎の舎弟が言葉を遮る。頑張りすぎだろう。俺がどう止めようかとと迷っていると、意外な声が静止を投げかけた。


「止めないか。ぼくの負けだ。このメイガス・メイザスは負けを認める」

「どういう風の吹き回しだよ?」

「うるさい!」


 イケメン野郎は大きく叫ぶと、痛みのせいだろうか。フラリと倒れた。数発殴られた程度で、軟弱な。


「で、何時になったら説明が始まりますの?」

「あー、あれだよ。喧嘩してたんだ」

「何の為に?」

「……花壇見ただろ? こいつらが犯人だ。俺は二度とこんなことしねえように、拳で忠告しただけだ」

「まぁ、野蛮ですこと」


 アメリアがジト目で俺を睨む。俺も睨まれたら睨み返す。不良の職業病だった。


「……わたくしが、泣いていたから、ですの?」

「それもある。あと、普通にキレただけということでもある」

「ふふ、単純な方ですわね。ですが、ここは素直に感謝致しますわ。ありがとう」


 俺がやったことはどんなに取り繕おうと『喧嘩』である。責められることはあっても、褒められてよいことではない。

 だから、俺は無言で首を横に振った。


 俺は不良だ。元不良のつもりが、これでは現役不良ではないか。暴力が良い筈がない。


「さぁ、じゃあ、とっととメインイベントを始めるか。謝れ」


 俺はイケメン野郎の肩を揺すって無理矢理に起こした。


「ほら、早くしろよ」

「わかっている!」


 イケメン野郎は悔しそうな顔で、頭を下げた。


「悪かった。もう……しない」

「わかりましたわ」


 これで、一つ終わった。だから俺は再度言う。


「ほら、早く謝れ」

「もう謝ったじゃないか! 何をすればいいんだ。謝り方なんて、知らないんだよ」

「てめえじゃねぇよ!」


 俺が指名したのは、一人の少女ーーアメリア・エクシスである。


 場が沈黙で溢れかえった。全員が俺に、何言ってるんだこいつ、という目を向けている。


「わたくし、ですの?」

「ああ、お前だよ。アメリア、お前は口が悪い。悪口はいけないことだぞ」

「口が悪いのですか、わたくしは」


 今度はアメリアを除いた全員で彼女に、何言ってるんだこいつ、という目を向けた。


「わかりましたわ。謝罪します。ごめんなさい」

「どうだ、メイガス。許してやれるか?」

「ぼ、ぼく?」


 突然話を振られたイケメン野郎は、きょとんとした顔になる。こいつ、表情の変わりが激しいな。少し面白い。


「まさか、アメリア嬢の方に謝らせるなんてね。いいよ、許す」

「助かる」


 アメリアもきちんと謝って、自体は収拾した。かに思われたが、アメリアは止まらなかった。


「謝罪致しましたが、わたくしが貴方とお付き合いできないのには変わりありませんわよ。貴方は生理的に受け付けませんので」

「おい、アメリア」


 ごん、と音が出るくらいの威力で、彼女の頭を打つ。俺の暴力は、申し訳ないが、男女問わずである。


「ぼ、ぼうりょくはんたい、ですわ」


 無表情に己の頭を抑えながら、こちらを半目で睨んでくる。


「じゃあ、言葉の暴力を止めろ。言い過ぎだ」

「わたくし、思ったことしか口にしませんの」


 はぁ、こんなだからお前は孤立してるんだよ。本人は気にしていないだろうけれどもな。

 ただ、俺としてはこいつに他の奴とも仲良くして貰いたい。

 グリムが気にしているからな。俺はグリムに恩がある。だから、少しでも、借りは返しておきたい。


「悪口はよくねぇんだよ。例えばな、お前は自分が顔無し姫って呼ばれてたとき、どう思った?」

「顔無し姫? 聞いたことありませんわね。意味がわかりませんもの。センスのない言葉ですわ」

「いや、無表情過ぎるお前に付けられたあだ名だよ」

「……最低ですわね」


 俺が言った訳じゃないんだが。というよりも、知らなかったのか。よく教室で耳にしたのだが、こいつの耳には入っていなかったらしい。

 周囲を気にしなさ過ぎである。


「もっと笑ってみろよ。お前は笑えばかわいいんだからよ」

「な」

「ほら」


 俺が近づいて、アメリアの顔に触れる。そのまま、表情を笑いに変える。

 デリカシーがない? そんな言葉、俺の辞書には載ってない。


「やめへくらはいな」

「ほら、かわいい」

「……」


 流石に恥ずかしいのか、アメリアは頬を赤くした。


 アメリア・エクシスは、高嶺の花のような存在だ。だからこそ、こいつには誰も近寄らない。

 誰もがこいつを勘違いしている。口の悪さに隠されてはいるが、こいつはそれ程親しみにくいわけではないのだ。


 俺とこいつのやり取りを見て、少しでもアメリアのことがわかって貰えたらと思う。


 これから、ようやく俺とアメリアの学校生活が始まる。


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