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第1話

 五角形のような形の大陸の中央部に位置し、交通の利便さから多くの冒険者たちが集まる街、ウィンドウベイル。


 街の東側には武具屋、防具屋、道具屋から鍛冶屋、依頼斡旋所や冒険者登録所まで立ち並ぶ、通称、冒険街があった。

 その奥には冒険者達の拠点。いわゆる、ギルドホームが密集する地区、ギルドタウンがある。


 あまり建築物に統一性がないギルドタウン内でも特に可笑しな地区。


 煉瓦で出来た6階建ての家から、近代建築様式で出来た窓も入り口も見当たらない無いビル。

 魔獣の骨や皮で造られた禍々しい教会や空き地の中央にポツン、とオリハルコンで造られた犬小屋サイズの家(中は広く設定されている)が建ち並ぶ地区。


 ギルドタウンの中でも非公式ながら混沌街(カオスタウン)と呼ばれる、ギルドタウン4番街。


 その中でも負けず劣らずに奇天烈な家、明らかにでかいキノコにしか見えないギルドホーム(材質はレザーマッシュ)にて4人の冒険者が集まっていた。




「しっかし、凄かったわね~、リグルオーレント」

「そうッスよ。タゲは外されるわ、吹っ飛ばされるわ、おまけに光属性に至っては回復までされるはで」

「前は火属性も単なる弱点属性だったのにぃ、ダメ一定以下だと通ん無かったしねぇ、もぅ」


「みー、それで。細かい部分での変更点は確認できたのか?」


「う~ん、攻撃パターンはほぼ変更無し。枝の一発目で砂ぼこりが出てたけど、ステータスには影響なかったみたいだし、単なる目眩ましなのかな~。

 今のとこは耐性の変化とヘイト無視したのが目立つぐらいだけど、最低でも後4、5回は当たってみないと分かんないわ、すみみん」

「そうか。しかし、一度のアップデートでここまで変わるとわな」


「でも、仕方ないんじゃない菫さん。新フィールドの開放と一緒に今までのモンスターもかなり手を加えるって、公式でも書いてたし」


 そう答えたのは金髪の青年、ライズであった。


 実際に今回の冒険も攻略組と呼ばれているトッププレーヤー達が新フィールドに流れている間に、解析組とも呼ばれている菫たちのギルド。【めえくぃーん】が他の解析組ギルドとの連盟で既存のフィールドやボスを一気に調べてしまおう。という主旨で誘いを受け、別のギルドに所属しているライズが手伝いに来ていたのだった。


 もちろん、ライズにも新フィールドに行きたかったという思いは多少ある。

 だが、まだ初心者だった頃から色々と面倒を見てくれた菫やみるきーの誘いを無下には断れず、ついて行ったのが宵闇樹の洞窟だったのだ。


 しかし、ライズ本人は菫たちに冒険に誘われたおかげでかなり助かっていた。


 実際、今回のアップデートはU・Aでも役半年ぶりの大型アップデートで、中堅どころの大型ボスどころか、ただの雑魚モンスターにも多くの変更点があった。


 そんな状況で器用貧乏、金食い虫トップ3、準備過多と呼ばれる双銃剣士が何の情報も無く新フィールドに突っ込んで行けば悲惨なことになっていたことだろう。


【Unknown・Adventure(未知への冒険)】


 このVRMMOのタイトルでもあるこの言葉通り、冒険を主軸に置くU・Aでは独特なシステムが多くある。

 単なるフィールドの移動から数種類あり、4時間を掛けてゆっくりと切り替わる昼夜の情景、一つ一つのアイテムに付けられたWeight(重量)と個数ではなく重量で収納量が決まるアイテムボックス。


 レベル制の排除とあらゆるパラメーターを非数値化することで能力、性能の曖昧化を強め、店売りの同じ商品ですら地域によって効果、効能に多少の誤差がでる。

 ファンタジーな世界で、よりリアルな冒険を楽しめる。それがU・Aの対外的な評価だった。




 確かにライズとて新しいフィールドやダンジョンに対して興味はある。


 だが、レベル制を排除したために主に装備や所持品へのデスペナルティが重くなっているこのU・Aでは、全滅=ほぼ全損(全装備耐久値1+特殊アイテムを除き全ドロップ)が常である。

 そういうことを含めてゲームの楽しみだが、避けられるなら避けておきたいのもまた本音であった。


「そうだな。今回は新しい情報が手に入っただけ、マシか」


 ふむっ、と声を漏らす聖騎士、菫はパーティーを解散しようとして残っていたメンバーに声をかけた。


「リアルではもう7時前か、今日はもう解散だな。私はこれから他のギルドメンバーたちとの確認作業があるから残るが、皆はゆっくりと休んでくれ。

 ライズ、アップデート初日からすまなかったな。君の助力のおかげでたいした被害もでなかった、改めて礼を言おう」

「んじゃぁ、あたしも今日は落ちるわ。ちょっと疲れたしねぇ~」

「オレっちは今から、新しいとこに突撃ッスね。ウォォ、今夜は寝れねーぜ」

「寝ろ。それとライズはどうするんだ、できれば明日も手伝ってくれるとありがたいのだが」


「すいません、菫さん。明日はうちのメンバーとの約束があるんで。今日はホームに戻ってアイテムを整理したら落ちることにします」

「そうか、無理を言ってすまなかった。また今度、今日のメンバーたちで冒険に行こう。次はストレルミア平原にでもな」

 

