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クロ  作者: 里見 カラス
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8.本当の名前は?

 そして、馴染んで来たことで分かったことがある。クロの元の名前はおそらくクロではない、クロが『クロ』と言う名前は自分を指しているのだと理解しているだけで、本当の名前は別にある。


 食事などの時間に『クロ』と呼んでも、いつも反応が鈍い。2.3度呼ばれて、やっとああ自分のことかとばかりに振り返る。


 名前を探してうっかり『クロ』と口にしたあの日に見せた機敏な反応は何だったのだろう。


 クロの付くもっと別の名前なのだろうかとも考えたが、私にはクロの付く名前は考えつかない。


 その上、この家ではすっかり『クロ』が定着してしまっていて、違う名前があるらしいとは思いながらも呼び方はそのまま、猫には悪いが『クロ』で慣れてもらうことにした。


 ピンクのヘアピンを髪にとめ、クロに見せるが、クロはこんな時に限って絶妙なタイミングで欠伸をしてきた。心底どうでも良いらしい。


 グリーンに付け替えようとヘアピンに手を伸ばしたところで、浴衣を着付けるからと母に呼ばれた。夕方に用事があり、出掛けてしまうので今のうちにと言うことらしい。昨年購入した浴衣を出してくれていた。


 紺地に鞠や扇子の浮かんだ大人っぽい柄の浴衣、あまり浴衣は着ないのでまだ一度しか袖を通していない、今年はもう少し着る機会を増やしたいところ、そんなことを考えながら軽く羽織ってみて固まった。


 丈が短い。昨年は草履をはいて調度くらいの丈であったはずの浴衣が、今では帯をしめるとくるぶしが見える。低くうめいて顔をおおった。


 苦し紛れに、洗濯のために縮んだのではと母に訴えてみるが、背が伸びたのだとバッサリ切り捨てられた。


 背に関しては友人の美冬に度々羨ましがられたが、こちらとしては全く嬉しくない。


 クラスの男子、半数以上は私より背が低い、女子としては自慢にならない。


 以前は背が低かろうが高かろうが、別段気にも止めていなかった、むしろ高くて便利だと思っていたが、最近になってピンクを取り入れたい、などと思い始めた人間にこの背丈は嬉しくない。


 着付けが終わって母が家を出た後、一人、姿見の前に立つ。背が伸びただけではなく、相変わらずの短い髪に焼けた肌、見様によっては男にすら見えるその姿は、浴衣さえ着こなせている気がしなかった。


 結局、付けていたヘアピンはグリーンに取り替えた。

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