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クロ  作者: 里見 カラス
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10.訪ね猫

 帰路は暗く、先程までの祭りの喧騒とは打って変わってとても静かだ、花火や爆竹の火薬の香りが鼻をつく、まだ振り返れば祭り会場がすぐそこに見える所にいるにも関わらず、まるで別世界に迷い込んだように感じる。迷い込んだと言うより、いたと言う方が正しいかもしれない、静かな帰り道の中、祭りと言う別世界から日常に帰って来たような、そんな感覚。


 暗い帰り道を照らすのは、思い出したように点在する街灯と自動販売機の明かり。祭り会場の公園を出て最初の街灯は、公民館の傍に取り付けられた物。


 祭りの日、公民館は何部屋かを更衣室として開放する。昼間は賑わっていたが、この時間にはさすがに明かりが消えて、扉には鍵がかかっていた。公民館の扉の隣の外壁には、色あせた自動販売機と掲示板が取り付けられており、掲示板には今日の祭りのポスターや禁煙、エコなどを勧める標語が掲示されている。その中に、一回り小さな張り紙を見つけて目を留めた。


[迷い猫を探しています。]


 見出しの文字を見て、自然と足が吸い寄せられる、すぐにクロのことが浮かんだ。しかも探している猫の写真は黒猫だった。


 クロ飼い主探しについては、母が保健所に連絡を入れてくれたり、地方誌の端に目を通して、時々目にする迷い犬や迷い猫を探す記事を確認したりはしていたが、掲示板には気が付かなかった。


 立ち止まったりしてどうしたのかとたずねる美冬に、訳を簡単に説明しながら携帯を取り出した。


 時間は遅いので、飼い主への連絡は後日として、張り紙の写真を携帯のカメラに収める。探されている猫の名は『ガク』と言うらしい、クロのことかもしれないが違うかもしれない、写真は黒猫が小さく写っていた物を切り取って引き伸ばしたようで、解像度が荒く、猫の形と色くらいしか分からない。

気になるのは抱きかかえられているように見える事だった。クロは人に触れられる事をとても嫌っている、この猫ではないかもしれない。


 それでも連絡くらいはしてみようと、写した画像を保存した。

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