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銀翼の天使達  作者: 蛍蛍
村に馴染もう編
6/85

人型ロボットと空飛ぶ船


 週末。

 人をこれほど惑わす単語は、そうそう存在しないと思う。

 学生であろうが、社会人であろうが、異世界人であろうが。

 皆一様に週末という余暇を目指して猛進し、月曜日から毎日の戦いに身を投じるのだ。

 つか異世界なのに曜日あるんだね。地球での曜日の発祥なんて知らないけれど。

 閑話休題。(スマンスマン、話が) (逸れちまったぜ。)

 とかく、ゼェーレスト村でも曜日という制度は機能しており、都会ほど徹底されていなくとも基本週末は休日という形式が定着しているのだ。

 大人達が休みならば、子供達は尚の事休みだ。超休日というべきか。

 ゼェーレストでは週末にイベントがある。ご存知、アナスタシア様(+α)主催の屋外教室だ。アナスタシア様らがこの村に越してきてから、何かゼェーレストに貢献出来ないかと始めたのが元らしい。確かな教養を持つ彼らの授業は村でも評判がよく、若い世代は皆夫妻の生徒である。


「元々この村に住んでいたわけじゃないんだな」


「そうみたい。たぶん一〇年前くらいにこの村に移住したのね」


「直接聞いたわけじゃないのか?」


「大人達は昔のことを教えてくれないもの。ただ村の人曰わくソフィーが生まれたのはゼェーレストみたいだし、大体数字はあっているはずよ」


 授業が始まる前のいわばホームルームの時間。俺はメイド服ではなく私服を着たマリアと雑談を交わしていた。俺にかかれば仲直りなんてちょちょいのそぉい!、さ。

 マリアの横少し後ろにはソフィー。なんとなく、心細げな表情をしている。

 本当に人見知りな少女である。最近では俺にも懐いてくれるようになったけど。


「きたわよ」


「おーっす」


「おはよう」


 冒険者志望三人組、ニール、マイケル、エドウィンがやってきた。


「おはー」


「おはよう」


「っ……」


 ソフィーがさっと俺とマリアの背後に隠れる。しかし見習いメイドはそれを許さず、猫のように両脇からひょいと持ち上げ三人の前にソフィーを差し出して見せた。


「ほら、挨拶くらいしなさいな」


「……おはー」


 なぜ俺の真似?

 この子本当にこの村生まれこの村育ちなのか? 同年代の幼なじみにまで人見知りするなんて。

 それとも、なにか過去にきっかけがあったのだろうか。ここまで人見知りするようになった大きな出来事が。

 ―――出生の知れぬ令嬢、心を開かぬ少女。

 俺の中で、違和感が膨れ上がるのを感じた。


「ただ箱入り娘なだけよ?」


「うん、シリアスしたかっただけ」


 ソフィーが無言で脇腹を抓ってくる。ネタにされたことの報復らしい。

 しかし一〇歳女児であることを考慮しても全く痛くない。

 見つめ合うこと十数秒。


「……さーせん」


 いたたまれない雰囲気に思わず謝ってしまう。

 ソフィーは再びマリアの後ろに隠れる。抓ったのは抗議の意を訴える「だけ」が目的だったようだ。

 人を痛めつけることに慣れてないんだろう、抓っているソフィー本人が心苦しそうに見えた。だからこそいたたまれなかったんだけど。


「そういえばガイルから聞いているか? 俺が飛行機の操縦を覚えたいって話」


 話題転換がてら思い出したことを訊いた。確かソフィーが教えてくれる手筈だ。


「空飛びたいの?」


「飛びたい」


「うん。気持ちいいよね」


 残念、俺は未経験だ。


「頑張る?」


 なにを? ……いや、なんでもいいか。


「頑張るぞ。どんなことだって」


「とりあえず毎日、村を一〇周」


 お嬢様はスパルタだった。っていうか君は走り込みなんてしてないよね。


「おっ」


 見慣れた男に気付いた。


「どうしたの?」


「ガイルがいる」


『…………』


 ん、皆沈黙してどうした?


「……っ! ち、違う! 俺がそんなくだらない親父ギャグを言うとでも思うのか!?」


 抗議すると、一様に頷かれた。なにこの人望。


「きぃーん、こぉーん、かぁーん、こぉぉーうぉうぉうぉうぉん」


 諸悪の元凶が呑気にチャイムの音色を口ずさみながら子供達の前に立つ。


「ガイル大先生の登場だ」


 本人はキリッとキメたつもりのようだ。その気楽さにイラッときた。


「いいから早く始めろよ」


「ガイル様自重して下さい」


「おとーさん恥ずかしい」


 屋敷住まいの三人に冒険者志望三人も追撃する。


「先生今日は白兵戦訓練なし?」


「せんせー人型機(ストライカー)で戦わせてよ」


「魔法の勉強もしたいです」


 好き勝手告げてるだけだった。


「今日は乗り物の練習だって言ったろニール、冒険者になりたいなら武器兵器は選ぶな、なんでも使えるようになっとけ。マイケル、勿論今日は人型機にも乗ってもらうが、人型機の戦闘は遊びじゃないからな、油断したら怪我するぞ。エドウィンお前は……向上心があるのは結構だが、俺に魔法について訊くな。俺は戦闘用の魔法を幾つかしか使えん、魔法はナスチヤの領分だ」


