フルーツサンドとタコウインナー
男性同士の恋愛ものを予定しております。不快な表現、内容があります故どうか嫌悪感を抱かれる方はお気をつけて下さい。
最近、友達の田辺正輝の食生活が気になる。
場所は七瀬高校2年3組。時は昼休み。いつものごとく田辺が前の席を跨いで座り、両肘を後ろの俺の机にのせてフルーツサンド(いちご)を食べている。校舎の一階、下駄箱の右手にある購買で購入されたものだ。そのフルーツサンドはどこかのパン屋で手作りされているものらしい。普通の食パンに生クリームとフルーツが挟まれているものだ。手抜きなのかパンの耳はついたままになっている。カットされた断面が少しひしゃげて潰れているのが特長だ。以前気になって一口もらったことがあるが、クリームが甘ったるく正直に言うと美味しくない。田辺が毎日のようにリピートする気持ちが理解できない。お互い無口な方なので食事中はあまりしゃべらないが、今日は募りに募ったささやかな疑問をぶつけることにした。
「田辺いつもそれじゃね?」
なんで他のものを食べないのかというニュアンスを含めながら聞いた。
俺が右手に持つ箸の先には、高校生男子にはだいぶ恥ずかしいたこさんウインナーつままれている。田辺は、そのご丁寧に黒ゴマで目のつけられた愛くるしいウインナーを凝視した。俺の質問は聞いていないかのようだ。
「田辺」
名前を呼んでも、彼の目はウインナーをとらえている。もう一度名前を呼んだ。
「田辺」
「だって、おいしいよ」
心ここに在らずというような返事が間髪を入れずに返ってきた。どうやら、質問は聞こえていたらしい。だが、そんな適当な返答がどうにも面白くない。俺はつまみ上げたウインナーを手首で上下に動かす。フルーツサンドを咀嚼し続ける田辺の顔も一緒に上下に動いた。
「だからさ、なんでそれなんだよ。他にも食うもんあんだろ」
「…甘いの、好きだから」
フルーツサンドを飲み込むと、そう言った田辺はチラリと俺の顔を伺った。その目は"ウインナーをくれないのか"と俺に訴えかける。そう、いつもなら俺はお弁当をおかずを少し分けてやるのだ。だが、今日はやるつもりはない。元々これは俺の弁当だ。そんなに食いたきゃ自分でなんとかすればいいのだ。少々不貞腐れた俺は箸でつまんだウインナーで田辺の顔を揺さぶり続ける。そんな時にふと疑問が浮かんだ。
「そいえばお前、料理できんの?」
ぽろっと聞いたときに、眉間にシワがよっていたことは覚えている。
「でっ、出来るよ!」
ウインナーから目を離したかと思うと鋭い視線を俺に向け、田辺は力強く答えた。思いのほか大きな声にふらふらと動かしていたウインナーの動きが止まる。だが、これは回答にそこまで力まなくてもいい質問だ。
「ほー、なにができるんだ?」
にやりと挑発すると田辺は持っていたフルーツサンドを握りしめた。クリームとイチゴがフィルムの上にぽとりと落ちる。口は分かりやすくへの字に曲がっている。
「出来るってば!今日俺ん家来いよ!見せてやる!」
「おぅ、期待してるよ」
そう言うと俺は持っていたウインナーを口に放り込んだ。田辺の顔が途端に崩れ、悲しそうな顔になったのは言うまでもない。