レジスタンスとメイドさん 2
執筆に使用しているスマホや機器を更新したので、表示が変だったりするかも。
というか打ちにくい……
sideマリア
一年ぶりに再開したレーカ。
実を言えば、以前から私は彼のことを弟分として見てなどいなかった。
最も身近な同年代の男性、それだけでも意識するには充分だ。
それに、彼はいつだって真摯で格好いい。都会で生活するようになって、彼のような大人な男性がどれだけ貴重な存在かがよく解った。
そう、私は既に彼にどうしようもなく恋慕していたのだ。
そして現在、再会したレーカはとっても素敵な殿方になっていた。
気配りの出来る、私の王子様!
「おや、どうしたんだいマリア?」
ほら、こうして今も私の些細な変化に気付いてくれる。
「な、なんでもないわっ(ポッ)」
やだ、恥ずかしくて顔が見れない//////
「なーんちゃって、えへへ、げへへへ」
「おーい、帰ってこーい」
「頭がイッちまってやがる」
放心して譫言を繰り返す俺を、リデアとスキンヘッドは駄目なものを見る目で観察していた。
「おかしーなぁ、マリアは俺の嫁なのに」
「色々と残念な男じゃ」
「思春期にはありがちな勘違いだぜ」
やれやれと首を振る二名。
「はっ!? 俺は一体何を?」
「好意を向けていた女子に対して当人の意思を無視した婚約を結びそれを他者に流布して……」
「やめて包み隠さず説明しないで」
ちょっと意識が迷子でした。
「紅蓮の騎士と女が動きましたぜ!」
「どこに行く気だ……? 追うぞ!」
「いやレジスタンス捜しはどうするのじゃ」
「後回しだ!」
親しげに腕を絡める二人をこそこそと三人で追いかける。
「ところでなんで着いてくるんだ、スキンヘッドよ」
「いいじゃねーかアニキ!」
誰が兄貴だ。
「あれは、船の停留所か」
人々の重要な交通の便、小型級の飛宙船によるバス停だ。
エアバイクが普及してきたとはいえ、街中では公共機関を利用する方がなにかと楽なことも多く、今でも多くの乗客が巡航飛宙船を利用している。
着陸した空飛ぶバスに紅蓮の騎士とマリアは乗り込む。俺達もこっそりと乗船し、後ろの方の席に着席する。
「むむむ、べったりしやがって……!」
ギギギギ、悔しいのう悔しいのう。
「見苦しい、歯軋りが聞こえてきそうじゃ」
「この船は……げっ、ゼクスト行きじゃねーか! クレイジーだぜ!」
スキンヘッドがヘッド・バイキングをしはじめた。お前がクレイジーだ。
「ゼクストってのはどんな場所なんだ?」
「やべー町だ!」
もっと具体的に。
「首都から船で数時間の、工業の町だぜ! けど今じゃ職人が馬車馬みてえに働かされて、紅蓮が使う兵器を作らされているってウワサだな!」
「……そうか、なぜマリアがそんな場所に……」
「ゼクストは元々大工房が集まって出来た町だ! 砂っぽいところでよ、お肌がカサカサになっちまう!」
お前のスキンケアに関しては管轄外だ。
「元々住んでた連中も災難なんだけどよ、外から連れてこられた奴ってのもいるそうだぜ」
「どんな人達だ?」
「見てくれアニキ!」
飛宙船の窓越しにスキンヘッドが指さす方向には、廃墟と化した屋敷が存在した。
年月による風化ではない。小さな穴が沢山穿たれ、建物は大きく抉れている。
「空からガトリングで反撃を封じて、人形機による制圧ってところか。……実行犯は共和国軍だな」
「なんだ、知っていたのかよアニキ?」
そうではない、壁の銃創が20ミリガトリングの威力と密度だと判断したまでだ。紅蓮の主力戦闘機である初音21式は機関砲が数門(タイプによって数が違う)だから、あそこまで銃弾が綺麗に密集しない。
「ここは裁判官のおっさんが住んでたっつーか?」
「裁判官? なぜ司法の人間が粛正対象に?」
「反発したからだ、紅蓮は逆らわねーヤツには優しいぜ」
無頓着ともいうがな! とゲラゲラ笑うスキンヘッド。
「あやつらの、ラスプーチンの演説を覚えておるか?」
リデアが会話に割り込んでくる。
「戦闘中だったから聞き流していたよ」
「わしはそらんじられるぞ」
彼女は朗々と、聞き覚えのある演説を暗読する。
