トリップ ~同窓会~
~現実 同窓会~
朝、起きたらブログを書き始める。日課になっている行動だ。正直知りたいことは私の侵した罪についての裁きなのかもしれない。いや、ひょっとしたらどこかで綾瀬がこのサイトを見てくれているかもしれないという期待で書いているだけなのかも知れない。けれど、エンジェルミストのサイト。確証はないが片岡の存在もある。今日は片岡も来るのだろうか。聞いてみたい。結局私は振込みをしなかった。あんな得たいの知れない「エンジェルミスト」だったら自分でもう一度精製する。作り方を忘れたことなんてなかった。そして、あの光の先にあるものも。
「ちーちゃん」
私は何もしてあげられなかった。でも、許してくれた。確かにここではない光に満ち溢れた世界はあったよ。でも、私はこの世界で頑張って行こうって決めたんだ。
色んな思いが私を動かしてくれている。
けれど、一気に何かをぶつけられた感じがあった。そう、ブログの掲示板に書かれているコメントがその原因だ。
「今日世界が変わるんだよね。多分、これがラストチャンスだよ。もう向き合える準備はできたのかな?」
一瞬びっくりした。今日何かが起こるってことがわかっている人物。それは、同窓会メンバーじゃないのか。片岡がこんなコメントをするとは思えない。私は綾瀬なのではと思った。ゲストだが、名前は「ひーちゃん」だった。誰だろう。私はどこかで綾瀬の事だと信じて大学へ出かけた。そう、久しぶりに見たこの「ビデオ」とあの「指輪」を二つ持って。
大学にいくと「あたる」がきていた。
そして、白いワンピースを着た女性。あの時と同じく黒いまっすぐの髪。少し化粧の濃い、でも顔自体は端正で、あの瞳に吸い寄せられそうになる。そうあの頃と変わらない綾瀬がそこにいた。いや、あの頃より少し大人っぽくなっていた。やはり綾瀬はきれいで、そして、あの頃のままでいてくれていた。どこか懐かしく感じる。綾瀬がいるだけで世界が輝いて見える。まるで今までの世界が白黒で、いきなりカラーになったようだ。いや、エンジェルミストの先にあった光のなかにいているような錯覚を覚えた。あの光の中に似た雰囲気。私は何かを忘れているのかもしれない。ふと、そう思った。深くどこかにつれられそうになる。けれど、トリップするより前に綾瀬が声をかけてきた。
「陸、遅いよ」
笑顔の綾瀬をみて、私はいったいなんていっていいのかすらわからなかった。私が目覚めた時、すでに綾瀬がどこにいるのかすらわからなかった。いいわけかも知れない。でも、私は忘れたことなんてなかった。とりあえず、言葉としてでたことはこれだった。
「綾瀬、いっぱい言いたいことも、聞きたいこともあるけれど、まずこれだけは言わせて欲しい。すまなかった」
私は泣きそうになっていた。でも、綾瀬は私の頭を『ポン』とたたいて、こういった。
「早く倉庫に行こうよ。全員揃ったんだしね」
片岡がいない。あいつは来ないといっていたのだろうか?
「片岡は?」
私はそう言った。あたると綾瀬が同時に振り向いて、綾瀬がこう言った。
「陸、ホントに覚えていないのね。聞いていたけれど、片岡はもういないよ。あの時のトリップの後、あいつは禁断症状に耐え切れなくなったんだ。そして、そのまま逝ってしまった。ビルから飛び降りてね。あ、あのときはまだ陸は戻ってきていなかったものね」
くすりと笑う綾瀬だが、まったくわからない。私は一体何を忘れているんだ。綾瀬が言っていることがわからない。何が起きているんだ。そういう綾瀬の横であたるの顔が蒼白になっていた。
「実は、話せていないんだ。そして、これも渡せていない。綾瀬。ゴメン。でも、許せなかったんだ。陸だけが全て手に入れて、そして、忘れて、進んでいく。許せなかったんだ」
あたるは震えながらそう言った。まったく解らない。あたるの手にはビデオテープが一つだけある。これがあの消えたビデオテープなのだろうか。綾瀬が少しだけ悲しい顔をした。けれど、その後に綾瀬はあたるに向かって笑顔で頷いていた。
今日はなんだか私だけが取り残されているように感じる。一体なぜなんだ。解らない。
妙な空気の中私たち3人は倉庫に向かった。昨日見たとおりだった。ただ違ったのは誇りまみれだったあの倉庫がキレイになっていた。倉庫について、ソファーにあの時と同じように綾瀬が座る。
「仕方ない。陸に全部、思い出してもらおうよ。そして、もう一度戻ってきて。あたる。お願い。あなたの気持ちは昔から、そうあの時から知っていた。でも私の気持ちもあの時に決まっていた。許すから手伝って」
綾瀬はそう言った。すごく優しい顔だった。私の後ろにあたるがいる。一体何が起こるんだ。綾瀬は注射器を取り出した。まるで決まっていたかのように。
「ねぇ、陸。お願いだから思い出してきて。
そして、トリップを」
あたるに押さえつけられる。もう、「エンジェルミスト」なんて存在しないはずだ。あの得体の知れないやつくらいしかない。あたるが言い始める。
「陸、ゴメンね。あの時もらった『エンジェルミスト』使わずに置いていたんだ。でも、思い出して欲しい。陸だけが忘れているなんて、許せないから。陸はまた違う罪だけれど、きちんと知って、そして罪は背負っていて欲しい」
あたるの声を聞きながら私はずっとその意味が解らなかった。ただ、ぐるぐると世界だけが回りだした。懐かしい感じ。そう、私はやっぱりトリップを「エンジェルミスト」を待っていたんだ。ぐにゃりとまがる世界の中心に綾瀬の笑顔だけが映っていた。




