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銀翼の天使達  作者: 蛍蛍
村に馴染もう編
5/85

三人組と青空教室

 少年は瞑目していた。

 微動だにせず。揺るぎもせず。

 ただ、ただ草の香りの風を受けていた。

 館と村の中間。草原の中で小さな、ほんの数十センチ程度の崖となった場所で彼はひたすら立ち尽くす。

 彼の前にはゼェーレスト村。少年が新たに住まうこととなった小さな自然村。

 ゆっくり瞼が持ち上がる。

 その瞳に宿るは憂いか、嘆きか。


目標視認(ターゲットインサイド)


 事務的な確認作業。

 機械の如く無機質に少年は言葉を発した。


「第一目標との接触後、第二目標の調査活動へと移行する」


 脳内で描かれる村の俯瞰図。

 幾たびも作戦のシュミレートを繰り返し、最善手を導き出さんとする。

 やがて、彼の中で一つの作戦が完成した。


「オペレーション『OTUKAI』発令」


 汗ばんだ手の平で握っていた紙を広げる。

 この指令書こそ、本作戦の要。否、全てといって過言ではない。


「状況開始」


 一歩踏み出そうとして―――ようやく、自分の足が震えていることに気付いた。


「くっ……びびっているってのか、俺が……!?」


 腿を叩いて叱咤するも、一度怖じ気付いた足は簡単には動かない。

 情けない。情けなさ過ぎる。


「ハハ、笑え「さっさと行けや!」


 ガイルに背中を蹴っ飛ばされ、小さな崖を転げ落ちる我らが主人公。

 今日は零夏(れいか)君の村デビューである。






「いやさ、別に引きこもっていたわけじゃないんだよ?」


 見知らぬ俺に対する村人の好奇の視線を集めつつ、俺は隣を歩くマリアに弁明していた。


「たださ、ほらね? 飛行機って格好いいじゃん」


「じゃん? とか言われても困るわよ……」


 飛行機の格好良さが解らないとは、人生の一〇割を損している。


「ソフィーだったらきっと解ってくれるのに」


「それはないわね」


 断言された。


「あの子は飛行機(ソードシップ)に愛着こそ抱くけれど、格好いいだとかそういう感想は持たないわ。あの子にとって飛行機(ソードシップ)は空を飛ぶための道具であり、翼よ。男と違って女は空に余計なものを持ち込まないの」


 マリアは異世界出身の俺より飛行機の知識に乏しい。

 だというのに彼女の言葉は、俺の中の何かを少しだけ、しかし確かに抉った。


「とにかく」


 咳払いを一つ。


「とにかく、俺は悪くない。悪いのは俺を魅了する紅翼(せきよく)だ」


責任転嫁(せきにんてんか)


 ズバッと切り捨てられた。


「五年後また来てくれ」


「え?」


 言葉責めも悪くはないが、話はもう少し大人の女性になってからだな。

 変態? シラナカッタノ?

