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銀翼の天使達  作者: 蛍蛍
帝国に逃げ込もう編
47/85

刃の翼と最強への挑戦

 明晰夢、という言葉がある。

 夢は寝ている最中は夢と気付かないことが多い。が、そうでないこともある。

 夢の中でこれが夢であると理解している状態。それが明晰夢だ。

 人によっては意図的に見れるらしいが、そんな技能がなくとも夢の内容を明らかにおかしいと思うことだってある。


「初めはちょっと疑っていたのよ?」


 たとえば、既に居ない人が登場したりなど、だ。


「レーカ君は何かの目的があって私達に近付いたんじゃないかって」


 月下のバルコニーで、朗らかに笑うアナスタシア様。

 もう記憶の中にしかない人物に、ああやっぱり美人だなと頬が緩む。


「異世界から来た、なんて言うんだもの。それも大真面目に」


 これは……大陸横断レース、予選後の宴会の記憶か。

 語り合う俺とアナスタシア様。ナスチヤと呼べと言われても、つい習慣でアナスタシア様と呼んでしまうのはきっと直しようのないことだ。

 向かい合う両者を、俺は虚空から第三者として見物していた。


「そういえば、結局なんで俺とソフィーを婚約者にしたんですか?」


「ソフィーじゃ嫌?」


「嫌じゃないですけれど……決めるのは俺とソフィーですよ。彼女にその気がなければ、貴女がなんと言おうと俺から婚約を破棄します」


「いいわよ。ソフィーの幸せは私の望むところだもの」


 映像記録と変わらない、干渉など出来ない光景。

 ここで俺が強引に村に帰るように駄々をこねれば、運命は変わったのだろうか。

 過去を変える。この行為に、奇妙な嫌悪感を覚えた。

 と、そこで記憶との食い違いが生じる。

 アナスタシア様は夢の中の俺から目を逸らし、「こっち」を向いたのだ。

 ぼうっと過去を眺めていた俺に、とびっきりの笑顔を披露する。 


「あげるから、守ってね」






 ベッドから上体を起こす。

 帝国城の客室。既に見慣れた室内。

 窓からは闇が漏れ、未だ夜が明けていないことが知れる。

 ソフィーを無視しだしてから二週間。タイムリミットの半分を過ぎた。


「守ってね、か」


 ごめんなさい、アナ……ナスチヤ。

 俺は、貴女の娘を守ってなんかいません。

 不安からくる寒さに腕を抱く。まだ夏だっていうのに。


「触りたいな、あの子の髪っていい匂いがするんだよなぁ」


 半ば微睡みの中にあったとはいえ、我ながら変態な発言だった。

 気付いちゃいけない感情に気付いた気がする。

 ソフィーが俺を欲しているんじゃない。

 俺が、あの子を欲している?


「変態か俺は。俺の趣味はぼいんぼいんだって言ってんだろ」


 言い訳しつつも、言葉に力が籠もらない。

 失われた平穏の日々。過去となった光景。

 それでも、俺は取り戻したいのだ。

 だから君にも協力してほしい。俺は一人じゃ、飛行機一つ飛ばせないから。

 キョウコに泣きついた時、俺はかつての平和を幻想と称した。けれどそんな道理、やっぱり認められない。


「きっと幻想なんかじゃない」 俺は目指すことにしたんだ。君といられる、ゼェーレスト村(安息の地)を。






「む、どうしたのかねレーカ。そんな真面目な顔をして、君らしくもない」


 部屋を出ると専属護衛が立っていた。


「そういうお前は今日もアホ面だな、キザ男」


「やれやれご挨拶だね。今日も飛行機の修理だろう? 少しはお姫様(ソフィー)に謁見したらどうだ?」


 またタイムリーにお節介を焼きやがって。


「キザ男」


「うむ?」


「ソフィーのことは任せる、って認めたらどうする?」


 殴られた。


「な、なにするんだ!」


「ふん。君のようなスケコマシにはお経が必要だと思ってな!」


 お灸だろ。


「最近は落ち着いて外出などもなさっておるが、時々、自分より少し高い視線を見つめているんだぞ!」


「自分より少し高い視線?」


 意味が解らない。慣用句か?


「甲斐性なし! バーカ! すけこましー! バーカ! バーカバーカ!」


 ボキャブラリーが致命的に不足した罵倒を浴びせつつ、キザ男は反撃を受けないうちに去っていった。

 もう少し解りやすい表現を心掛けてほしいものだ。

 天井板が開き、女性が屋根裏から飛び降りる。


「今日のご予定は?」


「エンカウント出現するな、キョウコ」


 メイド姿のキョウコがキザ男と入れ替わりに現れた。


「やることは変わらん。ガイルに挑む為、白鋼を強化する」


「そうですか。ところでガイルの場所は判っているのですか?」


「さぁ?」


 捜索は続行しているが、芳しい報告はない。


「逆にいえば、備える時間があるってことさ」


 現在制作中の白鋼強化装備。

 あれだけの武装を持ち歩くのは大変なので、さっさと見つかってほしいのが本心だが。


「お手伝いは必要ですか?」


「この場合のお手伝いって、整備の手伝いではなく戦場での話?」


「はい。元よりそれしか能がないので」


 切ったはっただけで数百年を生きるってのも凄い話だよな。


「いらない、戦いの舞台は空になるだろう。蛇剣姫(じゃけんひめ)では戦えない」


「空では無力なのは貴方だって同じでしょう。ソフィーが復帰しなければどうするのです?」


「英雄なんて物量の前には適わない、俺は俺の戦い方で挑むさ」


 最初から勝ち目なんてない。俺+ソフィーvsガイルでは、それほどの力の差がある。

 だからこそ彼らに制作を急がせているのだ。

 白鋼外装式強化装備―――その転用である、重火力強襲ユニットを。


「そうだ、戦場での助力は遠慮するが、別件で頼みたいことがあるんだ」


「なんですか?」


「剣術の指導をしてほしい」






 鍛錬場に移動し、木刀を構え向かい合う。


「なるほど、それが鍛錬を所望した理由ですか」


 身の丈を越えた木刀を片手に持つキョウコに対し、俺は両手に長めの木刀を二本。


「二刀流……なぜ急に戦法を変えるのです?」


「白鋼のミスリルブレードは『切る』剣だ。当てりゃあばっさり一刀両断、そういう武器だろ?」


 白鋼は油圧アシストがない、パワーに乏しい機体だ。力押しは向いていないのである。


「だから手数を増やす、と? 片手で刀を御するのは困難ですよ、誤魔化しが効きません」


「キョウコは太刀を誤魔化すことがあるのか?」


「ありえません。太刀筋に迷いが混じるのは二流です」


 そうだ、キョウコの剣はいつだって真っ直ぐだった。


「なら問題ない。俺も、誤魔化さない」


 どこか嬉しげに目を細め、キョウコはふわりと剣を振るった。

 力の籠もらない、しかし鋭い剣戟。

 キョウコの膂力は特別優れてなどいない。女性の身で身長以上の棒を振るうのは、けっして容易なことではない。

 にもかかわらずキョウコに負担を覚えている様子はない。他の全てが次点であろうと、剣術において最強。それが彼女なのだから。

 俺も垣間見たはずだ。ドリットでの、ラウンドベース脱出の戦いで。

 切っ先に触れれば絶てる、その域を。


「ものにしてやる、奥義ならぬ奥義―――!」


「力が入りすぎです」


 すぱーん、と頭を打たれた。






 固く踏み均された土に寝そべり、乱れた呼吸を整える。


「強いなぁ、やっぱり」


 冒険者志望三人組には楽勝なのに、銀翼との差は未だ大きい。


「白兵戦では負けません」


 むん、と拳を握り静かに勝ち誇るキョウコ。目が得意げだ。

 なんだかんだでもう少し善戦出来ると踏んでいたのだが、先は長い。

 城の窓から金髪の女の子が頭を出した。


「やっておるな、レーカ」


「こんにちは、リデア。王族ってのは案外暇なんだな」


 ちょくちょく出くわしたり世間話をしたりする間柄だ。不躾な言葉遣いでもある程度は許されるし、互いの生活リズムは透けて見えてくる。

 彼女と遭遇するタイミングには法則性がない。あるいは、ゼェーレスト村でのソフィーの方が時間を制約された生活を送っていたのではないか、そうとすら思えるほど気ままに歩き回っている。

