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銀翼の天使達  作者: 蛍蛍
集まる仲間たち編
61/85

必然の夢と母の決意 3

主人公は登場人物のすべての女の子と恋をせねばならない

作者が尊敬する二十一世紀の作家の言葉より

 俺は過去をやり直すのではなく、ナスチヤが死んだ歴史を選んだ。

 過ごした時間の比重、といえばそれまでなのかもしれない。ナスチヤを見捨てたと責められれば反論出来ない。

 だが、俺はむしろすっきりした気分だった。

 俺達はやっと受け入れたのだ。ナスチヤが死んだという現実を。

 朝に少し話した様子から、ソフィーもどこか晴れ晴れした表情に見えた。きっと俺と同じ心境なのだ。

 忘れるつもりはない。けれど、もう少し未来を見て生きていこう。


「さて、今日も頑張るか」


 今日もセルファークは快晴だ。








 朝イチで時計台を訪れ、レオナルド氏に提案した。


「資金はこちらで用意します。村ごと引っ越しませんか?」


「理由ぐらい説明しろ、馬鹿者」


 ごちん、と杖で殴られた。痛い。


「……訳あって、この村は狙われます。俺達は帝国寄りの集まりなので、攻めてくるのは統一国家、或いはそれに匹敵する戦力を有する『民間組織』でしょう」


 民間組織が何を指すかは、説明するまでもない。


「む、なにが狙いだというのだ?まさかお前達とは言うまいな」


 厄介事を持ち込むなら出ていけ、と鋭い視線で告げるレオさん。村には戦える人間などいない、この取捨選択は当然の結論だ。


「敵の狙いは教えられません。知れば危険が及びます。ただ、それはこの村にあるものであり俺達が持ち込んだ訳ではありません。そして、移動させられるようなものでもないです」


