39.膝を抱えて
息を吐き出しながら携帯をたたみ、顔を上げるとソファの上にはいつもと変わらないクロの姿が見える、変わらないと言うのはおかしいかもしれない、メガネの母、黒峰さんの話ではわんぱくで甘えん坊な猫だったらしいのに、この家ではこんなにもおとなしい。
今はテスト期間中で早い時間に私は家に帰ってきている、外はまだ明るい。白い雲が調度太陽の光をゆるめていて、流れる風が心地よい。そばのソファに座ったクロも風を受けて心地良さそうにしている、身動き一つしていないのに、そんな気がした。
その時、雲が流れて太陽をおおっていたものが外れた、太陽の光が窓から差し込み、調度庭の前を通りがかった車に光が反射して突然の光が更に強くなる。焼き付けるような強い光で一瞬クロを見失った。
―――クロ
思わずそう心の中で呼びかけていた。
次の雲が太陽を再びおおい、光が弱くなればクロが同じ場所に座っているのは当然なのに、ソファの上で動かないクロを見てほっとしている自分がいた。窓から入ってきた風がさっきより冷たく感じる。
猫は飼い主に死に様をさらしたりしないという話を思い出した。死期を感じとり、そっと姿を消してひと目につかない場所でひっそりと死んでいく。
車に轢かれた野良猫は時々見かけるし、仕方がないと思うが野良猫が老いや病に倒れた時、その猫はどこに行くのだろう。
その時、静まり返った部屋で携帯のバイブ音が響き、私は我に返った。サブディスプレイがメールの受信を知らせて点滅している。〈from黒峰〉の文字がスクロール地図で表示され、慌てて携帯を開いた。
from黒峰
sud Re:
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本文
放置すれば命に関わる状態である事は否定できません。捕まり次第連絡を入れて頂けると助かります。
「・・・・・。」
どこかの偉い人たちの使いそうな味も素っ気もない文章、何の説明もしていないし取り付く島もない、私が聞きたかったのはこんな言葉ではなかった。携帯をたたんでソファに投げつける。クロがびくりと顔をこちらに向けたのを感じたが目を向けることはしなかった、する気にならなかった。
そのままソファに身を投げ出す様に座り込み膝を抱えて下を向いた。自分が何故こんなにも腹を立てているのかよく分からない。しかし死ぬとか言われても捕まえる事の出来ない私に何が出来る?
そしてまだ頭の中で何かがわだかまっている、その正体が把握出来ず、膝を抱えた腕に更に力がこもった。