「我々は誓おう、 見えない境線を払い取り世界をあるべき姿に戻すことを。 そう絶対的な管理の元に思いのままに殺し合う、そんな理想の世界を。権利も収入も義務も平等とし、騎士が騎士として、農夫が農夫として、奴隷が奴隷として 存分に腕を振るえる社会を。力なき者をなぜ守らねばならない? そのような倫理観は、人という種に後付けした拘束具でしかない。背負え、 そして切り開け。 甘えるな弱者共が。 貴様等が愚鈍なのが、その惨めさの理由だ。世界は弱肉強食。それを覆そうとするからこそ、歪みが生じ謂われなき罰を受ける者がいるのだ。気に食わないのなら、欲するのなら奪え。 我々はそれを肯定しよう。不条理を認められる人間などいない。だが、平等の元に死ぬのならば、誰もが納得出来 るだろう」
三行で頼む。
「一行で充分じゃ。『秩序ある混沌』、この社会には司法は確かに不要じゃな。正義を決めるのは善悪ではなく腕っ節の強さなのじゃから」
「そんな無茶苦茶な。司法なし国家ってどうなるんだ」
「法なき太古の時代は決闘こそが裁判だった。弱者にとっては地獄のような時代じゃが、騎士にとっては最高の時代なのじゃろう。騎士の誇りなど結局は強者の理論なのじゃ」
勝てば官軍、勝てば法、勝てば正義。誰も異を唱える者などいない、発言を許されるのは勝者だけなのだから。
「治安悪化の度合いは場所によるとしか言いようがない。ドリットは落ち着いた場所じゃからそうそう一気に荒れはせんじゃろう」
「だといいが」
共和国の横暴を見てしまった後では、その言葉にも簡単には安心出来ない。
「ハッハー! 最高にハイって奴だぜぇー!」
目の前で荒れているハゲが一人いるしな。
「だが間違えてはならんのは、社会形式に正解などないということじゃ。紅蓮の思想は資本主義を突き詰めた究極の格差社会とも言える」
「競争原理が働いてこその資本主義だろ」
ここまで極端だと相手を叩き潰してしまい、大商会が貴族以上の権力を有してしまう。
独占状態となった市場では競争など起こりにくい。結局末路は停滞だ。
「ようはバランスじゃよ。なんだって極端はよくない」
空を仰ぐリデア。真上を真新しい大型級飛宙船が通過して、バス船の中を闇に落とす。
「下があるなら上も当然ある、ここ一年で成り上がった勝者も確かにいるのじゃ」
……監視されている。
乗客の数人がこちらを意識しているのだ。
それだけではない、時折遠くの建物の窓が光るのは、双眼鏡でこちらを見ているからだ。
明らかに包囲された状況、しかし俺は困惑していた。
なぜなら、視線から割り出した監視対象はどうやら俺やリデアではなく―――
「……ん?」
船は停止した。
「なんじゃ? 町に入らんのか?」
「リデ……リンちゃん、俺の側にいて」
「リデリン?」
数体の人型機が船の進路を塞いでいた。
軍じゃない、機体のセッティングがバラバラだ。
ならば必然的に、彼らはレジスタ―――
『久々の大獲物だ、気ぃ引き締めろてめぇら!』
『むはは、獲物だ獲物だ!』
『ぎゃはははは! ぶっコロガセー!』
―――あれ、レジスタンスかと思ったが、賊?
「アニキ、レジスタンスっすよ!」
「あ、よかったレジスタンスで正解だったか」
スキンヘッドは両手をパンと合わせ頭を下げる。どうした。
「隠していてすまねぇ! 実は俺もレジスタンスなんだ!」
知ってた。
エアバイクがあちこちから出現し、船を取り囲む。
「この船に紅蓮の騎士が乗っているのはバレバレだ!大人しくツラ貸せや!」
武装したヒャッハー達が船に乗り込んできた。武器は剣や杖か。
セルファークでは素人の銃より訓練した剣の方が強い。訓練による身体能力向上の上限が高いので、戦闘機が存在するようになっても地上では剣や弓といった原始的な武器が現役なのだ。
「ひぃぃ!」
「おっ、お助けを!」
「カタギにゃあ手は出さねえ、とっとと紅蓮でてこいや!?」
自演乙。
真っ先に悲鳴を上げたのはこちらを監視していた乗客だった。「皆さんを傷付けませんよ」アピールの芝居だろう。
「オラ!? ……お立ち下さい」
「おうよ」
なに今の応答。
レジスタンスの隊長らしきヒャッハーは紅蓮の騎士に凄んだ後に手を差し伸べ、騎士は偉そうに頷き(意外と高い声だった)立ち上がった。
「てめぇもだメス犬が! どうぞ、こちらへ」
「ええ」
マリアも連れて行くのか?