 つまりは、危険に晒されたくなければ村を出ていくしかない。そう断言する。


「……必要な物なのか?」


「お答え出来ません」


 リデアの指示に従っているだけなので、俺も詳しくは知らない。薄々予想は付いているが。


「なるほど、この村にあるものとはさしずめ統一国家の弁慶の泣き所か」


 そう考えてしまうのが自然か。間違いを正す理由もないので無言を貫く。


「……後で人を集めよう」


 しばしの沈黙の後、レオさんは承諾とも取れる返答をする。


「残りたいという者もいるだろうから、その者達の意思は尊重してくれ」


「その場合は、命の保証はしかねます」


 戦闘となった場合、村人を完全に守るのは不可能。それが、リデアと話し合った結論であった。








「皆の者、わざわざわしの為に時間を割いてくれたこと、感謝する」


 リデアは、広場に集まった村人達の前に立ち頭を深く下げた。


「め、めっそうもねえ!頭を上げてくれ!」


「リデア姫、下々の俺達にそんな……」


 元王族の意外な行動に戦く住人達。これが王族の一般市民による普通の反応だ。


「よせ、わしは今は姫ではない。ただの小娘じゃ」


 キリッと真摯な目で首を横に振るリデア。


「はいはいテンプレテンプレ」


 親近感を抱かせ警戒心を解くのは彼女の常套手段だ。

 それとなく俺を睨むリデア。村人に悟らせていないあたり、器用な奴。

 そんな彼女だが、わざわざ地下室から出てきたのだ。さぞや感動的な演説を行い人々を納得させるのだろう……と思いきや、彼女の話術は思いもよらぬ方向へと進む。


「……見て見て見て見て!この土地は完全な私有地であり、しかも税金なし!ついでに土地がもう一個、おまけに害獣避けの柵を付けてこのお値段!今ならなんと―――」


 売り込み、というかテレビショッピングを始めやがった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


「なんじゃ、今いいところなのに」


 リデアを広場の端に連れ出して小声で問う。


「おい、どういうことだ。ちゃんと説明するんじゃないのか」


「しとるではないか。嘘は言っとらん」


 タヌキ全開である。


「危険が迫っとるから逃げろ、よりも良質な土地があるから引っ越してみないか、の方がそそるじゃろ。しかもタダじゃ」


 ちなみに避難場所は帝国王都フュンフの近く、新たに開拓された土地だ。

 正しくは今回の件で開拓した。公共事業扱いなので金は帝国持ちである。


「さすがに胡散臭い」


 旨い話には裏がある。それは世界共通語だ。

 しかしリデアは小悪魔なしたり笑顔を浮かべ、こう主張する。


「そこはホレ、わしの人徳じゃ」


「ソウデスカ」


 最早何も言うまい。


「では戻るぞ、これからミニライブなのでな」


 歌うんだ、やっぱり。

 旅の最中も各地で歌って踊って、信者……ではなくファンを集めていた。

 いざとなれば命すら投げ出す、見事なファン達である。ファンこえー。


「あの人脈がどう必要とされるのか、いまいち解らない……」


「はむっ」


 耳たぶを噛まれた。


「いやんっ!?」


 驚いて振り替えると、してやったりとにやつくファルネがいた。


「ファ、ファルネ!?いつからここに!」


 想定外の事態に仰け反って驚く。


「驚きスギじゃない?朝到着したのヨ、ちょっと探したワ」


 出会い、ないし再会より3年。ほぼ同い年のファルネも当然大人となり、なかなかの美少女となった。

 これで裏の顔が見え隠れしなければ、実に目の保養となったのだが。友人だが仲間とは成り得ない、微妙な距離感だ。


「見てたけどナニやってんの?人をこの村から追い出して、屋敷の方じゃ工事の準備しているシ」


「……見ての通りだ、俺達もそろそろ拠点が欲しくてな。ここならガイルも無闇に暴れられないだろ?」


 予め用意しておいた嘘を吐く。

 ファルネには魔法陣に関して一切情報を与えない。それは、リデアにきつく厳命されていた。

 そこでとってつけた理由が、故郷に危険が及ぶ状況ではガイルもやりにくいだろう、という少し強引な論法だった。


「うさんくさーい」


 見破られた。


「お兄ちゃんらしくない、堅気に危険が及んででも勝ちたいだなんてヘン。本当にソレダケ?」


「それだけだって、まあ強いて上げるならここはレーダーが使いやすそうだし」


「レーダー作ったの?君も大概チートだネェ」


 これはばらしたって構わない。どの道隠し通せることではないし、出力と精度は到底ガイル達の使用するレーダーには及ばない。先手を取られるのは確定だ。


「それに、ガイルが昔住んでいた場所だからって気にするカナー?」


「えっ、まじで?」


 素で反応してしまう。

 ガイルの心には、この村に対する郷愁もないのか?そんなことはない、と思いたい。


「まあ、ガイルはともかく。ファルネは何をしていたんだ、しばらく見かけなかったが」


 誤魔化し半分に話題を逸らす。彼女の姿が見えず気になっていたのは本当だが。


「お母さんを探ってた」


 フィオさんを?


「最近、お母さんが変なことをしているの。なにか作戦の準備かも」


「仮にも敵対組織にばらすなよ」


「それがねー、ガイルの指示じゃないミタイ。独断でやっているノ」


 フィオさんとガイル、不仲なのだろうか?

 昔はフィオさんはガイルに恋慕していたそうだが、気が変わった?


