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クロ  作者: 里見 カラス
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7.ピンクという色

 私は、ピンクという色が苦手だ、ピンクの持つ女の子的イメージが苦手なのだと思う。幼い頃、男の子に似合わないと言われた時、私は傷ついたというよりも、確かにと素直に納得した。


 肩にもとどかない短い髪、焼けた肌、ショートパンツにTシャツ姿でセミを取る姿に、ピンクを飾る気にはなれない。望んだ訳でも望まなかった訳でもないが、その頃から何となくピンクを避けている。


 周りもまた、暗黙の了解で私にピンクはあてない、お土産のちょっとしたキーホルダーやプレゼントなどのリボンの色に、その暗黙の了解は何となく反映される。


 そのことになんの不満も疑問もなく、むしろ私というキャラクターを分かってくれていることを嬉しく思っていた。


 しかし、最近になって少しだけ、ピンクを取り入れたくなってきた。ピンクの似合う女の子とまではさすがに思わないが、多少のアクセントとして、数ある色の選択肢の一つとして、ピンクを使いこなせる人になりたい。


 そう思い立った私はまず、ヘアピンを購入した。いきなりハートはハードルが高かったため、ヘアピンの装飾は小さな花の付いた物。花といっても花弁はとがっていて、可愛らし過ぎないシャープなデザイン、そこに淡いピンクがグラデーションを作っている。そんなデザインであっても尚、隣の色違いを手に取ってずっと迷っていた。


 結局、両方買うことで落ち着き、やっと買うことが出来たかと思えば、今度は鏡の前でそのヘアピンを付けたり外したりと迷い続けている。


 色気も女の子らしさも無い低音の呻き声を上げてリビングのテーブルに突っ伏した。悩み事など慣れないことをして頭が疲れていた。


 突っ伏して横になった視界に黒いシルエット。目が合って、私は顔を上げた。ソファに座ったクロの目の前にヘアピンを差し出す、一つはピンクの花、もうひとつは無難なグリーンの色違い。


「どっちが良いと思う?」


 クロはもちろん答えないが、逃げることもなく、グリーンの瞳をこちらに向けて、前足をきちんと揃えて座っている。その姿はこちらの言葉を理解し、話を聞いているように見えた。


 クロは相変わらず触らせても、抱かせてもくれなかったが、聞いてくれる猫だった、聞いてくれる風の方が正しいかもしれない。


 人が喋っていると、そちらを向いてじっとしている。母は以前からの独り言をクロに向け、何かと話しかけているし、自分も家にクロと私だけなら時々話しかける。仕事から帰った父が猫相手に愚痴をこぼしていたときには、さすがに見なかったことにしたが、とにかく普通の猫とは違う形で家族に馴染んできていた。

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