「段差があるぜ、背中と足元には気を付けな!」
「ありがとう」
……レジスタンスって意外と紳士なんだな。
紅蓮の騎士とマリアの行方を追いかけがてら、俺達はスキンヘッドの案内でゼクスト郊外の小屋へと辿り着いた。
「ここにレジスタンスのリーダーがいるのか」
「いや、リーダー代理しかいねぇはずだ。あね、リーダーは超多忙だからな!」
スキンヘッドにレジスタンスとの接触を頼んだら、まさかのリーダーとの面識がある、との回答。スキンヘッド意外と偉かった。
しかし小屋といっても、飛行機や人型機を格納する為のカマボコみたいな形の格納庫だ。それなりに大きい。
中には作業用と思しき鉄兄貴。本当にどこでもあるなコイツは、さすがベストセラー。
「こっちだ!」
スキンヘッドが鍵のかかった木箱を開くと、その中は地下への階段となっていた。
「そりゃ、これくらいはやるよな」
「防空壕を兼ねておるのじゃろ」
リデアが俺の手をぎゅっと握る。
変身魔法の維持の為ではなく、不安なのだろう、手が少し震えている。
スキンヘッド、俺、リデアの順で階段を降りていくと、そこは小さな部屋だった。
室内は土が剥き出しの壁であり、机と地図程度しかない。
そんな狭い場所にいたのは五人のみ。俺達が加わっても八人だ。
「チュリース!」
『チュリース!!』
トランプタワーを作っていたモヒカンやリーゼントがスキンヘッドと挨拶を交わす。
「レジスタンス内で使用されている挨拶じゃろうか?」
「違うと思うよ」
真顔で推測するリデアにつっこんでいると、最奥の男が立ち上がった。
「おや、貴女自らここへ乗り込んで来るとは……もう少しご自愛していただきたいですな、姫様?」
「ヒメ……?」
スキンヘッドがリデアをジロジロと見る。慌ててリデアを部屋の隅へと連行し、秘密会議を開催。
(おい、正体ばれているぞ!?)
(当然じゃ、あの男はわしが送り込んだのだからな)
ああ、そういうことか。なら知られてて当然だな。
(……ちょっと待てや。どういうことだ、それ)
リデアの手配した男がレジスタンスのリーダー代理を勤めるとなると、むしろきな臭くてびっくりだ。
まさかレジスタンスそのものがリデアの傀儡となるべく集められた組織ではないか、そうとすら思える。
(支援じゃよ、支援。組織作りや戦闘のノウハウがある軍人を送り込んでおきレジスタンスをそれなりの形にしておきたかったのじゃ)
(あの人は帝国軍人なのか)
(はて? お主は会ったことがあるじゃろう?)
そう言われると、なんだか見覚えがあるような。
リーダー代理は精悍な顔付きの、壮年の男性だ。軍人然とした硬さには溢れているが、誰だったかまではちょっと思い出せそうにない。
「どうかなさいましたか?」
「い、いえ」
今回は色々と裏がありそうで胡散臭い案件だが、とりあえず腹をくくってみよう。
「初め……まして? 俺はレーカ、主に帝国で自由天士をやってる。白鋼といえば判るかね?」
「なーにが『かね』じゃ……」
嘗められないように強気に出ただけだ。他の連中は彼が帝国軍人だと知らないだろうし、表向きはこれがファーストコンタクトなのだから。
リデアも負けじと一歩前に出る。
「そしてわしが、何を隠そう帝国の美姫リデ―――」
「うおー、マジモンの白鋼だぜ!」
「サインくれ、いえ下さい!」
「アニキと呼ばせてくれー!」
レジスタンス達は彼女の自己紹介など知ったことかとばかりに俺に詰め寄ってきた。
「な、なんだお前ら、暑苦しい密集するな!」
胸を張ったまま固まったリデア。無視されたことがショックだったらしい。
「はっはっは、白鋼といえば紅蓮の騎士団にレジスタンスにとっての憧れですからね」
現状を解説するリーダー代理。知名度が上がるということは周囲に注目されるということ、味方の多い帝国では安全となり、敵の多い共和国では危険となっていく。
狙い通りといえばその通りなのだが、なんにせよアイドルは真っ平御免だ。
「姫なんッスか?」
「う、うむ」
「姫なんッスね?」
「いや、もうほっといてくれ……」
消沈するリデアに妙に興味を示すスキンヘッド。
なんだお前、姫フェチか。
「初めまして、ということで。私は藪医者と呼ばれています。本名は姫様に聞いて下さいね」
医者? 軍医なのだろうか。
「あー、藪医者殿?」
「はい。我々に接触したご用件ですが……」
「それは彼女が復活してからにしよう、それより聞きたいことがあるんだが」
視線で続きを促すリーダー代理。俺は頷いて問う。
「紅蓮と元共和国軍の衝突が少な過ぎないかね?」
「その不自然な口調やめてもらえませんか?」
サーセン、そうします。自分も疲れてきた。
「祖国を奪われた軍人が、紅蓮の指揮下に素直に入るとは思えない。そういうことですね?」
「はい」
一年前のラウンドベースとの戦い、敗北が決した後に逃げ落ちる共和国天士達の悔しさは無線を通してひしひしと伝わってきた。
そんな彼らが完全に押さえ込まれているのが、どこか不自然に思えたのだ。
「実際に紅蓮の考え方を思想として支持している人はほとんどいませんよ」
そりゃそうだ。
「でも多重の相互監視体制と事実上の人質のせいで疑心暗鬼になってしまい、横の繋がり、反乱分子同士の連携がとれないのです」
だからこそレジスタンスのまとめ役を、帝国側から指名する必要があったのか。
「貴方ではなく、本来のレジスタンスのリーダーさんは? 各地のレジスタンスを纏められていないのですか?」
「ああ、彼女はなんというか……象徴のようなものなので」
象徴?