 なんか、猫っぽい。


「そうでもないぞ、父は愚鈍王じゃからのう。娘も色々と補佐に駆り出されるのじゃ」


 リデアは頭のいい娘だ。むしろ凡庸な父に対して娘が女傑気味なのだ。


「おてんば姫って風評はちょっと的外れだな」


 どちらかといえば気まぐれ? 突然歌ったりいきなり真面目になったり、まさに猫。


「うむ、まったくもってその通りじゃ」


 大仰に頷くリデア。


「昔は城を吹き飛ばしたこともあったが、いつまでも過去の失敗を持ち出しおって」


 これだから大人ってやつは、と肩を竦める。


「……それはたぶん、一生付いてまわるだろ、伝説として」


 訂正、おてんば猫だこの子。


「しかし、お主もソフィーもやる気満々じゃのう。最強と名高い紅翼(せきよく)に、よく真っ向から挑む気になるものじゃ」


心神(しんしん)だってただの機械だ、限界はある。最強であろうが無敵ではない。それに……ガイルには、ソフィーを撃てない」


 あいつの覚悟の度合いによるが、致命的な攻撃はまず無理と推測可能だ。


「……まあ、そうじゃろうな。殺さず反撃するのはガイルにとっても難儀じゃろ。でも、それはお主らにとっても同じじゃないか?」


 それはそうなんだけど。


「ところで、ソフィーがやる気満々って?」


「む、知らなんだか? あやつ、ギルドの依頼に挑戦しおったぞ」


 ……ソフィーが?


「うむ、飛行系魔物の討伐依頼じゃ。自分の足でギルドに赴こうとしたので慌ててルーデルが止めたそうだの。結局ルーデルが代行して依頼を受け、実践だけにチャレンジしたとのことじゃ」


「城下町は危ないのか? 勿論ソフィーみたいな美少女がふらふら歩き回る、って危険性はあるだろうけど」


「さりげなく惚気るな」


 ばれた。


「治安的な問題ではなく、紅蓮の構成員が忍び込んでいる可能性があるからじゃ」


「いるの?」


「城下は仕方あるまい。城に出入りする者は、全て身辺調査したから大丈夫じゃろうが」


「またラウンドベースが乗っ取られるとか、勘弁してくれよ」


「ラウンドベースも同等の調査が行われたから、おおよそ無問題じゃ。大戦にて轟沈し破棄された船に侵入された形跡があったりなどしたがの」


 修理使用可能か調査したのか、地道なこって。

 今も水面下で悪事の準備をしていると考えると、割とぞっとする。


「しかし、なんだ。大胆なことをするなソフィーも、護衛達も肝を冷やしたろ」


 ん、護衛?

 キョウコを見やると、つい、と視線を逸らした。


「おい、専属護衛」


「ソフィーも頑張っているということです。年長者として支持すべきだと考え、あえて無視しました」


 俺の目を見て言いなさい。


「見逃しただけだろ、つーかソフィーの専属護衛のくせに俺の側に居すぎだろ」


「……すいません」


 とぼとぼと修練場を去るキョウコ。仕事をしに行ったのだろう。


「正直、最強最古は部外者じゃからな。どこでなにしてようと勝手じゃ」


 勝手にいるだけかよ。


「そもそも、どうやって最強最古を従えたんじゃ?」


「口説いた」


「そ、そうか。ところで討伐依頼は失敗したと聞くぞ」


「なぜ?」


「引き金を引けなかった、とのことじゃ」


「……ふぅん」


 ソフィーにとって飛行機は空を飛ぶ道具であり、それ以上でもそれ以下でもない。

 動物を殺すことに対する忌避もあったはずだ。


「じゃがソフィーなりに足掻いておるのじゃろう、今度はルーデルに弟子入りしおった」


 ……弟子入り先、選択間違ってねぇ?








 自室にて心神の資料を読み耽り、対策を構想する。

 戦術に必要な性能・装備を二者択一し、最終案を練り上げる。


「心神の推進装置や電力の供給源は、きっとこいつなんだろうな……」


 資料に残されていた、放射能標識のマーク。扇風機みたいなアレだ。


「核動力の航空機……かつて実験段階であったことは知っているが、日本が完成させたのか?」


 放射能標識があるってことは核分裂炉? でも資料には核融合って書かれている。


「原子力のことなんか知らねぇよ。核融合でも種類によっては放射能出るんだっけ、ちゃんとシールドされているんだろうな」


 ずっと巨塔に保管されていたのだ、あの無重力空間にガイガーカウンターを持ち込んだら精神衛生上よろしくない結果が出るかもしれない。


「主砲はレールガン、こいつの対策は単純だな。避ければいい」


 それが可能なら苦労しないが、それしかないので仕方がない。


「問題はこっちだ」


 主翼に装備された、二門の砲。


「ミニイージスシステムとレーザー砲……やっかいだぞこいつは」


 数百の目標を探知し危険度を個別に判断、逐一統合的に迎撃するのがイージスシステムだ。

 たとえば複数のミサイルをイージス艦に放った場合、コンピューターが全てのミサイルを捕捉し「どれが一番危険か」を判断する。そして危険な順に人間を越えた精度と速度で迎撃していくのだ。

