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銀翼の天使達  作者: 蛍蛍
帝国に逃げ込もう編
45/85

迫るリミットと異世界への疑問

「朝早く集まってもらったのは他でもない」


 ハダカーノ王は、適当に見繕ったとしか思えないでたらめな服装で玉座に座り俺達に語りかけた。

 語りかけたが、俺は無視し玉座の隣のリデア姫に訊ねる。


「なあ、あんたの親父って服に興味ないタイプ?」


「そういうな、怠け者で酒癖が悪く頭も凡庸な男じゃが、王としてはそれなりなのだ」


「君達な……まあいい」


 眉間を揉む陛下。

 ここに呼ばれたのはリデア姫、ソフィー、そして俺。面子から昨日に後回しにした、俺の過去についての話し合いかと思いきやそうでもないらしい。


「真面目な話だ、茶化さないでくれ」


 ちらちらと俺を見るソフィーを無視し、俺はリデア姫だけを見据える。オッサンと目と目で通じ合っても楽しくない。


「なにかあったんですか?」


 俺とソフィーの奇妙な距離感をいぶしかむ気配を覗かせつつも、王は事態を説明する。


「国境の砦が一つ、消滅した」


 ……消滅?


「壊滅とか全滅じゃなくて、消滅ですか?」


 消滅なんていうからには、文字通り消えたのだろう。ごっそりと。


「そうだ。紅蓮どもは神の宝杖を使用したのだ」


 神の宝杖、ドリット近くの巨塔を一撃で粉砕したアレか。

 俺は直接見てはいないが、直径数百メートル高さ六キロの超巨大建築物を跡形もなく破壊したのだ。威力は推して知れる。


「神の宝杖については知っているかね?」


「ソフィーは元々知ってたみたいです。俺はガイルに教えてもらいました」


「そうか、ソフィアージュには最低限王族としての教育が施されているようだな」


 曰く、神の宝杖の知識は門外不出の禁忌だそうだ。


 この世界全てを射程に収めた最強の兵器。そんな物が世界のどこかにあると知れば、民衆は混乱してしまう。


「それが使用された、ですか」


「……被害はどれくらい、ですか?」


 隣から聞き慣れた声。

 ソフィーが口を開いたことに、俺は表向き平静を保ちつつも内心驚愕していた。

 どれほど打ちひしがれても、人の心配はしてしまうらしい。優しい子なのだ。


「死傷者はなし。無血開城だ」


「は?」


「三回使用されたのだ、神の宝杖は」


 一回目が二キロ先。

 二回目が一キロ先。


「そんで三回目で砦が消滅、ですか」


「あからさまに予告してきたからな、慌てて総員退避したそうだ」


 殺すのが目的ではないなら、何の為。


「壮絶なイヤガラセ?」


「統一国家政府の通達は要約するとこうだ。『姫君を渡せ』、とな」


 顔色が真っ青となるソフィー。

 彼女は理解している。今、自分を守る存在などいないと。

 俺はそんな彼女を素知らぬ顔で無視。

 その様子に首を傾げるも、王は説明を続けた。


「君達がこの城に到着したのを確認してから行動を起こしたのだろう。これは、明確な脅迫だ」


 ―――次はここ、帝都に神の宝杖を使用するぞ、という意味か。


「……つーか、なんで情報が漏れているんですか」


「紅蓮の騎士団とはそういうものだ。組織である以前に思想だからな、目に見えないところで広がり侵入する。駆逐は困難だ」


 その癖、表舞台に上がればラウンドベースを動かせるほどのマンパワーを有する、と。馬鹿げてる。


「まるで白アリかネズミかGじゃな、わしはどれも嫌いじゃ」


「思想を広げる為には悪行は大まっぴらには行えない、なんだかんだで紅蓮が屍の山を築かないのは、そういうことだ」


「共和国で殺しまくってましたが」


「まともな戦争となれば、死者は五万ではきかなかった。あの作戦は迅速に共和国を掌握することで、犠牲者を減らすものなのだ」