「レジスタンスの構成員達は妙に彼女を慕っているのです。カリスマと言い換えてもいいのかもしれません」
「つまり、人気はあれど組織の運営には疎い人?」
「そういうことです」
こういうのって簡単にばらしちゃっていいのだろうか。カリスマあるリーダーが無能だと知れば、離反する者もいそうだけど。
「いえいえ、彼女が戦闘向きでないことは服装を見れば一目瞭然ですよ。その上で皆あの方を慕っているようですね」
凄まじいカリスマの持ち主のようだ。ところでレジスタンスのリーダーって女性なのか。
「うむ、リーダーが戻るのはいつ頃じゃ?」
あ、復活おめでとうリデア。
「リーダーが戻るのは現在進行中の作戦終了後ですね」
リデアを部屋の隅へと連行して、秘密の会議再び。
(あの人は帝国の軍人なんだろ? 顔見知り同士、サクッと話済ませればいいだろ)
本物リーダーがお飾りなら、実質あの人が運営しているだろうし。
(そうもいくまい、せめて挨拶はせねば。無理にとは言わんがな)
面倒くさいな。
「あの、よろしいですか?」
「うむ、しかし作戦じゃと?」
リデアがぎろりと藪医者を睨んだ。
「どんな作戦じゃ?」
「二重作戦です。片方は話せますが、もう片方は現時点では機密です」
「話せ」
完全に部下扱いになっているぞリデアよ。
「紅蓮の新型人型機がロールアウトする寸前まできており、その阻止が当作戦の目標です」
「しっ、新型じゃと!? 聞いておらんぞそんなことは!?」
「ど、どうした急に?」
新型とは俺も驚きだが、リデアのそれは大仰過ぎた。
まるで、予定外のことが起こったといわんばかりの慌てよう。
「なぜじゃ!? 新型人型機など、いつどのように製造された!」
「白鋼の影響ですな」
俺の?
「人型機の脆弱性の問題についてはご存知ですか?」
「なんじゃ、それは」
「火砲の技術発展による、装甲の無意味化の問題のことですか?」
藪医者は首肯する。
近年、人型機は攻撃力が抜きん出て発達している。
最前線の地上兵器は敵の主砲を防げなければならない。それが戦術の前提条件だ。
だが、最近の砲は強力過ぎて敵の主砲を止められないことが多々あるのだ。
「ですがそれは致命的な物ではありません。複合装甲を採用した盾であれば敵砲も防げますし、そもそも戦術的な戦闘を可能にするのが人型機の長所なので。人型機のコンセプトはあくまで従来のトータルバランスに優れた兵器という枠組から外れることはなかったのです」
「もっと簡潔に頼む。兵器には疎いのじゃ」
つまりこういうことだ。
「最近砲撃強力だし、人型機の装甲じゃ防げるか微妙じゃね?」
「いっそ無装甲にして、当たらなければどうということはない、ってやっちゃえば?」
「いや、でも盾とか使えば防げるし。無装甲とか怖いだろ」
「だな。人型機のコンセプトは今まで通り、攻防速の両立でいいな」
「さんせーい」
「ですが、白鋼の存在がその定説を覆してしまった。極めて運動性能の高い機体は、敵機を圧倒出来ると証明されたのです」
自分でいうのもなんだけど、あれは例外だろ。動くだけで自壊する兵器だし。
「装甲度外視の高機動型人型機、か。使えるのかの?」
「実用性の如何はともかく、やってみる価値はあると判断されたのでしょう。怨敵たる白鋼を打倒する策とも考えられます」
俺対策か~。
「白鋼あってこその新型か、うむ、なら知らないのも道理じゃ」
「今日、新型の試験があるのです。その結果が良好であればそのまま各地の製造現場に図面が送られる。新型配備阻止の、実質最後のチャンスなのですよ」
国中に散ってしまえば回収も破壊も困難だろう。しかし、ゼクストを出る前に消滅してしまえば紅蓮涙目ってわけだ。
「紅蓮幹部も多数視察するらしく、その者達を叩ければ組織の弱体化にも繋がります。まあ最重要目標はあくまで新型機の図面であり、多くを欲張るのは危険なのですが」
「新型か、見てみたいな」
どこからかこっそりと覗いてしまおうか。
「でしたら、作戦に参加なさってみたらどうでしょう?」
なぬ?