 律儀に返答するガイル。


「そんなことより、はよ、はよ。人型機に乗れるとあって、興奮して今日は夜の十一時に起きちゃったんだぜマジで」


「それはもう今日じゃなくて昨日だろマジで。とにかく移動するぞ、村の外れに機体達はを用意してある」


「そうかそうか、なら行こうすぐ行こう……機体『達』?」


「達」


「達?」


「達」






「うきょおおおおぉぉぉぉぉおおぉおぉ!!!」


 思わず雄叫ぶ。

 俺は今、最高に興奮していた。

 異世界に渡り久しい今日、飛行機の『紅翼(せきよく)』や村所有の人型機『鉄兄貴(てつあにき)』(勝手に名付けた)との心の触れ合いで地球で積もりに積もった機械的欲求を満たしてきた。

 しかしながら人とは欲深いもの。熱望していたそれら友も、最近では少し飽き気味だったわけだ。

 だって乗れないし。

 何度も機体を解析魔法で解析し脳内シミュレートを重ねるが、紅翼は地球の飛行機とほぼ同じ、人型機は逆によく解らなくて理解仕切れない。

 人型機に関しては誰か専門家に弟子入りして学ぶしかないと考えている。誰かいないかね、専門家。

 初日で出会ったドワーフのおっさんは、専門家っぽかったが村人じゃないから教えを請えない。どこに住んでいるか聞けば良かったか?

 しかしながら、そんな悶々とは今日でおさらばでございますっ!


「乗れる、乗れる! 乗れる!! 遂に、幾星霜待ちわびたことか! 真山零夏(まやま れいか)、本日ロボットに乗っちゃいまーす!」


「うっさい!」


 ガイルの拳骨が脳天に直撃した。


「効かん!」


 今の俺に拳など無意味でござるっ!


「かかと落としィィ!!」


 轟沈。

 こいつ、調子に乗った子供にマジで暴力振るいやがった。


「うし授業始めるぞ」


 あ、スルーするんだ。


「なんでそんなに冷めてるんだよ、見ろよこれ!」


「見たよ、だからどうした」


 俺達の前に現れたのは、五種類の機体。


「この村に五機も浪漫兵器があったなんて」


「一機は余所の村から借りてきたんだ。あと紅翼(せきよく)以外は武装ないから兵器じゃねぇよ」


 悠然と草原に並ぶ船達は、それぞれ特徴を異としていた。

 見慣れた紅翼と鉄兄貴、そして畑仕事に使用されている飛宙船。

 これらはともかくとして、気になるのはあと二つの機体だ。

 一人乗りのウインドサーフィンを連想させるシンプルな帆船。帆ではなくセイルと呼ぶんだったかな。羽が片方生えているみたいなやつ。

 ボード部分は少し分厚い。魔法で解析すると、内部に見慣れた装置が確認出来た。


「浮遊装置?」


「そうだ、それも自前の魔力で起動するほど小型のな」


「まさか、これは……!」


 極小の浮遊装置にセイルのみ、これほど簡略な構造なればその使用方法も容易に推測可能。


飛宙艇(エアボート)。―――飛宙船が普及する以前の、今ではめっきり使われなくなった骨董品だ」


 そして、とガイルは言葉を続ける。


「人類が初めて手にした、空を飛ぶ手段だ」


「っ、敬えぇ! 皆の衆、この大いなる遺産を崇め敬うのじゃあー!」


 思わず額を地面に擦り付ける。

 ライトフライヤー、スピリットオブセントルイス、X-1、アポロ11……

 それそのものではなくレプリカであったとしても、この品に込められた先人達の魂を否定してはならないっ! 否、断じて俺が許さない!


飛宙艇(エアボート)は村の倉庫から引っ張り出したが、こっちはツヴェー渓谷って場所から借りてきた。皆もこういう人型機は見覚えがないだろう」


 いや、それを人型機と称していいものなのか。


「こいつは山の岩場で作業を行うことに特化している。脆く凹凸の激しい地面で安定して上半身を支えられるように、環境に合わせて進化した人型機の亜種だ」


 その人型機には、足が八本あった。

 まるで、というよりまさしく蜘蛛そのもののその造形。

 機能美のみを追求し常識を捨て去ったその勇姿に、俺は呼吸を忘れざるを得ない。


「人型機の一種には違いないが、その中でも人の姿を辞めている機体はこう呼ばれる。―――獣型機(ビースター)と」


「蜘蛛とか獣じゃないじゃん」


「知るか。そういうもんなんだよ」


「例えばさ、下半身がキャタピラや飛宙船そのものだったりするのもあるのか?」


「きゃたぴらが何なのかは判らんが、下半身が飛宙船の機体は実在する。どちらかといえば飛宙船に作業用の上半身が付いているという具合だが」


 そういえばキャタピラって登録商標だったね。


「勘違いなどをしてても面倒だし、一旦それぞれの機体について定義や原理をはっきりさせておこう。お前だけじゃなく、村の子供達も知らないで使っている部分があるだろうしな」


