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その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
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魔法訓練

 貴方は何ができますの?

 戦闘後、アメリアは俺に問いかけた。しかし、できることなど無いに等しかった。


「最天には、直接戦闘に向かない、裏方的な能力の方も存在します。貴方も、そうなんですの?」

「俺は魔法が使えないんだ」

「この学校にいて、それはありえませんわ。基礎の詠唱くらい、授業を受けていなくとも誰にでも唱えられてよ」


 他の人間にならば、そうなのかもしれない。だが、俺は魔法の存在すら初めて知ったのだ。

 いきなり使えるはずもない。


 だからこそ、


「すまん、アメリア。魔法を教えてくれ」


 深く頭を下げ、懇願した。別に魔法を使いたいと思ったことはない。力もそこまで必要だとは考えていない。

 それでも俺が魔法を覚える必要があるのは、学校に通い続けるためだ。

 喜んでくれた家族を悲しませたくない。


 それに、この調子ではいつか俺は命を落とす。それは困るのだ。


 だからこそ、素直に頭を下げることができた。いくら悪態を突かれたって、毒舌を吐かれたって、怒ることはないだろう。

 俺の方からお願いするのだから。最低限の誠意くらいは見せねばなるまい。


「よろしいですわ。それに、貴方が最天に選ばれた理由も知りたいですからね」

「え、いいのか?」

「断られると思ったのかしら?」


 思った。


「貴方の愚かしさは嫌いですわ」


 無抵抗でイケメン野郎に殴られたことを言っているのだろう。別に、俺は構わない。

 あんな奴に構う必要を感じなかったので、好きにさせただけである。


「それでも、貴方の素直さは素直に賞賛しますわ。自身の至らなさを把握して、人に頭を下げられる人は少ないですもの」


 アメリアは何処か遠くを見るように言った。


「わたくしにあの時、その素直さがあれば」


 その日はそこで解散となった。ようやく、俺の長かった学校生活一日目が終了した。



 翌日、俺は再び学校へ行く。それが生徒のお仕事である。通学には三十分程かかる。その道程を越えると、やはり今日も巨大な校門が見えた。


 門に足を踏み入れた。すると、それだけで世界が切り替わったかのような錯覚に襲われた。気のせいだろうか。


「あ、アイトくん! 昨日ぶりだね。授業大丈夫だった?」

「ああ、特別授業のクラスは決まったよ。あとは授業に使う教科書がねぇのくらいかな。問題はよ」

「え、アイトくん、教科書ないの?」

「いや、一応、な」


 そう言いながら、俺が鞄から取り出したのは、この学校のではない教科書であった。


「この通りだよ」

「それは困るよね。わかったよ。ぼくの教科書をあげるよ!」

「いや、そりゃあ、悪いって」

「気にしないで。ぼく、教科書は観賞用、保存用、使用用、布教用と四冊持っているから」

「どんだけ授業好きなんだよ!」


 眼鏡の授業への偏愛ぶりは度を越している。性格はよいやつなのだが。


 四つの授業を越えると、昼休みに突入した。なお、授業は眼鏡の教科書のお陰で僅かに理解できた。ありがとう、眼鏡。


 ちなみに教科書を熟読して理解したが、魔素というのは空気中に漂っている原子のようなものらしい。それが魔法の源なのだ。

 人は魔素を体内に吸入することにより、それを自身の魔力へと変換する。

 ということらしい。よくわからんがな。


「オリザキさん。授業が終了しましたわ。さあ、早く授業へ行きましょう」

「眼鏡もお前も授業、好きすぎだろ」

「貴方が鍛えて欲しいと仰ったんですのよ?」

「まあ、そうだけどよ」


 俺にアメリアが話しかけてきた。それはまあよい。問題は授業が終わった直後だったということであろう。


 普段はクラスから離れている女、それも美少女が急にクラスメイトに声をかけたのだ。

 いやでも、注目を集めてしまう。クラス中の瞳が、俺らを射抜く。


「アイトくん! 凄いじゃないか。アメリアさんと仲良くなるなんて、ぼくはきみの可能性を舐めていたよ。さあ、アメリアさん。ぼくは美化委員のグリム・グレイムーー」

「申し訳ないのだけれど、わたくしたちはこれから用事がありますの。行っていいかしら?」

「当然だよ! アイトくんをよろしくね」


 眼鏡は俺のお母さんか何かなのだろうか。心配性にも程がある。まあ、きっと眼鏡は俺だけだなく、アメリアのことも気にかけているのだろう。


「言われるまでもありませんわ」


 アメリアに連れて行かれたのは、七最天の教室の近くにある体育館のような場所だ。

 広い体育館。そこには舞台があり、そこには一体の木人形が配置されていた。


「魔法とは、何かしら?」

「あれだろ。凄い奴だろ」

「お馬鹿ですわね。魔法の概念についてを尋ねましたのよ。いいですわ。では、魔法の発動原理はおわかり?」

「魔素がどうこうだろ?」


 アメリアが頷いた。彼女は赤縁の伊達眼鏡をかけてから、教鞭を取り出して、それで宙を打つ。

 妙に似合っているが、どこかシュールで面白い。やっている当人が無表情なのがよい。


「魔素を魔力に変換したのち、それを体外へ放出。体外の魔素と体内の魔力を混ぜることによって、世界と同化するのですわ」

「なるほどな」

「それが詠唱魔法の第一段階になりますわ。おわかりかしら?」


 理論は理解できた。だが、どうやればいいのだろうか。試しにイメージしてみよう。体内の力を外へと向けるイメージ。

 何も起きはしない。


「詠唱魔法の第二段階。魔素を支配下に置き、魔法の方向性を決定します。その後第三段階、魔法の形を作りますの」

「お、おうよ」

「最後に魔法へ命令を下す。ここまでの工程が複雑であればある程、強力な魔法になりますわ。また、詠唱は魔法への理解度によって短縮できますのよ」


 第一段階すら実行できないというのに、どうしろというのだろうか。だが、一応魔法のルールは覚えた。


 第一段階をクリアした後は、あの長ったらしい文言を呟けばよいのだ。

 俺はムムムと唸って、魔力を外へ出そうとした。魔力など体にあるのかは不明であるが。


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