図面の強奪或いは破棄、その計画はこのような手順だ。
先行量産型の試験は元々ゼクストの町にあった闘技場で行われる。人型機用の闘技場はツヴェーのそれと似た作りであり、町にほど近い高原にぽっかりと開いた縦穴の底に作られている。
会場を出入りするには町から直通のトンネルを通るか、あるいは空から航空機で出入りするかのニ択。
つまりトンネルの出入り口を封鎖してしまえば、上から攻撃し放題なわけだ。
しかし彼等の情報収集によると闘技場の上には会場を警護する帝国の最新鋭機・舞鶴が数十機もスタンバイすると予想される。幹部の護衛としても些か多過ぎるのが気になるが、これらを排除しなければ上空制圧は出来ない。
空を封じるのが作戦の要だ。
てっきり俺はこの航空戦力排除を頼まれると予想していたが、意外にもトンネル出入り口の封鎖に回された。
客人に危険な役回りはさせられないのと、どうやら航空戦力排除に用意した天士がかなりの凄腕だそうだ。
「かつてガイルとも渡り合った男じゃ、最新鋭がどれだけ群がろうと敵ではない」
「銀翼の天使か」
エースパイロットと銀翼の間には大きな差があるが、銀翼と銀翼の天使にはもう一段階格差が存在する。
最早感覚的な話だが、同じ単機にて戦略を覆す存在であっても「頑張れば戦略を覆す」か「呼吸するかのように戦略を掻き回す」かの違い。
ガイルは後者であり、それと渡り合える天士ならばその者も銀翼の天使なのだろう。
依然手を繋いだままのリデアと、その凄腕について話しつつ民家の一つへと向かう。
「つーか、そいつもお宅の回し者?」
「うむ、ウチの取って置きじゃ」
レジスタンスの用意した天士を切り札として運用するのは、ちょっと悪いが不安。裏切り的な意味で。
「ま、俺としては空に回されても困るんだけどな」
白鋼は飛行機としての印象が強いので、もしそちらに回されたら辞退せねばならなかった。飛行機操縦の腕前は所詮人並みだ。
教えられた民家へと到着、玄関をノックする。
『紅蓮に今日を生きる資格は』
「ない!」
『よし、通りな』
なぜ採用されたのか不思議な合い言葉を突破し、民家に上がる。
変身魔法がちゃんと機能しているか窓ガラスを鏡に確認し、呼吸を整え一室の前に立つ。
ノックすると、中から声が返ってきた。
「―――どうぞ」
呼吸を整え、『廊下側』に付いた施錠を解除。
室内に入ると、そこにいたのはポニーテールの少女だった。
「貴方は―――」
「……こんにちは」
マリアとの、二度目の他人としての会話だった。
服装は拉致時と変わらず洋服だ。別段乱暴に扱われた様子もなく、一安心する。
そう考えて、縛られた手首の縄に息を飲んだ。
「痛くはないか?」
「えっ?」
「手」
「これ? 緩いから平気よ」
そう言って、縄輪から手首をの中で手首を抜いたり入れたりしてみせる。なるほどゆるゆるのようだ、って待てやコラ。
「貴方はレジスタンスに加わったの?」
「拉致された先の隠れ家で出くわしたんだ、答えは解りきっているだろう?」
今の彼女にどのように接すればいいか判らず、咄嗟にミステイクを誘うような返答をしてしまった。
俺がレーカだと、気付かれたくはなかった。
はぁ、と溜め息を吐くマリア。
「こんなことになるなら、民間レベルとはいえ情報を渡さない方が良かったかしら」
俺の有無と君の拉致は無関係だろうに。
「君は……本当に、紅蓮の関係者なのか?」
彼女が紅蓮の騎士と親しくしていた理由、それを問うために俺は薮医者と取引をした。
マリアとの会話の機会を設けることを報酬に、自身を戦力として売り込んだのだ。
その提案を受け入れた薮医者は、「ぶっちゃけ、戦力不足なので」と正直な内部事情を暴露した。
対価として取り付けた報酬内容はマリアに手荒な真似をしないことと、マリアと会話の機会を設けること。
マリアと会いたいと提案した時に薮医者が焦っているように見えたので少し心配していたのだが、彼女本人を見る限り手荒な真似は本当にされてはいないのだろう。
「知らないの? 私、紅蓮の騎士の人のついでに拉致されたのよ?」
なにを今更、とばかりに首を傾げるマリア。
そういう煙に巻く反応ではなく、マリア自身の意思を確認したいんだ……と考えて、ふと気付いた。
(まさか、マリアも俺と同じようにミステイクを狙った?)