 実際問題、船が数百のミサイルを浴びせられ無事でいられるはずもないが、心神の場合はそうではない。

 レーザー。凝集光。ぶっちゃければ、懐中電灯である。

 電力さえあれば撃ち放題の可能性があり、その場合は本当に数百のミサイルに囲まれようと無事かもしれない。とんだチートだ。


「こんな時こそ白鋼の障壁を……いや、まだ不足だ」


 人型形態となれば音速飛行が出来なくなる。戦闘機の心神が音速飛行出来ないはずがない、逃げられてしまう。

 それに魔法障壁がレーザーを防げる確証はないのだ。

 戦術だ。技能で越えられないならば、戦術で越えるしかない。


「いかん、煮詰まってきた」


 眉間を揉む。

 エンジン開発に移ろう。ここで考えていても妙案が浮かぶ気がしない。






 途中ルーデルの相棒(ガーデルマンさん、だっけ?)に指導を受けるソフィーを発見したりしつつ、俺は工房へと移動した。


「ルーデルの旦那に指導なんざ出来るわけねぇだろ」


 そう断じるのは、工房長のバルティーニさん。


「ガーデルマンさんはルーデルの旦那の女房役さ。こまごましたことはあの人担当だ」


「むしろコマンダー(現場指揮官)?」


「ははは、かもな」


 指導内容は空戦における戦術論だった。テクニック的には問題ないソフィーに不足しているのは、確かにその分野だろう。

 勘違いされがちだが、戦闘機同士の戦い……ドッグファイトはボクシングのような反射神経の勝負ではなく、エネルギー運用を求められる腹の読み合いだ。

 敵の背中を取るのに重要なのは、判断力と戦術眼。例え操縦技術で劣っていようと、戦術でもって勝利を勝ち取ることは充分に可能なのである。

 銀翼という規格外の化け物以外には。


「頼んでおいたやつ、出来てる?」


「固形燃料ロケットブースターは揃ったぜ。こいつはまだ三分の二程度だ」


 ぽんぽんと紙飛行機のような物体を叩くバルティーニ。

 紙飛行機といえど、サイズは成人男性ほどと大きい。

 実は電子回路に疎い俺だが、俺なりにミサイルを再現してみたのだ。

 設計思想は地球の空対空ミサイルと大きく異なり、実際役に立つのかは疑問だが、やれることはやっておきたい。


「ありがとう、引き続きよろしくな」


「頑張ってるぜー、最近部下達の目が死んできたぜー」


 虚ろな目でブツブツ呟きだしたバルティーニ。俺だってエンジン開発頑張ってるんだ、頭撫でてやるから耐えろ。


「ちったぁ白鋼本体もいじらせて欲しいぜ」


「ん、やっぱり職人として興味あるの?」


「それもあるが、半人型戦闘機(ソードストライカー)のノウハウを調べねぇと……おっと、なんでもねぇ」


 なんでもねぇ、じゃねーよ。


「バルティーニさん、白鋼の秘密を探るために派遣された回し者?」


 裸の王、じゃなかった、ハダカーノ王も案外抜け目がない。国家としては情報をひたすら収集するのは当然の姿勢だし、怒りは湧かないが。


「人聞きが悪いな、俺はただソードストライカーってやつを学べと言われてるだけだ」


 大国の軍事ってやつは、奇抜なアイディアでもとりあえず試す傾向がある。

 今までは机上の空論でしかなかったが、白鋼の存在が半人型戦闘機(ソードストライカー)の可能性を切り開いてしまった。つまり、「ひょっとして使い道あるんじゃね、コレ?」といった案配だ。


「試作くらいはするつもりかな」


「いや、実戦配備したい腹積もりみたいだぜ?」


 ソードストライカーを実戦配備とな?






「どうしてソードストライカーなんて使いたがるんですか?」


「それを本人に聞きにくるか、普通?」


 ハダカーノ王の公務室に突撃した俺は、率直に王に訊ねてみた。


「こういうのは軍事機密なんだがな」


「半人型戦闘機を造れば、まず俺の耳に入ると思いますが。ケチくさいこと言ってないで教えて下さいよ」


「ま、いーけど。帝国が半人型戦闘機を実戦配備したいのは、神の宝杖対策だ」


 神の宝杖対策?


「あれは対城兵器だ。機動兵器そのものではなく、それが格納された砦を潰すことで戦力を削いでいく兵器だな」


 座標を入力して放つらしいから、確かに動かない物体にしか使えないな。


「かつて、人型機不要論なるものが提唱されたことがあった」


「長くなります?」


「いいから聞けや」


 勧められる前にソファーに腰を下ろす。


「地面を走り回る人型機、しかし機構が複雑な割に機動性は飛宙船と同等……むしろ飛宙船に装甲と砲を積んだ方がいいのではないか、という論説だ」


「格闘戦能力はばっさり切り捨てですか」


 戦車だって戦車砲一本で頑張ってるわけだけど。


「それでも問題ないと考えられたんだ。当時、砲の性能が上がった時期にはな」


 地球にも戦車不要論ってあったっけ。戦闘ヘリさえあれば戦車を保有する必要はないんじゃないかって理論だ。


「しかし実際は人型機は必要だった。いや、正しくはバランスよく配備するのが最適だった。万能兵器などありはしないのだ」


「結局なにが言いたいんです?」


「人型機がなくては戦線維持は不可能、ということだよ」


 長々と話した割に、結論はそれか。


「人型機は現場に急行する能力、いわゆる展開力に劣る兵器だ。だからこそ国中に砦を用意し人型機と天士を詰めておく必要があるのだが、神の宝杖にとって砦は絶好の標的でしかない」


 動かないしね。


「しかし地上戦力なしの、航空戦力のみでは統一国家に緩やかに侵攻されるのは目に見えている。我々には守人が必要なのだ」


「そこで半人型戦闘機を実戦配備しようと?」


「そうだ。普段は分散して森などに隠し、有事の際には長距離を高速飛行し現場に速やかに到着する。空戦能力よりは地上の接近戦に特化した機体が欲しいわけだ」


 空での運動性能を二の次に、か。面白そうだ。こんな状況でなければ手伝いたいのに。


「君は白鋼の改造を急げ、残りの時間は少ないぞ」


「判ってます。今度、エンジン載せて試験飛行に出ますから」


「ふむ、舞鶴を同行させよう。ついでにある魔物の様子を見てきてくれ」


 ついででそんなこと頼むなよ。








 この世界の飛行機は全て浮遊装置による垂直離着陸機だ。

 それはつまり滑走路などどこを探しても存在しないということで、白鋼にとっては割と世知辛い問題である。

 ソフィーならば気合いで風に乗って短距離離陸が出来るのでさほど問題にはならないが、俺一人で動かすとなれば話は別。

 コックピットの後部座席に乗り込む。

 機体が小さな白鋼はコックピットも狭い。その僅かなスペースに二人が収まる為に、シートは前後配列というより後ろの俺が前のソフィーを抱くような体勢となっている。俺の腹とソフィーの背中が薄い背もたれ越しにくっつき、手と手を重ね合わせるような状態だ。

 つまり前席は後席より小さく、俺は必然的に後ろに乗るしかない。つーかそれでも問題なく動かせるように設計してある。


「システム起動、エンジンコントロール開始」


 手順通りにスイッチを入れる。

 人型機として操縦する為、複雑化した操縦系統。丸いアナログ計器とレバーが並ぶコンソールの煩雑さは一種美しさすら覚えるが、実用品としてはグラスコックピットにしたいところだ。タッチパネルディスプレイに計器を纏めて、効率化を図る方式である。

 ま、慣れるしかない。

 車輪のブレーキを解除し、格納庫から静かに発進する。

 事前に用意していたスキージャンプ台。これは正式名称ではないが、おおよそその通りの見た目だ。

 ロシアの空母にはカタパルトによる加速装置がない。その代わり、ジャンプ台がある。これは単純にカタパルトを実用化する技術がロシアにはなかったから。

 スキーのジャンプ台に似た足場を用意し、そこからぴょいーんと離陸するしかないのだ。


『こんな離陸する飛行機、はじめてッスよ』


「ん、どちらさん?」


『トップウイングスのテストパイロット、L9とでも呼んで欲しいっす』


「同行する舞鶴か、その機体も興味深いからあとで見せてくてないか?」


『へ? まあ遠目で見る分には怒られないでしょうけど、外見くらいの資料にはこの城にもあるでしょう?』


「絵と実物では色々違うからな」


 解析出来るか出来ないか、という点において。


『ああ、そうッスね。やっぱ技術者としては興味ありますか? そういや共和国で舞鶴と戦ったんですよね、どっから設計図漏れてんだかホント』


 よく喋る奴だ。


『で、どうでした? 強かったッスか?』


「総合的にはなかなかだな」


 ハンデなしの白鋼なら軽く振り切れるし、ガイルに瞬殺されたイメージが強いが。


『そうッスかそうッスか』


 満足げなL9。


「嬉しそうで何よりだ」


『んえ? なんか言いました?』


「いや……」


 気楽なものだ……最近の俺が言えた義理ではないが。

 共和国では多くの軍人が葛藤に苛まれているのだろう。神の宝杖に国土全体を狙われているとはいえ、それは非公開情報。末端の兵士には別に反乱を抑え込む工作があるはずだ。

 具体的に調べてはいないが、物理的苦痛を伴う手段でなければいいが。

 地球の歴史から推測すれば、独裁国家を維持する方法は……情報操作と思想教育?


