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クロ  作者: 里見 カラス
49/54

49.猫には


その時、また扉が開いた。そこにはメガネの姿。走るように歩いてきたメガネは部屋に入ると、部屋の棚を開き、何かを取り出している。手があいたというわけでは、なさそうだ。


それでも、私は相手に詰め寄る。


「この机の下のネズミはなんですか?」


「実験用ラットです。」


 メガネは、顔も上げずに短く答える。


「あの、私さっきスイッチ押したんです。そしたら・・・」


 メガネは一瞬だけ手を止めた。しかし、平然と返す。


「そうゆう実験ですから。」


 そして、もう話は終わったとばかりに立ち去ろうとする。私はその後ろ姿に食い下がった。


「猫でも可能ですか?猫と・・人でも・・・」


「・・・・・。」


 メガネは立ち止まり、少しだけ顔をこちらに向けた。


「猫に、人の脳は動かせませんでした。」


 彼はそう言い残し、今度こそ飛ぶように歩いていってしまう。


「ちょっ、それって・・・・・。」


 メガネの姿はもう見えない・・・というより、なんだ今のは。“動かせませんでした。”なんで完了系なの?


とにかく、さっきの看護師が言っていた、一般病棟にいるメガネの身内に、話しを聞くことは出来ないだろうか。そう思って、私は部屋を何気なく見渡した。


そういえば、私がここに入った時、まず花が無いなと無意識に思った、こんな花の以前にコーヒーを置くスペースも確保出来なさそうな部屋で。


思い浮かんだのはメガネの母、黒峰さん、花を手に、息子に会いに来たと微笑んでいた。息子の職場に訪ねるのは過保護な親だからと考えるにしても、花を持って行くのはおかしい、あのメガネに差し入れるのなら、もっと別のものだろう。この部屋を見る限り、彼には必要ないし、現に無い。


じゃあ、あの花は誰のために?


―――お兄ちゃんが来て喜んでいただけ、


浮かんできたのは私が黒峰家の庭の前で、クロについて謝った時の黒峰さんの言葉。そしてもう一つ、道案内をしてくれたおばあちゃんの言葉を思い出す。


―――黒峰さんとこにも、あんたくらいの息子さんがいたわ。


 あの言葉がもし、メガネでは無い、別の人をさしていたとしたら・・・・・・?


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