 きっとマリアもキャサリンさんのような美人になるだろう。今から楽しみだ。

 下心なんかじゃないぞ。美女美少女は見て愛でるものだからな。


「ところで村に出かける時もメイド服なんだな」


「今は仕事中よ」


「そだったの?」


 初耳だ。てっきり自由時間かと。


「ええ。今一つ冴えない後輩のお守りをしなきゃ」


「大変だな、先輩ってのも」


 間髪入れず他人事のように返すのがコツである。


「……なぜかしら。イラっとしたわ」


「牛乳飲め。胸も大きくなるぞ」


「むっ……!?」


 牛乳による苛立ちの沈静化と胸のサイズアップが迷信なのは秘密だ。


「デリカシーのない人ね!」


 俺の思う以上にセクハラがショックだったのか、マリアは眉を釣り上げ踵を返してしまった。

 突然の出来事に困惑が先に来て、呼び止めることも出来ぬまま見送ってしまう。


「……しくじった」


 子供のマリアにセクハラ発言をしても楽しくないし、単に友達のノリで下品な話をしただけなんだけど。


「繊細な年頃って奴だったかな」


 マリアは一三歳、二次成長の時期だ。性に関しては色々と不安定だったのかもしれない。

 後でちゃんと謝っておこうと決意し、俺は目的地である商店への歩みを進めた。






 村に一つの雑貨屋さん。

 王都で入荷を行うこの店は、日用品から都会の流行品まで、ゼェーレストでは生産不可能な品々を手に入れる唯一といっていい手段である。


「こんにちは」


「ん、おお、いらっしゃい。見ない顔だね」


 店番の初老の男性は、どうやらうたた寝していた様子だった。


「はじめまして。丘の上の屋敷に住まわせてもらうことになったレーカと申します。OTUKAIに来ました」


 自己紹介しつつキャサリンさんが書いたメモを渡す。


「ああ君が……どうだいこの村は?」


「新しい生活に慣れるのに忙しくて(若干嘘)、村に降りたのは今日が初めてなんです」


 だから判らないと正直に告げる。のどかだとか静かだとか、適当なことを言って茶を濁すよりはマシだろう。


「そうなのか。都会と違ってゼェーレストは色々と不便も多いだろうが、なに、ここじゃ誰もせわしなく生きることを強要しないさ。ゆっくり馴染めばいい」


 雑貨を袋に納めつつ口を動かすおじさん。なぜだか俺が都会育ちと確信しているような?


「そうします。おじさんは都会の人だったんですか?」


 雰囲気が少し垢抜けているし、物事を捉える視点が都会基準だ。


「この村生まれこの村育ちだよ。ただ商人の修行時代は王都に住んでたし、今でも週に一度はあっちへ仕入れにいかんきゃいけないからね。君が都会の人間だってことくらいは解るさ」


 この村と比べれば大抵の場所は大規模といっていいと思う。現代日本なら尚更だ。


「ほれ、メモにあった分の品だ」


「ども」


 商品と交換に硬貨を渡す。この世界、セルファークには紙幣はないそうだ。存在の有無をレイチェルさんに尋ねたところ「紙では破けるし偽物を作られるだろう」と返された。


「こっちにいたぞー!」


 ん?


「エドウィン、お前は裏から回り込め! 俺は正面から追い立てる!」


「了解っ」


 商店の前を二人の男の子が走り抜けて行った。


「なんだありゃ?」


「さてな、どうせまた下らんことだろ」


 慣れているのかそれ以上気にする様子もないおじさん。


「ふむ」


 見た感じ今の俺と同じ頃だったよな。


「この村に、俺と同い年くらいの子供ってどれくらいいますか?」


「そうさね。さっきの二人と……あと一人いるだけだな。それとソフィー様とマリアちゃんか」


 つまり俺を含めても六人か。


「少し年上の成人したてな奴や、また言葉も不自由なちびっ子ならいるがね」


「この歳ではその差は大き過ぎます。ところで」


 先程の言葉で気になった部分を訊ねる。


「ソフィーに様付けしていましたけど、彼らの身分をご存じなのですか?」


「学のない俺にはやんごとない身分のお方、ってことしか判らんね。村の噂では貴族だとか王族だとか囁かれているが」


 アナスタシア様はとにかく、ガイルが王様とかまじうけるー。

 とっと、そうじゃない。ガイルのことなんて置いといて、今さっき閃いた思い付きを実行しなければ。


「あの、袋を一旦預かってもらえませんか?」


「どうしてだい?」


 俺は少年二人が走り去って行った方角を視線で示し、


「小さな村ですし、交流くらいあった方がいいかなって」


 おじさんは察したようで頷いてくれた。


「そうかい、なら行ってきなさい」


「はい」


 おじさんに一礼。荷物を手渡し、俺は少年達を追い掛けた。






「ふっふっふ、遂に追いつめたぞニール!」


「今日こそ僕達の勝ちだ!」


 なんという負けフラグの口上だ……

 彼らの子供特有の小回りの良さで若干見失いそうになりつつ辿り着いたのは、村外れの岩場。これ以上外に出れば魔物に遭遇するという、ギリギリのラインだ。

 少年二人は巧みに回り込み、この小さな細道へとその人物を誘い込んだ。

 女の子だ。肩あたりで切り揃えられた黄色に近い金髪と勝ち気な瞳が印象的な、お転婆そうな少女。スカートを穿いていなければ男の子だと勘違いしてたかもしれない。

 少女を追い詰める二人の少年。

 イジメか、或いは犯罪的な香りすら漂うシチュエーションだが、もう少し様子を窺うことにする。

 なんというか、少女に余裕があり過ぎるのだ。

 ジリジリと迫る少年二人、その様をあざ笑うように首を横に振る少女。


「あのねぇ……これが考え抜いたって作戦? ちょっとひどいわ」


「なんだと?」


 俺口調の少年が足を止める。


「マイケル、惑わされないで。ニールは追い込まれたら相手の動揺を誘って窮地を脱しようとすることがある」


 もう一人の少年は警戒を緩めぬまま、静かに移動して少女の退路を断つことに努める。

 少女、ニールはその様を笑みを堪えられない風に眺めていた。

 相手に不快さを与える笑みではなく、悪戯心から漏れるような子供っぽい喜色だ。


「追い詰めるっていうのは悪くない。でも、包囲網を維持するのに二人ってことは、更に決定打を与えるにはもう一人必要になるんじゃない?」


 ぴたりと止まる少年二人。


「ほら、どうしたのよ? かかってきなって、逃げるけどね」


 挑発するニール。

 ふぅむ……果たしてどこまでがブラフだ?