「どちらもやってる様子はないのだがなぁ……」


『なにをッスか?』


「洗脳」


『なんの話!?』


 主翼角度をやや後方、もっとも機体が安定して飛行可能な巡航飛行形態に。

 自在に翼を捻ることが可能な白鋼にフラップは装備されていない。主翼とカナード翼を全て四五度に固定し、浮力を増強する。

 そうは見えないが、尾翼がないことで負の揚力が発生せずフラップ角度が無制限で変化し、おまけに機体重量も三,五トンしかなかった白鋼は極めて短距離離陸に適した機体なのだ。

 半人型戦闘機となり四,五トン、帝国に到着してからコックピット周りにチタン装甲を追加、更に全ての翼をミスリルブレード化し全重量は五,五トンとかなり太ってしまったが。

 コックピットの装甲化は必要事項であった。

 現代の戦闘機は装甲がない。防御力があろうがなかろうが機銃を浴びれば戦闘不能に陥る上、重量増加による運動性能及び積載量の減少はメリット以上のデメリットでしかなかったのだ。

 しかし白鋼は半人型戦闘機。ドリットでの戦いでも気になっていたのだが、人型機形態の間にソフィーが俺より前方にいる意味はあまりなく、無防備なお姫様を前に置いておくのは気が引けるわけだ。

 コックピット周辺をチタン装甲で堅め、人型機形態では装甲が可動しキャノピーを覆うようになった。面構えが暗殺者っぽいと思ったのは秘密だ。

 また、格闘戦能力向上の為に翼は全てミスリルブレードに代えてある。翼端もより鋭角になって、無視出来ない重量増加の要因となっているわけだ。

 低速域において水素ロケットに依存する為運用上に制限が発生するという問題点だけではなく、重量増化を補う為のエンジン強化でもある。


「エンジンパワーマキシマム―――いい音だ」


『Hybridーafterburner』


 新型ターボファンエンジンの甲高い轟音が轟く。

 以前はラムジェットエンジンだった為に時速一〇〇キロ以上でなくてはハイブリッドシステムは使用不可能だったが、ゼロから設計した新型エンジンは静止状態から魔力と科学のハイブリッドを起動可能だ。

 水素と酸素のロケットエンジンとコンプレッサーによって圧縮された大気を燃やすジェットエンジンの重ね合わせ。城を振るわせる爆音は、あとで聞けば何事かと城下町の人々が騒ぐほどだったそうだ。


『ヒュー! 腹に響きますねぇ』


「地上での試験は終えているとはいえ、飛行実験は初めてだ。異常に気付いたらすぐ教えてくれ」


『了解ッス』


 しかし一ヶ月、正しくは二週間程度で新型エンジンを開発するとは地球の技術者が聞けば卒倒しそうな話だ。解析魔法万歳。


「ブレーキ解放」


 エンジンに押され前のめりになっていた機首が小さく跳ね、そして白鋼の小さな機体は急加速した。

 迫るスキージャンプ台。


「V1VRV2、あーもう読み上げる時間もない!」


 滑走する白鋼はジャンプ台から飛び出し、一気に空へ目指して上昇した。

 不安定だが、抑えきれないほどじゃ、ない!

 水平飛行へと移行し白鋼は更に加速する。

 僅か数秒で巡航飛行速度へと達する。音速の一歩手前だ。


「テイクオフ、冷や汗がでるな……L9、試験飛行の場所は?」


『待って欲しいっす~、置いてかないで~』


「あ」


 舞鶴では白鋼の加速に着いていけてなかった。






 教導演習領域の海上を飛行していると、L9が通信を繋げてきた。


『あの、もしかしてカウンター・トルクが発生していません?』


「してる、これはまずい」


 白鋼にロールしようとする力が働いている。今は操縦桿を横に倒しエルロン操作のカウンターを当てているが、真っ直ぐ飛べない。

 プロペラ機には常に捻れようとする力が働いている。プロペラは回っているわけでプロペラが漕ぐ大気もやはり回る、すると飛行機がローリングする力が働く―――それがカウンター・トルクだ。

 セスナ程度であれば無視していいが、重量が軽くエンジンが強力な飛行機にはより顕著に現れる。ゼロ戦が左捻りこみを得意としたのもこれが理由だ。

 この原理はジェット機には関係ない……というわけではない。

 ジェットとて内部には回転部が存在する。カウンター・トルクは少なからず存在しているのだ。


『とはいっても問題にならない程度でしょう、フツー?』


「新型エンジンの圧縮機やタービンは特殊だからな」


『というと?』


「エンジンそのものが回転している」


 タービンは中心の軸に固定されているのではなく、外側の筒部分に固定されているのだ。

 そしてエンジン自体が回転することで、中心部を空洞化することに成功した。

 エンジンが丸ごと回っているのだ、駆動部の重量はプロペラの比ではない。


『な、なんでそんな変態仕様なんですか?』


「ラムジェットに切り替える為だ」


 ラムジェットエンジンの理想的な形は筒。余計なファンやタービンは邪魔なのだ。

 なので、ラムジェットに切り替えるとエンジン内部のパーツが全て外周に引っ込むようにした。


『とんでもギミック過ぎますって……でももうありますよ、ターボファンジェットエンジンとラムジェットエンジンを両立しているのって』


「マッハ3を越えると制御不能になる帝国機がなんだって?」


『うぐっ』


 確かに帝国には高速時にラムジェットとして駆動するエンジンを積んだ機体があるのだが、一度ラムジェットとなると減速が不可能な素晴らしい仕様である。

 もちろん、暴走状態に陥っても無事減速する方法はある。燃料となるクリスタルの魔力切れを待つのだ。

 ……ホントに、よく実戦配備しようと思ったな帝国軍。


「まあ、圧縮機と燃焼室を共用しようって設計思想は似ているな。共和国にもターボファンとラムジェットを両立したエンジンがあるが、あれは結局二つのエンジンを積んでいるだけだし」


 片方動かせばもう片方はデッドウェイトになる、不完全なシステム。

 区画を一部共有化しているが、効率的とは言い難い。それじゃあ心神には届かない。

 タービンブレードは軸を中心に回転する、という大前提を覆す。俺にとっても野心的な挑戦だった。


「シャフトを回したくないのなら、エンジンごと回せばいいじゃない、ってわけだ」


『いや、その理屈はおかしい』


 ラムジェットに切り替える。


『Ramjet』


 エンジンの回転が一端休止し、カウンター・トルクが収まる。

 音速を越え加速する白鋼。巡航飛行形態では空気抵抗が大きいが、それでも機体の加速度合いは向上している。

 しかしマッハ2を越えたあたりで異常振動が発生。やっぱり巡航飛行形態では超音速飛行に適さない。

 スロットルを引き、出力を下げる。


「耐熱金属を使ったから、マッハ3まで行けるはずだが……テストしようがないな」


 高速飛行形態は俺には扱いきれない。カウンター・トルクのこともそうだが、このテスト飛行は失敗だ。


『ううう、舞鶴の自信無くすッス』


 大きく引き離された舞鶴。ネ20エンジンの改造品だった今までと異なり、新型エンジンは白鋼用に最適化された特別品だ。基本出力も極めて高く、舞鶴とは比べものにならない。


「む?」


 眼下に小さな島が見えた。

 小さな、といえど端から端まで一キロはある島だ。

 減速し地図を見比べるが、あんな島は教導演習領域にはない。

 ルートが逸れてたか?