「怪しいワ。あれはなにか企んでいる顔よ、間違いナイ」


「ふーん」


 彼らの関係は、よく判らない。






 リデアのコンサートが終わり住人達の如何を聞いたところ、結局半数が残ることを選んだ。

 勿論村にも地下シェルターや高速船といった安全対策は用意する計画と準備はあるが、それでも統一国家が人質として彼らを捕らえる可能性も残されている。


「こいつの命が惜しければ抵抗するな」と言われようが、こちらが引く選択肢は存在しない。


 やはり、多少強引でも強制移住させるべきだったのではないか……そんなしこりを残しつつ、俺は防衛設備建造の指揮へと移った。








 屋敷を中心にコンパスで弧を描くように、何重にも塹壕が掘られてゆく。

 対空砲が各所に設置され、発電所等の設備が屋敷内部に急造される。

 トーチカの建設には少々時間がかかりそうだが、地上兵器の侵攻阻害には不可欠な施設だ。早めに用意しなければ。


「とりあえず、現状問題はないか」


 屋敷の要塞化作業。初日は測量で潰れてしまったが、今日からはいよいよ作業開始である。

 近代の防衛戦においては堅牢な防壁は重視されない。勿論塹壕は掘られるし建築物は爆撃に耐えられるものが好ましいが、敵を迎え撃つにしても基本は First look,First shot,First kill。つまりは敵より先に発見し、敵より先にぶっぱなし、敵より先にぶっ殺せ、だ。

 その対策として、早期警戒機代わりの小型飛宙船(エアシップ)を十数隻用意した。


「どんな具合だ?」


「おう、厄介だぜもいつらはよ」


 草原にて最終調節が行われている小型級飛宙船の整備士に様子を確認する。数も多いので大変そうだ。


「無人で半永久的に浮かべておくのは出来そうだ、ロープで地上に繋いどきゃいいんだからな。管制とのデータリンクも問題なくいけるぜ」


「まあ、ただの(やぐら)だしな」


 自由に移動出来てこその早期警戒機だが、これは最重要防衛拠点を守ることに特化した固定式の目。

 固定するのなら地上に施設として固定したレーダーサイト……山の上にある球体の建造物、といえば判るだろうか……の方が安上がりだが、あえて俺は船にレーダー装置を載せることを選んだ。

 理由は、戦術の上でレーダーが把握することを求められる範囲である。

 強襲された場合、もっとも対処が難しいのはガイル陣営の母艦バルキリーだ。マッハ3で飛行する巨大航空機であるバルキリーは、5分間で300キロメートルも前進出来る。

 5分間とは、戦闘機が緊急発進する限界の時間。つまりは魔法陣を守る為には300キロ彼方の敵を察知しなければならない。

 半径300キロメートルの範囲、北海道よりも広大な面積だ。それをカバーするには、どうしてもレーダーを分割する必要がある。

 更にいえば、俺の自作したレーダーは残念ながら性能が低い。元より質を数で補う必要があったし、地上に固定したレーダーでは死角がどうしても生まれてしまう。その上、感知した機体の規模と距離はだいたい判るのだが、方向は曖昧なのだ。

 そこで、装置を船に積み込み村を囲むように配置することにしたのだ。これならどの船が反応したかで方位が判る。

 村を囲むように、といえど半径300キロメートル。他の村や町を幾つも含んでいるし、行き交う船や飛行機も多い。

 なので、レーダーはあくまで察知用。怪しい機体を発見次第偵察機を向かわせる必要がある。

 飛宙船はそれでいいだろうが、バルキリーだった場合は四の五の言わず全力戦闘準備だ。偵察する余裕なんてない。

 なんとも危うい綱渡りだが、これがゼェーレスト防衛のドクトリンである。

 こんな玩具のようなレーダーだが、それでも最新装備なのだ。

 通信妨害に備え遠隔操作の通信手段も暗号化された魔力共振と電波式、光学的レーザー通信まで装備。これだけ用心しとけば、統一国家の技術では確実に出し抜ける。

 ガイル陣営のフィオ相手にはちょっと不安だが。

 なにせファルネの堕天使を構成する技術はこの世界では完全なオーバーテクノロジーだ。さすがに詳細な調査はさせてもらえていないが、無数の浮遊砲台を混線せずにどうやって制御しているのかと思いきや、なんとクリスタル共振通信でデータリンクしてやがった。