 ニールはもっともらしく「襲いかかれば隙が出来て逃げ出せる」と言っているが、実際はそこまで杜撰な退路の絶ち方ではない。俺はそう感じる。

 その前提で考えれば、やはり彼女が狙うのは……


「こ、このっ!」


「マイケル、駄目っ!」


 エドウィン少年が叫ぶも、マイケルは既に焦りにかられたまま木刀を振りかぶり少女に襲いかかっている。


「ちょーっと待ったあぁ!」


 思わず叫んでいた。

 驚いて俺を見るエドウィン。マイケルは視線を向けるだけだったが、ニールは一瞥すらせずマイケルの迎撃に努めた。

 マイケルは腕を掴まれ、勢いのまま組み伏せられる。


「ぐあっ!?」


「そんな、仲間がいたのか!?」


 マイケル、エドウィンの順である。

 愕然と俺とニールを見比べるエドウィン。マイケルが組み伏せられながらも抗議の声を上げた。


「卑怯だぞニール!」


「冒険者になってからも、魔物の前でそう駄々をこねる気?」


 更に腕を締め上げられたマイケルは呻き声を漏らすしか出来ない。


「……そうだね、卑怯とは言わないよ。でも君らしくないね伏兵なんて」


「とっにかく、うでぇを、はなせぇぇぇ」


 涙目で息も絶え絶えに訴えるマイケル。ニールが手を離すと猫のように飛び退いた。


「言っとくけどそいつ、私の知り合いじゃないよ。あんた、たまたまこの村に来ていた子?」


「違う。俺は丘の上の屋敷の居候だ。真山 零夏(まやま れいか)、零夏と呼んでくれ」


「レーカね、変な名前」


 ほっとけ。日本でも散々「変わってる」と言われ続けたわい。


「で、さっきはどうして私達の訓練を止めようとしたのよ」


 訓練だったのかよこれ。


「女の子が襲われていればとりあえず止めるだろ。木刀は危ないって」


 ただの喧嘩ではないと察してはいたが、だからといって許容出来る展開ではなかった。主に俺の常識が。


「くそ、それじゃあお前が声をかけなければ勝ててたのかよ」


 マイケルがぼやく。


「いや無理じゃないか? 俺が注意を反らさなくても自分でなんとかしていただろうし」


 ニールの体捌きは見事だった。素人としては破格の、流麗で無駄のない動きだ。


「お前達はなにをしていたんだ? さっき『冒険者』と言っていたが」


 三人は顔を見合わせた後、エドウィンが代表して答えた。


「そうだよ。僕達は冒険者を目指しているんだ」


 冒険者か、なんともファンタジーな響きだな。

 冒険者というからには冒険をして生計を立てていると考えるべきだろうが、地球において冒険者という職業はそうそう存在を許容されてこなかった。

 豊かになった現代においても、旅で生活するのは困難だ。町から町へ移動するだけでも多大な労力を要するし、滞在地で職を求めるのは困難。それが中世時代な世界なら尚更だ。

 せいぜい国家に属する軍人が莫大な予算を投じて未開の地へ探索へ行ったり、あるいは企業のスポンサーを得て記録挑戦に挑む程度。登山家とか○○海無着陸横断飛行、とか。

 そういう意味では宇宙開発事業も一種の冒険なのかも。最後のフロンティアとはよく言ったものだ。

 とにかく、よく想像するようなRPG的な冒険者というのは歴史上それほど実在していなかった。戦を生業とする傭兵やチンピラが関の山だな。

 初日に旅立とうとしておいてなんだが、つまるところ俺の知識では冒険者という存在がよく判らない。


「冒険者ってなんだ?」


 判らないので、率直に訊いてみた。

 数瞬硬直するも、訝しむ様子は見せず答えてくれた。主にエドウィンが。

 なに今の、気を遣われた? ほかの二人は眉顰めてるんですが。


「冒険者は町や集落の外に出て、素材を集める職業だよ」


「素材って何の?」


「何のって……色々だよ。日用品から人型機(ストライカー)の部品まで、というか人の暮らす場所で手に入りにくいもの全般だね」


「狩人とどう違うんだ?」


「ギルドを介するか否か、かな。狩人は直接商店に獲物を売り込むけれど、冒険者はギルドの依頼で動くね。専門家としては狩人の方が仕事の効率がいいけど、戦闘能力は冒険者が上。だから強い魔物から取れる素材は狩人じゃなくてギルドを介して冒険者に頼む必要がある」


 なんか説明慣れてないか?