 どっちにしろロクな結末が見えないが、その横暴が通用してしまった時代・国家ってのも案外歴史上にもあるもんだ。

 認めたくねぇ、そんな戦争論。


「認める必要などないさ、あれは間違いなくただの無法の虐殺だ。それより話を戻すが、先方は引き渡しの猶予をひと月とした」


 また悠長な。


「これに関しては理由を推測出来る。神の宝杖の使用記録は少ないか古すぎて曖昧な物が多いが、照準を合わせるのにかなりの時間がかかることが判明している。砦に合わせた照合が帝都まで移動するのに掛かる時間がひと月、ということだろう」


「……どうする気です?」


 僅かに身構えて問う。引き渡すつもりなら、ソフィーを抱えて逃げなければ。


「君達を差し出すことはない。ソフィアージュが奴らに渡れば、それこそ大義名分を得たとばかりに侵攻してくるに決まっている。そもそも統一国家はどうやったって、適当な理由を用意して帝国を占領しようと動くはずだ―――その為に、この国と唯一渡り合える共和国を手中に入れたのだからな。せいぜい、嫌がらせになることは抜かりなくやっとくさ」


 とはいえ、知らぬ存ぜぬは通じないそうだ。


「我々は心臓を握られている身だ。少しでも表立った反抗の意志を示せば、やられる」


「実は帝国って、詰んでる?」


 王族父娘は同時に頷いた。


「神の宝杖を抑えられた時点で統一国家の独壇場は確定していた。表向きの外交だけでは帝国に勝ち目はない。武力外交を含めて、な」


「てっきり陛下が余裕ぶっこいてるから、なにか秘策があるのかと」


「酒に逃げて悪いかー!」


 王叫ぶ。


「王様がなんだ、キングだって不貞寝することも自棄酒することもあるんだあぎゃ!?」


 リデア姫の電撃魔法がハダカーノ陛下に直撃した。


「無能ではないが凡人での、聞かなかったことにしてくれ」


「お、おう」


「要約すればこうじゃ。『1ヶ月以内に出てってくれ』。それが限度なのじゃ」


「出てけ、って……どこに?」


「自分で考えるのじゃ。我々が知れば、最悪敵対行動と取られる。むしろ、常に動き続けるくらいがいい」


「つまり、自由天士になれと?」


「金銭援助くらいは出来るかも、いや過度の接触は危険じゃな」


「どこか、人知れない山奥に身を隠すとかは?」


 離島の隠れ家はこういう時こそ意義を発揮するのではなかろうか。


「ソフィーの両親は、それを失敗したのじゃぞ?」


 ―――そうだった。

 身を隠し静かに暮らす。それは、ガイルとナスチヤが画策し、失敗した作戦そのものだ。

 いずればボロがでて見つかる。ならば、目立っていようがなんだろうが動き続けた方がいい。


「紅蓮の構成員は一人一人は非力じゃ。アクションを起こすにはそれなりのタイムラグがある、帝国内で旅をし続ければ問題なかろう」


 ちらりとソフィーを見やる。

 俯き、話を聞いているかも怪しい彼女の様子をみていると自由天士としての冒険生活など送れるのか甚だ疑問だった。






「次にお主がわしの弟ではないか、という案件じゃが。父が使い物にならなくなったのでわしから話そう」


 君がやったんだろ、なんてツッコミはしない。電撃はゴメンだ。


「すまんが、昨晩はお主の行動を監視させてもらった」


「……どこからどこまで」


 見られたくない場面が多々あったのだが。


「お主が存外好色なのは判ったの」


「やってねぇよ。チェリーだよ」


「ちぇ……チェリーとはなんじゃ?」


「さくらんぼだ、さくらんぼ」


 適当に誤魔化す。知らないならその方が幸せだ。


「怪しいことには変わりないが、それでもお主が……彼女を案じる気持ちは本心だと思った。だから、ほんの少しだけ信用してやる」


「そりゃどーも」


 「彼女」と曖昧に濁したのは、俺とキョウコで話し合った方針を尊重するということだろう。


「わしには弟がいた。一年前までな」


 過去形?