決定的な確証があるわけではないが、この勘が当たっていれば……それはつまり、マリアにしてみれば紅蓮の騎士と親密な関係である、とレジスタンス達に思われていた方が都合がいいということだ。
ふーむ、元気そうなのは確認したし、紅蓮との関係は一旦脇に置いといてもっと別のことを訊いた方がいいだろうか。
「えっと、ご趣味は?」
あはは、俺って馬鹿だな。
「しゅ、趣味?」
「待て、そうじゃなくて……普段はなにをしているんだ?」
「職業はギルドの受付嬢よ、言わなかったかしら」
言いました。聞きました。
そうじゃなくて!世間話レベルの何気ない情報を聞きたいんだ、いいソフィーへの土産話になるだろうし。
しかし、受付嬢のマリアか……制服姿の彼女はちょっと見てみたい。
「見る?」
上目使いでちょっと照れつつ、鞄から出した上着を羽織るマリアであった。
「それ、ギルドの制服だったのか」
この世界にはクールビズなんて文化はなく、上着を脱いだギルド員は初見だ。
なんだかドキドキするな、屋敷の頃のメイド服の方がよほどコスプレっぽいのに……まさか俺って、メイド慣れしてしまっているのだろうか。
それは問題だ、メイド服にときめけないなんて。大問題だ。
「ねえ、こんな話をする為に会いに来たの?」
頬を膨らませ抗議の意を示すマリア。
「目的は最低限果たした、あとは余分な世間話だ」
どうも彼女の行動には裏があるとしか思えない。その裏を聞き出せそうにない以上、彼女の安全を確認出来ただけでも上出来としよう。
「はぁ、方針変更。ここには私達以外にはいないし、世間話なら私から話してもいい?」
「あ、ああ。どうぞ?」
「貴方には、大切な人っている?私にはいるわ」
あ、ちょっと聞きたくない。
ここで男の名前が出てきた時には、三ヶ月くらい孤島のアジトにひきこもる自身がある。
「私には妹がいる。血の繋がりはないけれど、家族同然に暮らしてきた子が」
なんだ、大切な人ってソフィーのことか。驚かせやがって。
「私達は喧嘩もしたことがなかったわ。互いに互いを知り尽くしているから、認識に齟齬が生じることもなかったの。その関係が崩れたのは、歳の近い男の子が家に住み着いてから」
「えっ」
間抜けな声が漏れる。
俺のせいで二人が険悪になった、なんてことはなかったはずだけど。
「私達は互いさえ見ていれば良かった、けれど第三者が加わったせいで私達の矢印は、必ずしも互いを指すわけではなくなった」
抽象的ではあったが、言わんとするところはなんとなく理解できた。
それはつまり……
「……嫉妬?」
「単刀直入に言えば、そうかもね。彼が現れてから、目に入れても痛くない可愛い可愛い妹に頼られる機会がぐんと減ってしまったわ。でも」
語りつつ、マリアは手を拘束するロープを捨てる。
「心の矢印は私からその子に対するものとは限定されない」
「あの、ロープを落としましたよ?」
さらっと違和感しかないことしないでくれ。
「あの子はとのすれ違いは一種心地いいものですらあったけれど、妹は妹であると同時に敵になってしまった」
「敵とは、穏やかじゃないな」
不敵な笑みを浮かべる彼女は、俺へと臆すこともなく歩み寄る。
「マ、マリア……?」
「つまり、なにが言いたいかというと」
マリアは俺の手を握り、意外と強い力でベッドへと放る。
ボフンと背中からベッドに落ちる俺。
「へっ?」
リデアと手が離れ、変身魔法が解けてしまう。
豹変した彼女に困惑する俺は、体を硬直させることしかできない。
ズシリ、と彼女は俺に馬乗りで股がる。
スカート越しに伝わる彼女の体温が、とても熱い。
「―――ずるいじゃない、あの子ばっかり一緒にいられて」
「マリ、んっ」
名を呼ぶことすら許されず、唇を重ねられた。
それだけではなく、なんと口内に彼女の舌が侵入してくる。
訳もわからず、ひたすら目を白黒させるに終始するしか出来ない。
こんな経験初めてな俺は、狼に補食されるのを待つ羊だ。
粘膜と唾液が絡み合い、舌同士がおっかなびっくりに、しかし大胆に求め会う。
ああ、キスって気持ちいいものなのだな、と俺はぼんやりと考える。
そっと顔が離れると、唾液が糸となって引いた。
蠱惑的な潤んだ瞳に、頭は完全に参っていた。
「いつから、俺だって気付いて……」
「初めから。あの広場であんなひねくれたことを言うのはレーカくらいよ」
俺の根性のひんまがりっぷりは識別に使えるレベルなのかよ。
「いいのか。ここでばらしてしまって」
「さて、私が紅蓮の女だと見せ付ける芝居の観客は、一体誰だと思う?」
「少なくともわしではないのじゃろうな、なんのつもりじゃ淫乱メイド」
「あ」
存在をうっかり失念していた。
「あら?いたのリデア姫様?」
「はっ、従者の無礼は主人の恥じゃぞ。それでソフィーの専属メイドとはな」
「レーカ、明日の作戦に参加するよね?」
「無視するな!」
憤慨するリデア。作戦のことを知っているとなると、やはりマリアはレジスタンス側?
もう一度唇が重なる。今度は触れるだけの、啄むような接吻。
「勝利のおまじないよ」
その言葉に、ふとデジャブを覚えた。
「大陸横断レースの予選でも、そんなことを言っていたな」
「ずっと思っていた。あんなことになったのは、レース本選の時におまじないをしなかったからじゃないか、って」
そんなことがあるものか。迷信だ。
「そうね、でも帰りを待つ女にはこれくらいしか出来ないのよ」
「マリア」
「それと、プレゼントがあるの。元は貴方のものだけれど」
プレゼント?なんだろ、まさか「プレゼントはわ・た・し(はぁと)」とか!?
