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トリップ  作者: ミナセ。
11/17

トリップ ~大学~

~現実 大学~


「陸、なんでもういるの?」


 声をかけてきたのはあたるだった。あたるとは今日の13時に待ち合わせだ。時計を見る。まだ、11時だ。どうしてあたるがこの時間にここにいるのだろう。私は考えていたが、それはあたるも思っているはずだ。


「ああ、ちょっと久しぶりに大学に来たからちょっと周りでも見ようかな~ってね。あたるはどうしてこんなに早いんだ?」


 私はそれっぽく答えた。そう、あたるがこんなに早く来ていたことに。それとも、何か理由があるのだろうか?だが、あたるは


「陸と同じだよ。ちょっと懐かしくてね。ちょうどこの時間だと学校の中をみて、学食でご飯でも食べようかとね。陸、一緒に食べない?」


と言ってきた。

考えすぎなのだろう。あたるとはもう長い付き合いだ。私自身少し予定は変わってしまったが、大学をあたると見回ることにした。

科学研究搭。ここの一室にあの「エンジェルミスト」のサークルをつくり上げたんだ。


「あがって見ようか」


あたるはやっぱり行動的になった。いや、何かが吹っ切れたんだ。そういう意味ではこの「エンジェルミスト」で一番良く変わったのはあたるかも知れない。

以前は、いや、あの「あたるが救急車で運ばれた」あの時は科学研究搭には入り口に黄色と黒のテープが張られて入れなかったが、今はすんなり入れるようになっていた。


「月日が流れるとかわるものだな」


 私は今だったらここに入って「エンジェルミスト」を精製する事も簡単なのではと思ってしまった。二人してあの時使っていた部室代わりの倉庫に向かった。

木の古びた扉。何も変わっていない。金色の丸い取っ手の部分、金網の入ったすりガラス。まるであの日の、そうあの日のままだ。あたるが丸い取っ手の部分をひねる。


「鍵がかかっているね。陸ひょっとしてまだ鍵持っている?」


 この倉庫を部室として使う時、鍵を作ったんだ。鍵は人数分作った。私は自分の家の鍵に付けている古い鍵を鍵穴に入れてみた。

がちゃん。

 にぶい音と共に鍵が開いた。


「まさかあの時のまま鍵が一緒とはね」

 私はそう言いながら、懐かしい倉庫兼部室に入った。

どことなく薄暗く、ちょっとほこりっぽい。でも懐かしい感じ。そして、ここに帰ってきたっていう安心感。そして、あの時あのエンジェルミストを使って、0.003mgのエンジェルミストを使ったときの感覚すら思い出させてくれた。月日は戻らないって解っている。けれど、私は願ってしまうんだ。あの頃に戻れたらと。いや、今でない世界を望んでいるだけなのかも知れない。そう、罪を背負うと決めた時から私はどこかに行きたがっているのかも知れない。だからこそ深く、深く沈みたいって思うのかも知れない。私はまた思いに身を任せた。




~回想 0.003mg 陸~


0.003mg

いつものように光の渦に吸い込まれていく。そして、優しい光が包んでくれる。一体あなたは誰?私は光に問いただした。

笑っている?泣いている?でも心地よい。何も解らない。

 光の先にいたのは「私」だった。かつての私、いつかの私、まだ笑顔しか知らなかった頃の私。見たことない私。

「心配しなくていいのよ」

 優しい声がする。

「大丈夫、一つになれるから大丈夫、一人じゃないから」

 そういって、光は人のカタチになっていった。

「あなたは誰?」

 母さん?いや、違うあんな母親なんかが出てくるなんて思えない。綾瀬?いや、まだ輪郭もはっきりしていない光の渦だが、何かが違う。ただ、私はその光の渦に優しく抱きしめられていた。心地よく、心地よく。世界がまわる。いや、急速に私がらせんを描いてどこかに連れて行かれそうだ。

 うぅぅぅ。。。

 目を覚ますとそこは家だった。いや、いつもの家と違うのは薄暗いことだ。父さんがいる。そして、子供の時の私がいる。

 ああ、あれが始まるのか。鈍い音と共に激痛がくる。どうして、殴るの。どうして、蹴られるの。私はただ、待っていただけだ。嵐が去っていくのを。


「どうして殴られるの?」


 どうして。だって、父さんの子じゃないから。だから憎いんだ。でも、だれも信じてくれない。父さんは人格者らしいから。誰も信じてくれない。誰も味方なんていない。ただ、時だけが過ぎていけばいい。母さん、助けてよ。でも、母さんはいつも助けてくれない。見ているだけ。いや、見てもいない。興味がないんだ。まるで、横にあるおもちゃ箱がひっくり返ったのと同じ。ちょっと音がうるさいだけ。普通に生活をしている。これがもう普通のことなんだ。もうイヤだ。イヤなんだ。


