エピローグ
世界が解放された時、俺はセルファークから地球へと戻される。
そこに俺の居場所があるのか。セルフは確信が持てなかったようだが、俺には解っていた。
俺にはまだやるべきことが沢山ある。まだ、死ぬわけにはいかない。
「―――日本、か」
俺は消えなかった。
器がなければ魂は消滅する。しかし、俺の肉体は魂無きままに生き続けていたのだ。
病室で眠り続けていた俺の身体。原因不明の植物状態となっていた俺は、奇跡的に6年ぶりの目覚めを迎える。
見慣れた、懐かしい世界。ここには魔法はなく、魔物も居らず、航空機もほとんど普及していない。
なによりこの世界には、大切な皆はいない。
「真山さん、聞いてましたか?」
「あ……すいません」
6年も身体を動かさなければ、目覚めた後は当然リハビリ漬けの日々だ。
看護師さんに注意されつつ、少しでも身体の自由を取り戻すことに集中する。
「っつー、うご、かねぇ……」
それでもリハビリの途中でつい、考えてしまうのだ。
もしかしたら、セルファークなんて世界はなかったのではないかと。
俺はずっと夢を見ていた。何らかの病気で眠り続け、異世界を冒険する夢を。
ソフィーも、マリアも、ナスチヤも、ガイルも、キザ男も、マキさんも、キョウコも、リデアも、ニール達も……皆、ただの妄想だったのではないかと、そう考えてしまうのだ。
セルファークなんて、俺の脳内で完結した世界なのではないか、って。
……けれど、その反証もある。
家族に買ってきてもらった航空力学の専門書。6年前の俺では読めなかったそれを、今の俺は楽に読める。
魔力と化学の差はあれど、基本は同じ。ならば、これこそセルファークが実在した証拠とはいえないだろうか。
「看護師さんに見付かったら連れ戻される、早く行かないと……」
必死に階段を登る。やがて辿り着いたのは、鍵の掛かった屋上の扉だった。
拾った針金で鍵を開ける。解析魔法なんて使えなくたって、このくらいの機械は簡単に把握出来る。
押し退けるように扉を開けば、蒼穹の空が俺を出迎える。
「ぐへっ」
転がり倒れ、そのまま大の字となって空を見上げる。
建物の形も人間の肌の色も違う世界。けれど、空だけは同じだ。
「っと、寝てちゃ駄目だよな」
俺には立ち止まっている暇はない。世界解放は、未だ果たされていないのだから。
なんとか立ち上がり、両手を広げる。
涼やかな風が手の平を切り、ふわりと浮かび上がる錯覚を覚えた。
「必ず戻る。あの―――」
―――銀翼の天使達が生きたあの世界に。
「だから、待っていてくれソフィー」
一条の飛行機雲が、空に白線を引いていた。
銀翼の天使達 完
銀翼の天使達はこれにて完結とさせて頂きます。
他にもアップするかもしれませんが、とりあえずしばらく休みたい気分です。
最後の醜態にも付き合って下さった皆様、本当にありがとうございました。




