プロローグ
折崎哀人はお世辞にも、気が長いとは言えない。そんなこと、誰だって知ってやがる。
少なくとも、中学まではそうだった。
でもな、俺だって、怒りたくて怒っていたわけじゃねぇ。
今まで、赤ん坊の頃から今まで、俺は一度だって理不尽にキレたことはねぇんだ。その つもりだ。
だから、これは正当な怒りだ。
「さぁ、貧民くん。ぼくを侮辱した罪は償ってもらうよ? その命で」
目の前のいけすかねぇ面してるイケメン野郎。こいつだけは許さねぇ。
女泣かしておいて、何だよ、その飄々とした顔は。
『紅蓮メイガス・メイザスが定めよう。炎は一つの刃となりーー』
「な、何て詠唱の早さだ! あれじゃあ、打ち負ける。アイトくんじゃ、無抵抗でやられる!」
早い? うっせぇよ、眼鏡。
確かに、魔法とかいうのなら、早いのかもしんねぇ。でもな、これは喧嘩だ。
イケメン野郎の背後に、数十の火が上がる。そして、それが野郎の命令一つで剣の形を取った。
これが魔法。
俺にはない力。
「終わりだよ、貧民くん。詠唱の第一段階さえクリアできないなんて、論外だよ。遅すぎーー」
土を踏む。一息でイケメン野郎に近づくと、奴の顔が真っ青に染まった。
何を驚く必要がある?
「確かに、てめえの魔法は凄ぇのかもしんねぇ。でもよ、これは俺の喧嘩だ」
「どうし、て」
拳を振り上げた。
「俺の喧嘩じゃあ、てめえの魔法は千歩遅いと言ってんだよ!」
拳がイケメンの顔面を捉えた。