 おぉう、楽しくなってきたぜ。


「歴史的に発明された順に行くぞ。まずはこいつ、飛宙艇(エアボート)だ」


 ガイルがウィンドサーフィンのボードに乗る。


「定義は浮遊装置のみしか付いていないこと。推進力は風を受けて進む。他の機体と違って魔力源のクリスタルも付いていないから、自分で浮遊装置に魔力を流し込んで浮力を発生させるんだ」


 頬を奇妙な風がくすぐった。

 この感覚は覚えがある。この世界に来て初めて得た第六感、魔力の波動。

 ガイルの魔力がボード内部の浮遊装置に注ぎ込まれる。

 ボードが重力の呪縛から解放され、ガイルを乗せた飛宙艇は高さ一メートル程度まで浮かび上がった。


「最も原始的な航空機だが、それは操縦が楽だということにはならない。風にうまく乗ってバランスを保たなければならないので扱いにはコツが必要になってくる。これしかなかった昔は大変だったみたいだな、自前の魔力で動かすからあまり重い荷物も運べないのも不便といえば不便だ」


 そう説明しながらも、ガイルは巧みにボードを操り俺たちの周りを回って見せる。

 ウィンドサーフィンは構造上風上に向かうのが難しいはずだが、それを微塵も感じさせない見事な旋回だった。


「飛宙船が一般化した今の時代、不便で危険な飛宙艇は見かけることすら珍しい。とはいえ簡易な移動手段として使っている所では使っているし、荒事を生業とする者は大抵乗れる。この先覚えておいて損ということはないはずだ。必須とは言わんがな」


「ガイル! 乗せて! 抱いて!」


「まだ説明は始まったばっかりだ、堪え性のない奴め」


 ジト目を向けられ、少し反省。

 確かにはしゃぎ過ぎた。精神年齢は生徒の中で一番高いのだし、ここは俺が模範とならねばならない場面だというのに。

 いや、今からでも遅くない。


「失礼した。続けたまえ、ガイル教官よ」


 クールに髪をかき上げる。


「きめぇ」


 なんなんだよ畜生。


「あー、そんで、次に発明されたのがこの飛宙船(エアシップ)だ。生活の中で最も見かける機会の多い航空機だと思う。つか練習で動かしたことのある奴もいるだろ?」


 ガイルの問いに生徒ほぼ全員が頷いた。マジかよ、俺だけ時代に乗り遅れてやがる。


「運転は簡単だが構造は飛宙艇(エアボート)と比べ一気に複雑になる。クリスタルから供給される魔力を浮遊装置と魔力式エンジンに供給し、刻まれた魔導術式が天士の操作をそれら装置へ伝え制御する。一見簡単に見える操縦も長いノウハウの蓄積と技術者達の不断の努力によるところが大きいな」


 いつだか飛宙船を空飛ぶトラックと称したが、間近で見ると言い得て妙だったのだと思う。

 全長と幅の比率も地球の自動車に近いし、目の前の機体には荷台まである。場所(世界)が違おうとそういう理想的な運用におけるサイズっていうのは変わらないのだろう。


「ガイル、質問だ」


 しゅたと手を上げる。


「却下」


「そういうな、真面目な質問だよ。クリスタルって奴について聞きたいのだか」


「クリスタルか? ……あー、つまり、魔力を生み出す石だ。以上」


 おい。


「仕方がないだろ、クリスタルは判らない事も多いんだ。人工的には作れず天然物を採取するしかない。魔力を使い切っても1日ほっとけば回復する。わかるのはそんくらいだ」


「そんな意味不明なもんを世界中で使っているのか」


 石油が尽きるみたいに魔力が枯渇したら、飛宙船に依存している人類は大変なことになりそうだ。


「そういうな。次行くぞ、次」


 ガイルが歩み寄ったのは、浪漫兵器・人型機(ストライカー)だ。


「人型機が世に現れるには飛宙船が作られてからそれなりの時間を必要とした。魔法の研究による魔導術式の発展、全身を稼働させる無機収縮帯―――人工筋肉の発見及び安定した調達、その他様々な技術が成熟することによって人型機の製造が可能となった」