 苦笑する菫とライズ、彼女も悪いことをしたかなと気にしていたらしい。


 その上で誘ってくる以上、やはり解析組の人数が足りないのか。

 お互いに時間が出来たら、また遊ぼうと軽い約束を交わした。


 ストレルミア平原。今回のアップデートで出来たフィールドの一つで、その先にあるダンジョンについての情報は今のところ、まだ、上がっていない場所である。


 菫たちに簡単に礼を済ませたライズは冒険街へと向かい歩いていく。

 ちなみにもう一人のメンバーはキャラの動きがおかしい、細かな反応が悪くなっていると冒険から戻ってすぐにログアウトしてしまっていた。




 冒険街で色々と物色していたライズだが、プレイヤー主催のバザーで見かけた知り合いと話していた。


「災難だったねー、せっかくアップデートしたってのに新しいとこまだ行ってないんしょ、えいちゃん」


 ニッシッシと笑っているのはライズこと、早坂瑛大(はやさかえいた)をU・Aへ誘った友人、陰陽術士(魔術師系正統型上級職)のアトルックである。

 同じ学校に通う彼はU・Aの制作会社のスタッフの甥で、開始当初ユーザーの少なかったU・Aを定価の半額で融通して貰い、そのついでに仲の良い友人達も瑛大と何人かも一緒に売って貰ったのだった。


「そうでもないよ、今までいたモンスターでも変わったのが多かったからね。下手したら足を引っ張ることになってたかもだし」

「成長したね、えいちゃん。昔は物理耐性持ちに剣だけで挑んだりしてたのに」


 手で涙を拭くような動作をするアトルック。


 瑛大はU・Aを始めた当初、事前に情報を集めるということをほとんどしていなかった。

 そのせいか、初心者向けのダンジョンであからさまな落とし穴に嵌まり、孤立し。

 パーティーメンバーが助けにくるまでの間、物理耐性(強)持ちのブロンズゴーレム相手に一人、剣のみで戦い続けたことがあったからだろう。


 転移、移動系の罠が多いダンジョンである。と、攻略Wikiにはしっかり書かれていた情報をまったく知らなかったことで、当時のメンバーからはかなりの顰蹙をかったのだった。


 それからは事前に情報を調べ、入念に準備をして冒険に出るようにしていた。

 特にU・A内でも浪漫職(戦闘能力よりも格好良さや、本人の好みが強い職業)だと云われる双銃剣士になってからはその傾向がより強くなっていた。


「そういや、採算はどう。儲けた」

「魔樹の素材を全部売ったら、どうにかかな。魔弾も使ったし、真弾も使ったけど。一応、真弾は菫さんのギルド持ちだから、使えなかった1発が一番の報酬かもな」

 

 ふーん、ならいいか。と簡単に言ったアトルックだが、本心では瑛大が利用されていないか心配していたのだろう。


 人がいい瑛大は理由もなく誰かの頼みを断ることがほとんどない。

 ただ、そこにつけ込まれることが多いのもあって、友人としてU・Aに誘ったアルトックは瑛大にお節介を焼くことも多い。

 しかし、ドロップ以外にもそれなりの報酬を貰っているのならいいや。とその話題を切ることにし、その後も新フィールドや変更点のことで話は続いていった。




「そういや、えいちゃん」

 

 ん、なに。と相づちを打つと、アトルックはここ最近の掲示板で話題になっていたこと。

 プレイキャラの動作不良について話しかけてきた。


「叔父さんに聞いた話だとさ、バックアップ用のデータとかが何故か消えてるんだって。壊された後も無いし、サーバーに侵入された跡も無いって不思議がってた」

「そういえば、教皇のキャラの人が動きが鈍いって言ってたけど。関係あるの」


 確か、今日の冒険で回復役の人の動きが妙にぎこちなかったよ、とアルトックに聞く。

 以前に一緒に戦った時に比べ、回復や強化(バフ)のタイミングにどこか精細がなかったことをライズも感じていたからだろう。


「それ、多分だけどモーション用の補助記憶あたりが消えてるんじゃないかな? ほとんどのVRで一人一人用にデータを構築するらしいし」

 

 確証はないけどね、といった後は付け加えるようにアップデートの不具合かも、とも言っていた。


 アルトックと別れた後、ギルドタウン2番街にあるライズの所属するギルド【Vapor trail(飛行機雲)】のホームに入ろうとした時。

 瑛大は自身の身体から何かを引っ張られている感じがした。

 自分の身体から強制的に引き摺り出されていく何かを……


 同時に襲ってくるU・Aの疑似痛覚とは違う、本当の痛み。


 逆に頭に入ってくる何か、と少しずつ身体が軽くなっていくような、強烈な違和感。


 痛みと違和感が治まる時には、RHG(感応型ヘッドギア)の強制ログアウトによって彼の意識は、確かに彼の身体に戻された。




 しかし、夕食の時間になってもリビングへと下りてこない瑛大は、彼の家族に発見されて病院に搬送された後も意識が戻ることはなかった。

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