表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その拳、魔法より強し  作者: 一崎
その拳、魔法より強し
10/197

魔法使いの闘い方

『七つの大罪』の新OPかっこよすぎでございますね!

大罪系はよいですね。

 アメリア・エクシスは言う。

 敵は小者である、と。見れば、それは納得できる。あくまでも、敵は小型犬サイズなのだから。

 問題は別にある。犬の瞳は紅く濁りきり、獰猛な牙が剥き出しの口からは大量の涎が垂れている。そして、何よりも、その口から漏れているのは涎だけではないのだ。

 炎がーー漏れている。


「何だよ、この犬」

「魔犬といったところかしら。ジャンルはフレアハウンドですわね」


 化物を相手に、アメリアは余裕の態度を崩さない。いや、こいつは魔法使いなのだ。こんな犬くらい、すぐに倒せるのだろう。

 それに対して、俺はどうだ? 俺にはライターが無ければ火が起こせない。団扇でもないと、微風すら生み出せない。


 俺は一般人と変わらない。


「魔犬が八体ですわ。わたくしが7体倒しますので、残りはお一人で片付けてくださいまし」


 魔犬が一斉に炎を放射した。俺は慌てて地面に這いつくばるが、アメリアはいつも通り表情すら変えはしない。


「崩鎌ビクトリア。ストック消費」


 アメリアは風の魔法で己の身を空へと打ち上げた。彼女は空中で静止すると、そのまま魔法を行使する。


『神罰アメリア・エクシスが定めよう。その火は産まれ、そして強くあれ』


 彼女の手には、いつの間にか巨大な鎌が握られていた。残酷なまでに冷酷な禍々しい凶刃が、蒼く煌めいた。


『燃やせ。赤の木洩れ日』


 小さな火の玉が、上空から降下された。

 俺は様々な魔法を見たが、アメリアの魔法は余りにも見た目が普通だった。

 他の魔法使いが壮大な文言で詠唱するのに対して、彼女の詠唱はあまりにも簡潔だった。


 本当に強いのか。そんな疑問は即座に消失する。

 火の玉が地面に落下したと同時に、空間が炸裂した。魔法の対象となった魔犬は、全身を断裂させて血飛沫を上げた。


「どうしたのかしら、オリザキさん。わたくしの属性は滅、魔法特性は災厄ですのよ? わたくしにとって、基本魔法とは必殺の意味を持ちますの」


 優雅な動作で、アメリアは着地した。巨大な大鎌は、もうどこかへ消失していた。


「さ、存分におやりなさいな。わたくしとしても、貴方の力を知っておきたいですもの」


 おやりなさいな、なんて言われても困る。俺にできることは、精々が近づいて殴る。くらいである。

 しかも、敵は幾ら化物といえど、小型犬である。俺は犬の殴り方など、知りはしない。


「早くしませんと、増援が来ますわよ?」

「そうだろうな」


 喧嘩だって、一人とダラダラやってると、すぐに増援がやってくる。

 それは人だけの習性ではないのだ。


 魔犬の口から、再度火が漏れた。俺は死にたくない。だから、むこうがその気なら、こちらも乗るしかない。


 大きく跳ぶようにして、距離を縮める。

 魔犬はすかさずに反応、右へと駆ける。普通の犬などくらべものにならない速度だった。

 気が付けば、眼前で大口を開いていた。熱気でそれを察知した。相手が噛むなり火を吐くなりの攻撃に移る前に、拳を放った。

 それは容易くかわされる。

 カウンターとして、肩を噛まれた。業火が放たれ、俺の肩は刹那で焼ける。


 痛みに絶叫を上げた。

 魔犬の猛攻は留まらない。更なる攻撃が加えられる。それに耐えきれずに、俺は地面に倒れた。


「ふざけていますの?」


 アメリアが前に出た。大鎌をバトンのように振るうと、一太刀の内に魔犬を両断していた。


 魔法さえ使わない。

 実力の差は歴然であった。


「身体能力は高いですわね。普通なら、魔犬の接近に応じて拳を放つなんてできませんもの」


 アメリアは軽い治療魔法を使ってくれた。そのおかげで、随分楽にはなった。


「ですが、貴方は弱い。お頭を空っぽにして突き進むなど、そこらの害獣と変わりませんわ。仮にも最天を名乗るのなら、その弱さは罪ですわよ」


 俺に対して、アメリアは失望したようだ。無表情ながらも、彼女の瞳には侮蔑の念が込められていた。


「ほら、貴方がノロノロしている間に、魔犬のお仲間がやってきましたわ。貴方の弱さは周囲を危険に晒しますわよ」

「ああ、弱いな。俺には魔法も使えないし、普通の戦闘力もお前には及んでねぇ」

「魔法が使えない? そんなこと、あり得るはずがありません」


 それだけ言って、アメリアは武器を構えた。


「魔法使いの闘いは力ではなく、戦略が重要になりますわ」


 新たに現れたのは、小鬼のような魔獣であった。小鬼たちは各々が、自前の武器を所有している。


「詠唱魔法は強力ですが、発動までに時間がかかりますわ」


 小鬼の棍棒が、アメリアに振り下ろされた。彼女は鎌でそれを受けて、力をいなした。その後、器用に鎌で棍棒を捉えて、空へと跳ばす。


 槍を持った小鬼に対して、逆に踏み込むことによって間合いをずらす。

 ゼロ距離で、


「崩鎌ビクトリア。ストック消費」


 ミサイルのような砲撃が、小鬼の腹を打ち抜いた。直撃した小鬼は後方へと吹き飛ぶ。

 仲間の最期に仰天していた棍棒を使っていた小鬼の首に、刃が当てがわれる。躊躇なく、切断した。


 数匹いた小鬼たちが、呆然とする。その僅かな時間が、勝敗を確定させた。


『神罰アメリア・エクシスが定めよう。水は集まる。刃の元に』


 アメリアの大鎌へと、水が集まる。それは瞬時に無数の刃へと変貌した。

 空中を漂う水の刃に、指令が飛ばされた。


『切断せよ。水刃』


 小鬼の体目掛けて、無数の刃が飛び立った。多くの小鬼は、それだけで絶命する。

 残った小鬼は、水刃を避けるのに精一杯だったようだ。逃避先で待ち受けていたアメリアの大鎌にて、あっさりと狩られる。


「これが魔法使いですわ。ありとあらゆるモノを使い、詠唱する時を稼ぐこと」


 小鬼の返り血が付いた大鎌を一振りして、


「アイザック先生ならばオート治療による無理矢理の詠唱、アレイスト先生ならば近接戦を交えたスタイル。全てが戦略よ」

「お前も近接戦型なのか?」

「戦況によりますわ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