 早期警戒機とアナスタシア号を繋ぐ原始的なものではなく、ほぼリアルタイムでやりとりする高性能なものだ。

 セルファークの技術レベルを完全に超越している。俺も帝国の巨塔にて地球の航空機技術を度々盗んでいるが、それでもフィオの技術水準は異常だ。

 心神の技術を得ているのだろうか。メカニックとしては敬意を抱くのに、性格がアレなのが残念過ぎる。


「問題らしい問題は、ソフィーとマリアが悲しそうなことだよな」


 気持ちはよく解る。屋敷は勿論、それを囲む草原という額縁は実に美しかった。

 それを自らの指示で掘り返しているのだ。気落ちもするというものである。

 だが、なんにせよ―――


「旅の全ては、やはりここに収束するということか」


 ……当然だ、俺達はずっとこの地を目指して旅していたのだから。








 一週間。それだけあれば村を、屋敷を守る準備が出来る。


「守るのは屋敷だけ、なんだよな」


「そうじゃ」


 リデアは肯定する。

 一通り指示を終えて屋敷の地下室に降りてみれば、相も変わらず魔法陣に目を凝らす彼女がいた。

 食事や最低限の用事以外ではずっと地下だ。カビが生えていないか心配である。


「狙われるのは屋敷、厳密に言えばこの魔法陣じゃ。それ以外を守る必要もないし、狙われる理由もない」


「直接的には、な」


 先に述べたように、彼等を人質にされる可能性もある。ヨーゼフは妙に自身の美学を重視する奴だからそんなことはしない……と、思うが。

 更にいえば、守る範囲は狭い方が楽だ。村全体を防衛するのは相応の人員が必要となる。


「ダンジョン内に線路を敷設して、速やかに住人を避難させる設備も用意している。計画通りに作戦遂行すれば、犠牲は出ないはずだ」


 計画通り。いい響きだ、なまじ簡単に成功しないが故に。


「いかんな、目がしょぼしょぼしてきた」


 目頭を揉むリデア。おっさん臭い。


「ちょっと外に出てくる。そろそろ休憩させてもらう」


「ご自由に、別に急いでくれとは言ってねぇよ」


 俺一人でここにいたって仕方がない。一緒に地下室から出る。

 廊下は埃一つなく清掃されきっている。メイド達に餌食となった結果だ。


「ふわぁ、船に戻るのも面倒じゃー」


 のどちんこが見えそうなほど大きな欠伸をするリデア。残念過ぎる。


「屋敷で寝られる場所はないかの」


「寝室は幾つかあるけどさ、あ、そうだ」


ナスチヤの書斎に案内する。


「この部屋って開けられるか?」


 屋敷で唯一、結界で封じられた部屋。開けてみたかったのだが、リデアの手が空かず忘れ去っていた。


「せめて別のタイミングでたのみくりー」


 日本語が睡魔で狂っている。俺達が普段話しているのはセルファーク語だと推測しているが。


「ん、これは……キーワードで開くようじゃな。なにか聞いておらんか?」


合言葉(キーワード)?うーん、開けゴマ?」


「なんじゃそれ、胡麻?」


 違うかやっぱり。


「レーカ君愛してる」


「アホか」


「ソフィーかわいいよソフィー」


「違うようじゃ」


「ガイルもげろ」


「いや、夫じゃぞ?」


「リデアちゃんマジたぬき」


「たぬたぬ」


 どうしよう、まったく思い付かない。

 なにかヒントはないかと周囲を見渡してみれば、窓に違和感を感じた。


「……あれ、この植木鉢って造花?」


 窓枠に飾られていた植木鉢はなぜか枯れていなかった。不自然だ。