『やっと追いついたっす……どうしましたか?』


「領域から出てしまったかもしれない。地図にない島がある」


『えっ。そりゃまずい、始末書もの―――ああ、あれのことですか』


 舞鶴が横倒しになり、急降下する。

 鮮やかなもんだ、さすがトップウイングス。

 俺はびびってしまい、そぉっと操縦桿を押し出す。

 ゆっくり降下する白鋼。俺のへっぽこ操縦で急降下は怖い。


『これが例の魔物ですよ、貴方が陛下に偵察してこいって言われたってたっていう』


「頭がある、生き物なのかこれ?」


 ゆっくり移動する島。間抜けな表情の頭がひょっこり生えている。


『島海亀ッス。時々海岸の村や町がぺっちゃんこにしてしまう、厄介な魔物ッス』


 災害だな、それは。


『まあノロマなんで事前に避難出来るんすけどね、攻撃しない限り反撃もしてきませんし。なんにせよ困ったちゃんです』


「さっさと倒さないのか?」


『防御力が半端ないっすから。それなりに装備を整えて空爆しなくちゃならないんですけど、共和国のこともあって後回しにされてきました』


 厄介だけど危険じゃないからか、動きも遅いし進路予想もしやすいのだろう。


『ランクはSS。ギルドで天士を召集している時間もありませんし、軍を編成して……』


『ひどいわねぇ、この子は私のモノよん』


 通信が割り込んできた。


「誰? どこに―――」


 刹那、白鋼と舞鶴を掠め島海亀へと垂直降下していく戦闘機。


「いつの間に? あれは―――自由天士!」


『ちょ、なんで民間人が演習領域に!?』


 直線翼の双発戦闘機。シャープなシルエットと近代的な斜めに開いた二枚の垂直尾翼が特徴といえば特徴か。


「共和国の新型だ、なぜ帝国に」


王蛇(コブラ)っすね、正式採用の座を争い負けた機体って聞いてます。海軍向けに再設計してるとも』


 その際の新名称は、『雀蜂(すずめばち)』。

 名に相応しく、急降下する機体の下部には追加装備が装着されていた。


「パイル、バンカー……?」


 杭打ち機。ゼロ距離にて鉄塊を敵にぶち込む、人型機格闘戦装備。


『あんなもん飛行機に積んで、どうする気でしょう?』


「飾りじゃなければ、まあそういうことだろ」


 衝突寸前に引き起こした雀蜂はパイルバンカーを島海亀に打ち込んだ。

 杭が甲羅を貫き、島海亀は苦悶の咆哮を上げる。


『あぁん……もっと奥まで突かないとダメね』


 嬌声が無線を通し聞こえる。

 あれ、今の声、聞き覚えがある?

 人型機の装備可能な量産兵器としては最強クラスの威力だが、直径一〇〇〇メートルの巨体には微々たるダメージのようだ。

 しかし変化はおこる。そう、こいつは攻撃されない限り反撃しない。

 つまり、攻撃すれば反撃にでるのだ。


「お、おい、まずくないかあれ!?」


『まずいッス、離れましょう!』


 離脱する白鋼と舞鶴、それを待たず島海亀の甲羅が『開く』。


「あの六角形、ハッチかよ!?」


 内部から射出されるは飛行型の魔物。島の住人ってわけか。

 数十のコウモリ型モンスターは最も近い敵、雀蜂へと向かう。


『もてる女はつらいわねっ』


 紙一重でコウモリの群を回避し距離を確保する雀蜂。

 更に襲い掛かる攻撃。島海亀の目から放出される、極めて細く高圧の水鉄砲。


『ウォータージェットです! 海亀は涙を流すのです!』


「無茶苦茶だな、もう!」


 しかし更に無茶苦茶な軌道にて、雀蜂は再アプローチする。


『もう一撃、いくっ、いっちゃうわぁ~!』


「逝けよ勝手に」


 二度目の爆発音。薬室にて膨張した火薬は再び鉄塊(パイルバンカー)にて島海亀を抉る。


『ズコバコっすね』


「ズコバコだな」


 泣きたくなってきた。


『アタシの(自主規制)の(自主規制)に思いっきり(自主規制)して、もっと(自主規制)させぇえぇーッ!』


 やだもうお家帰りたい。

 放送禁止用語の語録が尽きたかと思えるほど卑猥な単語を叫び続けた雀蜂の天士は、その間もひたすらダメージを与え続け遂には島海亀を単独撃破した。


「SSランクってのも大したことないんだな」


『微熱の蜜蜂……銀翼は比較対照になりませんって。あんな重い装備を積んで、なんで飛行機が空を飛べるかがまず疑問ッス。なんで敵の攻撃を避けられるかは知りたくもないッス』


 重量からか動きは緩慢、なのに雀蜂に敵の攻撃が当たらない。

 乱数調節でもしてるんじゃなかろうか。

 時折ピクピクと痙攣している雀蜂キモいに接近し、誰何する。


「もしかして、おっぱ……エカテリーナさん?」


 共和国の宿にてギイハルト目当てに突撃晩ご飯してきたエルフさんである。


『はぁ? 私は確かにエカテリーナだけれど、アンタ誰?』


 俺など忘却の彼方らしい。彼女にとっては攻略対象キャラの連れ脇役の連れモブキャラ程度の扱いなのだろう


「ギイハルトの友達です」


『ギイハ……ギイを知っているの!? ねえ、あの人はどこにいるの! 知っていること全て吐けやッ!』








 シルバーウィングス エカテリーナ・ブダノワ。

 帝都のレストランにて彼女との会談の機会を得たわけだが、話は一向に進まなかった。

 俺がギイハルトの情報を持っていないと知ると即座に席を立ち、運ばれてきた料理を文字通り餌に引き止めるも彼女の興味の対象はギイハルトとエロに限定されるらしく。


「コンソメスープ、マグカップで!」


「梅茶漬け一つ。それとこれお願い」


「は、はぁ。承知しました」


 店員さんにさり気なく紙を渡し、おっぱいエルフを制御可能と思われる人物にお越しいただいた。


「なんだ下等生物、レーカさんを困らせて何様のつもりだ? あ?」


 腕と足を組みふんぞり返るキョウコと、


「い、いや、これは事情がありまして……」


 椅子の上で正座となり、俯きつつも必死に弁明するエカテリーナ。

 エカテリーナの服装は依然と同様に胸元の開いたドレスである。

 キョウコは相変わらずメイドだ。

 端からだと立場逆転にしか見えない。


「キョウコ、その辺にしておいてやれ」


「御意」


 招待しておいてホストの俺がゲストのエカテリーナを困らせるとか、最低だ。

 こうでもしないと会話が成り立たないので、苦肉の策なのだが。


「それで、なんで引き止めたのよ坊や?」


「その谷間に手を突っ込んでいいですか?」


「優しくね」


 いいの?


「ギイハルト、いなくなったんですか?」


「そうなのよ、彼ったら……って、ギイがいなくなった経緯はそこのハイエルフに聞けばいいじゃない」


 知っているのかと視線で問うと、肯定が返ってきた。言えよ。


「いいわ、説明してあげる。共和国首都の事件の後、私はギイに会いに行ったの」


 うむ。


「いなくなってたの!」


 うむ?