「もう用意してあるわ、場所は……」
「くらえっ、人道的魔法マジカルリリカルスタンガン!」
マリアが何かを言おうとした瞬間、リデアの電撃魔法が俺を襲った。
「うぎゃー!?」
ビリビリと感電する。マリアは驚いているだけなので、効果範囲は一人のみに限定されるようだ。
「な、なに、を……」
「うっさい!目の前で乳くりあうな、軟弱者が!」
真っ赤になって怒鳴るリデア。だからといってここまでしなくても、と思いつつ俺の意識は沈んでいた。
目が覚めたら夜になっていた。
「空気読めよ、まったく」
「お主に言われたくはない!」
ここは……薮医者と会ったレジスタンスの隠れ家に戻ってきたのか。
「ゼクストの宿は、まあ危ないよな」
どこに紅蓮の目があるか判らない、宿屋など絶好の監視対象だ。
「危ないのではなく不可能じゃ。この町の宿はほとんどこの一年で閉店してしまったらしい」
「そりゃまた、災難なことだ」
反乱者の強制収容所となっている町に好き好んで来る奴なんていない、宿に閑古鳥が鳴くのは当然だ。
「レジスタンスの人達は?」
「明日に向けて準備している。そのうち戻ってくるがの」
「気を失った後、マリアとなんか話したの?」
「まさか。気まずいから適当なことを言って戦略的撤退したわい」
相性悪いのだろうか、マリアとリデアって。
それ以前の問題、か。
不意に蘇った口内の艶かしい感触に、興奮より先に困惑が沸き起こる。
「なんで、マリアはあんなことを」
「発情しただけじゃろ」
「犬猫かよ」
ソフィーが犬でマリアが猫かな、イメージとしては。
(今度、付け耳を自作してみよう……)
心の中で、そう静かに決意するのであった。
「何を難しい顔しておるんじゃ?」
(だが最初の標的は貴様だリデア)
沸いたイタズラ心のままに怪訝そうに眉を潜めるリデアに狙いを定め、魔法を使って後ろ手に耳を作り上げる。
「なんじゃ、今怪しい魔力を感じたのじゃが」
流石に鋭い、だがこの距離なら俺の間合いだ!
「くらえ、必殺―――!」
「な、しまっ―――!」
一息に跳躍し、リデアの頭に狐耳を装着した。
「……なんじゃ、これ」
「獣耳。色々裏で企んでいるリデアには、狐かタヌキが似合うって思ってたんだ」
「どういう意味じゃ……」
「タヌキの方が良かったか?」
「いやまあ狐の方がマシ、って取れんぞこれ!?」
形状記憶合金だからな、空気中から錬金術するのは難しかったぜ。
「無駄に器用なことを。獣の耳なら獣人の天然物を愛でろ」
「あれって天然物なのか?」
魔王謹製の、遺伝子組み換えの産物だぜ?
……魔王といえば、リデアに伝えておきたいことがあったのだった。
忘れないうちに話しておこう。
「魔王が世界が滅ぶって言っていたんだが、大丈夫?」
むせた。
「ぐふっ、がは、むうっ、誰に聞いたのじゃ!?」
「あれ、知ってたの?」
一国の姫ともなればその手の情報は常に収集しているか、だがこれは朗報ではない。
あの畜生魔王の妄言がマジである可能性が高まったのだ。
「どこまで知っている?」
「何にも。あの変態魔王、滅ぶってことだけを伝えて成仏しやがった」
いい迷惑だ、問題が漠然とし過ぎて調べようもない。
「そうか、ならその件に関しては他言無用じゃ」
「なんとかなるのか?」
「なんとかするのはお主じゃ、レーカ」
俺かよ。
「その案件は『この』わしが受け継いだ使命。わしはわしで最善を尽くす、じゃが手が足りないと思えば遠慮なくこき使ってやる。だから、これに関してはわしに一任しろ」
「そりゃ俺は君を信じると決めているから、いいけど」
「というかこの旅も、その計画の一部じゃぞ」
レジスタンスの支援が?