 何気なく持ち上げ、裏を見る。

 そして、息を飲んだ。


「どうしたんじゃ?」


「これ、は……」


 たった一行、鉢の裏に書かれた字を読み上げる。


『おかえりなさい』


 ガチャン。

 扉から金属が動く音が聞こえる。もしやとドアノブに手を掛ければ、扉は簡単に開いた。


「これがキーワードだったのじゃな」


「あ、ああ。いくぞっ」


 軋みも漏らさずドアは開かれる。

 扉の向こうに広がる、4年前となんら変わらない景色に目頭が熱くなった。


「植木鉢の裏なんてベタ過ぎて無用心ですよ、ナスチヤ……」


 4年越しの言葉は、確かに届いたのだ。

 ―――ただいま。






 過去に戻ったのは昨日なので、室内の様子は鮮明な記憶として残っている。

 この部屋は個人レベルの応接間としての役割もあるらしく、対面の大きなソファーがあった。


「おー、状態維持の魔法がかかっておったな。綺麗なソファーじゃ」


 そう言って、リデアはソファーに飛び込むように倒れた。

 すぐに目を閉じて動かなくなる。無防備なお姫様だ。

 他の寝室は準備中だろうし、屋敷で寝れる場所はここだけだろう。とはいえリデアをここに放置していくのもよろしくないか、これでも女の子だし。


「俺もここで休憩するか」


 ソフィーが昨日、ないし4年前に使っていたティーセットを準備する。


「紅茶って賞味期限あるのかな」


 缶を開けると紅茶の香りがする。大丈夫だろ、たぶん。

 魔法で水を用意してお茶を煎れる。一口飲んで、眉をしかめた。


「まずい。やっぱ4年前の茶葉は駄目だったか」


「そんなことはなかろう……茶葉の劣化は主に香りじゃ、それがあるならまだ飲めよう」


「リデア?寝ていなかったのか?」


 いつの間にか起き上がっていたリデアは、俺のカップを一口飲んで溜め息を吐く。


「単に煎れるのが下手なだけだ、ポットを貸せ」


「間接チューだったのは気にしないのな」


「喉が乾いた、一杯飲んでから寝る」


 二人して好き勝手ことを言い合っているだけ、まさに会話のドッジボールである。






「―――ん、いかん。寝てたか?」


 気付けば俺もソファーに横になっていた。


「リデア?……どこに行った?」


 バルコニーへの硝子扉が半開きになっていた。

 外へ出ると、一面真っ赤に染まったゼェーレスト村。


「夕方じゃないか、寝過ぎた……」


 さぼっていたと怒られる、いや多少はさぼってもいい身分なんだけど。


「ん、起きたのか?熟睡しておったな」


「俺も疲れてたのかもな」


 夕日を背負い俺の方を向くリデア。波打った金砂の髪が揺れる様は、まさに女神。


「ん?なんじゃ、わしの美貌に見惚れたか?」


「まあな」


 おかしげにくすくす笑う彼女だが、まあ間違ってはいない。


「は?」


 がびーん、と口を馬鹿みたいに開けるリデア。


「口説かれているのか、今わしは」


「違うと思うよ?」


「なんじゃ、初めてのナンパ経験かと思ったのに」


 落胆した様子のリデア。がっかりするようなことなのだろうか。


「リデアに言い寄る奴っていないよな、そういえば」


 えらい美人なのに。


「言い寄られても困るがな、かといって婚期を逃すのも癪じゃ」


 腕を組んで数瞬考えた彼女は、やがて結論を出す。


「よし、お主の友となってやろう」


 もう友人関係だと認識していたが、これって裏切りじゃね?じゃね?