「人型機はどんな用途に使われているんだ?」


「なんでも、だ。汎用性の高さが人型機の売りだからな。土木作業から戦闘までなんでも使える」


「体長一〇メートルの巨人が戦闘に役立つのか?」


 俺は人型ロボットが大好きだが、浪漫で戦いには勝てないのだ。

 俺の問いに反応したのはガイルではなくニールだった。


「なに言ってんのさ、こんなでかいんだからパワーだって凄いだろ? どんな敵も薙ぎ払えるじゃない」


「それは否定しないけどさ」


 実際に鉄兄貴に助けられたのだ、人型機の接近戦での強さは認めている。

 しかし、戦争において接近戦などほとんどない。


「足が片方やられたらもう動けないし、なによりいい的になるじゃないか」


 前面投射面積という概念がある。

 主に自動車などの空気抵抗を語る上で使用される言葉だが、軍事……それも地上戦では『敵から見てどれだけ身を隠せているか』という意図で使われる。

 つまり前面投射面積が大きければ、敵からすれば見つけやすいし長距離攻撃を当てやすい。


「もしかしてこの世界には長距離攻撃の手段がないのか?」


 それならまだ納得出来るけど。


「あるぞ? 魔法も火砲も」


 あるんかよ。白兵戦オンリーであれば人型兵器も有効だと思ったのだが。


「人間同士ならそうだが、魔物は魔法も火砲も使ってこないからな」


「あ、そうか」


 考えてみれば当然だ。この世界で最も厄介な敵は人ではなく魔物だ。


「さてな、人の敵はいつだって人だぜ?」


「子供の前でそういうこと言うな」


 一瞬剣呑とした空気を纏ったガイルを窘める。


「と、と。すまんすまん」


 普段のおどけた調子に即座に戻るも幾人かは顔を強ばらせいた。子供は感受性が強いというしな。

 よし、アナスタシア様に報告しよう。あとで説教されてしまえ。


「あと、重い装甲を装着する上に無機収縮帯そのものが防御手段となる。無機収縮帯はちょっとくらい削れたって稼働するしそうそう行動不能にはならないよ」


 なるほど、それほど頑丈なら二脚もいいかもな。走破性も無限軌道より上だろうし。


「そんで獣型機(ビースター)は……用途に合わせて人型に囚われないアイディアで発展した人型機。定義は明確じゃない。詳しく説明はしない、というより多岐に渡りすぎて出来ない」


 若干投げやり気味に手をヒラヒラ振るな。しかし……

 蜘蛛脚に人間の上半身がくっ付いた異形の機体。足一本に掛かる負担も少ないし、実は一番完成度の高い種類なんじゃないかと思う。


「それも一理ある」


 尋ねてみたら、思いがけず肯定が返ってきた。


「対等な条件で戦闘用の人型機(ストライカー)獣型機(ビースター)が戦えば、有利なのは獣型機(ビースター)だ」


 全てのロボットアニメを否定したぞコイツ。

 いや、一部のアニメを肯定してもいるが。


「まあ、地球でも多脚戦車なんかは研究されてたしな……」


 スペックや接地圧、あと信頼性等の課題さえクリアすれば、多脚戦車は存外実用的なのだ。

 事実、戦闘用でなければ多脚機械は一部実用化されている。


「汎用性を殺して戦闘特化させた獣型機は人型機以上の戦闘能力を持つ。実際、人と人、国と国が争うことを想定した軍では結構な数の獣型機が採用されているしな」


「じゃあ人型機ってほんとは弱いのかよー。うそつきー。サギシー」


 マイケルがブーたれながら抗議する。冒険者志望三人組の中で一番人型機に憧れを抱いているのは彼だろうな。


「誰が詐欺師だ。そもそも人型機が最強だなんて言ってねぇよ。それにお前、詐欺ってなにか知ってるのか?」


「鳥だろ?」


「惜しいっ」


「惜しくないよレーカ君」


 やんわりながらナイスツッコミだ、エドウィン。


「それに俺は人型機が獣型機に劣っているなど思っていないぞ」


 おや?


「戦いはスペックだけで勝敗が決まるものではない。周囲の状況を生かし、時には手持ち武器を使用出来る人型機はどうしても必要だ。一対一で戦えば獣型機が勝つが、集団で戦えば案外人型機が優勢になったりするんだな、これが」


「そんなもんか?」


「そんなもんだ」


 そんなもんか。


「付け加えれば、戦うだけが軍の仕事じゃない。人命救助や災害対策、時には土木工事の真似事までさせられる。獣型機だけじゃとても賄い切れないさ」


「業者に頼めよ」


「頼めない場合ってのがあるんだよ。ほれ次行くぞ、散々話が逸れちまった」


 そして最後を飾るは見慣れた赤い翼。


飛行機(ソードシップ)。航空力学と魔力式エンジンの発達により、全魔力を推進力へ供給出来るようになった高速船だ」


「いえー!」


「きゃー!」


「かっこいー!」


 出演・全部俺。


「現時点で世界最速の移動手段であり、最強の単一兵器だ。防御力は脆弱としか言いようがないが、それを補って余りある機動力を有している。大きな主翼で必要な揚力全てを賄うので、飛行中は浮遊装置を停止出来るのが特徴か」