 ギルドはやはりゲームなどで登場する、依頼者と冒険者の仲介を受け持つ組織だろう。


「そういうのって個人や少数ばかりか? 航空事務所ってのがあるんだし、冒険者の事務所もあるのか?」


 エドウィンは説明上手っぽいので、ここぞとばかりに訊ねる。


「うーん、航空事務所は飛宙船や飛行機を扱うから必然的に大規模になるからね……というか、冒険者も凄腕となると人型機を使うようになるし、冒険者と自由天士の間に明確な線引きはないかもしれない」


「冒険者の上位互換が自由天士?」


「兵器を扱う自由天士の方が戦闘能力は段違いに高いけれど、個人で高い戦闘能力を持つ冒険者にも需要はあるよ。小型の魔物に一々人型機を動かしていたら採算が合わないし」


 なるほど、冒険者と自由天士は上手く住み分けしているんだな。


「あ、それと冒険者は遺跡の発掘もするね」


「遺跡とな?」


 脳裏にストーンヘンジ的なものが思い浮かぶ。なぜこのイメージ。


「うん。遺跡から発掘される物は現在の技術では制作不可能な場合も多いからね。大規模な発見でもすれば相当な金額が手に入るよ」


「一攫千金ってやつか。お前達もそういう夢見て冒険者を目指してるのか?」


「……心外だね、私達が求めるのは金でも名誉でもない。夢、よ」


 今まで黙っていたニールが、腰に手を当てて反論してきた。


「そりゃ先立つものがなけりゃ飯も食えないけど、単に平穏に暮らしたきゃこの村から出なければいいの。私達が命を掛けてでも得たいのは安泰じゃなくて、未知の景色」


「未知の、景色」


 反復して呟いた俺に、ニールは頷く。


「あんたは経験がないかい? 空の向こうがどうなっているのか、境界を越えたらどんな景色が広がっているのか。それを知りたくて、いてもたってもいられなくなったことは」


「……ある」


 ああ、あるともさ。あるに決まっている。


「凄く解るよ。それ」


「そーかそーか」


 嬉しげに大仰な態度で頷くニール。


「いや、金も名誉もほしいけどな」


 マイケルが余計なことを口走ってニールに殴られていた。


「あんたは将来冒険者になろうとか考えてるの?」


「俺か? そうだな……」


 ニールにヘッドロックされているマイケルが邪魔で、ちょっと気が散るんだけど。


「悪くはないと思うけれど、俺はどちらかといえば乗り物が好きなんだ」


 冒険者。その響きに憧れぬ男はいまい。

 しかし俺がそれで満足出来るかと自問すれば、もう無理だ。

 足では届かない場所も行きたい。空を見上げずにはいられない。


「つまり、俺は地面に転がっているものも空に舞っているものも気になって仕方がない、強欲な人間なんだろ」


 肩をすくめて見せる。


「ふーん、まあ一番乗りは私だけどね」


 負けず嫌いな女の子である。


「違うよ。『私』じゃなくて、『僕達』だ」


「そうだ! 俺達を忘れるな!」


 マイケルとエドウィンの抗議の声に、ニールは微かに頬を染めそっぽを向く。


「ふん、ならもっと強くなりなさいな」


「なにをー!」


 ニールなりの照れ隠しだと気付かぬマイケルは眉を吊り上げ喚き、目が合った俺とエドウィンは思わず苦笑を交わした。


「それじゃあ、えっと、「……零夏だ」レーカは自由天士になりたいんだ」


「ああ。そうでなくても、飛行機や人型機と関わる仕事に就けたらと考えてるよ」


 いつまでもあの屋敷の世話になるわけにもいくまい。母子を見守るというロリ神との約束もあるが、せっかく異世界まで来て使用人としての人生を送るのもあれだしな。


「取り合えずまずは飛行機や人型機の操縦を覚えないと。今日もこれから人型機を眺めに行くつもりだ」


 第二目標というやつである。前回は眠ってしまいじっくりと観察出来なかったが、今度こそ魔法で内部構造を覗き尽くしてやる!