「義妹のイリアちゃんもいないのよ」


 義を付けるな義を。

 でもギイハルトとイリアが行方不明か、確かに不自然だ。

 軍事機密に関わるテストパイロットだ。危険に晒されていても不思議ではない。


「統一国家に国家反逆罪で逮捕された、という可能性は?」


 逮捕って独裁国家では犯罪者以外にも適応される言葉なんだよね。


「真っ先に疑って確認を取ったわ。シロよ、二人は自ら姿を眩ましている」


「ふぅん」


 ギイハルトはともかく、イリアが無事なのは朗報だ。

 しかし、あの事件以来本当にみんなあっちこっちにバラバラになってしまった。

 全部紅蓮の騎士団が悪い。首謀者をぶんなぐってやりたい。


「その後は、迷子の子犬のように狼狽えていたそのハイエルフと合流して貴方を追っていたのよ。厳密に言えばキョウコが貴方を、私は紅翼の天使(ガイル)を」


 確かに、ギイハルトが自主的に行方不明になるとすればガイル絡みの可能性が高いと推測されるかもしれない。


「帝都に到着して、貴方達が城に住んでいることが判ってパーティ解散。私は気楽に自由天士をやりつつギイを探していたってわけ」


 気楽なノリでSSランクモンスター撃破か、銀翼はやはり別格だ。

 情報交換もほどほどに、俺はもう一つの本題を切り出す。


「お願いしたいことがあるんです、エカテリーナさん」


「なによ?」


「テストパイロット、してくれませんか?」






「やだ、すっごくぎゅうぎゅうって締め付けてくる……!」


 白鋼の前座席を外し、付け焼き刃で単座に改造。

 それでも成人女性のエカテリーナには手狭らしく、今後を考えたらレイアウトの再考は必須と再確認した。


「操縦方法は教えた通りだけど、いける?」


「ええ、イッちゃいそうよ」


 エカテリーナは意外と乗り気だ。ギイハルトと同じテストパイロットという仕事が琴線に触れたらしい。 


「それだけじゃないわ。乗ってみたかったのよ、白鋼」


「どういう意味です?」


「結構有名よ、この機体」


 まじで?


「統一国家樹立の際に紅蓮に苦汁を舐めさせた英雄として扱われているわ」


「うわぁ……」


 どん引きである。名声など厄介事しか持ち込まないやる気溢れる役立たずのようなものだ。


「それだけ希望に縋りたいのよ、出力を上げるから吸気口から離れなさい」


「うぃっす」


 離陸した白鋼は、さすが鮮やかに飛行形態を可変し舞ってみせた。

 小刻みな操作によって機首を安定させ、滑るように旋回。


「お見事です」


『そうでもないわ……気を抜いたら暴れそうよ、見た目以上に過激な飛行機ね』


 ソフィーは無意識レベルで制御してたが、銀翼からしても彼女は段違いなのか?

 超音速飛行試験に移行する白鋼を舞鶴の後部座席に納まり追い掛ける。


「ドリットで空戦した舞鶴に乗ることになるとは」


 はげるッス~と嫌がるL9の後頭部を指でつつきつつ白鋼のケツを睨む。

 白鋼の飛ぶ姿って、そういえば初めて見るかもしれない。

 高速飛行形態となった白鋼は炎の柱を吹き、跳ねるように急加速していく。

 舞鶴が停止しているのではと錯覚するほどの速度比で引き離されていく。


『うぐ、確かにこのカウンター・トルクは無視出来ないわ』


「それは解決法があるので、高速飛行試験に移って下さい」


『ラムジェットに移るわよ』


 もう白鋼の姿は遠く見えない。クリスタル共振通信が唯一の繋がりだ。


『理論限界速度に到達、表面温度は一〇〇〇度。素敵ね、こんな速度で飛ぶなんて』


 逐次伝わる情報を纏めていく。


「シミュレーション通り、問題なさそうだ」


 飛行機が高速飛行を行うと機体表面が洒落にならないほど高温になる。宇宙ロケットやスペースシャトルが地球に降りる際に高温になるのがイメージしやすいだろうか。

 摩擦熱と勘違いされがちだが、正確には断熱圧縮という現象だ。圧縮された空気は熱の逃げ場がなく、ひたすら大気中の熱量が固められていく。

 「音の壁」に続き立ち塞がった「熱の壁」。

 多くの技術者に頭を抱えさせたそれは、有効な(現実的な)解決法が未だ存在せず飛行機の最高速度は頭打ちとなってしまった。

 夢の超音速旅客機、地球の冷戦時代多く計画されてたそれらが全て頓挫したのは、これらの根本的解決が叶わなかったから。


「凄いッスねー、なんか凄い技術使ってたりするんですか?」


「いや、素材頼りの既存技術だ」


 白鋼は形状こそほぼ同じだが、外装の素材が大きく変更されている。沸騰したタールの中を泳ぐようなものだ、入念な熱伝導の計算と強化が必要なのである。

 最も高温となるノーズコーン(機首)が展開しコックピットを守る装甲となるので、どっちみち重量増加は避けられない。なら耐熱仕様にしてしまえ、なんて着想である。


『マッハ3,3での飛行試験を終了するわ』


「お疲れ様」


 エンジン問題点の洗い出しも終わった、すぐに作り直しにかからねば。





 



「どうしてそこまで、ギイハルトにこだわるんですか?」


 試験後、エンジンを作り直しているとエカテリーナが旅立ちの挨拶にやってきた。

 エカテリーナは帝都を発つそうだ。ギイハルトのいない町に興味はないらしい。


「惚れちゃったからよ、それ以外にある?」


 話の流れで、先程の問いをエカテリーナに投げかけた。


「いえ、そうじゃなくて……すいません、ただの興味本位なので忘れて下さい」


 色恋に首を突っ込むのは悪趣味だな。

 とは思い直したのだが、話してくれるらしいので耳を傾ける。


「同じ匂いがしたのよ、彼」


「匂い?」


「ええ。虐げられ飼われる者の匂いよ」


(……!?)


 何気なく発した言葉は、あまりに重い彼女の記憶の片鱗だった。


「でも違った。彼は自分の足で立っていた。自分の意志で戦っていた」


 戦っていた―――大戦中の話か?