「今はどうしている」


 そんなの決っているじゃない。体も大きくなった。殴られなくなった。変わりにスタンガンでビリビリされる。電流は抑えめ。ほら、体なんて傷だらけさ。

「見て、この傷だらけの体を」

 暗い世界。でも、真っ暗じゃない。どこかに優しさがある。あの光に抱きしめられたから。だから耐えられるんだ。

 光を、もっと光を、もっと、、、、


 世界が明るくなった。いや気持ち悪い。なんだ、こう気持ち悪さは。

うぅぅ。

 どこか休みたい。そっと何かが体に触れる。

「大丈夫?」

 あの時きいた声とは違う声が耳に入った。そうだ、今は大学に来ていたんだ。現実はいつだって、私を連れ戻しに来る。いい夢を見ていても、悪い夢を見ていても等しく私を連れ去りに来る。いつも背後からひたひたと足音を立ててやってくるんだ。私は諦めて流れに身をゆだねた。







~現実 倉庫~


「陸、大丈夫?」

 あたるが覗き込んでくる。どうやら私はこの声で戻ってきたらしい。懐かしい世界。私はどうもこの風景に連れ去られたみたいだった。あたりを見渡す。

倉庫の兼部室であったここは、最近だれもはいってきていないのがわかる。うっすらとほこりが一面に広がっている。一角を除いて。

そう、その一角は綾瀬がよく座っていたソファーとその奥にある棚。確かあのことがあるまではあそこに「エンジェルミスト」を入れていたんだ。あのあたるの事件が起きるまで。なぜ、そこだけほこりがないんだ。そこには「エンジェルミスト」はなかったはずなのに、そう変わりに違うものを入れたんだ。


「ねえ陸、なんだかあの時のままだね。

 まるで時がとまっていたような感じ」


あたるがそういいながら、ソファーに座った。いつもあたるはソファーじゃなく、パイプいすに座っていた。時が経つとそういうことも懐かしく感じてしまう。私はパイプいすを組み立て、あたるの近くに座った。私はあたるに話しかけた。


「そういえば、綾瀬が買ってきたビデオって気がついたらなくなっていたよな。どこにいったんだっけ?」


私はずっと気になっていた。あのことがあって、最後は確かにばたばたしていた。けれど、あのビデオはいったいどこにいったのだろう。私はふとした疑問をあたるに聞いてみた。


「さぁ、知らない。ねえ、陸あの大量のビデオテープ掘り出しに行こうか?」


あたるはそういって動き出した。そういえば、埋めたときもあたるとふたりだった。もう、あの時は片岡は去っていたから。




「そんなに俺が信用できないのか。なら、出てってやるよ。今だから正直に言ってやる。俺はお前が嫌いだったんだ。ま、おれがこの「エンジェルミスト」を運営していたら、もっとうまくやっていたけれどな」


片岡は吐き捨ててそう出て行った。

そして、試験管にまだ残っているエンジェルミスト0.004mgを渡していって消えた。


確かに私も片岡が嫌いだった。だが、こうなってしまっては仕方がない。そういえばいつだっただろう。私が、呆けているときに、あたるから言われたんだ。


「全て終わらそう。この証拠のビデオテープも全て」


本当ならば燃やして全てを「無」に返してもよかった。けれど、どこかで残しておきたかった。あたるも一緒だから埋めることに何も言わなかった。私とあたるは用務員室からシャベルを取ってきて、校舎から離れた裏山の中に埋めた。


 あたると学校の裏にある木々が茂っているところに行った。ここからは塀と、その奥に隔離病棟が見える。そういえば、この場所はなんとも言えない何かがある。私はあたるとこの場所でビデオテープを埋めるって話したときにも感じていた。やはり、今日来ても同じだった。私はあたるに話しかけた。


「そういえば、あたる迷わずこの場所を選んだよな。ちょっとした疑問だったんだ」


そう、あの時迷わずこの場所を選んだのはあたるだ。あの時は頭がぐるぐるしていたから、そんなことに違和感なんて思わなかった。いや、何かが引っかかっていたのは事実だ。だが、3年も月日が経って場所もうろ覚えになっても不思議じゃないのに、あたるはまっすぐに歩いていく。

あたるは振り返りながらこういった。意外だった。


「なにを言ってるの?この場所は思い出の場所じゃない。陸ってたまに記憶が抜けるよね。僕らより『エンジェルミスト』試しすぎてるから記憶が飛びやすくなってるんじゃない?」


あたるに言われてびっくりした。あたるとの思い出の場所。思い出せない。


「ほら、覚えていないんでしょ。それに、すぐに妄想したり、思い出にさらわれたり。確実に注意力は落ちていると思うよ。僕もそうだからよくわかる。それに、、、もういいじゃない。とりあえず、ビデオテープを取り出そうか。なんかタイムカプセルみたいだね」


あたるはそういいながら、ちょっと変わった形の木の根っこを掘り出した。そう、あの時、このくぼみが目に見えて怖かった。まるで、すべての罪を見透かされているかのように。そういえば、それよりも前にこの景色に見覚えがある。思い出そうとするといつも何かが邪魔をしてくる。私は痛みを振り払って深く、いつもよりもっと深い場所を目指して落ちていった。そう、もっと深く。



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