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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
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喧嘩

「悪いな、眼鏡。俺の喧嘩に付き合わせちまってよ!」


 殴りかかってきた男を蹴り飛ばしながら、俺は眼鏡に言った。眼鏡は、眼鏡を外しながら言う。


「丁度良かったよ」


 眼鏡がイケメン野郎の舎弟相手に、拳を振るう。それはあっさりとかわされて、代わりに顔面へ拳を突き立てられていた。


「お前は大丈夫なのかよ! イケメン野郎の家を敵にして」

「ぼくと彼の家はほぼ同格さ!」


 口元を服で拭いつつ、眼鏡は言った。彼はすでにふらふらだった。

 それも仕方がねぇ。


「彼女さんは大丈夫なのか?」

「彼女の家に手を出せる人間なんて、この国にはいないよ!」


 再度、眼鏡が打撃を打ち込まれていた。だからお返しに、俺はそいつに飛び蹴りを見舞う。


 俺はすでに四人倒していた。こちらは一人しかやられていない。


「何をやっているんだい! 魔法を使え」

「でも、殺してしまう」

「構うものか。ぼくはメイガス・メイザスだぞ!」


 イケメン野郎の掛け声によって、皆が一斉に詠唱を開始した。

 不味い。


「任せて! 『グリム・グレイムが定めよう。無には魔を混ぜ、具現する。呼ぶは微風。風はただ強く吹く』」


 誰よりも早く、眼鏡が魔法を完成させる。彼の周囲の風が、やや強くなった。


『吹け。不快な微風』


 眼鏡の足元の土が、微風によって持ち上げられて、敵へと飛んでいく。

 クラスメイトたちを砂埃が襲った。全員が、僅かに集中力を切らせた。


 詠唱が中断された。

 だから、眼鏡が唱える。


『グリム・グレイムが定めよう。我が魔は周囲に伝播せよ。力は威圧となり、圧力となり、万象を潰す真理とならん。我が前には、例え神とて跪かん。幾重の戦場すら、我が手の内。声は一つ。王命とならん』


 眼鏡の詠唱は、長かった。俺が今までに見てきた魔法の中で、最も遅かった。

 アメリアの教えを思い出す。詠唱が長ければ長いほど、力が増す、と。だが、眼鏡が敵を殺す気で魔法を放つ訳がない。

 それはつまり、もう一つの教え。

 詠唱は理解度が高ければ、短縮できる、と。


 俺が今までに見てきた魔法は全てが高位の魔法だったのだ。眼鏡とは実力が違う。


 だが、今はそれでも十分だった。少なくとも、俺よりは魔法を使えるのだから。


『剣は鉄塊へ、槍は旗へ、鎧は楔へ。全ては次の言の葉によってーー』

『沈まぬ夕焼け』


 小さな火球が発射され、それが眼鏡に命中した。眼鏡は声にならない悲鳴を上げて、その場に倒れた。


「魔法使いとしての格が違うんだよ。ぼくは学年主席だよ?」


 俺は走り出そうとした。だが、その直前に、他のクラスメイトたちの魔法が飛来した。

 石弾、火球。

 種類を問わず、様々な魔法が殺到した。早い。かわせない。


 俺は避けることを諦めて、できるだけ威力の低い魔法に自分でぶつかった。衝撃が走る。

身体を吹き飛ばされる。

腹のど真ん中へと、魔法が命中したのだ。焼けるような痛みから逃れようと、意識が逃げようとする。


馬鹿か。ここで意識を飛ばしてどうなる。俺は歯を食いしばって、意識を保った。


「全員、詠唱を解除。グリムと貧民を捕まえろ」


俺の上へと、クラスメイト共がのし掛かった。流石に、ビクともしなくなる。


眼鏡の方へも同様に、クラスメイト共がのし掛かっている。心持ち、向こうの方が女子が多い。羨ましい。

重さ的な意味で、だ。女子は軽いのだろう?


この喧嘩は、負けなのか。

魔法をたった一発喰らったくらいで、俺たちは負けるのか? 本当にそれでいいのか。


思い出すのは、決意してくれたときの眼鏡の顔。


思い出すのは、笑顔を浮かべたアメリア。そして、涙を浮かべたアメリア。


いい訳ないだろうが!

友達がここまでこけにされて、俺は黙っていたくなんてなかった。


「どけ!」


俺は力尽くで、無理矢理に立ち上がった。俺を覆い被さるようにして捉えていた男たちが、剥がれていく。


しかし、ただ立っただけでは何にもなんねぇ。俺は勝たないといけない。

理不尽な理由で泣かされた女がいる。だったら、俺はそんな理不尽を働いた馬鹿をぶっ飛ばす。


折崎おりざき哀人あいとは不良だ。昔から、理不尽には暴力で対抗してきた。

間違ったもんは全部、この拳でぶっ潰した。だったら、今も潰す必要があるだろう。


頭が悪い俺には、それしかできないのだから。


「ぶっ飛ばされる準備はいいかよ、理不尽!」


俺は確かに立ち上がった。

初期レベルの魔法使いの闘いは、とある理由によりかなりしょぼめでございます。

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