「彼の目は死んでいなかった。馬鹿みたいでしょ、いい歳した年寄りが二桁になったばかりの子供に惚れちゃうなんて」


 エカテリーナは笑顔を浮かべる。

 それまでの妖艶な笑みではなく、美しく優しげな笑顔。

 こんな顔も出来るんだな、この人って。


「ギイハルトも勿体無い、こんなに惚れられてるっていうのに」


「ほんとにねぇ、でもいいわ。押し倒すから」


 相も変わらず肉食系エルフだ。


「もう行くわね、また会いましょう」


「はい、お元気で」


 エカテリーナは鞄から鉄製のカップを取り出す。


「辛い時はスープを飲みなさい。器が空になる頃には、憂鬱だった理由は忘れているわ」


 指先で回るそれには、「ギイハルト」と書かれた。








 期限まであと一週間。


「とはいえギリギリまで粘るわけにもいかないからな、もう準備が出来次第出発するつもりでいないと……ん、これは」


 記憶に新しくも懐かしい機体が格納庫に運び込まれていた。


赤矢(レッドアロウ)、か」


「その通りだよ、見たまえこの美麗かつ優美なシルエットを!」


 自機に頬ずりしてにやけているのは、馬から落ちて落馬する貴族代表、キザ男であった。


「撃墜されてスクラップになったと思ってた」


「頑張って修復したのサ、金ならある」


 頑張ったのお前じゃねぇじゃねぇか。


「こいつと共に士官学校へと入学するつもりだったのだが、予定が変わったのだよ」


「どうして?」


「君達は旅に出るのだ、護衛の僕が着いていかないわけにもいくまい」


「……ソウダネ」


 役に立つのかよ、こいつ。


「ふふふ、野宿の晩、姫は人恋しさを求め僕に視線を送る……しかし僕らは主従の関係、彼女の想いに応えるわけにはいかない……ククク」


 妄想だだ漏れだぞ。

 赤矢を見上げ、白鋼にはない特殊装備に目がいった。


「大気整流装置か、あって困るものではないな」


「な、なんか嫌な予感がするのだが」


 逃げようとするキザ男の首根っこを掴み、笑顔を心がけて交渉を試みる。


「キザ男ぉ~、ちょーっとお願いがあるんだぁ」


「断る!」


「大気整流装置のブレード、ちょーだい」


「そんなことだろうと思った、だが断るのだ!」


 こっちは時間もなく、そして切り札は一つでも多く欲しい。


「金なら払うぜ、俺なにげにリッチマンだぜぇ?」


「それでも主人公かね!?」


 やれやれ、往生際が悪い。


「田舎娘」


「うぐっ!?」


「不敬罪」


「うぐぐっ!!?」


「実家に連絡」


「ウグハァッ!!!?」


 吐血し(イメージ)卒倒したキザ男。

 お前の犠牲は無駄にしない。この美しい魔導術式の刻まれたブレードは、俺が有効活用してやる。


「ううっ、スペアブレードが出来上がるまでの間、直ったはずのレッドアロウが情けない姿だよ……」


「いいことあるって、ガンバ」








 ターボファンラムジェットエンジンの回転トルクはタービンとコンプレッサーを逆回転させることで解決した。


「逆回転とかできんのか? 直結しているもんだろ、タービンと圧縮機って」


「意外とあるよ、逆回転方式って」


 地球でいえばハリアーのペガサスエンジンなどが逆回転だ。


「外周が左右反転で回るとか、どこまで変態なんだよ」


 散々好き勝手言うバルティーニの言葉を聞き流し、俺はツナギを脱ぐ。


「これで一通り完成だな、組んどくか?」


「んー、もうテスト飛行する時間もないしな。ちゃんと装着可能かだけ確認しとこう、フル装備で組み上げといてくれ」


「おう、おら最後の仕事だぞ! 起きろやおめぇら!」


 死屍累々としたメカニック達。お疲れさん、感謝してるぜ。口には出さないが。

 白鋼完成を知らせる為にハダカーノ王の公務室へと向かうが、生憎外出中らしい。

 ならばとリデア姫を捜すと、ピアノの音がどこからか聞こえてきた。






 ピアノの弾き語りをするリデア。

 弾むように喜色溢れる音色と自在に変化する歌声は、切羽詰まった状況に知らず知らず凝っていた肩の力が抜けるほど別世界だった。

 灰色の空気の中、彼女の一角だけが深いコントラストに映えて見える。

 しばし見惚れ、我に返り静かに小さな劇場の客席に潜り込んだ。

 本来は劇団を呼び王族などに披露する場所らしいが、最近はもっぱら文字通りリデア姫の独壇場らしい。

 曲が終わり、俺はぱちぱちと拍手する。

 礼儀としてではなく、したかったから。


「……見ておったのか」


 はっと気付き軽く咎める視線を向けるリデア。


「ブラザー!」


「ブラボー、じゃ」


 誤魔化す為にボケて、こほんと咳払いして本題に移る。


「飛行機、完成したよ」


「そうか、すぐ行くのか?」


 ポーン、ポーン、と鍵盤の一音を叩きつつリデアは返す。


「さて、最後の大仕事があるからねぇ」


「うむ? ……ああ、あの賭のことか」


 ポーン、ポーン。

 ソフィーが自ら立ち上がれるか。彼女が潰れようと城は出なければならないので、安全な場所を見つけるまでは連れて行くけど。

 でも、白鋼には乗せない。鬼と呼ばれようと、彼女の純白の翼をもぎ落とそう。


「いっつもここで練習していたのか?」


「練習というより遊びじゃ、なぜか完璧な技巧より楽しく弾いた音の方が評判がいい」


 ポーン、ポーン。


「……なにやってんだ、さっきから」


「調律が狂っておる」


 音波を解析すると、なるほど確かにピアノ線が緩んでいる。


「道具貸して」


「ちょ、おい素人が触るなっ」


 ギコギコと調節。再び鍵盤を叩くと、リデアは目を丸くして驚いた。


「意外じゃ、お主音楽が判るのか」


「いや全然。解析魔法を使ったんだよ」


「……解析、魔法?」


 ざっと説明すると、リデアは黙り込む。


「……お主、エターナルクリスタルじゃったのか」


「なにそれ」


「エターナルクリスタルとは、人体をクリスタル化して高性能魔力供給装置にすることじゃ。魔法至上主義者の間で研究されていた禁断の技術じゃな」


 人をクリスタル化? 人体は有機物だぞ?


「そもそもクリスタルとは、魔物から採取される魔力蓄積器官じゃ。ほぼ二四時間で魔力は満タンとなる、これはクリスタルであろうが魔法使いであろうが同じじゃよ」


「つまりなんだ、人間にもクリスタルがあったりするのか?」


「正しくは人間そのものが本当の意味での魔力蓄積器官じゃ。更に厳密にいえば、魔力は溜め込むものではなく世界から吸い上げるものじゃな。魔力量の多い少ないは世界からどれだけの魔力を供給される権利があるか、という話なわけじゃ」


「権利?」


「そう、魔法とは唯一神セルファークの力を借りて行使する。どれだけ力を借りられるか、それは一人一人個別に管理されておるのじゃ」


 神の意志一つで急に魔法が使えなくなったりもするのか、心臓握られているみたいで落ち着かないな。


「魔物自体、この世に未練がある人間の魂が結晶化してクリスタルとなり、それが肉体を構成した存在じゃしな」


「……今、ショッキングな内容をさらっと暴露されたぞ」


 魔物って元人間かよ。


「じゃあなんで個体差があるんだ、スライムみたいな雑魚もいれば島海亀のような馬鹿でかい奴だっている。差があり過ぎだろ」


「未練の強さと内容じゃな。空をもっと飛びたいと未練を残せばドラゴンとなり、誰かを守りたいと思い残すとシールドナイトとなる」


 シールドナイト、白鋼に搭載されているクリスタルの本来の持ち主だ。


「シールドナイトが自分の胸に手を突っ込んでクリスタルを俺に渡してきたんだが」


「主と認められたんじゃろう、そいつの生前は騎士かなにかだったのかもしれん。たまにあるんじゃよ、そういう現象が」


 白鋼の障壁は彼の未練―――誇りなのか。

 今度、磨いてやらないと。


「話が逸れたが、魔力のキャパシティは神が管理しておる。でも一日に何度も沢山強力な魔法を使いたい。そこで昔の闇の魔法使い達は考えた。魔力の総量が変わらないのなら、器が常に満ちるほど供給すればいいのではないのか、と」


 蛇口の下にコップを置くようなイメージかな。ストローでどれだけ吸い上げても、蛇口から供給される水の方が多くコップは空にならない。


「エターナルクリスタルとは能動的に魔力を世界から吸い上げる者。つまり、神に対するクラッキングを行っているのじゃ。解析魔法などその副産物に過ぎん」


「俺がその、エターナルクリスタルだって?」


「地球から渡ってきた際に処置したのじゃろう。あちらには魔法というツールはないのじゃろ、魔力が欲しければエターナルクリスタル化するしかない」


 あって困るものじゃない、つーか散々活用してきたわけだが……なんかやだな、知らぬ間に体をいじり回されていたなんて。

 魔力のない人間に魔力を与え、解析魔法がオマケで付いてくる、と。


「―――なあ、ファイアウォールって魔法を知っているか?」


「中級防御魔法じゃな、言葉の通り炎の壁を出現させる戦闘魔法じゃ。目くらましとしても使えるが、それがどうした?」


「ガイルが、使ってた」


 巨塔側の戦いにて心神に乗り移る際、ガイルは白鋼の視界を塞ぐ為にファイアウォールを使ったのだ。

 おかしいと思うべきだった。魔法を使えないはずのガイルが、いきなりあんな派手な魔法を使うなんて。


「特別燃費がいい魔法とかじゃなくて?」


「むしろ中級魔法としては悪い部類じゃの」


 それだけではない。秘密基地にて、ガイルはエンジンを確認もせずに「吹き上がりが悪い」と見抜いた。

 メカニックとしての技能に特別優れているわけではないガイルが、見た目だけで判るはずがない。


「解析、魔法……? まさか、ガイルは俺と同じ能力を身に付けている―――?」


 ずっと頼りにしてきた解析魔法。それは、既に俺だけのアドバンテージではなかったのか?