「こいつが最強か!? すげー!」


 そういう単語に反応したくなる年頃なんだな、マイケル。


「今日はこいつの訓練はしないぞ。高い機動力を有しているが故に、天士には優れた技量と判断力を求められる。つまり、お前らに任せるには危ない」


 湧き上がる子供達からのブーイング。それをしれっと無視しガイルは空を見上げた。


「説明はこんなもんか。あとは飛宙艇(エアボート)から実習と行きたいんだが」


「よし、どれでもいいから乗せてくれ。遠慮はするな」


「待て、今日は講師をもう一人呼んでいる。そろそろ来るはずだ」


「そろそろってどんくらいだ」


「あとちょっとだ」


「ちょっとってどんくらいだ」


「少しだ」


「大人の少しは長いからなぁ。ヤレヤレだぜ」


 ぼやいているとガイルに足首を掴まれた。

 そのまま持ち上げられ上下逆さまにされる俺。


「お前、今日少し煩い」


「ウザカワイイだろ?」


 ウインクしつつサムズアップ。

 足首を掴んだままぐるぐる回り出すガイル。俺も干されたスルメのごとく、ぐるぐる回る。


「ちょ、やめて、頭に血が上るっ」


「飛行機に乗る為の訓練だ。Gに負けていては戦闘機には乗れないぞ」


「嘘だっ! 今アンタ凄いイイ顔してる! 絶対嘘だっ!」


 振り回された挙げ句ゴミのようにぽーんと投げ捨てられた。酷い仕打ちだ。


「やろ、毎晩寝る前に水虫になるように願ってやる……」


 いや駄目だ、アナスタシア様とソフィーが一緒に寝ているんだった。

 ガイルを半目で睨んでいると、くすくすと笑い声が耳に届いた。

 声の主は誰かと視線を向ける。

 ソフィーだった。

 口元に指を当て、可笑しそうに声を漏らすソフィー。たぶん始めて見る、なんの気負いもない心からの笑み。

 アナスタシア様を彷彿とさせる控えめな上品さと子供らしい可愛らしさの同居したその笑顔に、俺は強く動揺した。


「……ガイル教官ッ! 質問であります!」


 挙手しつつ叫ぶ。


「なんだ、レーカ二等兵」


 一番下かよ。


「娘さんをお嫁に戴くにはどうしたらいいですか!?」


「諦めろっ!!」


「でもあの目は確実に俺に惚れてます!」


「自意識過剰だ!」


 俺を掴もうとするガイルの手をかい潜る。


「逃げんな!」


「ふははは、武術とカバティで鍛えた俺の足捌きを捉えられるものか!」


 ひょいひょいと魔の手から逃げつつ、ソフィーを盗み見た。

 先の笑みはなりを潜め、自分の名前が出されたことで困惑を浮かべているソフィー。

 男女の機微も境界もない歳の彼女に、こんな想いを抱くのはおかしいのかもしれない。

 けれど、後で思い返せば。

 俺にとっての姫君が彼女と確信したのは、きっとこの瞬間だった。


「まったくこいつは―――来たようだな」


 空を見上げるガイルにつられて、みなが上を向く。

 巨大な船が空を遮った。


「なっ―――」


 全長は目算一〇〇メートルほど。村を跨ぐのではないかと思うほど、否、実際跨いでいる巨大な機影に、一帯が暗闇に落とされる。


「なんじゃこりゃあ!?」


 けたたましい轟音と共に空を滑る巨大船。細長い船体に、様々な箇所に取り付けられた沢山のプロペラがピュンピュンと回っている。

 鯨よりなお大きな船、そいつが上空を通過し終えると再び日中の明るさが舞い戻る。

 緩やかに船体を傾け旋回する船を、俺達は呆然と見つめるしかなかった。


「飛宙船―――なのか?」


「中型級飛宙船だな」


 ガイルの返事に気が遠くなる。

 中型? あのバケモノが、中間サイズだというのか?

 地球では歴史上最大の飛行機でも八〇メートル弱だったはず。それを上回るあの船ですら『中型級』に過ぎないなんて。


「大型級ともなればどれくらいの巨体なんだよ……」


「三〇〇メートルは優に越えるな」


 聞かなきゃ良かった。それ、飛行機じゃなくて船だろ。ああ、飛宙船か。


「飛宙船ってみんなこのサイズじゃないのかよ」


 トラックサイズの飛宙船を指差し訊く。


「勿論小型級が一番多いさ。けどまとめて運ぶなら大きい方が効率的だろ? 飛宙船には技術的に大きさ制限がほとんどないからな」


 会話の間にも中型級飛宙船は高度を降ろし、やがて草原に着陸した。

 ギアや脚を出すわけでもなく、船体を直接降ろす胴体着陸だ。船の底面が平らだったことからこれが正式な着陸法なのだろう。

 この世界の航空機は基本的に胴体着陸だ。浮遊装置の存在が、手の込んだ着陸装置の必要性を失わせている。

 中型級飛宙船の後部が開き、地上まで続くスロープとなる。

 そして船内から歩み出てきたのは、鉄兄貴より複雑な造形を持つ人型機だった。


「わざわざ鉄兄貴以外の人型機を持ってこさせたのか?」


 鉄兄貴、という聞き慣れぬ単語に首を傾げる一同。


「てつ……? あの人型機なら、王都でレンタルしてこさせたんだ。今年の生徒は冒険者志望が多いし、実戦的な訓練も遅かれ早かれ必要だろう」


「鉄兄貴は戦闘用じゃないんだろ? 二機あったって訓練は出来まい」


「鉄兄貴ってこの人型機の名前かよ……問題ない、戦闘用人型機は複数持ってくる手筈になっている」


 マイケルが興奮した様子でガイルに詰め寄る。


「それってつまり、人型機で戦っていいのか!?」


「訓練だと忘れるなよ? あれは玩具じゃない、世界最強の兵器の一つなんだから」


「人型機に乗れるのか! いよいよだなレーカ!」


「おーよマイケル! 負けるつもりはないぜ!」


「聞いてねぇよこの馬鹿共……」


 肩を落とすガイルを無視し、こちらへ接近する人型機の内側を解析する。


「随分と複雑なんだな」


 まず驚いたのは内部構造の緻密さだった。

 極力シンプルにまとめ、ほぼ完全なメンテナンスフリーを実現している鉄兄貴とは違い、強固ながらも出力を最大限まで絞り出せるようセッティングされている。おそらく定期的な整備が必須なはずだ。