「そしてお主の妻等と共に、この屋敷で暮らすのじゃ」


「その心は?」


「昔、ある女がいた」


 あれ、長くなりそう。


「ある男に恋慕していた女は、自らの親友を男に宛がったそうじゃ」


「なんでまた」


「嫉妬する為じゃよ。男女の機微による心の揺さぶられが愛だというのなら、結婚するより嫉妬する方がよほど長く愛を味わえる」


 よほど偏屈な奴の昔話だな。


「口説かれているのか、今俺は」


「違うと思うよ?」


 ミステリアスというか、意味不明な女性だよなリデアって。


「よほど暇になればそうしよう。もっとも、わしはきっとその頃は帝国の玉座に座っているだろうが」


 革命する気はあるんだな、3年間行動を起こさなかったのでうやむやにすると思っていた。


「……全てが終わった後のことを、考える時が来ようとはな」


「ん?」


「やっと見付けたのだ、と思ったら感慨深いものだ」


 遠い目でそう言って、手すりに腰掛け足をふらふらさせる。


「危ないぞ」


「わしは魔法で飛べるが」


 そりゃそうだけど。


「見付けた、ってアレのことか?」


 地面を指差して魔法陣のことかと訊く。


「うむ、アレのことじゃ」


 彼女もまた下を指差す。二人揃って地面に指を向けているのは、きっと端から見れば滑稽だ。


「これで我々が一手有利じゃ。小さな一手じゃがな」


「勝てるのか?」


「この屋敷、あの魔法陣を守り抜けば我らの勝ちじゃ」


「誰から守るんだ?」


「全てから、じゃ」


 100人規模の航空事務所vs世界か、実に優勢になったものだ。爆笑レベルである。


「これから戦いは変化する、魔法陣を奪い合うものになるだろう」


「やれやれ、平穏な時期は終わりそうだな」


 せいぜいこの拠点がばれるのが遅れてくれれば有り難い。


「のう、お主はこの世界に来て良かったか?」


 どこか遠慮がちに、上目遣いで問うてくるリデア。

 セルファークに来て良かったか、か。

 地球にいた頃には考えられないほど殺伐とした日々。痛いことや死にかけたことだって多々ある。

 かといえど、嫌なことばかりではない。旅は楽しいし、恋人達は可愛いし。


「大切な繋がりが沢山出来た。良かったよ、こっちに来て」


 戦うということは選ぶこと。それをいつか後悔するかもしれない。

 けれど、それでビビるのはあれだ、カッコ悪い。


「そうか、良かったか。ならいいのだ」


「ああ。だから、しっかりと俺を召喚してくれよ」


 驚いた表情となるリデア。


「き、気付いていたのか?」


「まぁな、そりゃ気付くさ」


 俺を異世界へと導いたロリ神、その声はリデアと同じ響きだった。

 技術的にも魔導姫なら、セルファークと地球と繋ぐことは可能っぽい。その方法はリデアと出会って割とすぐに提示されていた。

 しかし奇妙だったのは、彼女には俺に関する心当たりがなかったこと。召喚した当人なら俺は既知のはず、だがそれらしい素振りを見せるどころか不審者扱いされた挙げ句散々警戒されたものだ。

 だがその疑問も昨日遂に解氷した。


「あれは時間移動の魔法陣なんだろ?」


「そうじゃ、あの魔法陣は時間制御魔法。わしはきっと、これから過去に戻ってお主を召喚する」


「っていうか昨日、間違えて飛ばした上に脱け殻の肉体を部屋に放り込んで放置しやがったな」


「す、すまん……不意の誤作動での、とりあえずなかったことにした」


 するなよ。


「いつの時代に飛ばされた?」


「ナスチヤと会ってきたよ」


 それを尋ねるということは、リデアは時間移動に巻き込まれなかったのか。


「む、アナスタシアと?よりにもよってその時代に、いや待てならば―――」


 考え込んだリデアは、やがて唸り出す。


「アナスタシアが時間制御魔法を開発した理由は今まで不明だったが、今回の件で想像は付いた……今日のお主達と会いたいが為に、あの神代の魔法を作り上げたのだろう」


 それだけの為に、あれだけのものを作り上げたというのか。

 ナスチヤにとってはそれほど価値のあるものだったのだ、あの僅かな時間は。


「それはいい。じゃが、これでは矛盾じゃ。魔法陣は以前から存在していたはず……いや違う、次元を越えて遍在していたのか。セルファークとて魔法陣に干渉・複製は出来ぬはずだからな」


「どういうことだ?遍在?」


「どうせセルファークに止められる、今は話せん。いや、だがしかし……くくく」


 目を手の平で覆い、バカ笑いを始めたリデア。


「くくく、はーっはっは!馬鹿げている、なんて滑稽なのじゃ!」


「リデア、頭が……」


「決まっていたのじゃ、お主がセルファークに渡ることは最初から!何がイレギュラーだ、お主がいたからこそ時間制御魔法は作られた、時間制御魔法が存在するからこそお主はチキュウから召喚された!お主がいなければ、世界が運命の輪に閉じ込められることもなかった!イレギュラーではない、お主はセルファークに来るべくして来たのだ!」