「この話は終いじゃ。明日の作戦は楽なものではない、英気を養っておいた方がいいと思うが?」
ドタドタと足音が近付いてくる。解析魔法にてそれがレジスタンス達であると確認し、俺は大きく欠伸をした。
「……眠くないけどな」
さっきまで気絶していたし。
「アニキ、お目覚めっすか!?」
「チュリーッス!」
「御届け物だぜサインくれやオラァ!」
どたばたと大きな棺桶のような箱を運び込んできたヒャッハー達。
「俺に御届け物?」
「ウッス!」
箱を開くと、中に収まっていたのは懐かしい武器だった。
「こいつは……まさか!」
彫刻の彫られたマスケット銃のグリップ、分厚いブレードとその内部に隠されたショットガンの砲身とポンプアクション式の弾装。武骨な外見と裏腹に複雑な内部構造は、だが今の俺が見れば色々と稚拙な部分に気付いてしまう。
「あの女が指定した場所に取りに行かせていたのじゃ」
「ガンブレード、マリアが確保していたのか」
俺が初めて作った工芸品、初めての武器だ。
手に取って可動させてみる。
ブレードが上下に分離し、内部からドリルが突出。カードリッジも入っている、整備すればすぐ使えそうだ。
「な、なんじゃ、その物々しい武器は」
「自作の剣だ。明日の作戦にも一応持っていくか」
旅に出る以前も少しずつ手を加えていたが、ここ一年で培った技術・アイディアを盛り込んでおきたい。
「運んでくれてありがとな、俺は整備をしているよ」
面々に一声かけて、早速分解作業に移る。
やがて俺の意識は、目の前のガンブレードへと埋没していったのであった。
雑魚寝である。
女性はリデア一人だが、まあ雑魚寝ってやつである。
小屋の地下隠れ家にて、むさ苦しい男達に混ざり眠るリデア。この町で最も安全な場所とは言え、少女をこんな場所で寝かせるのは抵抗がある。
これならマリアと一緒にいた方が余程快適そうだ。
「勇者よ、その宝箱の装備を身に付け、魔王を倒すのだ……」
むにゃむにゃと寝言を漏らすリデア。あれ、案外大丈夫っぽい。
「図太いお姫様だ」
呆れていると、レジスタンスの一人がこそこそと動いていることに気が付く。
ふわあ、と欠伸を一つ。ガンブレードの改造もそこそこに俺も寝るか。
起きているっぽい彼はやがて立ち上がり、出口へと向かった。
「スキンヘッド、どうした?」
「ア、アニキッ!?」
「静かにしろ、皆寝ているんだぞ」
動いていたのはスキンヘッドであった。
「ちょ、ちょっとお花を摘みに行くぜ」
「トイレか、俺もしてから寝るわ。一緒に行こうぜ」
「えっ」
なんだよ、嫌なのかよ。
「い、いや、連れションは義兄弟の証だからな!」
そんな風習はない。
「ん、なんだその紙」
スキンヘッドは手に持っていた紙を後ろに隠した。
「ケツ拭く紙だぜ」
「大かよ……なんで隠す?」
「香り付きだから、恥ずかしいんだ」
乙女趣味だな、スキンヘッド。
立とうとして、服をリデアが掴んでいることに気付いた。放せ。
引っ張り取ると手が掴む物を求めて宙をさ迷ったので、ガンブレードを握らせた。これでよし。
「薮医者さん、リデアをよろしく」
「はい、解りました」
間髪入れず薮医者は立ち上がる。彼の意識はしっかりと覚醒していた。
「あんたも起きていたのかよ」
驚いた様子のスキンヘッドだが、自国の要人がいる場で軍人が油断するはずがない。
俺達が便所に行く、ということもしっかり聞いていたのだろう。
「手はちゃんと洗って戻ってくるのですよ」
「不潔な男は嫌われるぜアニキ」
解っとるわい。
町から少し離れたここには、灯りなど一つもない。
かといって町の外でライトの魔法を使えば、ゼクストのにいる軍人に見つかるかもしれない。
結果、俺達はおててを仲良く繋いで闇の中を歩いていた。
「も、もうちょっとゆっくり頼むぜアニキッ」
「あー美少女と手ぇ繋ぎてぇ」
辺りは草原。別にどこで用を足そうと構わないわけだが、一応森へと入っておく。
「アニキ、覗かんでくれよ!」
「覗かねーよ!」
ズボンを下ろそうとベルトのバックルに手をかけた時、森の奥から声が聞こえた。
(誰かいるのか!?)
解析魔法を使用すると、木々の奥で大柄な男が屈んでいるのを感知。だが間接的な解析なので顔までは識別出来ない。
物音を発てないように、そっと覗き込む。
「ふん、ふん、ふーん、ふっふっふーん」
仮面変態が、金だらいで洗濯をしていた。
ごしごしと洗濯板でレースのパンティーを洗う変態仮面。なんでこいつがここに……
「ふむ、やはりパンティーは白に限るな!」
パン、と両手でパンツを張って誇らしげに頷く変態。
俺は、そのパンティーに見覚えがあった。
「それは、リデアが今日一日穿いていたパンツじゃないか!」
「む、何奴!?」
対峙する俺と変態仮面。
俺は既に確信していた。こいつは俺達の敵ではない、女の敵だ!
護衛としては悔しいが、こいつには充分リデアを害するチャンスが一応あったはずだ。
にも関わらず最初はリデアをクンカクンカするだけ、今回は親切にも使用済みの下着を洗ってあげているだけ。
ここから導き出される結論は一つ、こいつは変態―――!
「その下着を置いていけ!洗濯前のやつは俺に下さい!」
「これはわしの物だ!何人たりとも渡すものか!」
ぎゃあぎゃあと口喧嘩していると、俺の体に鈍痛が走った。
「うっ!?」
具体的には、俺の下腹部に。
「お、おしっこしたい……」
よろよろと茂みに入り―――
―――ふう。
なんだ、もっとしっかりと描写してほしかったのか。
すっきりした心地で元の場所に戻る。だが当然ながら、変態仮面はもういなくなっていた。
「逃げられたか、畜生」
「どうしたんだアニキ?」
スキンヘッドが戻ってきた。
「済ませてきたぜ」
「報告しなくていい。もう戻るか、なんだったんだあの変態は……」
踵を返したスキンヘッドを追う。
ふと見れば、彼の手にはもう紙はなかった。
まあ、当然だけど。
〉とりあえず小数点を全部直そう
これからはルールに気をつけるので、今から全部直すのは勘弁してください。