 詳しいことは判らないが、制御系統も複雑化している。なにより駆動系がハイブリッド方式なのが驚愕だった。

 無機収縮帯、つまり人工筋肉と油圧シリンダーの併用。いったいなぜこんなややこしい仕組みを採用しているやら。

 解らないなら解らないなりに解析結果を吟味していると、膝立ちとなった人型機のハッチが開き若い男が飛び降りてきた。


「お久しぶりです、ガイル先輩」


「久々だな。ギイ」


「げぇ、イケメン」


 現れたのは見た目成人すらしていなさそうな青年だ。いやこの国の成人年齢は一五、一六歳くらいだったっけか。


「元気そうでなによりだ。向こうではどうだ?」


「相変わらずですよ。情勢も安定していますし、軍人は暇を持て余しています。国境付近では共和国天士と帝国天士が空で挨拶するってくらい呑気です」


「ははは、給料泥棒め」


「泥棒結構。平和な証拠です」


 笑い合うガイルと青年。なんだ、友達いるじゃん。

 しかし、共和国と帝国は仮にも仮想敵国だろうに。空の上で挨拶とか、まるで第一次世界大戦の話だ。


「紹介しよう。こいつはギイハルト、共和国軍の戦闘機天士だ。休暇を取ると聞いてウチの屋敷に招待した。ついでに様々な訓練などにも付き添ってくれるというから、俺は実にいい後輩を持ったものだな」


「あれ、いつの間にか溜まっていたはずの有給が消費されていて、散々手紙でコキ使われたのは記憶違いでしたっけ? 飛宙船と人型機レンタルしたり新型の試作機持ってこさせられたり子供達の講師役押しつけられたり……はは、給料払えよ」


 ぶつぶつと呟き負のオーラを纏い出したギイハルト青年にガイルが適当な口笛で誤魔化す。誤魔化す気ねぇだろお前。

 ……って、そんなことより!


「新型!? 共和国の新型を持ってきているっていうのか?」


 共和国は世界を二分する大国の一つ。その最新鋭機となれば、即ち現最強の機体に他ならない。

 こうしちゃいられない! こんな機会がそうそう巡ってくるとも思えないし、徹底的に情報収集しなければ!


「なっ!? おい、待て!」


 制止を無視して中型級飛宙船に後部スロープから駆け込む。目に飛び込んできたのは数機の戦闘用人型機。

 これじゃない。寸分違わずさっきの奴と同じ、量産型だ。

 目視で探すのももどかしく、解析魔法で一息に探し出す。―――あそこか!

 駆け込んできたガイルとギイハルトを尻目に格納庫の奥へと進む。

 そこにあったのは、俺の予想を遥かに超える機体だった。


「―――戦闘機」


 デルタ翼に水平尾翼と垂直尾翼が二枚ずつ。安定性の高い保守的な設計ながら、その洗練されたデザインは見る者に鮮烈な迫力を覚えさせる。

 見るからに強力そうな二基のエンジン。機体の重心がかなり後方にあることから、相当のトップスピードに至れると予想する。音速なんて楽に越えられるだろう。


「す、げ」


 正直、舐めていた。ガイルの紅翼(せきよく)が第一次世界大戦レベルの機体であったことから、世界全体の技術水準もそれ相応だと思い込んでいたのだ。

 しかしこの機体は違う。第二次世界大戦を通り越して、あるいは冷戦時代の技術力にまで達しているかもしれない。


「ほう、これが」


「はい。共和国の最新鋭試作機、荒鷹(あらだか)です。先輩の手回しがあったとはいえ、持ってくるのは大変だったんですよ」


 追い付いてきた二人も戦闘機、荒鷹(あらだか)の前に立つ。

 ガイルに首根っこを掴み上げられた。


「これは俺がじっくりと楽しむ……げほげほ、練習するために持ってこさせたんだ。お前は外で飛宙艇の練習でもしてろ」


「今本音だだ漏れましたよね」


 持ち上げたまま外に運び戻されそうになる。やばい、まだ外装しか見ていない!


「よく持ってこれたな、最高ランクの国家機密じゃないの?」


 時間稼ぎの為に適当な質問をする。その間に、解析魔法!

 設計を脳裏に刻み込む。これでもかと詳細に徹底的に。

 異世界に来てから妙に物覚えがよくなっている。それこそ、荒鷹の全設計をミリ単位で覚えることが可能なほどに。

 言葉が日本語に聞こえるのと同じく神様の特典なのかもしれないが、あのロリ神は伝え忘れ多すぎだと思う。

 ギイハルトが俺に視線の高さを合わせて、優しげに語りかける。


「国家機密だからこそ見られるわけにはいかないんだよ。あまり探らないでくれないかい?」


「やだ」


 ギイハルトの目元が引きつっていた。


「そんなこと言わないで、ね? 外に出て人型機の練習をしたくないかい?」


「―――よし、ロボットが俺を待ってるぜ!」


 ガイルの手を振り払い飛宙船のスロープを駆け降りる。

 男二人は即座に考えを改めた俺に首を傾げたが、深く考えずに授業を再開するようだ。

 しかしそれは甘い考えと言わざるを得ない。

 魔力を動力としている以上差異はあるものの、荒鷹は間違いなく戦闘機であり。

 ならばそれは、俺の知識の延長線上にあるものだ。


(盗ませてもらったぞ―――『国家機密』!)


