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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
162/197

不在

 クロウリーの魔法が完成して、布が大量に現れた。その中から適当な物を選び、俺は一年に投げ付けた。

 彼女は俺からのプレゼントであると、無邪気に喜んでいた。

 馬鹿なことを言っている場合じゃないし、どちらかというとこの布はクロウリーからのプレゼントである。


 俺は思考とは裏腹に、機敏な動きで布を取り、身体を覆う。


 そして、前へ駆ける。


「邪魔、だあ!」


 クロウリーによる薙ぎ払い。

 魔力解放を使用したそれは、魔人の膂力も合わさって、通常の魔法使いでは視認すらできない。


 一打で見張りを一人薙ぎ倒した。クロウリーには軽い攻撃魔法をオーダーする。


 俺が敵を力尽くで制圧していると、クロウリーの『赤の木漏れ日』が起動する。


 効率的に、邪魔者の意識を刈り取っていく。


「一年! 二手に分かれるぞ」

「りょ、了解で、です」


 一年も、既に固有魔法を展開し、警備員たちに矢を射ていた。


 分かれ道。

 俺たちは視線だけで合図を出し合い、躊躇なく別の道へと飛び込んだ。


 俺は右の道を突き進む。


「ひつぎ!」


 もう遠慮する必要はなかった。そのような暇はなかった。

 俺は全身全霊で喉を震わせる。


 ただ大声で、絶叫するようにしてひつぎの名を呼んだ。

 強化された肉体は、その声の大きさまでもを変貌させていた。アレイスト先生並みの音量が、地下施設内に轟く。


 返事はない。

 あれば楽だが、そう簡単にはいかせて貰えないらしい。


 俺の声に呼応して、研究員らしき人物や警備員らしき人物が押し寄せてくる。

 無論、全員が魔法使いだ。


 だが、


「常時虚無か! だとすれば、お前は七最天アイト・オリザキ」


 本来、魔法使いは攻めには秀でていないのだと思う。

 その理由は一つ。


 魔力干渉である。


 一度、他者の詠唱範囲に侵入してしまえば、魔法使いたちはその身を縛られることとなる。


 そうすれば、後は数に蹂躙されるのみである。


 対処法は様々だ。

 一年ならば、魔力干渉の範囲外からの攻撃。もしくは光による詠唱妨害。


 アメリアであれば、複数を前にしても強行突破できる火力がある。


 ルベルト先輩には魔石があるし、クロネ先輩は虚無状態でも戦える。


 リリネットは力尽くで行動できるし、ゾロア先輩にはそもそも魔力干渉が生じない。


 そう、魔力干渉とは魔法使いの一番の弱点なのだ。


 それへの対象方法に、皆苦心している。


 俺とゾロア先輩を除いて、だ。


「くそ! ストックと魔力解放で時間を稼げ。魔法組、早くしろ」


 敵の対処法は正解である。

 けれども、相手が悪かったな。


 飛来する石や火弾を拳やクロウリーで、真っ向から砕いていく。


 弾幕とも言える攻撃に対して、俺は身一つで対抗してく。

 拮抗に苛立ちを感じたのか、警備員の一人が警棒を振りかざした。

 魔力解放を使用した振り下ろしに、俺はただ手を差し出す。


 魔力解放は行わずに、警備員の警棒を掴んだ。

 驚愕に満ちた顔の警備員の横顔へと、そっとクロウリーを当てがった。


「魔杖クロウリー、ストック消費」


 火が発生する。その火は容赦なく、警備員の髪へと引火した。


 絶叫を上げる警備員の腹を蹴り付け、敵側へと返却する。


 警備員が仲間たちを巻き込み、炎の嵐が完成した。施設が絶叫に包まれる。


「いけ」


 クロウリーの魔法が発動して、全員の意識を奪い去った。

 警備員たちに水のストックをかけてから、俺はまた走り出す。

 回復魔法があれば、あの程度は問題にならない。故に、全力で攻め込める。


 俺が担当した部屋は全てで七つ。その何処にも、ひつぎはいなかった。


 慌てて、一年が向かった先に行くと、どうやら彼女の担当範囲にもいなかったようである。


 二択に負けた。


 一年と共に施設から脱出する。実に容易いことであった。


 俺が聴力や視力で索敵し、見つけた端から一年が狙撃する。

 それだけで妨害はなくなった。


 あっという間に外に出て、アメリアと合流した。

 アメリアには監視をして貰っていたので、状況を尋ねる。

 返ってきた報告は、俺の期待するようなものではなかった。


 動きはなかった、というのだ。


 可能性は二つ。

 ひつぎはこの中にいるという可能性。

 ひつぎはそもそもここにいないという可能性。


 だが、悩んでいる時間はない。

 今度はアメリアも交えて、三人で攻め込むことにする。

 まあ、特にアメリアのすることはないのだが、壁が簡単に破壊できる。


 さて、長くなるので結果だけ報告しようか。

 ひつぎはこちらにもいなかった。

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