 ならば、ガイルは俺と同じエターナルクリスタルということになる。

 いつの間に、いやいつから?


「い、いや、まだ決まったわけじゃない。身を隠す為に魔法を使えないフリをしていたのかも……」


「いいえ、お父さんは本当に魔法が苦手だったわ」


「ひょぉう!?」


 ソフィーが俺の前の席から、ひょっこり顔を出した。


「え、なんだ、いつからそこに?」


「最初からよ」


 目から上だけを覗かせて恨めしげな上目遣い。


「なんじゃ、気付いておらんかったのか」


 ステージから見れば気付いてろうな、そりゃ。


「久しぶりね、レーカ」


「ああ、そうだな」


 ガイルのことは一端横に置いておこう。目の前の、美少女の姿をした問題の方が急務だ。


「そっち行くわね」


 隣の席に座るソフィー。


「さて、背景は背景らしくBGMでも弾いているかの」


 ポロンポロンと静かな曲調が始まった。ソフィーと話せということか。


「私のこと、試していたわね」


「……うん」


「ひどい人、ひっぱたいていい?」


「痛いのは勘弁してくれ」


 しばし見つめ合うと、ソフィーはにへらっ、と笑う。


「やっと話せたわ。ねぇ、聞いてくれる?」


「なんだ?」


「私、レーカのこと好き。レーカは?」


 ストレート過ぎです、ソフィーさん。


「誤魔化したら嫌いになるかも」


「うぐ、その、あー……」


 いつの間にかこちらが追い込まれている。


「好き?」


「うん、好き、かな」


 こんな気持ちになるのは、ソフィーだけだ。

 子供だからと侮るのはやめよう。真摯に俺を見るソフィーに対する侮辱となる。


「ふふ、そうなのね、相思相愛ね。えへ」


「ナスチヤのことは吹っ切れたのか?」


 あえて確信に踏み込む。


「事故や事件で親のいない人なんていっぱいいる、そう思おうとしても納得は出来なかったわ」


 理屈など、感情の前ではあまりに無力だ。


「紅蓮の騎士団を恨むのは簡単。けれど、その生き方はお母さんがくれたものを切り捨てるから嫌」


「そうだな、復讐鬼と化したソフィーなんて見たくない」


 恨みに駆られ帝国軍の天士となれば、きっとソフィーは屍の山を築き英雄となる。

 けれど、その彼女を俺はソフィーと認識出来るだろうか。


「どうすればいいかなんて解らない。だから、これから考えるの。私はレーカの妻でも復讐鬼でもない、私自身になる」


 だからその一歩目として、とソフィーは自分の意志を示す。


「お父さんを追う。例え、強引な手段でも」


「ガイルを撃てるのか? 魔物相手にも引き金を引けない君に」


「白鋼の運転手は必要でしょ?」


「そんな言い訳はいい。ガイルを殴ってでも止められるか?」「……殺せない。できるはずない。けど、殺さない程度であれば」


「ガイルとソフィーの戦いは確実に高速で飛び交う戦闘機同士の格闘戦になる。手加減なんてする余裕はない」


「それでもやるの、私なら出来る」


 ソフィーが自負を抱くとは珍しい。


「……ソフィーの攻撃手段は考えてある。でも、もし手元が滑ってガイルを殺してしまったら?」


「その時はその時に考えるわ。やらないまま全部終わるなんて絶対に嫌、私もステージの上に立っていたい」


 ―――ま、いいか。

 手を差し出す。


「今まで意地悪してごめん。白鋼のパイロット、引き受けてくれるか?」


「それっ」


 返答は握手ではなく、抱擁だった。


「あれは私の飛行機よ、そうでしょう?」


「……ああ、そうだったな」


 そうだ、彼女がいたからこそ白鋼は産まれたんだ。

 腕の中に収まったソフィーの頭を撫でる。


「おー、楽しそうじゃのー」


 リデアがガン見していた。


「ああ、すまない。続きは部屋に戻ってするよ」


「今のお主等を一つの部屋に入れるのはなんかのう」


 彼女は俺とソフィーを見据える。


「質問をするがよいか?」


 質問していいかの確認自体が質問な件。


「茶化すな。まあ、なんだ、お主らは平穏な夢と辛い現実、どっちがいい?」


「変な質問ね、思考実験?」


 よくある、面白味のない問いだ。

 辛くない幻想。辛く厳しいリアル。

 どちらがよいか。村にいたころなら、「夢でいんじゃね?」と答えたかもしれない。


「辛い……ばっかりは嫌だけど、まあ現実かな」


「なぜじゃ?」


「ナスチヤの死を軽んじたくはない」


 大切な人が死んで、ずっと苦しかった。ずっと悲しかった。

 今までの思いが「はい嘘でしたー」なんて、絶対にゴメンだ。


「私も、現実の方がいい。夢は寂しいわ」


 ひきこもりだったソフィーが閉じた世界を寂しいと称するか、変わったな。


「そうか、それが本心か……」


 しばし悩み、リデアは俺に紙切れを渡した。


「ラブレター? いやぁ困ったな」


「その紙に記された場所とタイミングで、ガイルが飛行する」


 なん、だと?


「確証はない。だが、それが捕まえられる最後のチャンスじゃ」


「最後?」


「正確にいえば、それを逃せば一気に遠のく」


「君は一体……」


「そんなことを問答している場合か」


 紙に書かれた場所と時間には、すぐに発ち急行しなければ間に合わない。


「……ありがと」


 ソフィーの手を取り駆け出す。

 その背後で、リデアは頭を抱えていた。


「あぁ、なんであんな不審な奴を信じようと思ったのか、我ながら無謀じゃ。せっかく確実に接触可能なタイミングを自ら無駄にするとは……」


 次からは通用しないじゃろうな、ああ勿体無い。そんな声を最後に、リデアとの数週間は終わった。








「なに、これ……白鋼が別物になっている」


「まぁな」


 ソフィーが驚くのも無理はない。

 全長はほぼ倍。追加装備を装備した白鋼は四本の大型固形燃料ロケットを抱え、堅牢なデルタの主翼を持つマッシブな外見となっている。


「半人型近接白兵戦闘機 白鋼改 重火力強襲ユニット装備型だ」


 全身にミスリルブレードを装備し、翼までも全て刃となっている。

 耐熱金属と固定化魔法を多用することにより最高速度はマッハ3以上。大気整流装置を起動すれば、更に加速可能。

 その他、多くの強化が施された白鋼。その全ては打倒ガイルを目指し設計されたものだ。


「詳しい説明は空の上で済ます。こいつを飛ばせるな?」


「―――ん。レーカの作った飛行機だもの、飛ばないはずはないわ」


 搭乗し、ベルトを固定。

 ゴーグルを着け、バルティーニさんにハンドサインを送る。

 数機の人型機が白鋼を載せた鉄板に指をかけ、斜めに持ち上げた。離陸方法にまで手を回せなかったのだ。


「クリスタルの魔力消費を抑える為に固形燃料ロケットで現場まで行くぞ!」


「了解、いつでもいいわよ」


 燃料に火が点る。

 同調したロケットが火柱で地面を炙り、白鋼は轟音と共に城から発進。

 帝都に響きわたる爆音と眩い炎。その日、誰もが空を見上げ異形の飛行機を目撃した。


「テイクオフ―――首を洗って待っていろ、あんぽんたんの馬鹿ガイル!」


 先週は更新が間に合わなかったわけで、今週も更新失敗するのはまずいだろうと思い頑張りました。長いです。


>銀嶺雪花さん アハアハトさん


 誤字報告ありがとうございました。修正しました。


 次回はvsガイルのリベンジ戦。たぶん5章ラストです。

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