 いつかこっそり作ろっと。








 戻ってきた俺がマリアに怒られた後、予定通りそれぞれの搭乗練習と相成った。

 飛宙艇の上に立ち、説明通りボードに魔力を込める。

 込める。

 込める……


「どうした、さっさとやれ」


 指導役を行うガイルに急かされるも、俺はこう問う以外になかった。


「……魔力ってどうやって体の外に出すの?」


 全員にずっこけられた。


「い、いままでどうやって生活してたんだい? 魔法なしで」


 エドウィンに引きつった顔で訊かれる。

 え? え? 魔力扱えないってそんな変なの?


「魔法を使う場面なんて日常でいくらでもあると思うけれど」


「あー、うん、火種出すくらいなら?」


 地球出身としてはなんの不便も感じなかったので、それ以上の魔法修得はしていなかった。


「とりあえずお前はナスチヤに魔法を習え」


 頭痛を堪えるようにこめかみに指を当て眉を顰めるガイル。


「魔力を出せない奴が飛宙艇に乗れるか」


「魔法……そうだな、そっちに興味がないといえば嘘になる」


 なんせ、魔法だ。地球にないファンタジーの極みのジャンルじゃないか。


「とにかく今日は諦めろ」


「解った」


「いやに素直だな、なに企んでいる」


 頷いただけで悪巧み確定!?


「違うよ、飛宙艇に乗れなくたって飛宙船には乗れるだろ? だからまあいっか、って思っただけだ」


「ああ、なるほど。でも飛宙船ってあんまり飛んでるって気がしないんだよな。あれは浮かんでいるって感覚に近い」


 見ている限りではその印象はあるな。えっちらおっちら進む飛宙船は、実を言うとあまり食指が動かない。

 気球や飛行船も、展望タワーに登るのと同じじゃないか、と考えてしまうタイプだ。気球が趣味の人ゴメンナサイ。


「飛宙船って最高速度はどんなもんなんだ?」


「エンジンが日々進歩しているから一括りには語れないが、速くても時速一〇〇キロってとこか」


「遅っ」


「空気抵抗も大きいし、なにより浮遊装置が重過ぎる。村にある飛宙船なら下手すれば五〇キロ出ないだろう」


「飛行機に搭載されてる小さな浮遊装置は? 出力を保ったまま小型化は可能なんだろ?」


「浮遊装置を小型軽量にすれば今度は魔力消費が激し過ぎて使い物にならない。飛行機は離着陸のみで使うからなんとかなるんだ」


 なるほど、ままならないのだな。

 一人ごちていると、白い風が俺達を掠め飛んでいった。


「おぉ?」


 振り返ると猛烈な勢いで空を舞う小さな影。

 ソフィーだ。

 飛宙艇に乗り、小さな体をめいいっぱい傾けて重心を取り風を受ける少女。

 走る、というより疾走、と表した方が相応しかろう。青々とした草原と風のゲレンデを滑走するように飛ぶ様子は、まさしく風の精霊だった。


「さすがは俺の娘。この短時間で覚えたか」


「って、飛宙艇乗るのは今日が初めてなのか?」


「いつも紅翼に乗せてはいるが、飛宙艇は長らく倉庫に眠っていたからな。見るのも初めてのはずだぞ」


 それで『あれ』か?

 軽快に空を走る様はどう見ても乗り慣れた人のそれ。戸惑いも躊躇もなく、空を我が領域と言わんばかりに駆け抜けている。


「天才、って奴か?」


「才能無ければ可愛い一人娘に単独飛行なんてさせねぇよ」


 ……ごもっともで。

 見れば、他の生徒も呆然とソフィーを眺めている。そりゃ普段は屋敷から出てこない引っ込み思案な子が、あんなアグレッシブに動いていれば唖然とするだろう。

 胸の奥に重いものを感じる。嫉妬? いや、苛立ちか。

 ソフィーに、じゃない。自分に、だ。

 体が一〇歳になったって中身は大人だ。ゼェーレストに来て以来、童心に返ってはしゃいでこそいるが、それでも自分はここにいる子供達を見守り、導く側なのだと常に頭の片隅に置いてきた。

 嘘吐け、と思うだろうが、とにかく自分なりに考えてはいた。

 だというのに―――俺は、この世界で生きていく術をなにも知らない。

 誰でも動かせる飛宙船も乗れない。魔法も使えない。使用人の仕事だって半人前。

 それで、いいのか?

 爆走するソフィーにギイハルトの操る飛宙艇が併走する。ギイハルトがなにか話しかけ、緩やかに速度を落とし着陸した。

 地上に降りたギイハルトは笑みを浮かべながらソフィーの頭を撫でる。彼女はくすぐったそうに屈託なく笑った。

 笑った。

 ……笑った?