「気持ちは解らなくもないけど、弄ったら駄目だよ? 村の正面にある人型機は魔物の襲撃や家を建てる時に備えた村全体の所有物だから、壊したら怒られるからね?」


「……エドウィン」


「なに?」


「三人組のブレーキ役、頑張れよ」


「……解ってくれる? この二人ったら、すぐ無茶するから」


 エドウィンは背後で互いの脇腹に手刀を打ち合って喧嘩している二人を見やり、肩を落とした。

 ほんと、お疲れさん。

 それとお前らは目を離した隙にどんな状況になっているんだ。


「でも飛行機の操縦は覚えるの大変だよね」


「それは大丈夫だ! ガイルに頼んだら教えてくれることになった!」


 ソフィーが。


「でも人型機は教えてくれそうな知り合いがいなくて、心当たりはないか?」


「心当たり? というか今週末にガイルさんが教室を開くよね、人型機の操縦」


「マジで!?」


 頷くエドウィン。


「この村では週末にガイルさんとアナスタシア様が教室を開くんだ。僕達三人と、マリアとソフィーが生徒なんだけれど。ガイルさんが戦闘訓練やサバイバル知識の練習で、アナスタシア様が魔法や勉強・礼儀作法を教えてくれる」


 ガイルは『さん』付けだが、アナスタシア様には『様』付け。子供にまで舐められてやがる……じゃなくて。

 なんてこった。つまり週末には人型機に乗れるのか!


「うひゃあぁあテンション上がってきたあぁぁ!! よっしゃ、予習に村前の人型機ばらし尽くしてくらぁ!」


「ばらしちゃ駄目だって!?」


 制止するエドウィンの声を無視し、俺は愛しの人型機へと駆け出した。






 マッシブな肢体、鈍い鋼色の装甲、チャームポイントの背面クレーン。

 胴体部には主要な機関部が備えられ、虚空を睨む頭部の眼孔は今は光を静めている。


「いや起動時に光ったりするもんじゃないけどな」


 解析から推測するにキュピーン! と発光する機能はない。


「いいねぇいいねぇ素敵だねぇ。巨大ロボットだぜ巨大ロボット!」


「なにをやっているのよ、貴方は……」


 浮かれていると、マリアが呆れた顔で側に立っていた。


「おかえり、見ろよ巨大ロボ!」


「喧嘩売ってる?」


 ……いかん、怒ってる。


「その、な。マリア」


「なに?」


「ごめんなさい」


 結局俺に選べる選択肢など、素直に謝る以外なかろう。


「……反省してる?」


「してる。すまなかった」


 ひたすら謝り倒す。


「いいわよ。私も、少しおかしかったし」


 マリア自身なぜここまで俺のセクハラに過剰反応してしまったか、と戸惑っているのかもしれない。


「マリアに非はない。悪いのは全般的に俺だ」


 そこに俺がマリアの精神状態についての推論と俺が如何に配慮に欠けていたか、などと説明しても意味などなかろう。

 そもそもここまで考えを巡らせること自体、年齢不相応なのだ。


「ごめんなさい。以後注意を心掛ける」


 だからこそひたすら頭を下げるしかない。

 神妙な顔付きで俺を見つめるマリア。顔は見えないけれど、きっとそんな気がする。

 どれほど頭を下げていたか。

 不意に、小さな溜め息が聞こえた。


「頭を上げて頂戴。年下に謝らせるなんて、自分が情けなくなってくるわ」


「……ありがとう!」


 許してくれたようだ。俺は喜びのまま、喜色を隠さず本心をマリアに告げる。


「マリアはいい女になるな!」




 学習能力☆ナッシング




 力一杯の拳を顔面に放たれた俺は、日が沈んだ後にようやく目を醒ました。

 雑貨屋のおじさんに謝り荷物を回収し、帰宅してキャサリンさんに怒られて。


「だいじょうぶ?」


 ソフィーが頭を撫でてくれた。


「大丈夫、本番が残っているしな」


 本日最後のメインディッシュ、マリアへの謝罪セカンドシーズンである。


「本当にだいじょうぶ?」


「……微妙に駄目」


「……だめなんだ」


「うん、だってもう扉の前で2時間粘ってるんだぜ……」


 中にすら入れてもらえなかった。


「……だめだね」


「ごめんなさい」


 さて、あと何時間でメイド様は機嫌を治してくれるかな。


「これはもう徹夜かな……女性の部屋から朝帰り、いい響きだ」


「……だめだね」



 NGシーン


「あ、ソフィー」

 立ち去ろうとする彼女を呼び止める。

「なに?」

「罵ってくれ」

「死ねばいいのに」

「イヒ」


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