 興奮した様子で喚く。しかし内容はややこしくて半分も理解出来ない。


「なんだ、まあとにかく。ガイルも統一国家も、魔法陣を狙っているんだろ?時間を制御出来るなんて最高のインチキだからな、そりゃ奪い合いになるわな」


「くはは、はは……いや、そう簡単な話ではないのだがな」


 やっと笑いが収まったリデアは、目尻に浮かんだ涙を拭いて俺の見解を否定した。


「んんっ?よく考えれば、昨日の魔法暴走は不自然ではないか?ナスチヤがお主等に反応するトラップを仕掛けていた、と考える方が自然じゃ」


 リデアが時間移動しなかったのを鑑みると、確かに納得がいく。


「そうかもしれないな、君のミスじゃなかったか。すまん」


「よい。なんにせよ、いよいよ覚悟を決めんといかんの。どの道お主をわしが召喚するのは確定じゃ」


「おう。どーんとやってくれ」


 両手を広げスタンバイする。


「いやお主の体は借りんが。しかし、お主はそもそも信じるに値するのかの?」


 イタズラっぽい流し目をしてみせるリデア。


「4年の付き合いなのに、未だに信用されてないのかよ……」


「ここはポイントオブノーリターンじゃ、召喚してしまえば後戻りは出来ぬ。お主が世界に不幸を招かない、という保証はないのじゃ」


 そんなことやるかよ。


「カクダントウを製作したくせに何言っとるんじゃ。レーカはとんだ劇薬だ、特効薬ならばいいが猛毒の可能性も捨てきれん」


 だから、と彼女は俺を真っ直ぐ見据える。


「お主を信頼したい。なんとかせよ」


「すごい無茶振りだな……」


 なんとかせよ、って、どうしろと。


「お主を寄越せ。代わりにわしをやる」


 そう言い、リデアは俺にひょいと間合いを詰め―――


「―――!?」


 飛んで後ずさる。


「な、なにすんだ!?」


「ははは。これはなんだか、生々しいものじゃな」


 赤面するリデアは人差し指を唇に当て、ウインクする。


「お主とは二度目じゃな、最初はラスプーチンとの戦いの時じゃ」


 あれは魔力譲渡の手段であって、今回は魔力のやりとりなどしていない。


「言ったろう、嫉妬こそ最高の愛だと」


「ほ、ほ、本気……なのか?」


「嘘じゃ」


 どっちだよ。


「忘れたか?わしはたぬき娘なのでの、まともに相手にするだけ無駄じゃぞ?」


 解らない、こいつのことは未だに解らない。


「さて、対価は頂いたしの。善は急げじゃ、さっそく地下室に行こうぞ!」


「今からか?」


 手を掴まれ、リデアに手を引かれて屋敷に戻る。


「ちょ、跳び跳ねるな」


「うるさいっ」


 にこにこ笑顔のままスキップしつつ廊下を駆ける。なんだこのテンションは。


「なあ、さっきのどういう意味だ、困るぞホント」


「困るって何が?わしとお主はオトモダチ、じゃ」


 気にするな、と解釈していいのだろうか。


「ああ、わしも人並みに可愛いお母さんになりたいという夢があるのでな。その時はよろしく」


「なにをよろしくしろというんだ……」


 記憶を消すような配慮はしてくれなさそうである。


「これも嘘じゃ」


 だからどっちだよ。






 魔法陣の中心に立ったリデアは、大きく深呼吸をして儀式を準備する。


「具体的にはどうやるんだ?」


「根本的には時間移動は空間転移と同じ原理じゃ。この魔法陣を利用すれば、チキュウへと門を開くこともそう難しくはない」


「どうやって真山零夏(まやまれいか)って個人を探し出すんだ?あっちは世界人口60億人越えているぞ?」


「多過ぎじゃろそれ。お主をピンポイントで召喚する方法じゃが……まあ適当じゃ、ランダムでいい」


 えっ。


「その結果お主が召喚されたという事実は確定しておるのだ、60億分の1の可能性は約束されておる」


「そういうものか」


「そういうものだ。とはいえ一気にやるのは難しいからの、一旦過去の自身へと憑依し、そこから召喚するとしよう。時間帯は昼過ぎがいいな、11歳の頃ならば昼飯の後は部屋で勉強の時間じゃったし」


