ひも
アメリアと一年に連れられて、俺は復興祭の屋台を回る。
屋台というか、出店というか。俺にはよくわかっていないが、それでも問題なく楽しめるので問題はない。
だが、最初の店。
綿菓子を売っている店に行った時、俺は絶望という言葉を己の魂に刻み込まれてしまった。
「やばい」
薄々は気が付いていたが。
俺は金を持っていない。いや、持っている。沢山、念の為に持ってきた。
けれども、である。
これはあくまで日本のお金であった。
そう、ここでは使えない。何故ならば、ここにはここの金銭が存在しているのだ。
俺は結構長い間、ここに通っていたが知らなかった。金をあまり使わないのが仇となった。
俺はその驚愕の事実を一年から教えられて、一人戦慄していた。
いや、あれ?
昔、俺はここで何かを買った気がするぞ。普通に使えたような……いや、使えないのだろう。
俺は馬鹿だ。
何かと勘違いしているのかもしれない。それは十分ありえることだと思えた。
「す、すまない。俺、金持ってねぇから。そのだな」
「わたくしたちに貢げ、と?」
「ち、違う! 俺のことは気にしないで、何でも買えよって。そう言いたかったんだよ」
「つまり、貢げと?」
「俺はそんなに厚かましくねぇって」
アメリアと貢ぐ貢がないの口論を展開していると、俺の口元に綿菓子が持ってこられた。
「あ、哀人さま。ど。どどうぞ、お召し上がり、ください」
「え、いや。いいって」
「あ、あ、あ! じゃあ」
と言ってから、一年は綿菓子二刀流のうちの一本をアメリアに手渡した。
「あら、ありがとうございます」
一応、理解できていないようだが、アメリアは一年へとお礼を告げた。
一年は頷きを返答として、すぐに俺へと向かい直した。
そして、俺の顔へと綿菓子を押し付けてきた。顔がベトベトになる。
「召し上がってください!」
そうか。
アメリアにも奢ったから、俺も奢られ易くなっている。ということだろうか。
中々気を遣わせてしまったようだ。
だが、一年にしては珍しく、普通にちゃんとしている。
そこまでされたら、俺も応えないといけないだろう。今回は俺の負けだ。
と、綿菓子に齧り付く。
所謂、あーん状態である。恥ずかしくて、俺は一年から綿菓子の主導権を得ようとしたが、彼女は綿菓子を支える棒を離さない。
「ん?」
訝しんで、見る。
するとそこには、俺と同じく綿菓子に喰らい付く一年の姿があった。
彼女は凄い勢いで、綿菓子を食べ進んでくる。
「んん!?」
「はむ。あ、はぁはぁ」
俺はどうしてよいのかわからなくなり、頭がショートして、ただただ呆然と、迫る一年に目を奪われていた。
綿菓子の壁が消え去り、唇が触れ合いそうになった瞬間、アメリアが俺を突き飛ばした。
「不潔ですわね。どうして避けませんの?」
「……頭が混乱した」
俺は一度溜息をついてから、一年に目線をやる。一年は己の身体を抱くようにして、恍惚の感情を全身で味わっているようだ。
恐ろしい変態である。
「急になんだよ、一年!」
「そ、そのこうすれば、哀人さまも綿菓子をた食べられ、ますし。私も、その食べられますし。色々、魅力的で」
半分こという奴か。
確かに、一年目線から見ると素晴らしい提案だったのだろう。
全員が綿菓子を食べられるし。綿菓子ゲームもできて、俺へ貢ぐこともできるのだ。
こいつ、俺をひも男にするつもりだ。堕落させるつもりなのだ。そうはさせない。
「俺はもういいからな。何も渡すなよ。いいな、絶対だぞ」
「フリですの?」
「違う!」
とにかく、俺はもう施しを受けないからな。
「俺はこれしか持ってないからな。だが、構わない。お前らは好きなものを買えばいいさ」
「そうは言われましても……」
「楽しそうなお前らを見ることが、俺の幸せだ」
「いえ、あのアイトさん。それ、使えますわよ」
目が点になった気がする。
俺はそっと物音一つ立てずに、一年の方を見やる。一年は俺から目を全力で逸らしていた。
「使えるそうだぞ」
「……し、しし知りませんでした」
「へえー。そうかー。ちょっと、ここに魔石があんだけどよ、使っても良いか?」
俺が取り出すのは『六最陣』の構築に必要な魔石であった。
これを使えば、使用者同士の心が読める。
「う、嘘を吐きました。ど。どうか! お仕置きしてください!」
錯乱したのだろうか。
一年が己の服に手をかけて、手早く衣服を脱ぎ去った。
一年の肉体が露わになる。
俺は思わず目を奪われるが、周囲の人間はそうでもない。何故ならば、一年がストックを使って光を操作しているからである。
やはり、一年の能力と性格は凶悪である。
俺は目を閉じ、一年の欲望を満たされないようにする。あいつの露出癖を作り出した原因は俺にもあるが、そのようなことは関係なかった。
一年の裸体は俺には刺激が強過ぎる。
「アメリア。どうにかしてくれ……」
瞼越しに、アメリアと一年の戦闘が始まったのが理解できた。
やがて戦音は止み、目を開くと、そこには服を着た一年が立っていた。
アメリアも当然、服を着ている。かなりボロボロだが。
「よし、じゃあ行くか。アメリアはこれでも羽織ってろよ」
そういって、ローブを投げる。アメリアがそれを羽織った。