「とんでもない愚弟だったがの、粗相も悪くクソガキじゃった。お主とは似ても似つかん」


「ならなんで俺を弟だと思ったんだよ」


「似ておるのだ、単純にな」


 ルーデルが肖像画を示す。


「……俺?」


「愚弟を描いた物、遺影じゃ」


 ちょっと鳥肌が立った。俺の顔で遺影とか勘弁してほしい。


「弟は一年前に共和国にお忍びの旅行へ向かっていた。その途中で乗っていた飛宙船(エアシップ)が墜落し、以降行方不明生存は絶望的……そうなっておる」


「見つからなかったのか?」


「国境付近で墜落したことは間違いなさそうなんじゃが、共和国入りする前に気まぐれにどこかに立ち寄ったらしい。そのせいで具体的な場所が判っておらん。共振通信が直前まで繋がっていたことから、事件性がなかったことは確定しておるんだがの」


 なるほど、それでは死体は未だどこかに……

 ……一年前、飛宙船、墜落現場?


「な、なあ、その乗っていた飛宙船って、小型級か?」


「うむ、お忍びだからな」


「外見はシンプルだけど後ろの荷台が部屋みたいになってて、それがやたら豪華だったり?」


「なにを……心当たりがあるのか」


 そりゃあるさ。その条件に当てはまる状況を、俺は実際に目撃している。


「俺が、この世界に来た時の状況だ」


 手の平を見つめる。

 この体は、誰の物なんだ? あのロリ神が造ったわけじゃないのか?


「……その肉体が弟の物だったとして、中身に関しては二つ可能性がある」


 リデア姫は淡々と告げる。


「一つはどこかから回収した魂を、別の体にぶちこんだ説。もう一つは、お前は弟本人であり暗示・洗脳によって異世界から来たと思い込んでいる説」


「ちょ、馬鹿いうな、俺は地球から来たんだ! 向こうでの人生だってはっきり覚えている!」


「そもそも異世界など聞いたことがないぞ。過去に観測された世界はここ、セルファークだけじゃ。存在しないのではないか、『地球』なんて場所は」


「ふざけんな! そんなはず、ないだろう!」


 俺の半生が捏造された物なんて、悪い冗談だ。


「そうだ、異文化の工芸品は!? あれのことを知っているんだから、俺は地球人だろ?」


「異文化の工芸品? いや、あれは……うむ」


 考え込んでしまったリデア姫と睨めっこ。


「秘蔵の謎の戦闘機・心神(しんしん)を知っておったのは事実じゃしな。仮説段階だが理論的には不可能ではない、か」


「なにを?」


「お主を『地球』からサルベージし、我が愚弟の肉体に魂をぶちこむことを、じゃ」


 地球を認めないのか認めるのか、どっちなんだ。


「たぶん、お主はお主じゃよ。無駄にアイデンティティ(自己同一性)で悩むこともあるまい」


「でも、この体は他人の物なんだろ?」


「ほっとけば死んで腐ってた肉体じゃ。好きに使え」


 そうは言われてもなぁ、知った後だと急に違和感が湧いてきた。

 体がむずむずする。ああもう、気持ち悪い。


「あっ!」


「どうしたのじゃ?」


「あった、絶好の隠れ場所! 地球に戻ればいいんだ!」


 ソフィーを地球に連れて行けば、紅蓮の騎士団に怯えて暮らすこともない。ナイスアイディアだ。


「無理じゃ」


「なんで? こっちに来れたんなら、戻ることだって理屈の上では出来ないか?」


「世界の壁を越えて移動させられるのは、魂などの『情報』だけじゃ。向こうからこちらに呼ぶならばお主をセルファークに引き込んだ何者かのように死体をあらかじめ確保しておけばいいが、こちらから向こうに行くにはあちらで器を用意している協力者が必要じゃ」