「ん?俺が召喚されたのってリデアの部屋だったのか?」


 光に満ちた真っ白な部屋だったけど。


「それは幻覚魔法じゃろ、お主はわしの部屋に入ったことがあるからの。召喚時に部屋の景色を見てしまえば矛盾が起こる」


「部屋に入ったことってあったっけ?」


「お主にパンツ奪われた時じゃ!」


 あー、あったっけそんなこと。

 惜しいことをした。帝国の巨塔に置いてきちゃったんだよな。


「魂を召喚したところで入れる肉体、器がないの。まあそれは一時的に魔力で編んでしまえばいいか。魂の情報から外見を製作すれば、チキュウでのお主の顔が拝めるのう」


 なんかそれ、恥ずかしい。

 そんな極端な不細工ではなかったはずだ。たぶん。


「事情説明をして、エターナルクリスタル化して、飛宙船の墜落事故に遭ったわしの弟の肉体に魂をぶちこむ、と。フュンフとゼェーレスト近郊を繋ぐのは難易度の高い長距離転移じゃが、部屋にある落とし穴の底の魔導術式を使えばなんとでもなるかの」


「あったな、落とし穴。本来は地下の牢獄に繋がってるんだっけ」


「うむ。座標を変更すればどこでもいけるから、なかなか便利に飛び込んでいたのう」


 旅の扉かよ。確かに飛び込むものだけど。

 城に旅の扉があるのは基本かなにかなのだろうか。


「……さて、準備が終わったぞ。始めたいのだが、いいか?」


「ああ、頼む」


 リデアは無言で頷き、瞼を閉じて魔力を集中させていく。

 吹き荒れる魔力の奔流。その最中、不意に思い出した。


「そうだ。一応伝えとこう」


「ん、なんじゃ?」


 片目だけ開き首を傾げるリデア。


「ロリ神に出会った時の最初の一言だ。あの時、お前は―――」








「おお、部屋が大きい。声もなんだか違うぞ」


 地下に戻ったリデアは、幼い頃の体の調子を確認しつつ準備を行う。

 部屋を幻覚で包み、自身の姿も光のシルエットで包み、落とし穴の魔導術式の座標を変更。

 ベッドの上に立ち、深呼吸を一つ。


「―――お主は希望じゃ。ああそうだ、わしもお主に会いたいのだ。だから、応じてくれ」


 未来の魔法陣を遠隔操作し、強力な時空超越魔法を展開。

 瞬きの間もない。その瞬間、零夏はセルファークへと出現した。

 目の前に現れた男性にリデアは少し笑ってしまう。見慣れない黒髪の顔が残念だったのではなく、そのきょとんとした間抜けな顔がおかしかったのだ。

 見慣れない服装、だが機械が描かれた本がそれが零夏であることを示している。この本は零夏のイメージだ、服装と同じく所持品として再現されているに過ぎない。


(と、いつまでも待たせてはならんな。説明で時間稼ぎをしつつ、こやつをエターナルクリスタル化させる処理をせねば)


 リデアは零夏と向き合い、隠した魔法を展開。魂への干渉を開始する。

 そして彼自身に教えてもらった最初の一言、テンプレという名の設定を告げた。


「お主は死んだのじゃ」






1章、或いは7章に続く

妙なタイミングで7章に移行する流れなのは、仲間が集まる編にて最後にやってきた仲間は主人公自身だった、がやりたかったからです。



〉点字が読めるのはカウントされるんでしょうかね?

アレを読めるのは凄いですよね。


点字は法則が簡単なので、目で読むことは簡単ですね。指で読むのは到底不可能ですが。

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