表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
13/197

不穏

 翌日、俺が教室に入ると、いつもよりも騒がしかった。皆が口々に、何かを嬉しそうに囁きあっていた。

 気にせず席に着くと、丁度チャイムが鳴り、授業の開始が告げられた。


「おはよう。授業を始める前に一つ言うことがある。まぁ多くの奴はすでに知ってるだろうが」


 そんな前置きをして、教師がクラスを見渡した。チョークで黒板にデカデカと文字を書き始める。


「近いうちに、お前たちには魔道具を選んでもらう。楽しみにしておけ」


 黒板には魔道具という文字だけ。だが、クラスメイトたちの反応は劇的であった。


「よっしゃ! これで俺も魔道具使いだぜ!」

「魔道具使いの称号はそんなすぐに貰えないって」

「すぐだよすぐ。俺の魔道具、きっとすげぇぜ。まぁ、メイガスくんには負けるけどさ」


 クラス中の視線がメイザスとかいうイケメン野郎に集まった。目立たないと生きていけないのか、あいつは。


「当然さ! ぼくに敵う生徒なんて存在しちゃあいけないからね。ぼくと比べれば、申し訳ないが諸君は論外だよ」


 クラスから乾いた笑い声が作られたが、イケメン野郎は気にせずに微笑んでいる。しばらく笑ったのち、席から立ち上がると、アメリアに向かって指をさした。


「アメリア嬢! きみは六最天なんて呼ばれて、早くから魔道具を貰っていたね。だが、今日からは同じ立場だよ」

「それがどうかしましたの?」

「つまり、今日からはぼくの方が強いということさ。もう調子に乗るのはーーいや、素直になりなよ」

「は?」

「ふふ、きみはぼくが好きなのだろう? だからこそ、素直になれずにいる。違うかい?」


 凄いことを言う。俺だけではなく、アメリアや眼鏡、その他クラスメイトたちですら絶句していた。


「ぼくの家柄、財産、実力、性格、そして何よりこの容姿。惚れないはずがないからね」

「はぁ、わたくしより低い家柄、少ない財産、足元にも及ばない実力、最低な性格、いけ好かない容姿。惚れる筈がありませんわ」

「な、なに!」

「貴方を選ぶくらいでしたら、わたくしはオリザキさんを選びますわ」


 どうして、ここで俺を登場させるのだ。いや、あいつはこのクラスでは俺くらいしか話し相手がいないのだった。俺に矛先が向かうことはあり得る。


「貧民の分際で、ぼくを侮辱するのか!」


 どうして俺に矛先を向けるんだよ。だから最低な性格とか言われるんだよ。眼鏡を見習え。


「覚えていろ!」


 負け犬のような台詞を吐いて、メイガスは着席した。教室を嫌な空気が支配した。


「先生が困るんだよなぁ、そういうの」

「先生! トイレ行ってきていいですか!」

「空気を読め、眼鏡」


 あはは、と小さな笑いが教室に生まれた。


 窮屈な思いをして、どうにか授業をこなすと、とうとう昼休みに到達した。喜ばしいことだ。


「オリザキさん、貴方の属性と特性を計測に行きますわよ」

「ああ、頼む。でもよ、その前に一つ言わせてくれ」

「何ですの?」

「今朝、何で俺とイケメン野郎を比べたんだよ。話が面倒になっただろうが」

「イケメン野郎? 誰ですの? ああ、あの害虫のことですわね」


 ここはまだクラスだからな。お前も結構性格が極悪だぞ、アメリア。ほら、イケメン野郎が俺を呪い殺すくらいの目で見てくる。


「わたくしは本心しか口にしない主義ですの」

「包み隠すことを覚えろ」


 呆れながらも、俺はアメリアと共に魔力計測室とやらに行くのであった。


 計測は順調に終了した。思ったよりも手軽で、想像以上に想像の範疇であった。

 もっと酷いことをされると思っていたのだ。目玉に何か差し込まれたり、な。


 計測結果は、


「属性、特性共に『なし』? そんなこと、あり得るはずがありません」

「何かミスったのか?」

「おそらく、そうですわね。また今度に致しましょうか。わたくしは念のために、アレイスト先生に訊いてきますわ」


 ということだった。期待していたので、残念である。


「じゃあ、俺は花の様子でも見てくるわ」

「お願いしますわ」


 そう言い合って、俺たちは別れた。アメリアはアレイスト先生を探しに、俺は例の花壇へ行く。


 流石に迷うことはなく、俺は順調に花壇へと向かっていた。歩いていると、チャイムが鳴った。どうやら、午後の特別授業が終了したらしい。

 俺は七最天なので、あまり関係はないのだが。


「あ、アイトくんじゃない。もう授業終わったの?」

「まあ、終わったというか、始まってねぇというか」

「休講だったの!? 可哀想にね。ぼくの特別授業のクラスに来てもいいんだよ。ぼくも先生もウェルカムだよ!」

「遠慮しとくわ」

「で、これから何処へ? 図書館で勉強?」

「お前が思ってる程、人類は勉強を愛してないんだぜ?」


 眼鏡が失笑した。吹き出し笑いである。何を言っているのかわからない、といった様子だ。


「アイトくん、それ面白いね!」

「お前の頭の中の方が面白いよ」

「ありがとう。で、何処に?」

「今から花壇へ行くんだ」

「そうなんだ。確かアメリアさんが植物委員だったから、そのお手伝い?」

「よく覚えてるな。そうだよ」

「じゃあ、良ければだけれども、ぼくも行っていいかな。もちろん、粉骨砕身の思いで手伝うよ!」

「程々でいいよ。ありがとな」

「構わないよ。ところで、花壇って今はどうなっているの?」


 眼鏡の質問に対して、俺は言い淀んでしまう。故意ではないにしろアメリアは、花壇の花を枯らしてしまっているのだ。


「花は枯れてる。でも、昨日アメリアが種を蒔いたから、来年には満開だぜ」

「そうか。それは楽しみだね。咲いたら、花見でもしようよ」

「花壇で花見か? しまらねぇな。ま、そんときは彼女さんも紹介しろよ」

「来年までには紹介してるって」


 俺たちは小さく笑いあった。花壇で花見をするという計画が、何か共犯者になった気分を俺たちに与えていたのだ。


 眼鏡をパーティに加えて、テクテクと歩くこと数分。俺たちはいよいよ花壇に到着した。

 到着して、しまった。


「ア、アイトくん。これは、何なの?」


 俺たちの視線の先。そこには確かに花壇があるはずだったのだ。だが、そこにあったのは。


「誰だよ」


 枯れ花は無残に踏み砕かれていた。種を植えたばかりの土は、全てがぐちゃぐちゃにひっくり返されていた。

 花壇を構成していたレンガたちも、粉々にされていた。


 それは最早花壇ではない。形容するのならば、そうーー廃墟だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