「て、適当な死体に飛び込むとか」


「そのまま死ぬだけじゃ」


 それは嫌だ。


「のう、イレギュラー」


「レーカだ。なんなんだよイレギュラーって」


「レーカ、うむ、レーカと呼んでいいか」


「なら俺もリデアって呼ぶぞ」


「許す。一ヶ月の間じゃが、よろしくしようではないか」


 あれ、許された。冗談だったのに。


「よろしく、リデアちゃん」


「……それはやめろ」


 こうして話し合いはお開きとなった。

 謎が増えただけな気がする。








 ひと月の間にやるべきことなんて沢山ありすぎて困るくらいだが、真っ先に思い浮かぶのは白鋼(しろがね)の修理だ。

 借りたツナギに着替え、旅の最中に描き溜めた図面を抱え廊下を歩く。

 目的地は一路、格納庫。


「あっ」


「おう、こんちわ」


 ソフィーと出くわした。

 なにか言いたげなソフィーにそっけなく挨拶だけして、足を進める。


 「待って、レーカ」


 ……待てと言われてスルーするわけにもいかず、彼女に振り返る。


「レーカは、どこに行こうとしているの?」


「格納庫だけど、白鋼修理しないと」


「そうじゃなくて……このひと月が終わったら、どうしようと考えているの?」


 どうしよう、か。

 選択肢は少ないようで無数にある。

 世界の動きなど気にせず気楽に冒険生活。

 紅蓮をぶっ潰す為に戦力や人脈を調える。

 ガイルのやろうとしていることに協力するのもアリかもしれない。

 これはあり得ないが、ソフィーを統一国家に明け渡すって選択肢も存在している。

 悩んで、素直に自分の本心を向かい合った結果、結論なんて最初から決まっていたことに気付いた。


「俺はゼェーレストを目指す」


「でもゼェーレスト村は……」


 紅蓮の監視があると言いたいのだろう。しかし、そうじゃない。


「俺が戻りたいのは平穏な頃のゼェーレストだ」


「……レーカ、あの頃は戻ってこないのよ?」


 知っているさ。別に現実逃避しているわけではない。


「確かに戻らないものもある。けど、ソフィーもマリアも……ガイルも、まだ生きているじゃないか」


「でも、お父さんは私を捨てたわ」


「戻ってくるさ。アイツにその気がなくったって、その気になるまでまとわりついてやる」


「紅蓮の騎士団はどうするの?」


「なんとかする!」


 根拠もなく断言した俺に、ソフィーは一度呆けた後にくすりと笑った。


「……レーカは、強いわね」


「そうでもないさ。ソフィーのいないところで、散々ウダウダやっていたよ」


 キョウコに晒した痴態は俺の黒歴史だ。

 ……でも、ま。


「もう悩むつもりはない」


「―――。」



 レーカ「もうなにも怖くない」



〉普通の反応といえば普通?

 むしろ一夜にして消滅したことにハダカーノは驚いています。交戦中、であれば想定内だったでしょう、情勢的に。


〉キザ男まさかの生還

 このシリアスをぶち壊せるのはキザ男、お前だけだ! 名前忘れたけど。


〉四章後半以降の作者のテンションはうすら寒く、きみ悪い

 重い本編の内容に押しつぶされないように、という空元気でもありました。作者が潰れてしまっては作品自体が終わってしまいますから。必死に自分を鼓舞しています。

 前回の弱音なども、作者がそれなりに鬱になっている表れです。弱音を吐く作者に付き合わせてしまいごめんなさい。

 一度どん底に落とされた子供達が、それでも立ち上がろうとするのが5章の内容です。きっとレーカもソフィーも以前のように笑えるようになってくれます。

 こんな駄目な作者ですが、よろしければもうしばらくお付き合い下さい。

 率直な感想ありがとうございます。


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