「……良くねえよ! かっこわりぃよ!」


「うをぉ!? なんだいきなり叫んで!」


「特訓だ! 血反吐を吐くような訓練を所望する!」


「よくわからんが、希望とあらばスパルタでやってやるが。覚悟はあるかフニャチン野郎!?」


「サーイエッサー!」


「まずは飛宙艇抱えて村一周だ! 貴様はロクに飛宙艇にも乗れないんだからな! 他の訓練兵の邪魔するぐらいなら走り込んでいろ!」


「イエッサー!」


 セイルを外したボードを肩で担ぐ。お、重い……!


「やる気あんのか貴様ァ! 腰を入れて走れやコラ!」


 ケツキックされ、崩れ落ちそうになるのを踏み留まる。


「っ! ……ありがとうございますぁあ!!」


「とんだ変態野郎だな! 子供の教育に悪いからそろそろ止めようぜ豚野郎!!」


「いいや、やるね! あんなぽっと出のイケメンにニコポされたんだ、腹の虫が収まるか!」


「あ、それが原因か」


 マリアが俺の肩を叩いた。


「見苦しいわよ」


「ぐはっ」


 結局俺は、苛立ちなのか焦りなのかも解らない感情を静める為にも村一週を敢行することにした。

 よくよく見てみると、ソフィー以外の子供達も飛宙艇には四苦八苦している。扱いが難しいのは本当のようだ。

 うん、焦る必要なんてないな。らしくなく取り乱してしまった。

 汗かいたら体が火照る代わりに頭が冷えた。心を落ち着かせ、教室の元まで戻る。


「皆、すまん。少し落ち着い―――」


「ギイハルトさん、左のペダルはなんですか?」


「あの……ベルトが長いのですが」


「すっげーなギイハルト、冒険者なのか!?」


 ギイハルトがモテモテだった。

 つか飛宙船訓練始まってるし。

 イケメンなんて死滅すればいいのに。


「あっ!? そういえば今の俺もイケメンだった!?」


 顔が変わっているのを忘れていた。


「は」


 ガイルに鼻で笑われた。






 飛宙船に関しては俺が一番上手かった。操縦感覚は自動車そのものだ。


「つまらん」


「な?」


 運転が素直でイメージ通りに動く。上下に動く以外は車と変わらない。

 高度を上げれば景色を楽しめるかも知れないしそれはそれで楽しそうだけど、あまり上まで行くなと事前に通知されている。


「あまり風で流れたりもしないな。図体でかいから影響受けそうなもんだが」


「だから浮遊装置はばか重いっつってんだろ。お前が問題なく動かせることは判ったからさっさと降りろ」


 飛宙船から降りてソフィーが乗り込む。助手席にギイハルトが乗車。


「まずは腰のベルトを締めて」


「……入りません」


「金具が逆だね。お腹じゃなくて腰に合わせるんだ」


 それでも手間取るソフィーに、ギイハルトが上半身を乗り出して手伝ってあげる。


「ほら、娘さんにボディータッチしているぞ。アイツ体育館裏に呼び出すべきじゃね?」


「アイツは誠実な男だ。心配ない」


「なあ。あのギイハルトってどんな男なんだ?」


 ソフィーの下手っぴな操縦を眺めながら問う。ソフィーが適性を持つのは風で飛ぶ航空機に限定される模様。


「気になるのか?」


「べっつにー? キニナラナイヨー?」


「ならいいな。面倒くさいし」


「すいません教えて下さい」


 敵を知り己を知れば百戦危うからず。

 情報収集は兵法の基本である。


「ギイハルト・ハーツ。現在は共和国軍のテストパイロットを勤めるエリートだ。専門は戦闘機天士。だが白兵戦から大型級飛宙船まで幅広く扱える器用さも併せ持つ。ランクはトップウイングス。遅かれ早かれシルバーウイングスに到達出来るだろうな。若いが、一〇年前の大戦にも参加した。戦いも酸いも甘いも知り尽くした優秀な男だ。性格は温厚。血の繋がらない妹がいる。こんなものか?」


 訊いといてなんだが、個人情報少しは保護しようぜ?


「十年前の大戦って、あいつ何歳だよ」


「一桁」


 少年兵じゃないか。


「つまり、強いし覚悟もあるし優しいし、ってことか?」


「だな。正直、将来いい相手が見つからないようだったらソフィーを任せようかなと考えている」


 なんてこった。この娘馬鹿なガイルがそこまで信頼しているなんて。


「……勝つしかないな」


「誰に何でだ」


 視線を走らせる。

 人型巨大ロボット、勝負はコイツで決めるッ!


「ガイル! 人型機の練習が終わったらギイハルトとサシでやらせてくれ」


「わーったよ。好きにしろ」


 肩を竦めるガイルに頭を下げ、目を閉じる。

 こんな小さな勝負で勝ったって、絶望的に届かない場所に彼はいるのだろう。

 けれど、それでも。

 長い階段だろうと、一歩一歩登ってくしかないのだ。

 人型機の説明と簡単な練習を経て、ガイルの指示で俺とギイハルトの乗った戦闘用人型機が対峙する。


「勝負だ―――ギイハルト!」


 そして俺は―――








 その場にいる全員に、ぼろ負けした。



 主人公最強(笑)


 改訂前は読みやすさ重視で設定を軽くしていましたが、皆さんが読みたいのはガチムチに緻密な技術設定だと考えしっかりと背景を考えてみました。


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